裏切り
「うぅ……ハッ!」
起きた。寒気がする。すごく怖い夢を見たような気がするな。夢の内容は忘れちゃったけど。
「うわぁ、全身汗びっしょり。まいっか、お風呂入る約束したし。るんるん、るるるん。綺麗なお風呂〜♪」
わたしは魔術具を付けないと動かない手足を使って、必死にベットの天蓋を開けて外に出る。
「エス様!? なぜ起きているのですか!?」
「あ、アール」
……ぬぅ、なんで怒られるのだろうか。起きただけなのに。解せぬ。
「エス様? あなたは私が起こしに来るまでベットから出てはいけないのです。私が起こすまで、寝るふりをしてでもベットから出てはいけません。エル様に言い付けますよ? まぁ、今回は見逃しますけど。エス様、返事は?」
「はぁい。次から気をつけます」
……お貴族様って大変。そんな常識知らなかったよぉ。こんなのがずっと続くのかな。
「エス様、魔術具を付けましょうか? 動けないのでしょう?」
「は、はい。お願いします」
アールが魔術具を取り付けてくれる。
「はい、これで良いですよ。では大浴場に向かいましょうか……ジー、この部屋をお願いします」
アールが扉の外に向かって言うと、扉が開かれ、騎士の格好をしたジーが入って来た。
「え⁉ 何ですか、その格好!」
「あぁ、エス様には言っていませんでしたね。私は、騎士のすごい特訓も受けていたのです。だからエス様が寝ている時はこのように扉を守っています」
「そ、そうなのですか……凄い、ですね」
……なんかあったら倒されそうだね。わたし、今、体力なしなしだもん。
「エス様、大浴場に行きましょう。汗で寝巻きがびっしょりです」
「大浴場って何処にあるのですか? アール?」
「私がいるので大丈夫ですよ。では行ってまいります。ジー」
「行ってらっしゃいませ。エス様アール様」
扉が閉まる。
そしてわたしは、アールの後ろを歩く。
……綺麗で長い廊下だなぁ。海外の別荘みたい。
「ねえねえ、アール。大浴場ってことは他の人たちも居るの? それともわたしだけ?」
「……今から行く大浴場はあなたの為に造られたところですよ。そして大浴場だけでなく、この館はエス様しかおりません。心配しなくても大丈夫ですよ」
彼はわたしに笑顔を向ける。
笑顔に裏がある。何故かそう思ってしまうのは、わたしがこの人の事を『魔族』と強く認識しているからだろうか。
わたしは心の内を見せない為、笑顔になる。
「わたししか居ない……ですか。では、兄弟とかは居ないのですね」
アールが急に止まる。
……ん? わたし、やっちゃった? 兄弟いる?
「エス様…」
……え⁉ 何! 怖いよ、アール!
「なななな、何ですか? アール?」
「いえ、なんでもございません。進みましょう。大浴場はこの先です」
そう言いながら彼は歩みを進める。
本物のエスじゃ無いって、バレるのは時間の問題かも。それまでの間、お貴族様の生活をするしか無いね。
「着きました。ここです」
アールがドアを開けてくれる。
そこには大浴場とは似ても似つかない、コンクリートの部屋だった。何も無い。
……おかしい。こんなの大浴場じゃ無い。
「アール、場所を間違って…キャッ!」
わたしは、後ろから服の裾を掴まれそのまま牢屋の中に投げ飛ばされる。
そして、わたしが言葉を発する間も無く、ドアが閉められる。
……うそ、閉じ込められた。
わたしは必死にドアを叩く。
「開けて下さい! アール!」
カチャン
鍵の閉まる音がした。
そしてドア越しにアールの声がする。
「貴方は誰ですか? 私の知っているエス様は傲慢で、ベットが大嫌いで、いつも部屋から脱走し、わたし達に暴力を振るう人です」
……え?
「貴方はそのような人ではありません。エス様はわたしのことを、暗殺しようとしていましたよね? 今はその影も形も無いです」
アールの話が本当だとすると、前のエスはおかしい。
ただの子供では無い。
もしかすると前のエスもわたしと同じ転生者? だとすると、前のエスは殺された? それともこの体の中で生きている?
「……分からない……分かりませんよ! 自分がなんでここにいるのか、前のエスが生きているのか! わたしが死ねば本物が戻ってくるのか! 分からないんです!」
扉の外に音がしない。
「……いなくなっちゃったかな?」
いつまでここに閉じ込められるのだろうか。
……ここに居ると前世を思い出しちゃうな。早く出してほしい。またこんな所で一生を過ごすなんてもう嫌。
わたしはお腹をさする。
「あぁ、お腹空いたなぁ」
そこから何時間経ったのだろう。わたしは眠たくなり、眠ってしまった。
パチッ パチン
「また、私の勝ちだな」
「次こそはお相手になれる程の実力を付けて参ります」
……ん? ジーと知らない男性の声?
起きたら知らないベットにいる。微妙に天蓋が空いていて眩しい光が差し込んでいる。あの部屋から誰かが出してくれたのだろうか。
よし、起き上がろう。
「よいしょっ、あれっ?」
体に力が入らない。わたしはハッとして寝転がって二の腕と太ももを触ってみる。魔術具が取られている。わたしは魔術具がないと起き上がれない。
じゃあどうすればいい? 自分で出来ないのなら、お付を呼べばいいじゃない! って事で、ジーを呼ぼ……いや、待って! ジーもアール派かも! どうしよう。う〜ん。
「起きたか?」
「キャッ! だ、だれっ!?」
天幕をめくって覗いて来たのは白髪の二十代ぐらいのイケメン男性だった。その男性はわたしの上から下を見てフッと嫌みそうに笑って「其方か、噂になっていたのは」と言う。
……何コイツ。すんごいイラつく。噂って何なのよ!
「噂というのは何のことでしょう? わたしにも教えていただけますか?」
わたしは裏の感情を隠す為にニッコニコの笑顔で訪ねてみる。そしたらイケメンの顔がポカンとした顔をした後、怖い笑顔になる。彼の赤い目が怖さを増している。
「そうか。其方は知らないのか。特別に教えてやろう」
そこからイケメンが話してくれたのは、塔の上の王子様の話だった。
塔の上の王子様は黒魔法という魔界で禁じられている最強の子供を作れる魔法で作られた子供らしい。その王子に母親はおらず、父親は蒸発。親がいない中で、国の王子や王女の暗殺を企てて居る、とのこと。
「傲慢で強欲で馬鹿な其方らしいだろう?」
……こんな詐欺みたいな噂、今すぐ撤回しなきゃ。
「わたしはそのような事存じません。それは本当にわたしの事なのでしょうか?きっと何かの手違いです」
「そういう事か。其方、面白いな。中身が」
「え……? 中身、って、ど、どういう?」
……わたしが人間で、転生してこの体になってるという事を気づいているっていう事?
バレたらどうなる? 殺される。間違いなく。
急に天蓋が開く。そこには反逆者であるジーが居る。しかし、ジーはわたしを見て、ホッとした顔になった。
「起きたのですね。エス様。何週間も目覚めなくて心配したのですよ!」
「ジー……」
涙が自然に出てくる。わたしはジーからも裏切られたと思っていた。けれど違った。ジーはわたしの事を心配していた。
「ジー! わたしは貴方しかいません!」
わたしは必死に手足を動かしてジーに抱きつく。
「ジー! ごめんなさい、ごめんなさい! わたしは勘違いしていました!」
「エス様!?」
「嘘だろ……エス……」
ジーが困って居る事もイケメンが絶望した顔をして居る事も見えなかった聖華であった。
次回 謎のイケメン




