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ペテン師とザック/だまされて魔界

 私の名前はザック・ウァニュ

 4年前に前レーシェンファース王と養子縁組し、現王を支える代わりにこの土地で好き勝手出来ている。

 レーシェンファースにきて1年で義父が病に倒れ、2年で代わりの王を務め、3年目でやっと王が変わり、今年からディスト計画を再開しようとしていた。

 予想外のことが起こるまでは。


「キャッ! だ、だれっ⁉」


 前のエスは私のことを心底嫌っていた。何をしても口を聞いてくれなかったし、急に背中を刺されたこともあった。びっくりナイフで。

しかし。目の前にいるのは2カ月前と会ったエスとは似ても似つかない。いや外見はエスだ。中身が違う。

 私はエスの気を逸らす為に少し嫌味を言う。そして無詠唱魔術でエスの心を強制的に開く。

 エスの心の中はすごく汚かった。私の悪口が永遠に続いている。でも分かった。こいつはエスでない。人間だ。セイカという名前の。



 レーシェンファース王主催のパーティー。月に数回訪れる冬の英雄も呼ばれた。もちろん私も。

私からしたら人に笑顔を振りまきながら食事をするなんて耐えられないが。


「はぁ~、やっと出れた」


 王の城で開かれるパーティーだが、王に話しかける者は少ないのだ。ライデンディストは嫌われ者だから。

 私はバルコニーから街を眺める。この城で唯一好きなところだ。レーシェンファース首都全体が見られる。王になったときはよくここで仕事をしていた。そしてよく怒られていた。

 10分も経たないうちに後ろから誰かが歩いてきた。おそらく冬の英雄だろう。凄く寒くなってきた。


「どうした? そんなに厚着してるのにまだ寒いのか」

「あぁ、もっと着とけばよかった。…ちり紙、持ってないか?」


 私は鼻をすすりながらスクイブを睨む。彼は鼻水の原因が自分だと気づいたのか、少し目を見開いたあと、嫌味そうに笑った。


「はい、どーぞ」

「ありがとう」


 彼からちり紙をもらい、鼻をかむ。そんな私を彼はずっと見てくる。スクイブは昔からそうだ。私が何をするにしても一緒にいた。イラつく時も。

 ……もしかしてスクイブは私に、気があるのではないだろうか。


「…聞いてなかったのか?」

「え?」


 ずっと話していたみたいだ。どうせしょうもない話だろうけど。


「もう一度言おう。ウァニュ、本当にエスを育てるのか? 我輩に一度…」

「預けない。さっき話したのはそれだけか?」

「いや、まだだ。さっき聞いたのだが、エスを魔王と養子縁組させるのか? 単なる噂話だと思うが」


 私はちり紙をウェイターの持っているトレイに投げながらため息を吐く。


「…誰だよ。そんな噂を流したのは。魔王と養子縁組するぐらいならここのカバ王とさせる」

「へー、ライデンディストと養子縁組させるのかー! いい案だなー! ん? それとも実子として預けるのか?」


 スクイブは会場中に響くような大きな声で反応する。すると彼の思い通りに、招待された客のほとんどがこちらに注目する。

 …騙された。

 私は王を筆頭に質問攻めにされる。


「ザック、やはりそうなのか? 私の子供を支えてくれるのか? なぁなぁ!」

「ザック様! やはりそうでしたのですね!」

「私の孫はザック様の子供と同い年のです! お茶会でも…」

「すまんが席を外す。失礼……スクイブ! 待ってくれ! スクイブ!」


 スクイブは人混みに紛れてどこかに行ってしまった。あいつがこんな手を使うなんて想像できなかった。


「くそっ!」


 私は思わず、手に持っていたグラスを床に投げつけてしまった。

 ちり紙をゴミ箱に捨てながらその様子を見ていたウェイターは、驚愕の表情になった。



 城の中でも一番大きい客間。スクイブは毎回この客間を要求する。まぁまぁの金額が入った袋をちらつかせながら。


「今回もこの部屋なのか。一番北の部屋のほうが楽しいぞ、時々幽霊が出る」

「次からはもっと守りの堅い部屋にする。きみが勝手に入ってこないような。ウァニュ、出ていかないと警備を呼ぶぞ」

「おいおい、やめろよ。私は小切手落としただけだぞ」


 スクイブは私をいないものとして寝台に入っていく。

 ……部屋に来てすぐ寝るなんて。まだ23時なのに。

 近寄ってみると天幕からどんどんコートが出てくる。外に行っていたから結構着込んでいたようだ。そのくらい外は寒くて部屋の中は温かい。私も三枚、コートを脱ぐ。そして床に置きながら寝台の中に入る。


「来るな。疲れてる」

「では質問に答えてくれ」


 返事はない。スクイブはネクタイを外している。私はかまってもらう為、わざとらしくため息を吐く。そしてまた、口を開く。


「急にエスのことが好きになったのか? 引き取りたいなんて。それとも、レーシェンファースに訪れなかった一年間に何かあったのか? 文も途切れていたし」

「……そんなに気になったのなら館に訪問するぐらいしたらどうだ」


 彼はそう言いながら私を追い越して寝台から出る。形勢逆転だ。シーツに触れるとひんやり冷たい。前任を倒したため付いた特性だが本人も困っていることが多い。


「どこに行くのだ? まさか逃げるつもりか? また」


 私が少し挑発的に喋る。と、スクイブは気に障ったのか足を止めて振り返る。


「相変わらず気持ち悪い笑顔だな。そういうところがいいが」


 ……こいつはイェーニット時代からこうだな。まぁ、学生の時からは少し変わっているが。特にいじめる対象が女性から男性に。

 スクイブはソファーに座り、隣の席を勧める。私が向かいに座ると彼が隣に来た。よほど私のことが好きみたいだ。


「ザック、エスを我輩に預けてほしい。一生に一度のお願いだ」


 スクイブが近づき、私の髪に口付けをしながら上目遣いで頼んでくる。これには男女問わずメロメロになるといわれていたが、それは学生時代だけだったのだなと思う。


「お前の一生は何回あるのだ」


 彼の手から私の髪の毛を離す。微妙に髪が凍っている。本当に最悪だ。私は懐から杖を取り出し『髪の毛がストレートになる魔法』をかけなおす。

 スクイブを睨むと、彼はやけに真剣そうな顔をしていた。嫌な予感がする。


「なんでもするよ。エスさえ貰えれば」


 彼の言ったことは実現される。学生時代はその噂を信じて一緒に冒険をしていたが、今はそれが、ただの噂であることを願う。

 エスのためにも。

次回 デスパレートな魔族たち

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