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王宮に招かれて懐かしい自分と再会 あなたの中身は誰ですか

「まあ、わたくしたちが出て行ったあとそんなことがあったの? 誰なんでしょうね。エスを助けてくれた救世主は」


 これまでのことを事細かくお母様たちに話した。お父様は眠いと言って自分の離宮に帰っていった。


「私はそのパーティーの主催者である金髪のおじさんが気になります。この時期にパーティーをするのは普通ですけど、そこまでの大人数を呼べる方はこのレーシェンファースには数人しか……」

「まってください、アール。金髪なら他国かもしれません。ここには金髪の富豪がいないでしょう? あと、一瞬で移動したなら転移魔術の可能性も出てきます。レーシェンファースだけの問題ではなく、他国との問題ともなればどうなることやら。僕からザック様に相談します」


 アールの話を止めて、真剣に語り出すジー。わたしには全く理解できない話だけど。


「ありがとう。ジー」

「うれしいですわ。でも、こんな話に乗り気だなんて。何か問題でもあったのです?」


 お母様の質問にジーは無言の圧で返した。



「では、わたくしとジーはお兄様の所に行ってまいりますね。アールと二人で寝る準備しておくのですよ。就寝の挨拶には来ますので」

「はーい、お母様お気を付けてー」


 わたしとアールは二人を見送った後すぐに着替える。


「ここに腕を通してください」

「通りません!」


 なんだかんだ寝る準備が終わった。でもお母様は話が長引いたのか、結局来てくれなかった。




「おはようエス。昨日はごめんなさいね。魔王から手紙が届いてお兄様が苦労してたの」

「魔王から手紙? 暖炉はあっちですよ、お母様」

「やだっ! エスったらジョークが言えるのね! かわいい!」


 わたしは本気だったが、お母様はジョークと受け取ってしまった。


「エス様こちらがそのお手紙です」


 ジーはわたしに綺麗な装飾がされている手紙を差し出した。わたしは開けた跡がある手紙を読む。


「久しぶり、我が友ザック。君に可愛い子供が出来たみたいじゃないか。突然だが明後日の王宮パーティーに招きたいと思う。招待状は念のため四枚入れておく。来なかったらお前の‘娘’を私のものにしてやろう。光栄だろ? 魔王城で待ってる。ですって。っ気持ち悪い手紙ですね。……ぽーい」


 わたしは暖炉に向かって手紙を投げる。見事に燃え尽きた。


「なにしてるの!? エス!」


 お母様が怒ろうが。


「こりゃまずい」


 ジーが困ろうが。


「あばばばば」


 アールが壊れようが。

 わたしは行かないつもりだった。



 行かないつもりだったが無理やり連れてこられて強制参加となった。魔王の城は王都にあるらしく、馬車で何泊もしてやっと着いた。


「自分の子供を脅迫までしてパーティーに連れていく父。毒親だわぁ」


 わたしは七五三で男の子が着るような立派な羽織と袴を組み合わせた羽織袴を着ている。髪も綺麗に後ろで一つにまとめられている。わたしを知らない人は可愛い男の子と思うだろう。

 今回のパーティーの主催者である魔王からの手紙には娘と書いてあったので、隠す必要なくない? と突っ込んだらけっこう怒られた。わたし悪いことしたかな?


「お前が行かなかったらお前は魔王と養子縁組し、将来魔王ルート確定だぞ」


 わたしはため息を吐きながらパーティー会場に入る。


 前のパーティーのような薄汚い感はなく、ザ・社交界というパーティーだ。

曲に合わせて踊ったり、貴公子に近づいて婚約話を持ち掛けたり、奥に座っている偉そうにふんぞり返っている魔王に挨拶したり。


「これがわたしの社交界デビュー。デビュタント舞踏会ですか」

「あらエス踊れるの?」

「いえ、まったく」


 お母様は意味不明という顔になり、アールを引き連れて踊りに行った。


「お母様ダンス上手いですね。ワンツッスリー、ワンツッスリー」

「うるさい、魔王に挨拶しに行くぞ。練習通りやれよ」

「はいはい」


 わたしとお父様はジーを置いて魔界じごくの王、魔王と対面することになった。


「おはちゅめおめにかかりまちゅ、エス・ウァニュでちゅ。まおーちゃま、よろしくおねがいするです」


 わたしは恥ずかしいセリフを言えたことで肩の力を抜く。お父様は魔王の胸ぐらを掴んで内緒話をしているようだ。


「すまんすまん、こんな何の変哲もないガキだとは思わなくて。この子の親になる気は失せたよ」

「それはよかった」


 お父様はようやく魔王から離れる。


 魔王は四十代前半ぐらいのいい男だ。オレンジの髪に金色の目。目が少したれ目で、優しい雰囲気の人だ。とても魔界を治めているとは思えない。


「いやー、相変わらずエスくん。顔がいいねえ。うちの次男結婚しない?」

「うるせえぞ。一生喋れなくなりたいか」

「こわー。やめろよザックー」


 ……女の子ってバレてるね。

 わたしは静かにお父様と魔王の対決を見る。お父様の圧勝だ。魔王が可哀そうとか初めて思ったよ。


「タイム! タイム!」


 お父様の腕を離そうと必死にもがいている魔王はすごくダサい。


「わたし、外の空気吸ってきまーちゅ」


 わたしは明け放たれているバルコニーに出る。何度か深呼吸して、戻ろうと思ったとき。


「エス?」


 わたしの名前を呼んだ誰かに肩を掴まれた。この声はどこかで聞いたことがある。いや、もっと親しみのある、でも、最近は聞いていない。


「やっほ。エスだよ」


 聖華だ。そこに立っているのは神崎聖華だ。わたしの体だ。中身をエスなのだろうか。


「わたし……?」


 エスの体のセイカは振り返り、お父様を探す。彼はまだ魔王と一緒にいた。魔王にわたしが転生者だと知られるのはまずいし。お母様はアールと踊ってるし。ジーは見つからないし。


「誰か探してる? 一緒に探すよ」

「あっ、いや、そういうことじゃ……」

「あはは、自分の声聞くの変な感じ。君もだよね。セイカちゃん」


 わたしは急な日本語に戸惑いを隠せず、頷くことしかできなかった。


「俺ね、今、神崎家で過ごしてるんだ」

「えっ!? あっ、そりゃそうか」


 わたしは普通のことに驚いてしまった。わたしの体で過ごしてるんだからわたしの家で過ごすか。わたしだってエスの家? で過ごしてるし。


「どうですか? 我が家は」

「んー、過ごしやすいよ? 三食おやつ付き、サブスク見放題、空気はいいし、日差し最高。部屋付きバスルームだから引きこもりを育てる部屋みたいだね」


 意味わかんない評価をするエスにセイカは笑う。


「なにそれ、ほとんどの家そうじゃん」

「え! そんなわけないよ!」

「あはは、魔界にしか住んだことがないからそう思うんだよ」

「俺もともと人間だし! 日本いたわ」

「そうなの!? 意外」


 二人で話し合ってるうちにお父様が迎えに来た。


「お友達かい? 十五歳ぐらいか。大きいお友達ができたね。さよならの挨拶しなさい」

「ばいばいエス」

「また会おう、セイカ。お父様も」


 意味不明な言語にお父様は首を傾げるが、わたしたち二人は笑う。なぜか二人だけの秘密みたいだ。


 なぜセイカの体で魔界に来れたのか。なぜエスとばったり会ったのか。元はどんな人間だったのか。

 聞きたいことは山ほどあったが、強制的に帰らせられたため、わたしのデビュタント舞踏会はこれにて終了となった。

次回 裏で起きたこと

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