エス、はじめてのおつかい! ~環境が変わると人は変わる そんなことわかってたよ~
「キターーーーーー! はーじーめーてーのー?」
お父様はわたしに振る。
「おつかいーーーー!」
わたしは全力で答えた。
~三時間前~
「え? わたしが学校?」
エスは間抜けな声を上げる。
「そうよ。ジーから聞いていない?」
「いえまったく」
わたしはお母様に部屋に招かれた。ジー曰くお茶会という名の話し合いだそうだ。重要な。
ジーにはよく見抜いたで賞をあげよう。わたしが学校に通う話? 重要すぎるよ。
「いつから通うんですか? その学校とやらは」
「三日後よ」
早い! もっと早く言ってほしかった!
「どういう学校ですか?」
「イェーニット学園小等部。たくさんの魔族たちが通う、お貴族様学校よ」
うーん、聞いたことあった! 前ジーに聞いたわ!
「制服とかってあるんですか?」
「まあ、一応あるけどスカートだからダサいわよ。着なくてもいいわ」
お母様、わたし男設定! 忘れないで! 体女だけど男として育てられてるから!
「入学準備とかってあるんですか?」
「えぇ、杖を買いに行きなさい」
ほえええええええ?
~そんなこんなで現在~
わたしたち親子は杖を買いにレーシェンファース(我が国)の王宮にやってきました。
「ここがレーなんとかの王宮ですかー。前言ったのは魔王の王宮だったからなー。レーなんとかの王の城かー。見劣りしちゃうー」
わたしは王宮に入り、お父様とホールに通された。
そこは決して見劣りしないレーシェンファース独自の美しさがあった。
魔王宮は「とりあえず金かけとけ!」みたいな外装内装。机から小物まで「ダイヤ詰めとけ!」というものだった。
が、レーシェンファースの王宮はシンプルな色合い。その中にある美しさ。
例えるなら魔王宮は高いチョコの箱で、レーシェンファース宮はチョコだ。
どちらもそれぞれの良さがある。どっちの方がいい、というものがなく、どちらも良い。
うん。例えが難しい!
通学バック、制服、ぼうし、靴。そのコーナーを過ぎたところにお目当てのコーナーがあった。
「エス、ここから杖のコーナーだ。ここから選ぶと良い」
お父様は壁を指差した。
壁に何個もの杖が掛かっている。いや、浮いている。シンプルな物から宝石のついた派手な物まで。七十種類はある。
「私のおすすめはこれとこれ。ここら辺のは私と同じブランド。これとかはエルと同じブランド」
お父様は上のと真ん中のと指差す。
彼と同じブランドのやつはでっかい紫の宝石がついていて、金持ちのお遊び用みたいだ。使えるとは思えない。
お母様と同じブランドのやつは持ち手がピンクっぽくて可愛い。でも持ってみると重い。
ひ弱なわたしには無理かもしれない。
「こっちも持ってみるか?」
お父様は宝石のついた方も定員さんにお願いして下ろしてもらった。上にあったから。
持ってみると少し重い。ピンクのよりは軽いが。
「どうだ?」
「うーん。どっちかというとこっちですね。他のを見ても?」
「あぁ」
わたしは全てにザッと目を通す。
「難しいですね。色も長さも太さも色々のがあるし。どう選べば良いんですか? お父様」
わたしは定員さんと話しているお父様に聞いてみる。彼は少し目を泳がせた後口を開いた。
「普通は自分の能力で選ぶ。私だったら魔力が多くて大変だったので上手く使えるようにここのにした。アールは魔力が少なくて扱いが下手だったから杖専門のブランドにしてたな。エルは自分の好きなブランドの可愛さ重視で選んでた」
意味わかんねー。魔界意味わかんねー。
「そ、そうですか。すっごく参考になりました。どうぞそちらの方とお話しを続けてくださいお父様」
わたしが貼り付け笑顔でザックと別れると彼に怪訝な顔をされた。こっちがしたいわ!
わたしは一人で杖を見る。まずは見た目で選んで、その中で多い魔力の人が使えそうなものを調べてもらう。
最終的に五つに絞られた。三つはお父様と同じブランド。二つは知らんやつ。
「うーん。ど・れ・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か……」
「なに? それ」
「ひゃうっ!」
わたしが日本語であべべのべをしていたら肩を掴まれた。間抜けな声は聴かれていないことを願う。
後ろを振り返るとそこには監禁されたパーリナイのとき、助けてくれた救世主がいた。
「これがいいんだな?」
「はい!」
お父様は書類にサインする。すると書類は少し光って二枚になった。コピーされた方をお父様はもらう。魔術意味わかんねー。
「ほら、受け取れエス」
お父様の声に気付き、定員さんから杖が入っている袋を受け取る。袋だけで百円しそう。
定員さんたちに見送られながらわたしは王宮を後にした。
お父様と馬車に乗る。ガタガタいって乗り心地さいあくー。
「なんでそれにしたんだ?」
何分かの沈黙に耐えられなかったのか、お父様が質問してきた。こいつが他人に興味を示すとか怖い。
「なんとなくです。いいなーって思ったので」
わたしが回答を濁すと足を踏まれた。わたしはため息を吐きながら本当のことを話す。
「わたしに助言してくれた方がいたんですよ」
「なに?」
……お、こいつ分かってんじゃん。
「お前に助言? どこのどいつだ」
ムッとしたお父様はわたしに詰め寄る。
……くぅっ! お父様がイケメーンすぎる!
わたしはこんな美形に逆らえるわけもなく。
「この前助けてくれた救世主さんです。あの監禁パーティーのときの」
「監禁パーティー……。そうか。顔は見たか?」
お父様は足を組みなおしながら聞いてくる。よほど気になるのだろう。
「顔はマントのフードで見ていません。あ、でも髪の毛が垂れてました。何色だったかなぁ。暗い色でしたね」
「暗い色……マントの色は?」
「赤でした」
お父様は目を見開いたあと普通の顔に戻った。
「彼が選んだのならいい杖だろう。学校準備もこれでおしまいだな。イェーニット学園小等部がんばれよ」
~三日後~
小学二年生ぐらいの子達。
みんな髪を整えられている。制服を着ているものは少なく、わたしもお父様にもらった服で来て正解だった。
環境が変わると人も変わる。
それは分かっていた。
でも違う。
これは違う。
「エス様! あいつこっち睨んでますぜ!」「私共がぼこしにいきましょか?」「おれなら俺一人で行けますぜい」「いや、ここは魔術に特化したあたしが!」「お前ら待て! エス様の指示を聞いてないだろ!」
みんなして机に座っている幼い少年を見上げる。
「俺が行く」
少年は机から降り、教室から廊下へと出る。彼の悪口を言っていた生徒は彼が杖を一振りしたことによって床に這いつくばってしまった。
「エス様……すげぇ」「さすがザック様のご子息」「ザック様の教育の賜物ですね」「きっとあの良い杖なのでしょう」
エス。彼はエスだ。ザックの子供で優秀なエスくん。
でも本当のエスはここ。みんなを手下みたいに扱うエスを陰ながら見ているわたしこそ、エスなのだ。
環境が変わると人が変わる?
あれは本当に人が変わっているんだ。
わたしじゃないだれかに。
次回 報連相はお大事に




