デスパレートな魔族たち
「エス、今、何と言った?」
部屋の中に沈黙が訪れる。
…大変申し訳ございませんでした。お母様に言われてたのに。
「スクイブこれは……私が指示したことなのだ。エスには母が必要で…」
「其方が母代わりになれば良いではないか。なぜエルなんかに? あいつがイェーニットでしたことを忘れたのか」
「あれは…」
ザックが言葉に詰まる。お母様がイェーニットでしたこと、とは何だろうか。ヤンキーだったとかかな? 意外とありそう。まずイェーニットってなんだろう。
わたしは後ろにいるジーに小声で尋ねてみることにする。
「ジー、ジー、イェーニットとはなんですか?」
「魔界の中で一番の教育機関です。人間界で言う…高校、大学みたいなものだと思います」
なるほど。なぜ高校と大学、両方を言ったのは魔族の成人が16歳だからだろう。イェーニットを卒業すればすぐ就職。結構大変だな。
ん? てことは、お母様頭良いんだ。わたしに遺伝してるといいな。血繋がってないけど。
…そういえばここのみんなはお仕事してるのかな?
ジーとアールはわたしの執事。お母様はお仕事探し中かな。もうすぐ結婚しそうだけど。お父様はなんだろう。
わたしはお父様を見てみる。冬の英雄と同じ、騎士の恰好をしている、けど体格的に騎士ではないだろう。華奢な体をしていて、どちらかというと親の遺産で生きてるニートっぽい。前は先生してたみたいだけど、今はやってなさそうだよね。暇すぎる先生はいないだろうし。ニート一択だ。
「ニートかぁ。だからお父様、結婚できないのか」
…ん? 部屋の空気寒くない? もしかして今、わたし、口に出した?
「エス…其方……今…いまなんて…いっ…た?」
英雄が笑いを堪えながら問いかけてくる。お父様はムッとした顔で英雄を叩き続けている。よほど気に障ったのだろうか。
「お父様、気に障ったのなら謝ります」
「いや、事実だ……私こそすまない。本当に」
やけにしょんぼりしたお父様が謝ってくる。今にも泣きそうだ。これは言い過ぎたな。ま、いっか。本人も自覚してんだし。
「事実ですか。じゃあ謝りません。で、何の話でしたっけ?」
わたしが笑顔になるとお父様が席を立った。
「帰る」
わたしは咄嗟に頭の中で彼の言葉の語尾にンゴを付ける。一時期これをやって笑いを堪えられなくなり花さんに怒られた。悪い癖だ。
「何笑ってんだ。ザックは結婚が出来ないことについて真剣に悩んでいるのだぞ。はやく謝れ」
……うわ。この寒さの元凶、お父様のことめちゃかばうやん。じゃまー。
「いや、ほんとにいいから。帰ろう」
「わかった」
そのまま冬の何とかとお父様は部屋から出て行った。
「帰ってくれるなら好都合ですな」
わたしが冷や汗を拭きながら言うとジーがハンカチを差し出してくれた。
「寒かったですね。ぼくと二人でお話しできません?」
……え? 急に何?
「い、いい、ですけど」
疑いながらも返事をしたわたしを褒めてくれ。
「どうぞ」
わたしの部屋。慣れたと思ったのに、ジーと二人きりにされると緊張する。緊張が分かったのか、ジーに勧められたお茶はすごく温かかった。
「エス様、あなたはどうしたいですか?」
急な質問にわたしは戸惑ってしまった。真剣に考えてみると、これは罠だということに気が付いた。
「ほほーん。わかりましたよ? 魔族のあなた達がわたしに意見を求めるなど普通ありえない。そして、魔族とは親に支配される生き物。親の言うことは絶対。もうわたしの人生は決まっているんですね?」
わたしが分かり切った声で言うとジーは笑った。
「正解です。あなたの人生はもう決まっています」
……ほんとに決まってたんだ。なんとなく言ってみただけなんだけど。
「わたしの人生とは?」
「そうですね。まず、イェーニット小等部に行きます」
「小等部があるんですね」
「はい。七歳から十歳まで」
ジーの答えにわたしは相槌を打つ。
「その後は中等部、高等部へ。卒業後はこの領地の王に」
「王に!?」
わたしはびっくりして叫んでしまった。今思えばやりすぎた。
「はい。王に、とザック様は望んでいます。なので、学力テストをしたいのですけど、いいですか?」
「え?」
「全教科合わせて、百点?」
わたしは今、絶賛説教され中だ。
「わー、百点満点なんてすごぉい」
「ちがう! 三教科合わせて百点! 信じられんバカだ」
……そんなに頭悪いです? 異国の地のテストにしては頑張ったほうでは?
「エスちゃん……そんな」
お母様は失望してるし。
「うそ、だろ?」
アールは信じ切れてないし。
「やばー」
ジーは受け入れてない。
「そっか。みんな頭良いんだ」
わたしがため息とともに言うとお父様から指摘が来た。
「ちがう。あれは昨日の夜の事...」
私たち大人はエスの点数予想をしていたんだ。
お酒の勢いで結構な額を賭ける者もいた。
みんな、エスが天才だと思っていた。
「僕は満点だと思います」
「俺もぉ」
「わたしもよ! お兄様は?」
「私もだ」
これだけならよかった。だが……。
「じゃあ我輩は満点じゃないと予想しよう」
「ああああああぁぁぁぁぁぁ! あいつさえいなければぁ!」
……うわ。わたしで賭けてたんだ。こいつら。
「賭けるなんてサイテー!」
わたしがプンプン怒ってテストをゴミ箱に入れると急に気温が下がった。
「ザックのその顔。我輩の勝ちだな」
ザック、アール、お母様、ジーは冬の英雄に小切手を渡した。
「最悪な気分だ。すべてお前のせいだ」
「なんでわたしなんですか? 勝手に賭けるお父様たちのせいでーす」
わたしは英雄が去り、気温が戻ったことに安心しながら部屋を見渡していると写真が飾ってあった。なぜ今まで気がつかなかったのだろう。
「うわー! かわいい、エス!」
ほとんどがエスの、わたしの小さいことの写真だが、一つだけ違うものがあった。
「お父様と……この手をつないでる人は……?」
わたしはどこかで見たことがあるような気がした。
「あっ! 入院中のお母さん!?」
セイカ時代の母の若い写真と同じ顔をしている。
「よくわかったな。これは其方の母、メルだ」
お父様が近づいてきて写真の母を指差す。
「え? これはセイカの母です。エスの母のメルではありません」
わたしが混乱しているとお父様はもっと混乱していた。
「意味が分からん。同じなわけないだろ。これはメルだ。お前の母親なんかではない」
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