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歴史学……?

 イェーニット学園寮、小等部。

 食堂。


「エス! 昨日、部屋から出てこなかったから心配したわ! あら、目がすごい腫れてる。何かあったの?」


 食堂に入るや否や友達ビー・ウァルティーニに声をかけられた。

 食堂にはビーともう一人、男の子がいた。


「昨日はごめん。ノックしてくれてたのは気づいてたんだけど、出れなくて」


 わたしはランチセットを頼んでビーの隣に座る。ビーはわたしの様子を伺うように顔を覗き込み、腰から杖を取る。


「エスに精霊の癒しを」

「きゃっ」


 ダイヤモンド杖から出る淡い光に身構えたが、光は消え、ビーの顔が見えた。


「目の腫れを治したわ。回復魔法は得意分野じゃないからこれくらいしかできない……けど、エスの話し相手にはなれるわ。だから……」


 ビーは照れながらわたしの手を取った。


「一人で考え込まないで」


 彼女は単に願うのではなく懇願するようにわたしを見つめる。母が子を心配するようなまなざしがわたしに刺さる。


「ありがとう。わたし、ビーに話してもいいかな?」

「もちろんよ」


 わたしはビーに全てを話した。

 昨日、スクイブ先生が訪ねてきてお父様が七年、わたしの卒業式まで帰ってこないこと。

 お父様がいないことが自分でも信じられないほど悲しかったこと。



 ビーは躊躇いながらも椅子から立ち、わたしの前髪を上げて額にキスをする。


「話してくれてありがとう、そんな悲しいことがあったの。エス、大変だったわね。おでこのキスは友情の印よ。ウァルティーニ王国では普通だから」


 覚えときなさい、と椅子に座るビー。西洋人形のように顔を赤くする彼女に見とれていると視界に男の子が入った。


「おまえら、不釣り合いな友情だな! ウァルティーニ姫と端っこレーシェンファースの孤児~?」


 この常識のじょの字もないクソガキはわたしの出身地、アダーステルト国のレーシェンファースの王子、エイだ。

 王子だからといって逆らわなければいけないわけではない。彼はわたしの父に怖がっているのだから。


「エイ、いい加減にしてよ! お父様に言いつけるよ!」

「はあ~? 言いつけてみろよ! 七年も帰ってこないお父様に!」


 エイはそのまま食堂を出て行った。


「本当嫌なやつね。気にしなくていいわ」

「うん……」



 今日は午後から中等部の教室でニャック・ウァニュ指導の歴史学がある。

 が、この講義が歴史学か怪しくなってきた。


「次の童話は……」


 なんでこの先生、ずっと童話の話してんだ。早く歴史学しろよ。授業終了まであと十分。


「次は叶わぬ恋をした少女の話です」


 七歳のシュヴァイツェルにはダイタイという父がいました。しかしシュヴァイツェルが学校に行くと父は戦争に行ってしまいました。

 小等部、中等部までの卒業の九年間。彼女の父に対する思いは膨れ上がっていました。


 しかし父は戦争から帰ってきません。

 父に思い焦がれるシュヴァイツェルの元に一人の男性が近づいてきます。初めて会ったのにどこか懐かしいと感じる彼女に男性は告げました。

「私はあなたの本当の父親だ」と。

シュヴァイツェルが父だと思っていたダイタイは男性の親戚だったのです。

シュヴァイツェルは実の父とよりを戻しました。


 シュヴァイツェルが十八になった成人式。そこにダイタイは帰ってきたのです。

 ダイタイはシュヴァイツェルが実の父といることに喜びました。


 その後シュヴァイツェルとダイタイは自身の思いを確かめ合いました。

 二人はその後、子を授かり婚約します。


 が、そう簡単にはうまくいきませんでした。

 シュヴァイツェルは病にかかり、子を失います。子を失い妻を病気に侵された傷心のダイタイはまたもや戦争に行ってしまいます。


 五年後、ダイタイが戦争から帰って来た時、シュヴァイツェルは実の父が決めた相手と結婚をし、二人の子供を授かっていました。


 ダイタイもまた、戦争から子を身ごもった女を連れて帰っていたので二人は永遠に結ばれることはなくなりました。



「どうですか? では思ったことを発表しましょう」


 思ったことを発表とか小学生かよ! 内容は高校生も目を瞑るドロドロ恋愛だわ!


「先生!」

「はい、エスさん」


「叶わぬ恋をした少女の話と説明するのはどうかと思います! あとこれは本当に童話ですか?」


 わたしの質問に先生は少し考える。


「たしかに」


 え、先生? 考えて出た言葉? それ。


「先生の説明は悪かったかもしれませんが、これが童話なのは事実です。これが書かれたのは五十年ほど前の魔王争奪戦争時代です。この頃は騎士団に所属していた者が戦争に駆り出されましたからね」


 戦争は実話なんだ。ってか魔王って奇襲性なの。


 ゴーン ゴーン


 授業終了の合図、鐘がなる。


「あ、終わりましたね。歴史の授業じゃなくなりましたけど、いい話が聞けたでしょう? ではまた来てくださいねー」


 あ、ほんとに歴史の授業じゃないんだ。

 だよね、童話だもんね、話してたの。


 それも絵本見ながらだもんね。


 それにしても内容が……。


 まさか男までも女を連れて帰ってくるなんて。

 それがなければただの悲しい恋の話だったのに。


 わたしだったら好きでもない人と結婚して子供産むなんて、死んでもやだ。

 実の父親。

 婚約。

 死んだ子供。

 永遠に結ばれない。


 なんて悲しい物語なんだろう。

 お父様が帰ってきたら話してあげようっと。


 あれ、実の父親?

 そういえばスクイブがそんなこと言ってたような。

次回 二年生

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