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バッドエンドはループして

 最初の問題はどうスクイブを説得するか。

 次の問題はお父様の手紙についての返事。


「書かないとだめかなぁ。お父様『返事待ってる』って書いてたからなぁ。困った」


 わたしは呟きながら寮の部屋から出て、食堂に向かう。


「あら、エス。今日は起きるのが早いのね。怖い夢でも見たのかしら」


 食堂の指定席でビーがパンケーキを頬張っていた。わたしは魔道具に名札をかざしてパンケーキのボタンを押す。ビーが手招きしてわたしも指定席に座る。


「怖い夢……。見たのかなあ?」


 わたしは少し考える。

 見たような。見てないような。

 でもなんか怖いことがあったような。


「覚えてないのならいいんじゃない?」

「それもそうですね。ところで、わたしもここに居ていいの?」

「いいの。あたしが三倍の料金払ったから」


 優しいやつめ。魔界を好きになっちゃうだろ。


「三倍? ビーとわたしと誰の分?」

「彼よ」


 ビーは手を振った。その先には手を振りかえしているエイがいた。

 ……あいつか。


「なんだ、そんなに俺と食べたいのか」


 エイが日替わり朝食セットSをお盆に持って向かってきた。わたしとビーが向かい同士に座っていたのでエイはどちら側に座るか少し迷ったが、ビーの隣に座った。


「まあ、いいのですか? そんな意地悪言って。昨日、あなたが頼んで来たじゃありませんか」


 ……お、そうなのか? ガキ。


「は!? 黙れし! クソアマ!」


 ……やっぱこのガキ、クソだな。


「エイ、うるせえ。これ以上余計なこと喋ったらお父様に手紙書くぞ?」


 わたしは(このキューティーフェイスを♡)出来るだけお父様に寄せてエイを睨む。


「ひいっ! すみません! 許してください!」

「特別に許してあげましょう」

「あざっす!」


 ……はい、子分が増えましたー。


「仲良しね! 二人とも」


 ビーがニコニコしながらわたしたちの会話を見ていた。

 わたしは反省した模様のエイから視線を離し、食事を続けた。




「あなたたちは今日、どの講義を受けるの? あたしは天体とドゥール学だけよ」

「俺も天体。あとは戦術学と数学」

「わたしは午前は何もなくて、午後に魔術学と占い学」

「ではお暇のエスにはあたしたちをクラスまで送ってもらいしょう。いいでしょう? エス」


 可愛くお願いをするビー。

 こいつはわたしが断れないことを知っている。


「いいですよ。天体はワーデル先生ですよね」

「あぁ」

「えぇ。あの地獄の部屋ですの」


 ……ん? なんだ、それ。


「エスは知らないのね。高等部の生徒はみんなあの部屋で寝るのよ。だから匂いがキツくて、地獄の部屋」

「へー。ぐーすかぐーすか?」

「あら。エスはなにも知らないのね」


 ビーがニヤニヤして言った。しかしすぐにその顔を止める。エイがビーの肩を強く掴んだからだ。


「うるさい、その話は後にしろよ! 授業始まっちゃうぞ」



 地獄の部屋の前までビーとエイと来た。


「送ってくれてありがとう、エス。あなたはこれからどうするの?」

「うーん。部屋に戻ってお父様に手紙を書こうかなー」

「お父様? あ、ザック様!? お願いだから俺のことは言わないでくれ! お前のことはよく思ってるから! どうか、どうか!」


 エイはいつものように懇願する。

 なぜこいつはお父様のことになるとこうなるのだ。


「エイのことは書きませんよ。何をそんなに恐れているのですか?」

「あ、いや。なにも」


 言わないのか? 怪しいやつめ。


「ではあたしたちはもう。お手紙頑張ってくださいね。あたしたちも授業頑張るので」

「はい、頑張って。ビーもエイも」

「えぇ。行きますわよ、エイ」

「ああ」


 わたしは二人を見送って寮へと戻る。

 その途中で早歩きのお父様を見つけた。いつもとは違う黒い服の。


 ……なんでお父様が学校に?

 手紙ではなんとも買いてなかったよね? 学校に来るような感じじゃなかったけど。

 もしかして、急な用事?

 スクイブ先生関連? わたし関連?

 わたしが転生者がばれたとかじゃないよね?

 ……呼び止めて聞かなくては!


 わたしは角を曲がったお父様を必死に追いかける。差は150メートルもない。すぐに追いつく。


「うっ!」


 わたしは誰かに足をかけられて転んでしまった。


「何走ってる?」


 そこにはスクイブがいた。

 足をかけるなんてやな奴め!


「何するんです? 今、そこにお父様が……」

「私の話か?」


 スクイブの後ろからお父様が出てきた。

 いつもと同じ赤い服の。


「え? お父様?」

「ぬ? なんだ、私が何なのだ」


 おいおい、おかしいだろ。どういうこと?

 お父様を追いかけてたら、別方向からお父様が?

 どっちか偽物?


「チャチャン! ここでクーイズ!」


出題者:エス

回答者:ザック


「第一問! わたしの、前世の名前は何でしょう!」


 お父様はスクイブをチラッと見た。

 スクイブは勢いよく手を上げる。


乱入者:スクイブ


「セイカ」


 お前が答えてどーすんねん!


「せ、正解です」


 わたしはチラリとお父様を見る。

 お父様はスクイブのマントを少し摘んでいた。


「さっきから何なのだ、我輩を振ったくせに」

「そういう気はないよ。ちょっと眩暈がするんだ、支えてくれないか?」

「いいとも♡」


 下心満々のスクイブはお父様の腰に手を当てた。


「ありがとう、スクイブ」


 お父様は気にせず礼を言う。

 スクイブは眉をピクリと動かした。


「なんだ、気持ち悪いな」


 ……気持ち悪いのは手を当ててるスクイブだろ。


「あ、そういえば、お父様、本物ですか?」


 わたしはスクイブに睨まれているお父様に尋ねる。

 お父様は考えるように目を泳がせて首を傾げた。


「何言ってんだ?」


 お父様は笑いながら言った。

 またスクイブの眉が動く。


「なあ、ザック? いつ着替えたんだ?」


 空気が凍りつく。

 いつもと同じ格好のお父様がなぜか別人に見える。


「どうして?」


 お父様はいつもの笑顔でスクイブに聞く。


「今日の朝、お前のお付きがいつもとは違う服を用意していたから。やっぱ着なかったか。あの黒い服」


 ……黒い服って。わたしが一番最初に見たお父様だよね?

 もしかして本当のお父様は最初に見た方?

 ……だったらこのお父様は?


 わたしは目の前のお父様を見る。

 ちょうど目が合った。

 なんの感情もなさそうな、暗くて怖い目。


「エス? どうした」


 スクイブもわたしを見る。お父様はわたしからスクイブに目を移した。


「ん?」


  お父様はどこか恥ずかしげに自分の唇を触った。

 なんとなく嫌な予感がする。

 まさかねえ? そう思ったらすぐだった。


 お父様とスクイブが舌を絡めている。

 スクイブは最初抵抗したがすぐにお父様の言いなりになる。

 しかしディープキスは長く続かなかった。


 スクイブが床にへたり込んだのだ。

 お父様に骨抜きにされたのかと思ったがどうも様子がおかしい。

 お父様はハンカチで口を拭いている。


「エス……」


 スクイブが呟いた。お父様には聞こえていないようだ。

 わたしはスクイブの口元に耳を持っていく。


「なんですか? スクイブせんせ……うっ」


 急に頭痛がした。

 スクイブは心配そうに見つめる。


 頭がいっぱいになりそうだ。

 今日の朝からの出来事がどんどん蘇ってくる。


 起きて

 食堂に行って

 ビーとエイと話して

 二人を講義室まで送って

 お父様を見つけて

 走って走って

 お父様に追いつけて

 お腹が熱くなって

 ナイフが刺さってて

 死んじゃって


 お父様に殺されたのかな?


 じゃあ今のわたしって何?


 記憶が戻ったってことはあれは昨日のことだったの?

 でも昨日の記憶も別にあるし。

 死んだら今のわたしはないだろうし。


 ループしてるの?

 これで二回目?


 ほんとに?

 ほんとに二回目?


 でもループって……。

 転生者じゃないんだから。

 あ、わたし転生者か。

 じゃあありえることなの?


 死んでも無かったことになるって

 それもう最強じゃない?

 もちろん痛かった記憶はあるけど。


「逃げろばか」

「えっ?」


 スクイブが急に言った。

 わたしは聞き間違いかと思い聞き直そうとした。


 その前に背中が熱くなった。

 ナイフだ。包丁がわたしの背中に刺さっている。


 そのまま包丁が刺さったまま、上下に動かされ、わたしの内臓を傷つけていく。

 わたしは信じられないくらいの痛みを感じる。


 目の前のスクイブは震えながら腰から杖を抜く。


「……ピーピーアー」


 わたしの意識が途切れる直前。

 スクイブの“人の変身を解く呪文”が聞こえた。

次回 やり返しのループ三度目

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