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2年生に

 わたしがイェーニット学園に来て、一年が経った。


 去年のこの頃、イェーニット学園に入学した。

 魔界は夏休みが終わってから一学期ということで九月の暑さの残る入学式をバックれた。


 入学式の次の日、教室でスクイブと再開した。生徒と担任として。


 そこからは寮暮らしの忙しい学生生活を送った。

 講義を受けて、単位を取って、ビーという友達ができて、殺人鬼に会って、死んで、ループして、また死んで、殺人鬼とおしゃべりして。


 そして、一学期が終わる頃、お父様がいなくなった。

 わたしが小等部と中等部を卒業するまでの八年と半年間、お父様は人間界に行った。

 わたしに何も言わずに。



 今日は始業式があった。

 わたしはもう二年生、八歳になる。


「あら、エス? あなた、始業式で出たの?」


 始業式が終わり、ホールから出てきたところで声をかけられた。

 この声は!


「ビー?」



 何のためにか置いてあるアップルジュース缶をホール前のベンチで二人飲む。


「あたしは夏休みで魔界一周したの」

「へー、船で?」

「……陸地を一周したの。パパの自家用ジェットで」

「へー、ウァルティーニのお姫様は違うね」

「エスは? 夏休み何してたの?」


 ビーは先生達から缶を隠すように座る。


「わたしはスクイブと集中講座。あとお母様とアールのデートについて行ってた」

「やな子ども。でも楽しそうね。スクイブ先生はエスと一緒に住んでいるの?」

「夏休み中はずっとウァニュ家にいたよ。お父様の部屋を借りてたみたい」

「ふうーん。いいわね、集中講座。ザック様には会ってないのね。本当にザック様はいなくなったのかしら? もうすぐ魔王が新しく決まるのに」


 わたしもホールから出てくる先生生徒から缶を隠して飲む。


「へー、新しく魔王が決まるんだあ。でも何でお父様が? 元魔王だから?」

「え? ザック様って元魔王なの?」


 あ、歴史の授業で秘密に習ったことだったっけ? 表には出してない情報言っちゃった。


「いや、お父様は元魔王なんかじゃないよ。まじまじ」

「ふうん。ザック様が元魔王だったら辻褄が合うのに。でも違うのよね? ザック様は元魔王じゃないのよね? エス?」

「お父様は元魔王です」

「そうよね」


 先生達がわたし達の隣のベンチで缶を開け始めた。やっぱり先生用だったようだ。


「たぶんザック様は魔王候補に挙げられたからいなくなったんじゃないかしら?」

「と、いうと」

「わからないならそう言って、つまり、戦争にならないようにいなくなったのよ」


 ビーは飲み終わった缶を先生達の床に投げ捨てる。


「お父様が候補に挙がると戦争になるの?」


 わたしは缶をゴミ箱に捨てる。


「今魔王候補にあるのはザック様とウィルディー国の王子と魔王の娘よ。支持者が多いのは魔王の娘だけど力があるのはザック様。軍事力が強いのは王子だから、

 どう考えても戦争になるでしょう?」

「うーん。たしかに?」


 隣のベンチの先生達は缶が足りないことで言い合いになっている。


「戦争を起こさないようにザック様は姿を消したのよ。素敵な人ね。エスの婚約者にぴったりだわ」

「……」


 わたしが黙ったことでビーは不思議そうに首を傾げる。


「スクイブからは、はとこと同じくらいの血のつながりで、結婚もできるって言われた。けど、そんなんじゃないよ。わたしがお父様に抱く感情は親愛。家族に対しての」

「……そうなのね。他に報告することは?」


 ビーとわたしはベンチから立ち、教室に向かう。


「婚約者ができた」


 わたしの言ったことにビーはよほど信じられないのか、目を見開いて立ち止まる。


「エスに婚約者? 嘘でしょ?」


 ビーはやっと動き出してわたしの肩を揺らす。


「ほんとだよ。八歳で既婚者になちゃった」

「えー! 相手は? だれだれ!?」


 ビーは恋バナに盛り上がるように興奮する。


「そんなんじゃない。婚約者って言ってもまだ会ったこともないんだもん。スクイブとお母様に決められただけ」

「あっ……(察し)。そうなのね。これ以上聞くのはやめるわ。そのうちあたしも婚約者ができるもの。王子らへんかしら」

「そのときはビーに相応しい相手か私が見極めてあげる。DV夫だったらタダじゃ済まない」


 ビーはわたしのジョークにくすっと笑って二年生の教室に入る。


「また同じクラスでよかったね、ビー」


 わたしがニコニコでビーに言うと彼女は気まずそうに眉を下げて笑った。


「魔界じゃ、クラス替えなんてないわよ。エスったらおかしい」


 わたしも続けて笑う。


「あはは、あっぶなー。転生者だってバレるところだった~」


教室の騒音とは真逆に、時が止まったようにわたし達は静かになる。


「転生者……?」


 ばれた。ってかばらしてしまった。


 焦りと同時に一年前、お父様に言われた言葉が鮮明に思い出す。

“まあ、ここでは人間界からの転生者は幽閉されるからな”

“魔力を絞られる一生を過ごすか”


 ……わたし、幽閉される。友達にばらしたから。


「ごめん、ビー! でもわたし……きゃあ!!!」


 ビーはわたしたちの会話が教室のみんなに聞こえないよう、廊下を少し歩いたところで腕を離す。


「エスは転生者なのね!!」

「う、うん。でも幽閉だけは……」

「きゃあー! 信じられない! あたし人間だぁーい好き!」


……あ、終わった。食われる。


「だって、夢だったんだもぉん!! 人間と喋れるなんて! 夢のようだわ!」

「え? 食べられない、?」


 ビーの意外な答えに戸惑っていると彼女はわたしの頬にキスをした。


「大好きよ、エス。あなたが転生者だなんて、いまさら気にすることじゃないわ。わたしたちの友情は一生変わらないから!」


 わたしは涙を止められず、顔面びしょ濡れでビーの頬にキスを返す。


「ありがどおおおビーだいずき~~」



 始業式はうまくいったけど、大切なのはその後。

 その後にはもっといいことがあったけど。


 そういえば始業式に二年生からの転入性が挨拶してたけど顔がお父様に似てたなぁ。

 まさか、息子とか?

 違うよね。


 お父様は絶対帰ってくる。


 それまでにお父様に似合う女にならなくちゃ。

 頭良くなって、表彰されて、立派な女性に。


 婚約者ができたからって恋はあきらめるものじゃないよね。

 ビーには言えなかったけど、やっぱりこの想いは本物。


 婚約者には悪いけど。

次回 戦術

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