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黄金のザック

 ザック・ウァニュはイェーニット学園の校時予定表を見ながら頭を悩ませる。


『1限目は8時20分から1時間。


 9時から教室でホームルームが始まる。


 2限目は10時から1時間。

 そこから30分の休み時間。


 3限目は11時30分から1時間。

 そこから1時間半のお昼休み。


 4限目は2時から1時間。

 5限目は休みなしで3時時から1時間。


 そこからまた休み時間を挟んで、

 6限目は5時半から1時間。


 またまた休みを挟んで

 夕課外が7時から1時間。


 そして夕課外後夕課外が8時半から9時半まで』



 ザックが学生の頃と変わりないスケジュール。


 ザックが学生でもないのに何故時間割を見ているのかと言うと、子どもの授業を参観するためである。




「はい、これでホームルームを終わります」


 スクイブは担任に見合った笑顔をいつもの仏頂面に戻して教室を去る。


「やっほ」


 教室の扉の前にはザックが待ち受けていた。


「ここで何している、エスなら呼ぶが」

「あぁ、エスは後でいい。今はお前に話がある」


 そのまま二人は廊下を歩き出す。



 エス・ウァニュは退屈していた。

 一週間変わりのないホームルームの話を聞いている。

 右斜め前の席の優等生、ビー・ウァルティーニさえあくびをしている。

 そして左隣の問題児、エイ・レーシェンファースはいつも通り机に伏せている。


「はあぁー。暇だなあ。何か事件起きないかなあ」


 エスの物騒な呟きを優等生が聞き逃すわけがなかった。


「そんなこと言わないで。ほんとに事件が起きちゃうから。暇なら勉強したら? あなたの成績は信じられないくらい悪いから。あ、でも勉強は無意味かもしれないわね。エスはザック様の子供だから」


 ビーは嫌味を言って机から参考書を取り出し勉強を始める。


「わたし、自分の力でここに入ったんだけど。お父様がそんなずる、するわけないじゃん!」


 わたしはビーの参考書を奪う。


「ちょっと、何するの!」

「訂正して! わたしがお父様のコネで入学したんじゃないって言って!」


 ビーはわたしから参考書を取り上げる。


「訂正なんかしないわ。エスは入学試験を受けてないでしょ?」


 ……入学試験? そんなの聞いてない。


「受けてない、し。聞いたこともない」


 教室中が凍り付く。


「おまえ、受けてなかったのか? 俺ですら受けたぞ」


 左からエイのブーイングを受ける。

 ……講義中に寝るエイですら受けてたのか。


 入学試験を受けずに入学するのはよほどの事みたいだ。

 ビーは「ほらね」と勝ち誇る。


「そう言うビーは入学試験受けたの? ビーもウァルティーニ王国のお姫様でしょ?」

「受けたわよ! 当然でしょ?」


 ビーは参考書でわたしの頭を叩いた。


「痛い! やめてよぉ」

「入学試験も受けていないエスには当然の罰よ?」


 ビーは叩くのをやめ、席を立ち、教壇に立つ。


「入学試験を受けた人」


 ビーが教室中に呼びかけるとクラスのエス以外が手を挙げた。

 入学の条件は入学試験を受けること、なのだろうか。


「これでわかった? みんな試験を受けて合格したからここにいるのよ」


 ビーは席に戻る。


「知らなかった。コネかどうか手紙でお父様に聞いてみるね」


 また教室中が凍り付く。

 ……言葉選び、間違えた。




「我輩に話? 忙しいから後にしてくれないか、ザック」

「えー。ここまで来たのに」


 感情のこもっていないザックにスクイブはため息をはく。


「はあ。用件なら手紙で済ませろ」


 スクイブは職員室に入る。


「だめだ。大事な話だ」


 ザックがスクイブの袖を引っ張った。スクイブは危うく転びそうになったがザックが支えてくれたおかげで大事にはならなかった。


「大事な話? 本当にか?」

「うん。会議室で話そう」



 スクイブとザックは会議室に入った。


「スクイブの家にさ、人間界に通じる魔法陣あるじゃん? 違法の」

「あるな」

「それで最近しょっちゅう人間界に旅行行ってるの」

「知ってるよ。一緒に行ったジーから聞いた。ザック様は寝癖が悪くて言葉も覚えようとしないから苦労してる、って」

「え、ジーちゃん、スクイブと通じてたのー? 家に帰ったらお仕置きだな……」

「で?」

「あー。何年か、人間界に住もうと思ってる」


 スクイブは固まる。


「魔界飽きちゃった。だから人間界を転々として何年か過ごす。その報告」

「魔界に飽きる? え、えぇと。何年か、って?」

「うーん。住み心地によるけど五年は帰ってこない。長くて十年かなあ」


 スクイブはまた固まる。


「今日のスクイブ、脳の処理遅くなーい?」


 ザックは机の上で手遊びをする。


「え、五、十年? え、エスはどうするんだ?」


 スクイブはザックの肩を揺らす。


「大丈夫でしょ。イェーニット学園にいる間は寮生活だし。あ、エスの卒業に帰ってこよう! えーっと、小等部六年間、中等部の三年間だから……エスは今七歳かな? じゃあ卒業は十五歳か。八年ぐらい人間界に居れるね!」


 ザックはスクイブに満面の笑みで答える。


「じゃあ、もう行くから! 家に帰っても私はいないよー」


 ザックは会議室を出た。


「え……? ザックがいなくなるの?」


 残されたスクイブは頭を整理するのにそれほどの時間はかからなかった。


 しかし理解したスクイブはまた途方に暮れる。


「意味わからない。八年間も人間界に? ほぼ刑罰だろ」


 スクイブはエスにどう説明をしようか、頭の中で必死になって考えていた。

次回 或る朝のイット・ガール

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