監禁されてパーリナイ/顔も分からない救世主を
椅子と後ろで縛られた手。少し痛い。
床に鎖でつながっている椅子。遠くへ行けない。
さらわれた時と違う騎士服。下はタイツ。
わたしの部屋まで響くBGM。うるっさい。
「あー、監禁された―」
わたしは部屋を見渡す。
ボロボロまでじゃないけど、エスの部屋よりかははるかに格下用の部屋だ。一緒にさらわれたはずのお父様ザックはいない。きっと別の部屋でわたしと同じようにされているのだろう。
「どーしよーかなー。叫んでみる? あ、それいいね。お父様が気付いてくれるかも」
わたしは決心して深呼吸をする。
「だれかー! 助けてー! エスはここだよー!!」
わたしは息を整えながら耳を澄ます。
何も変わらず音楽が響いている。
「音楽でわたしの声聞こえてないじゃん! もー! お父様ー!」
わたしが叫んだ途端、音楽がやんだ。
……いやいや、うるさいとは思ってたよ? でも、急に聞こえてこないの逆に怖いっ!
わたしが後悔して頭を振っていたら扉の開く音がした。
「え……うそうそ! やっぱさっきの叫びなしで!! なしなし!」
「なにがなしなんだ?」
扉からはお父様が出てきた。
「は? お父様?」
「うん? そうだが」
……あれ? わたしたちっ攫われてここに来なかった? わたしの勘違い?
「あの、なんでお父様は野放しで、わたしはきっちり繋がれてるんです?」
わたしは足元の鎖を足で踏んで見せる。するとお父様は扉を閉めて部屋に入って来る。
「私はもっと頑丈だったぞ。解けないほどじゃなかったがな」
なるほど。これは手伝ってもらった方がいいかもしれない。いや、絶対そのほうがいい。
「お父様ー、わたしー、この部屋から出たいなー」
「わかった。目を閉じろ」
やけに素直なお父様に従ってわたしは目を閉じる。少し怪しいが助けてくれるだろう。そう思っていたら急にBGMが響いた。びっくりして目を開けると、そこにはわたしに杖を向けているお父様が。
「お父様!? わたしを助けるんですよ!? わたしに杖向けて何が目的!?」
わたしが必死に逃げようと動かない椅子とじたばたする。
「はあ? 目を閉じろよ。私はお前を助けてやるって言ってるだろ」
お父様はそのまま杖を振る。
わたしは強い光にびっくりして目を閉じる。すると……。
「きゃっ! いてて……え! 椅子ごとなくなった!」
ザックは呆れ顔で驚いているエスを立たせ、手をつなぐ。
「お父様が恋愛に目覚めた?」
「ちがう。父として当然だ」
ザックはそのまま扉に向かう。
「ちょっ、待ってください! わたしはあんなうるさいDJだらけの場所……」
「いいから。死ぬか、行くかだ」
……ひん! この人、結婚したらDV夫だ!
お父様は究極の二択を出し、わたしに選ばせる。
わたしはバチバチのヒップホップが聞こえる敵だらけの場所に行く事になった。
「飲むかい? お嬢ちゃん」
「何歳かなぁ? ばぶばぶ~」
「え、えぇと……」
エス(セイカ)お父様に待ってろと言われ、ソファーで待ってた結果。
知らないオジサンたちにナンパされています。
……早く帰って来てー! お父様―!!
「なんちゃい? なんでここに来たのかなぁ?」
「迷い込んじゃった?」
「今生まれたのかな?」
「ほうら、一人じゃ寂しいでしょー? おじちゃんたちが……」
「失礼、彼女は私の連れです」
一人のじじいがわたしの髪を触ったところで、飲み物を取りに行っていたお父様が帰ってきた。
オジサンたちはお父様のことを知っているのか、汗ダラダラにして走ってどっか行った。
「遅いですよ! お父様!」
「すまん。お酒以外置いてなかった」
お父様はそう言いながらわたしをずらしてソファーに座る。
ここはクラブだろうか。たくさんのソファー、カウンター席もある。真ん中にはDJ。ほんと怖い。
「お父様、これはパーティーですか?」
「しらん。招待状も来てないのに私に聞くな。あそこにいる主催者に聞きにいけよ」
お父様はお酒を飲みながら一つの机を指差した。確かに豪華だ。たくさんの女性に埋もれて主催者見えないけど。
「わたし行っても大丈夫ですかね? 一応攫われた身ですし」
お父様はわたしの言葉に鼻で笑った。
「さあ? 知らん。大丈夫だろ。あいつは私の友達だ」
「え? 友達に攫われたのですか? 仲悪いの範疇こえてますよ」
「え? 攫われた? 誰が誰を」
……こいつ話通じないな。いっちょ行ってみるか。
「行くんだ」
「行きますよ」
敵のアジトで、敵のボスに挨拶。
死にませんように!
わたしは主催者のいるテーブルへと向かう。
「こんにちはー、主催者は……」
「あっ! エス!」
テーブルにいた主催者は“わたしが会ったこともない”“わたしのことを知っている口ぶりの”おっさんだった。
綺麗な金髪で、強気そうな顔。四十代後半ぐらいだろうか。地獄を経験したことありますよみたいな顔してる。まぁ、この魔界が地獄なため、普通の顔なのかもしれない。
「あったことありますっけ? わたしたち」
わたしは勇気を出して尋ねてみる。
「え? 何回も会ってたじゃん。最近会ってなかったから忘れた?」
……やっべ。わたし、前のエス知らん。前のエスと知り合いのおっさんか。
「あぁー、お、お久しぶりですぅ」
「うん。……みんなは席外して」
金髪おっさんは手を出したらぎりぎり犯罪になるぐらいの女性たちを他の席へと連れていく。そこはお父様のテーブルだった。お父様は金髪をビンタして金髪は可愛い子をお父様に押し付ける。
親のイチャイチャを見るのは……なんというか。うん。気持ち悪い。
金髪は案外すぐ帰って来て、わたしにオレンジジュースを渡してくれた。わたしの中の彼への好感度が少し上がる。
……主催者いいやつ! こいつがわたしたちを攫うはずがない!
「んー! おいしい! ありがとうございます」
「いいんだよ」
彼はわたしの頭をなでなでする。わたしが子供だからだろうか。特に何も思わないので、好きにさしてやろう。こいつ結構偉そうだし。
「エス、お父さんはどうだい? 嫌じゃないかい?」
「んー、いやですね。わたしのことあんまり考えてくれませんし」
わたしは女の子とキスをしているお父様を見る。金髪はその視界を男らしい手で塞ぎ、わたしの顔を自分に向けた。
「僕が父親になろうか? エス、君の」
わたしは首を傾げる。彼の冗談かと思いきや、本気で言ってるらしい。なんかどこからか書類出してきたし。
「ここにサインして。そしたらザックと縁が切れるよ」
離縁書みたいなやつか。とりあえずサインするか。
わたしは彼からペンを貸してもらい、『エス』のつづりを頭の中で考える。
その途端、ペンが折れた。そのことに反応する前に紙が真っ二つになっていた。
「ん?」
「は?」
わたしも金髪男も首を傾げる。
何が起こったのか理解できないまま、わたしは自室にいた。エスの部屋だ。
「あれ? 夢?」
「夢じゃないさ」
声が聞こえ、振り返ると、そこには深くフードを被った人がいた。
「え? 誰……?」
わたしが言い終わるのと同時に助けてくれた人は部屋の窓から去って行った。
「救世主だ……」
わたしはそう呟きながら風でカーテンが暴れている窓に身を乗り出す。
「ありがとうー! 救世主さーん!!」
気づくとわたしのベッドにお父様が転移してきた。その直後、お母様とアールとジーが部屋に入ってきた。
「あら? お兄様とのお話は終わったんですの? あら? エス? 着替えたの?」
そうだ、わたし、お父様とお話し途中だったんだ。
「楽しいパーティーナイトだったよ」
わたしはもう一度窓の外を見る。真夜中だ。
視界 王宮に招かれて懐かしい自分と再会 あなたの中身は誰ですか




