初講義はマンツーマン ~後編~
「よく来てくれた。エス」
「あなたが呼んだも同然です。スクイブ先生」
わたしはまんまとスクイブの罠にはまった。まさか初講義がマンツーマンだなんて。まあ、薄々気づいてたよ。だって生徒の数と比べて教師多すぎるもん。
「では今から質問し合いゲームをしよう」
「え? わたしが取ったのはドゥール学なんですけど」
「講義の前にレクリエーションがあるのを知らないのか。最初はどの講義にもあるぞ。覚えておくといい」
「はあ」
わたしはポケットからペンと紙を取り出してメモする。スクイブは必死にわたしの書いた文字を解読しようと頑張っている。
……無駄だよ。これは日本語だからね。
「おまえ、自分で言語を作ったか」
わたしは大きい独り言を無視しながらメモをポケットに戻す。そしてスクイブに向き直った。
「では質問し合いゲームを始める」
「それって真実と挑戦ゲームのようなものですか?」
「ちがう。普通の質問ゲームだ」
「そうですか。それって何の意味が?」エスは笑顔で質問を続ける。「教師と生徒の仲を深めるため、ということは分かるんです。でもわたしたちは元から知っている同士ですし、やる意味あるのでしょうか? 無駄なレクリエーションよりもドゥール学をしてほしいです。わたしのお父様の恋人、スクイブ先生?」
スクイブは固まってしまった。いや、固まるぐらい寒いのはわたしのほうなんだけどね。こいつの冬の英雄の特性で。
「そのまま固まるようでしたらわたしから質問しますね。じゃあお父様との関係を聞きましょう。お父様とはいつから知り合いで?」
スクイブは動き出した。マントを留めているブローチに手を当てる。ブローチは少し光った。
……なにが変わった? あ、なんか……。
「もしかして全身から冷たい空気出すの止めてくれてるんですか? 先生のマントが普通になって来てます」
「は? もともと普通だ」
「もとはガッチゴチに固まってましたよ。アナが冷たい池に落ちた後のスカートみたいに。お尻冷たかったでしょう?」
「何言ってんだおまえ」
……そっか。ここ魔界。アナ雪なんてしらないよね。
「質問に答えてくれますか? ゲーム、なのでしょう?」
わたしが上目遣いをするとスクイブは素直に口を開いた。
「えー、シ……ザックとの関係だったな。あいつとは学生のころからの友人だ。別に恋人でも何でもない。何か誤解してるのか?」
……白を切るつもりか?
「言っとくが、ザックとは付き合ったこともない」
「え、でも……」
「次は我輩からの質問だ。お前もしかして転生者か?」
質問ゲーム恐るべし!
次回 こどもの逃げ足