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パパパパーン

 食後のティータイム。一見優雅で美しい。

 けど、これが魔族だと思い知らしてくれる会話をしている。


「ジー、髪が伸びなくなる魔術はどうなった?」

「それが、失敗してしまって、実験台のドゥールの髪の毛がなくなってしまったのです。今は新しい実験台を探しています」

「アールは良い人見つかったか? うちのエル以外で」

「残念ながら……ジーは? 他領の想い人とどうなった?」

「文通を続けていますが、婚約まではいかないと思います」

「えー、諦めちゃうんですか?」


 そして、私を最後に話が終わるのはこれで5回目だ。



「じゃあね、エスちゃん」

「また明日、エス様」

「えぇ、お母様、アール」


 わたしは2人を見送る。そして扉が閉まると同時に回れ右をして、わたしの部屋に残っている白髪を精一杯睨む。


「なんで貴方は帰らないのですか? それともまだ話す事が?」

「あぁ、ある」


 そう言いながらザックはわたしのベットに躊躇も無く座る。


「乙女のベットに座るなんて…何をする気ですか?」


 わたしが不満たっぷりの声で言うと、ジーが安心させるような顔でこちらにやって来る。


「ジー? どうし……きゃっ! お、降ろしてっ!」


 ジーはわたしを抱き上げ、ベットに連れて行く。そしてわたしの耳もとに近づき、面白がる様に囁く。


「エス様、私は部屋から出て行きます。あの人に何をしようか、どんなに殴ろうか誰も見ていません」

「え? それって…」

「ジー、こっちだ」


 ザックがベットの上でブーツを脱ぎながら自分の隣を指差す。そしてわたしはそこに降ろされる。


「では私はこれで。何かあったら呼んで下さい」


 わたし達にお辞儀をするとジーは部屋を出て行こうとする。


「ジー! 置いて行かないで下さい!」


 わたしは出て行こうとする彼を必死に呼び止めるも、ザックに首根っこを掴まれてしまった。

 そんなこんなでわたしは忌々しいザックと2人にされてしまった。


「何が目的ですか?」


 少し声が震えてしまった。それが分かったのか、彼は安心させるような優しい笑顔になった後、わたしのベットに寝そべった。


「きちんと話すべきだと思っていてな。其方の母親について。知りたいのであろう?」

「知りたいですけど……良いのですか? 部外者のわたしに話しても」

「これから魔界で生活すると、其方が決めたのだ」


 わーお。この状況で本当は脱走を考えているとは口が裂けても言えないね。


「はい、そうですね、魔界で生活する事を決めたのはわたしです。知る権利がありますね」

「あぁ」


 ザックはわたしのほうを見ているようだが、わたしでは無い、誰かと重ねているようにも見えた。


「『メル』は其方を産んだ際に命を落とした。それも、ただ死んだのでは無い……魔術を掛けられていたのだ。どんなに苦しかったことか………あのクソ野郎が」


 わたしは最後の言葉を聞いていないふりをする。しかし、強気な言葉とは裏腹に、彼の紫色の目は哀しみの色に溢れていた。わたしは彼の気を少しでも紛らわす為、自分のワンピースの裾で濡れた頬を拭いてあげる。


「あなたとわたしの母親は、どのような関係だったか、聞いても良いですか?」


 彼は考えるように少し目を閉じたあと、口を開いた。


「メルとは従兄妹だ。そして私の生徒だった」

「従兄妹? 生徒? ということは……あなたはわたしの叔父様ということですか」

「あー……いや、其方の父親が受け取りを拒否した為、叔父ではなく義父だ。父親と呼びたくなければいいが」


 皮肉そうに笑うザックはわたしに嫌われることが怖いという顔ではなく、純粋に子供を心配する親の顔だ。


 この人なら……


「これからよろしくお願いします。お父様」


 わたしは彼の横に寝っ転がる。すると彼は優しく笑い、わたしに腕枕をしてくれる。


「あぁ、これからもよろしく。エス」




 コンコン コンコン

 誰かが部屋に入ってくる。


「生きていますかー? エス様ー?……まぁ、死にはしな…あ」


 ジーはベットにいるわたしに気づいたみたいだ。


「死にはしないとは何のことですか? ジー?」

「あー…それより、なんで、ザック様の鼻をつまんでいるのですか? なにか嫌なことでも言われたのですか?」


 わたしは自分の問いに答えてくれないジーに対して、とびっきりの笑顔になる。


「まずはわたしの質問に答えていただけませんか? 答えてくれたらこちらも答えますよ。答えたくないならいいですけど、この手を強めるだけですから」


 わたしはぐっすりのザックに視線を落とす。しかしジーは一歩も引かない。どうやらジーも何かのスイッチが入ったようだ。


「ザック様が死ぬまで続けるおつもりですか? もしかして前世は人殺しですか?」

「ただの学生でした」

「人間とは怖いものですね」

「魔族ほどではないと思いますよ?」


 両者にらみ合う中、数分が過ぎた。そこで、新しい手が上がった。鼻声の。


「二人して何をしているのだ。馬鹿馬鹿しい」

「あなた、いつからっ!?」

「ザ、ザック様!?」


 わたしとジーは驚愕の表情に変わる。そしてわたしはゆっくりと彼の鼻から手を放す。


「あ、あのー、いつから起きていたのですか? お父様」


 ザックは少しわたしとジーを睨んだ後、鼻を抑えながら気だるそうに口を開く。


「最初から寝ていない。目をつぶって馬鹿同氏の言い争いを聞いていただけだ」

「私の言葉はすべて嘘ですのでどうか、お仕置きだけは!」


 …お父様がジーにお仕置き!? すんごい気になる!


「お父様! ジーにさっき頭をズコンズコンされました! ジーにはお仕置きが必要です!」

「頭を『ズコンズコン』だとぉ? それは一大事だなぁ? ジー?」


 わたしの嘘にお父様はノリノリでジーを睨む。睨まれたジーは涙目になりながら弁解する。


「お義父様、僕はエス様に暴力などしていません! ズコンズコンなどという、変な擬音も聞こえていませんでしたよね!? だからお義父様、どうかお仕置きだけは!」


 ジーはザックにすがる。きっとそれほど嫌なお仕置きなのだろう。ますます楽しみになってきた。




 ザックの部屋。


「はああぁぁぁぁぁ、お仕置きって聞いていたのに…ただの日本語の書き取りじゃないですか。つまんなぁい」

「うるさいぞ、エス」


 仕事をいているらしいお父様に睨まれながら、わたしは羽根ペンをインク壺に入れる。そして配られた羊皮紙に日本語をあいうえお順に書いていく。何分か経った頃。横で日本語を書いているジーが飽きたのか、小声でわたしに話しかけてきた。


「エス様は何故前にあるお手本を見ずに書けるのですか? やはり人間だからですか?」


 わたしは前を見てみる。そこには綺麗な日本語が書いてある紙が空中に浮かんでいた。わたしは、ジーに教えてもらうまでお手本があるとは知らなかった。


「なるほど、だからジーはキョロキョロしていたのですね」


 わたしが納得していると、答えになっていませんよ、と可愛いジーの声が降ってきた。


「前世は日本人だったのですか? どうなのですか?」

「……はいはい、正解ですよ。日本人でした」


 わたしは渋々答えると、ジーは何故か自分の羊皮紙とわたしをチラチラしている。きっと代わりに書いてほしいのだろう。しかし元々はジーだけのお仕置きだったのに、わたしまでやらされているのだ。これ以上面倒なことはしたくない。わたしはジーを無視して、日本語の続きを書く。


「エスさまぁ!」

「なんですか、ジー。声が大きいとお父様に怒られますよ?」


 ジーはお父様に怒られるのが怖いのか、名残惜しそうにわたしを見た後羊皮紙と向きなおり、わたしとは違うインクのいらない羽根ペンを持つ。


「エス様、日本のどこに住んでいたのですか?」


 ……ジーはほんっと学習しないなぁ。まぁ、一人で怒られたらかわいそうだし。答えてあげるかぁ。

 わたしはジーのほうは見ずに答える。


「関東です。知らないと思いますが」

「ふーん、カントウなのか」

「え?」


 わたしはびっくりしてジーのほうを見る。するとジーはお父様に口を抑えられていた。

 ……さっきの声はジーの声を真似したお父様?

お父様の声もあんまり低くなかったから騙されてしまった。それにしても声真似うまいなぁ。そういう魔術具でもあるのかな。


「お父様声真似上手いですね。どのような魔術具なのですか? お父様?」


 怖がっているジーの口から手を放しながらお父様はニヤリとする。しかし何かわたしに嫌味を言うのではなく、ジーに笑顔を見せた。


「ジー、苦しくなかったか? すまなかったな」

「え? え、えぇ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」


 …ますます怪しいんですけど。何か狙いでもあるのかな?

 ザックはわたしのことは見ずに執務机に戻っていく。


「ジー、どこに住んでいるか聞くなんて怪しいと思いませんか?」


 わたしがわ行を書きながら聞く。少し経ってもジーからの返事は来ない。


「ジー? どうし……わぁお」


 ジーのほうを見ると、大量の白紙の羊皮紙が積み上げられていた。


「可哀そうに、ジー。いつかお父様に復讐しましょうね」

「おひとりでどうぞ。僕は目の前の書き取りが終わるまではエス様の悪巧みに付き合えませんので」

「…真面目なジーはかっこいいですね」

「冗談はやめてください。期待しちゃうので」

「冗談なんかじゃないので期待していいですよ。かっこいい、かっこいい、ジー」


 わたしが褒めちぎりながらジーの顔をのぞくと、驚くことに彼は顔を赤くしていた。

 ……やっぱりこの反応って。エスの体、女の子だよね。それかジーの恋愛対象が男の子か。


「ねえ、ジー……わたしって、おん…」

「なに二人してしゃべってんだ! 終わるまで部屋に返さないぞ!」

「ジー、かわいとー! わたし、とっくの前に終わっていましたー!」


 わたしはそう言いながら、羊皮紙いっぱいに書かれている日本語を見せつける。


「態度が気に入らない。もう一枚」

「そんなぁ!」

「エス様、一緒に頑張りましょう!」

「同じにしないでください。わたしはあと一枚、ジーは百枚以上」

「では、半分こ…」

「しない」

「二十枚だけでも…」

「しない」

「十枚だけでも…」

「うるさい」

「すみません。ザック様」

「わたしにも謝ってくださいよ! ジー!」

次回 三つの衝撃 前編

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