三つの衝撃 後編
「メルは貴方を産む前に貴方が権力者になることを願って、男の名前を付けたの。でも…メルに子供がいると知ったあのクソ野郎は…」
「エル様」
「え? あ、あぁ。あの…メルの元恋人はやり返しをしたかったのか、黒魔法をかけるだけじゃ飽き足らず、闇の魔術を使って性別を女にしたの。けど、メルが大好きだったお兄様、ザックは遺言通り貴方を男として育てることにしたの」
わたしはアールに泡が出てくる櫛で頭をゴシゴシされながらお母様の話を整理しているとお母様のつぶやきが鮮明に聞こえた。
「汚い色のお風呂。どうしたらこの色になるのかしら…」
「今日も赤い服ですか」
わたしは着させもらった赤いワンピースをつまみながら疑問をこぼしていると、髪を赤いカチューシャでまとめているアールと目が合った。
「お嫌いですか? 赤色」
「いいえ、好きです。汚れませんから。」
「…赤も汚れるわよ?」
わたしはお母様の言葉を無視し、アールと目を合わせなおす。
「今日はお父様の館に行くんでしたっけ? お父様の館には赤い服で行かないといけないのですか? 赤がお好きとか?」
「違いますよ。ここの土地は沢山の属性があって事故が多いのは知っていますよね? そのため他の属性と相性が良い赤を利用しているのです」
「誰に話しているのかわかってます? わたしは知りませんよ、そんなこと」
「はいはい。そうでしたね」
アールが言い終わると同時に、鐘がなった。
「あ、十時の鐘がなりましたね。エル様、約束の時間は何の鐘でしたっけ?」
「えーと…」
お母様はどこからか手紙を取り出し、読み上げていく。
「えー、『エル様 エスの事について話し合うという名目でアール君の処罰を決めないか。明日、私の部屋。十時の鐘で待っている』」
「え? ザック様からですか? 私の処遇とは…?」
「アール、注目すべきは時間です! 十時集合なのに、もう過ぎていますよ?」
「まあ、大変! 早く向かわないと! アールはエスを抱っこして!」
「は、はい!」
アールはわたしを軽々と持ち上げ、抱っこする。お母様は少し髪を整えながらアールを心配そうに見ていた。わたしはアールがどんな罰を受けるか楽しみにしていたのが少し申し訳なくなる。
……二人は両想いなんだね。
わたし達は大浴場から出る。
「アール、お父様の館まで結構遠かったですよね。このまま歩いて行くつもりですか?」
わたしが、遠くない?と意見を言うと二人は少しうなずくだけで何も言わない。いや、小走りだからうなずいてもいないかもしれない。わたしは特に考えず、アールを蹴る。
「いたっ!」
アールは急にしゃがんでしまった。わたしはそのおかげで自分の足で歩ける。でもお母様はアールを心配して足を止めてる。わたしも足を止めるべきだろうか。
「エス様! なんてことするんですか!」
「アール、落ち着い…何をしているの?」
「え? わたしですか?」
わたしは転移陣を描いている手を止める。
「転移陣ですよ。早く着いたほうがいいのでしょう? あ、閻魔の館の番号を教えてくれませんか?」
「えぇ、たしか…あ、****-***、だったかしら」
「ありがとうございます、お母様」
わたしは転移陣に番号を書き込む。そして使ったことのない魔力を体の中から引き出し、転移陣に送り込む。すると、一秒も経たないうちに転移陣が黄色く光った。
「転移陣の用意が出来ました。乗ってください」
「随分早いわね。アール、立てる?」
「はい、でも、ですね? 転移陣というのは、一級魔術師しか使ってはいけないのです。エス様は一級魔術師ではないですよね? つまり、これは犯罪です。犯罪を犯したらどうなるか分かりますか? 一生をウァジュジュクティテスで過ごすということで…」
「うーるーさーいー」
わたしはお母様とアールを転移陣、まで無理やり引きずり込む。
「お願いです。共犯者にしないでください!」
わたしはその言葉を聞きながら視界が歪むのを感じた。
強い吐き気がしてわたしは目を開ける。そこはお父様の部屋の前の廊下だった。
「成功…した」
わたしは信じられなかった。これは二人には言いたくなかったけれど、生前一度本で読んだだけの図だったからだ。よく覚えてなかったし、合っているかも分からなかった。
「エス、成功よ! すごいわ!」
「足がなくなるかと思いましたよ。成功してよかったです。ところでエス様、ここ凄く寒くないですか? ほら、あそこの壁」
わたしはアールの言葉通り、壁を見てみる。
「凍ってる?……わね」
「凍ってますね」
わたしは鳥肌が立ってきた。
「なんでこんなに…冬の英雄。アール、冬の英雄がここに滞在してるといいましたよね? もしかして、ですけど…この部屋にいるなんてことは、ないですよね?」
「私たちとの予定があるのにほかの人に会うなんてことは、絶対にありえません。絶対です」
「ほんとなの? こんなに寒いのよ?」
「ここは一か八か」
わたしはそう言いながらお父様の部屋を指差す。二人はこれだけで分かったようだ。
「では二人はここで待っていてください。冬の英雄がどんな人か見たかったんですよ」
わたしはかっこよく二人に笑いかけながら凍っている扉に向かう。
二人ともわたしが善意で見に行くと思っているだろう。うん。嘘。嘘だよ。わたしにそんな善意はない。偽善偽善! なんなら今すぐ逃げ出したかった。そうしないのは理由があるからだ。そう、理由が。言えない理由が。
…漏れそうだったの!
部屋に付いてあるトイレは床に穴が開いてるだけだったし、大浴場にあったトイレも壁に穴が開いてるだけだったし! 朝から一回も行ってないの! 見た目は子供でも中身は大人だし、みんなはわたしのこと子供じゃないって知ってるから漏らすわけにもいかなかったの! あー! 恥ずかしい!
わたしはそんなことを考えながらも一歩一歩部屋に近づいている。そして、高級感溢れるドアノブに手をかける。
「ゆっくりよ、ゆっくり」
「頑張ってください」
二人が小声で応援してくれている。わたしは少し前向きな気持ちになってくる。
……ゆっくり。ゆっくり。
少しずつドアノブを押す力を強める。するとドアが少しだけ開いた。音を立てずに。
中にはお父様と黒髪の男性がいた。二人ともソファーに座っている。いや、ソファーに腰をかけているのは一人だ。黒髪の。お父様はソファーに座っている男性に馬乗りになっている。どうやら二人は静かな声で言い争いをしているようだ。痴話喧嘩かと思うぐらい距離が近い。今にもキスしそう。恋人同士なのだろうか。
魔界は同性愛に理解を持っていると何かの本で読んだ気がする。いや、書いてる人は人間だったような。
いや、今はそんなことどうでもいい。今考えるべきはこの状況を、お母様とアールに伝えるか、だ。
わたしは目を閉じて真剣に考える。
教えたらどうなるだろう。きっとお父様あの二人に押し切られて、結婚までしてしまうだろう。そうなると? 義父の結婚相手だから? わたしの親が増える! うん! あんなのが親なんて。すごくかわいそうだ。わたしが。うん。言わない。絶対言わない。何を聞かれても事実を隠蔽する。
わたしは目を開ける。そこには衝撃的な光景があった。
二人が、お父様と黒髪の男性がキスをしていた。
海外ドラマでも見ている気分になってきた。
「やっぱりそういう関係か…」
わたしはそっと扉を閉める。少し音がしたかもしれない。
次回 カップル来襲




