表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/63

食事の話し合い

「動けるようですね。では素早く、部屋着に着替えてましょう。食堂からの距離を考えると、もうすぐエル様が戻って来られるかと」


「エル…お母さんの名前ですか?」


 アールとジーが驚愕の表情でわたしを見てくる。


「肉親の名前をお忘れですか? それとも頭をお打ちになられた、とか……ですよね?」


 アールが近づいてきて頭を確認してくる。


 わたし、やばいこと言っちゃったみたい。独り言ダメ! 絶対!



「エス様はエル様のことを『お母さん』ではなく、『お母様』と呼んでおられました。やはり、頭を打ったのでは?」


 ジーも近づいてきて頭を確認してくる。


 ……まずい、まずい! まずい! まずいよ!



「頭は大丈夫なので、離して下さいませっ!」


 わたしはそう言いながら、2人に頭を触られないように、しゃがんで頭を抑える。

 2人はハッと我に帰ったようだ。わたしから離れて頭を下げる。


「先走って申し訳ございません」

「申し訳ございません、エス様」

「わたしの方こそ、いつもと違う言動をしてしまいごめんなさい。次からはきちんと淑女を演じあげます」

「「…は?」」


 2人が固まる。

 ……ん? わたし、変なこと言ったかな? あ、あやまっちゃったこと?


「あの…どうかしました? わたし、やらかしました?」


 恐る恐る確認してみると、思いがけない言葉が返ってきた。


「……エス様は、淑女になりたいのですか? 聞き間違いですか?」


 ん? アウトルートは何を言っているの? どういうこと? 魔界では淑女はダメ?


「エス様は男の子ですから、紳士では?」


 え? 男の子? 誰が? わたしが? 嘘でしょ⁉

 わたしは急いで全身を触って確認してみる。

 ……うーん?男?

 子どもだからだろうか、男女差がよくわからない。でも、この人たちが男と言っているから男なのだろう。側仕えは主の体も洗うはずだから。


 …ん?じゃあわたし、18歳の人間(女性)から、魔界の子ども、それも男の子に生まれ変わった、ってコト⁉

 それだったら着替えさせる側仕えの人達が男性というのも辻褄が合う。


「エス様? 素早く着替えましょう。エル様が来てしまいます」


 その言葉で正気に戻った。早く着替えなきゃ。お母さん…じゃなくて、お母様が来ちゃう。


「急いで着替えますっ!」

「はい。では失礼します」


 そう言いながらアールが部屋着の袖をわたしの腕に通した。




 コンコン


「着替え終わった? 入るわよ」


 そう言いながらお母様が部屋に入って来る。ちょうど今、着替え終わったところだ。危なかった。


「まぁ! エス、新しい服じゃない! 可愛いわ! 抱っこしたいぐらい!」


 お母様がすごい褒めてくれる。わたしの今の容姿って可愛い寄りなのかなぁ。うふふ。嬉しくなってきた。テンション上がる。わたしは自然と笑顔になる。


「ありがとうございます。お母様」


 わたしがニコニコ笑っていると、ジーから小声でお小言がきた。


「エス様、聞くこと聞いて下さいよ!」


 ……あ、忘れてた。


「あの、お母様、食事は…?」


「そんなに心配しないでいいわよ。ちゃんと健康に気を遣っている、って、料理人が言ってたから」


 3人でホッとする。

 着替え中に聞いた話だが、どうやらわたしは結構重い病気らしく、健康食品しか食べてはいけないらしい。滅多にここに来ないお母様は知らないかも、と言っていたため一応確認したのだ。


 食事が運んで来た側仕えの手により、机の上に置かれる。そしてわたしは、アールに抱き上げられ、椅子に座らせられる。


 食事は健康食品といっても見た目は普通のイタリアンだ。サラダにスープ、そしてパンだ。肉類ないのかぁ〜。

 わたしは前世では肉が苦手で、大豆ミートをよく食べていた。これを機に、本当のお肉を克服したかった。まぁ、病気が治れば食べられるかも知れないし、まずは健康食で回復しないと。

 わたしは手を合わせる。


「じゃあ、いただきま…」

「では今日もわたしの真似をして下さいね」


 え? アールさん? どういう事ですか?


「エ、ア、ハ、ハイ?」


 もう意味わかんないよ! とりあえず返事は必須。いつ殺されるか分かんないから!


「食事を用意できることと、食事を食べられることに感謝して、この食事を頂きます。はい、どうぞ」


 ……はい、どうぞ、じゃない!! 長いよ! 覚えられない!

 みんながわたしを見ている。言わないとダメなやつだぁ。


「食事を食べれることと、この食事を頂けることに感謝して、この食事を頂きます」


 周囲の様子を見てみる。お母様は目を伏せており、アールはポカンとしている。ジーはは愛想笑いを続けている。

 ……間違ってるっぽい。やり直さなきゃ!


「……もう一度教えて下さいませ」


 わたしの言葉はこれしかなかった。




「ご馳走様です」


 わたしは手を合わせる。

 味は前世で食べたイタリアンレストランよりも薄かった。特にスープはただのお湯だった。野菜はクタクタになるまで茹でられていて、本当に健康食か疑った。パンは硬くて幼児の歯じゃとても食べられるものじゃ無かった。サラダは味付けがされてない状態の野菜を盛り付けしたような感じ。

 アールに言われたけど、わたしはいつも何口か食べて残すらしい。けど、今日は頑張って全部食べたからか驚いていた。

 ……前のわたし、わがまますぎでしょ。 まぁ、この味…残したくなるよね。

 う、お腹はち切れそう。

 わたしはお腹をさすりながら、お母様を見る。お母様と目が合った。


「今日は全部食べられたのね。体調が良いのかしら?」

「はい、そこまで悪く無いです」


 わたしは明確な回答を避ける。なにか変な事を言えば怪しまれてしまう。


 ……そういえば、父親って誰だろう?


 アールもジーもお母様も父親の話をしない。もしかしたら、魔界ならではの隠し子⁉ いや、身体が弱くて隠れて育てられている王子様かも! いやいや、妄想はどうでも良い!

 まず父親の存在を聞かなきゃ。   

 でも父親がいなかったら、そんな事を聞くわたしのこと怪しむかも? 子どもだし大丈夫...……だよね?


「あの…わたしのお父さ…お父様って、どこにいるのでしょうか。それとも…」


 わたしが『お父様』と、その言葉を言った瞬間、空気が凍りついた。

 わたしは言ってはいけない事を言ったと、肌で感じた。後ろに立っているアールとジーも、目が泳いでるお母様もやってしまった、と思っているのだろう。


 ……いないのだろう。お父様は。余計な事言わなければ良かった。


「食後の薬を飲みましょうか。エス様?」


 重い空気をぶった斬ったのは、怖いほどのニコニコ笑顔でわたしの目の前にくるアールだった。

 ……そういえば食後にいつもの薬を飲むとか言ってたっけ? 頭痛薬と解熱剤だったような。


「エス様? 返事は?」


「は、はいっ!」


 アールは「いい返事です」と言いながらゼリーのような物の中に粉薬を入れていく。スプーンで軽くかき混ぜると、わたしの目の前に持ってくる。そして、スプーンで少しだけすくって、わたしの口に運ぶ。


「あーん、です」

「あーん」


 唇に薬がつかないように精一杯口を開ける。聖華時代にリップを崩したく無い時のように。

 味は薄いぶどう味だった。薬の苦い味は一切感じなくて、安心した。飲み込むと、次が来る。


 あーん あーん あーん…

 甘くておいし〜な あーん あーん…


「これで最後ですよ。はい、あーん」

「あーん」


 うん。人に甘えるのも悪く無いかも。

 ゼリーを飲み込みながらそう思う。

 アールは、聖華時代ではクラスに1人はいるぐらいのイケメンだ。それも、わたしの執事だから、言う事を聞いてくれて、着替えも手伝ってくれて、優しい、はず。

 …あ、ダメダメ。今のわたし、男だった。残念、残念。

 

「エス、今日はご飯もお薬も頑張ったわね! ご褒美は何がいいかしら...」


 ん? ご褒美? ご飯とお薬頑張ったら、ご褒美貰えるの?


 聖華時代の普通が魔界では通らないのか、前のわたしがわがままだったのか。うん。答えは簡単、後者だ。

 普通のことでご褒美貰うのも気が引けるなぁ。でも、ご褒美欲しいし…


 欲望には逆らえないよね!


 ご褒美なに貰おうかな〜! 本とか? 魔界のこと知れるし。文字の勉強もできる。あとは、魔界の情報とかかな。いや、それはお付が教えてくれるかも。じゃあ本が一番かな?


「お母様、本が欲しいです!」

「…本? エスは字が読めるのかしら?……アール?」


「いえ、まだ読めていません。わたしが付いてながら申し訳ございません。エル様」


 わたしが返事する前に、即座にアールが謝罪した。ジーは黙って立っているのに、アールはお母様の前に来ては、よく喋る。

 ……もしかしてアール、お母様のこと、好き、なのかな。

 お母様は人妻だし。そんなことないよね。


「いいのよ、アール。いつも寝たきりでそんな事をする暇があるなら、わたしと遊ぶものね! エスちゃん!」

「……はい。お母様」


 お母様わたしのこと、めっちゃ子ども扱いしてる! 凄い恥ずかしいよ! お母様はわたしの相手より、アールの相手をしてあげてぇ! でもお母様はお父様がいるぅ! いや、いないかもぉ! どっちなのよ、父親の有無!!




「エス様は何がお考え事でしょうかね。エル様」


「そうね、アール。エスはほんと、メルにそっくり。わたくし、エスに嘘を吐いていて良いのかしら…」


「いつかは本当のことを言わねばなりません。しかし、今ではないしょう。せめてもう少し、成長してか。ザック様の事もわかる年になってからにしましょう」



 聖華は考え事に必死で、二人の話は耳に入って来なかった。




「エス様、おやすみなさい」


 アールがベットに横たわるわたしに布団を掛けてくれる。


「……あの、アール……」

「なんですか? エス様」

「わたしはお風呂に入らなくても良いのでしょうか? それともいつも入ってないとか……じゃ無いですよね?」


 アールは何度か瞬きをした後、ニコリと笑った。


「まるで他人事のようですね。いつもお風呂に入りたく無いと言っているのは誰ですか?」


 ……え、その言い方だと前のわたしが我儘みたいじゃない? そうなの? 前のわたし、我儘だったの⁉

 けどわたしはエスっていう子供じゃ無いし。大人だし。


「アール、わたし、明日の朝お風呂に入りたいです……良いですか?」

「良いですよ。では少し早めに起こしますね」

「はぁい」

「おやすみなさいませ。エス様」

「おやすみなさい。アール」


 そのままわたしは高級布団で眠りについた。

次回 裏切り

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ