八十四話 絶望と希望と
決戦の夜が訪れた。
シトラスはバレンシアの手引きで再び、大樹ブラジュの屋上へと足を運んでいた。
バレンシアが会長を務めるコメルシャンテ商会は、王国の主要都市に支部を構えている。
四門の北アブーガヴェル公爵のお膝元であるマムラカも例外ではない。
コメルシャンテ商会の会長ともなれば、立ち入り禁止区域以外に足を踏み入れることは、そう難しいことはなかった。
シトラスは屋上でバレンシアとと共にアドニスを待つ。
アドニスが連れてくる手筈になっている魔勇の勇者を討つために、その手には既に鞘から抜かれた王道の剣。
隣に立つバレンシア魔導書を片手に立っていた。
長身のバレンシアはシトラスよりも僅かに背が高く、凛々しい顔立ちも相まってその立ち姿には気品があった。
アドニスが魔勇の勇者を、どうやって連れてくるのか詳細は知らされていなかった。
ただおおよその時間と場所だけを取り決めていた。
屋上と屋内を繋ぐ四台の昇降機のうち、一台が上がってくる。
屋上へと籠の中にはアドニスと魔勇の勇者。
シトラスは少し驚いていた。
まさか正面切って連れてくるとは思っていなかった。
昇降機から先に降りた魔勇の勇者は、シトラスに視線を向けると、
「おや! おやおやおや! どこにいたのかと思えば! ――なるほど! そういうことか! ワタシはハメられたのか!」
夜空を仰ぐように顔を上げると、左手を額に当てた。
『ハメられた』という言葉の割にその口元には笑みがあり、それがこの状況に対する自信をうかがわせた。
「それで? 復讐かな! なーんだ! わざわざこうして顔を見せてくれるならわざわざ指名手配なんてしなかったのに! ごめんね! キーくん。君のお友達のお嫁さん――じゃなかったもう未亡人だね! 未亡人に旦那さんが友達に殺されたって絶望を叩きつけて!」
おもしろおかしく語りながら近づいてくる魔勇の勇者に、シトラスは歯を食いしばる。
剣を握る手に力が籠る。
「でも! でもでも! 安心して! 特別にワタシの口から伝えてあげたから! ワタシのことを『信じられない』っていうもんだから、彼の生首を見せてあげたんだよ! 見せたかったなあの表情に絶叫を――」
「魔勇ゥゥウウッ!!」
シトラスは我慢できなかった。目の前の狂人の存在に。
魔勇の勇者の下へ爆ぜるように駆ける。
「<水球><火球>」
魔勇の勇者の両の手から放たれた魔法を力まかせに手にした剣で薙ぎ払う。
その足をただ前へ。
「<土針鼠>」
続いて顎を打ち抜くように地面から出てきた石柱も叩き壊す。
シトラスは止まらない。
――あの日とは違うッ!
魔勇の勇者をその剣の射程に収めると、最短距離で剣を走らせる――
「シトッ! さがってッ!」
が、背後のバレンシアの声に反応し跳ぶように後ろに退く。
正面にいたはずの魔勇の勇者の姿が歪んで消え、何もなかった空間から染み出すように彼女が姿を見せた。
それはちょうどシトラスが踏み込んだ場所の側面であった。
その手には魔法で生成したであろう切っ先の鋭い石剣。
「なーんだ! 意外と冷静なんだね! ――おっと!」
魔勇の勇者がしゃがみ込みと、その上をアドニスの剣が軌跡を描いた。
いつの間にか忍び寄ったアドニスが、意識がバレンシアに向いていた魔勇の勇者に奇襲をしかけたようだ。
「まぁ、この状況じゃそうなるよね! はぁ……まさかアナタも裏切っているとは思わなかったよ。勇者第一位"絶望の勇者"」
しゃがんだ状態で手にした石剣を薙ぐ。
アドニスは後ろに跳び上がってそれを回避した。
よいしょ、と魔勇の勇者は立ち上がった。
「アドニスが先生が、勇者? でも元勇者だって……」
アドニスが元ではなく現役勇者であることに驚きを隠せないシトラスに、
「あれ? 言ってなかったの? ゼッちん」
口を開くアドニスだが、
「――」
パクパクと口が開閉するだけで言葉は生まれない。
「相変わらず悲しい人ね。アナタは……。勇者の中の勇者とも言われ、歴代最強とも噂されたアナタが。いいわ。ここでキーくんと一緒に殺してあげる――希望を抱いて死ネ」
魔勇の勇者は笑みを消した。
そこから始まったのは、一方的な魔法の絨毯爆撃。
「<五色弾>」
両の手の指から魔法が際限なく射出される。
シトラスとアドニスは前後から挟み込むように、魔法を避けながら接近するが、
「<土針鼠>」
「ッ! シトラス下がれッ!」
アドニスの声に反応して、シトラスは転がるようにその場から身を翻す。
地面から飛び出て円錐がシトラスの服を切り裂いた。
両の手で魔法を使いながら、さらに同時に他の魔法を行使する。
まさに怪物。勇者の名に相応しい実力者。
バレンシアも魔導書を使って<火球>をとばすが、飛来するそれは<水球>によって相殺される。
その間にも両の手から放たれたる魔法はアドニスとシトラスを襲い続ける。
手にした剣で魔法を裁くアドニスは、
「はぁ、相変わらずですね。異なる魔法の平行運用。しかもそれをこの水準で」
その額に流れる一筋の汗。
魔勇の勇者は再び笑みを浮かべると、
「ワタシも随分と強くなったでしょう?」
「はぁ、アナタは昔から強かったですよ」
半時間ほどぶつかりあうが、シトラスたちは防戦一方。
恐るべきはその間に集中力を切らなさい魔勇の勇者の魔法技術。
威力も精度も衰えることなく三人に降り注ぐ。
アドニスとシトラスは手にした剣を攻撃に回すことができないでいた。
戦いは激しさを増していた。
アドニスが攻撃を防ぎながら口を開く。
「はぁ、魔勇の勇者。アナタは誰のために動いているのですか? マーテル陛下はあなたを疑っておられます」
「王弟の王位の簒奪を許し、偽王のために尻尾を振る! はッ、立派な勇者じゃないかッ! 絶望ォォオオッ!!」
アドニスが果敢に飛び込んでは、カウンターを受けて退く。
「はぁ、偽王……。なるほど、貴女の王はあくまでも先王なのですね。そして、その忠誠の矛先は――話が掴めてきましたよ」
「アナタはなぜ! 偽王に従う!? あの日我々は誓ったはずだッ! 勇者をなくすとッ! 王弟に騙されて全てを失ったあの日の絶望を忘れたかッ!」
アドニスは目を細め、
「はぁ、魔勇の勇者。時代は変わるのです。世界も同様に。そこで生きる我々もまた」
勇者一位と二位の衝突。
戦いは激しさは増す一方である。
「少々無責任かもしれませんがシトラス――後のことは任せましたよ」
それまで防御を貫き、隙を窺っていたアドニスが防御を捨てた。
その体から振り絞るように魔力を放出すると、脇目もふらずに魔勇の勇者へと突き進む。
それを魔勇の勇者は笑顔で受け止める。
二人の剣はまるで舞であった。
そこには洗練された美しさがあった。
戦いであることを一瞬忘れてしまいそうになるくらいに。
「シト、援護は任せて」
後ろに立つバレンシアから声を掛けられて、シトラスは我に返る。
この攻防が恐らく最後の攻防となるであろう。
アドニスから後先を考えずに放出される魔力からそう思った。
王道の剣を握る左手にいっそう力が籠る。
アドニスが倒れれば、シトラスだけで魔勇の勇者を押さえつけることは不可能だ。
シトラスも魔力を開放し、突撃する。
二人の勇者の捨て身の接近戦に、さしもの魔勇の勇者も追加で石剣を生成すると、左右に握った二刀の石剣で迎え撃つ。
勇者二人でなお押し切れない魔勇の勇者。
「剣もッ、できるなんてッ、ねッ!」
「ふッ、師匠がッ、良かったッ、ものでッ!」
軽口を叩き合う二人の額には汗が浮かんでいた。
突然、魔勇の勇者が大勢を崩す。
彼女の足元が泥沼に変わっていた。
視界の隅でバレンシアが魔導書で魔法を行使したのが見えた。
それを隙と捉えたシトラスがすかさず踏み出すが、そのときには彼女の足元の泥は固まっていた。
右手から放たれるカウンターの刃が走るのが見えた。
――これは止められないッ!
アドニスが叫ぶ、
「メリーッ!」
その刃の軌道がずれた。
反対側からアドニスが魔勇の勇者に剣を振り上げていた。
魔勇の勇者は軌道がずれた刃の勢いを利用して、アドニスの胸に剣を突き立てる。
その胸に石剣はすっと飲み込まれていった。
アドニスはその状態になってなお体を動かした。
魔勇の勇者の左肩を抑えるように抱きしめる。
「ごふッ……いま、です」
シトラスは考えるよりも先に、身動きの止まった魔勇の勇者の心の臓に剣を突き刺した。
魔勇の勇者は目を大きく見開いた。
その口から赤い線が垂れる。
最期の力を振り絞ってアドニスの耳元に顔を預けると、
「――」
瞳を閉じてその体は動かなくなった。
魔勇の勇者との戦いはここに終わった。
「アドニス先生ッ!」
互いを支え合うようにたつアドニスと魔勇の勇者。
二人の胸に突き刺さる剣。
シトラスは突き立てた剣を抜くと、アドニスの後ろへ周り、胸に突き刺さった石剣を抜いた。
剣を抜いた傍から、どっと血が流れる。
心臓こそ免れていたが致命傷であった。
アドニスを魔勇の勇者から引き離すと、支えを失った魔勇の勇者はうつ伏せに倒れこむ。
アドニスへ膝枕をするシトラスが、
「シアッ!」
振り返って助けを求めるが、アドニスが震える手でシトラスを引き留めた。
「はぁはぁ、シ、シトラス。よく、聞いてください。あ、あなたには、誓約魔法が、掛けられています」
顔色が見る見る間にも悪くなっていく。
「な、何を。そんなの知っているよッ。それより早く治療をッ!」
シトラスは言葉を交わしたくなかった。
言葉と共にその命がアドニスの体から逃げていくようで。
どこにそんな力が残っているのかという力でシトラスの手を強く握りしめ、
「いえ、あなたは、それを、知りません。勇者の誓約、とは別に、マーテル陛下により、誓約魔法を掛けられて、いるのです。せ、聖女を探してくださいッ。彼女が、彼女だけが、陛下の不完全な、誓約魔法を、解くことができます、はぁはぁ」
アドニスの呼吸が次第に浅くなる。
「はぁはぁ、シトラス、これが、私の、最期の、お願いです。ワタシを、ま、魔勇の、勇者の、ところまで、運んで、くれますか?」
シトラスは泣きそうであった。
――最期だなんて言わないで。
視界が歪んで見えた。
心のどこかではわかったいた。
シトラスはにじむ視界の中、アドニスを持ち上げる。
服に伝う生暖かい赤がひどく不快だった。
魔勇の勇者の横にアドニスを横たえた。
アドニスは血の咳を一つ吐くと、ただぎこちなく顔を魔勇の勇者へと向けた。
土気色の顔が向かい合う。
アドニスの黄色の瞳から、
「……メリー。どうか愚かな男を許して欲しい。己の理想に溺れた愚かな男を」
透明な雫が地面に跡を残した。
最後の力を振り絞って、魔勇の勇者の冷たくなった頬をぎこちなく撫でる。
「次に生まれ変わっても、ぼくは君とまた――」
アドニスはそこで息を引き取った。
シトラスは息を呑んで、アドニスの瞳に手を当てるとその瞳を閉じた。
屋上を覆う葉から落ちてきた夜露。
大樹の雫は涙のように魔勇の勇者の目元を濡らした。
ここにシトラス以外のすべての勇者が死んだ。
友の幸せを奪った魔勇の勇者は今でも許せない。
だが、彼女もまた奪われてきた者であった。
彼女もまた彼女のやり方で人を守ろうとしたのかもしれない。
交わした言葉は少なく、その本意は永久の闇に飲み込まれた。
後ろからバレンシアが歩み寄ってくる。
「誰が悪かったんだろうね……」
「……きっと誰も悪くなかったんだよ。世界の全ては善悪で割り切れるほど簡単じゃない。割り切れるのであればどれだけ簡単か」
「そっか……。生きるのって、難しいね」
四台の昇降機が一斉に屋上へと上がってくる。
現れたのはアブーガヴェル公爵とその護衛たちであった。
公爵が不満そうに、
「終わったか。人の頭の上でドタバタと」
言葉を吐くと、シトラスは身構える。
護衛の中から緑髪の温和な顔立ちの青年が前に出てきた。
「そう身構えなくても大丈夫ですよ。私たちは敵ではありません。少なくとも今は」
青年の後ろでは、公爵の指揮の下、護衛たちはアドニスと魔勇の勇者の後処理を始めた。
緑髪の青年の脇から追い越すように二人。
その顔を見て、シトラスの顔がほころぶ。
「シトッ!」
「ミュールッ! メアリーッ!」
駆け寄って互いの無事を喜ぶ。
見ればミュールもメアリーも傷だらけであった。
特にメアリーは、体だけでなく顔から頭にかけて包帯を巻いていた。その髪はぴょんぴょんと激しく乱れており、その顔には興奮冷めやらぬ獰猛な笑みが浮かんでいた。
二人の対戦した剣勇の勇者も激戦であったようだ。
「剣勇の勇者は?」
シトラスが尋ねると、ミュールが肩を竦めて、
「メアリーが斬っちまった」
驚いてメアリーを凝視する。
メアリーはじっと見られたことが嬉しいのか、ずいっとその体を寄せた。
シトラスは乱れたメアリーの髪を手櫛で整える。
緑髪の青年が三人へ近づき、
「驚きましたよ。元七席とは言え現役の勇者を、こと接近戦においては最強との呼び名の高い剣勇を斬ってしまうなんて」
青年は心の底から感嘆しているようである。
他の護衛を見渡すと、メアリーへの視線に畏怖が含まれていることに気がついた。
「これからどうされるのですか?」
「王都へ戻るよ。陛下に色々聞きたいことがあるから」
マーテルの願い。王国の状況。勇者の今後。
そして、マーテルの手によってシトラスに掛けられたという誓約魔法。
「そう、ですか……。では次にお会いするのは――戦場になるかもしれませんね」
「それってどういう?」
二人の会話にミュールが口を挟む。
「……シト。俺もここに来るまでに聞いたんだが、反乱を企てているっていうのは――四門なんだ」
「アブーガヴェルが?」
ミュールの視線を受けて、シトラスは首を傾げた。
「いいえ。我々アブーガヴェルだけではありません。東のフィンランディア。南のアップルトン。西のアブーガヴェル。つまりは四門の全体です」
「……わぉ」
シトラスはただただ言葉を失う。
王国の東西南北を守護する四門が一斉に王家へ不服従を示すという事態に。
「それに反乱ではありませんよ。正当な王位継承者に王位を継いでいただくための手続きです。その過程で多少の小競り合いが起きるだけで」
「ぼくを見逃していいの?」
「今ここで私たちと刃を交えたいのですか?」
王の剣である勇者。
六本の鍛え上げられた剣は砕かれ、鋳造されたばかりの新鋭の剣だけが残った。
王の勇者であれば誅すべきである。
しかし、シトラスは王のため、王家のための勇者という意識が希薄であった。
ただ黙って目の前の青年を見つめる。
その面持ちにはどこか見覚えがあった。男性ではなく女性で。
シトラスが青年が誰に似ているか辿り着くより前に、
「……冗談ですよ。貴方には借りがあります。個人的にも北の一門としても」
「それって――」
「――そのぐらいでよい。明日の敵にあまり喋りすぎるな。情が移る」
厳しい表情を浮かべたアブーガヴェル公爵が二人の会話を遮った。
勇者の遺体の始末と、最低限の屋上の補修が終わったようである。
「次の陽が出ているうちに北の地を去れ」
話はそれで終いと言わんばかりに、昇降機に向かって足を翻した。
その背にバレンシアが、
「閣下。怖れながら王都までの案内人は私が勤めさせていただきます。通行許可証を頂けますか?」
公爵は立ち止まると、
「コメルシャンテ商会の会長か……。ふん。いいだろう。渡してやれ」
そう言って昇降機へと再び歩き出す。
青年は公爵の指示に頷くと、懐から通行許可証を取りだした。
あらかじめこの事態を予測していたのであろうか。
あまりの手際の良さにミュールは驚きを隠せなかった。
「それではこれを。公爵の名で物資の補給も保証します」
「随分と気前がいいんだね」
「我々もいらぬ犠牲を出したくありませんからね。ただ長居は無用でお願いします」
青年は続けて、
「先日、使者を通じて王家に正式に請願書を提出しました。それとすれ違うように、絶望の勇者が王弟殿下から公爵へ向けた召喚状を運んでおりましてね。おそらく貴方が王都に到着する前にでも戦端が開かれるかもしれません」
公爵が昇降機で階下に降りていくのが見えた。
「戦うしかないの?」
シトラスの問いに、
「王弟殿下が聞く耳を持ちませんからね。簒奪に近い形で王位を継承して、異を唱える者は片っ端から異端審問にかけて投獄または殺害されています。独裁政治です」
青年の声音は優しかったが、内容にはマーテルに対する棘があった。
「私たちはこれを見逃すわけにはいきません。もし、叶うことであれば貴方の口からも王弟殿下を諫めてもらえると何か変わるかもしれません」
いまだ夜の帳は深かった。
◇
激戦の夜が明けた。
ウオックが引く馬車の中。
車窓から後ろを覗くと、遠くに見える大樹ブラジュ。
マムラカを包み込む森林を抜けても、未だにブラジュだけはその姿が見えた。
粉雪が馬車を明るく馬車を照らしている。
進行方向側に座るシトラスと、彼を挟んでバレンシアとメアリー。
ゆったりとしたキャビンと言えど、三人も座ると手狭である。
少し体を動かすと肩と肩が触れ合う距離。
シトラスは隣に座るバレンシアにもたれかかりながら、都市マムラカをぼんやりと眺めていた。
メアリーはバレンシアに持たれるシトラスにもたれかかっている。その赤髪は未だに乱れたままであった。
二ヵ月にも満たないマムラカの滞在であったが、多くの悲しいことを体験した。
その結果、これまでの勇者はいなくなり、新米のシトラスだけが残った。
三人の正面に一人で座るミュールから見れば、一つの家族のようであった。
姉のバレンシアがいて、兄のシトラスがいて、妹のメアリーがいる。そんな家族。
「さながら俺はお隣さんか」
「ん? 何か言った?」
ミュールの呟きを拾ったシトラスが、ミュールを不思議そうに見つめる。
ミュールはニヒルに口元を歪めると、
「いんや、俺はいつだってお前の隣にいるよ」
「ぼくもいつだってミュールを頼りにしてるよ」
シトラスも満面の笑みでそれに答えた。
それを聞いていたメアリーが不満そうにシトラスへ身を寄せると、おもしろがったバレンシアもシトラスへと身を寄せた。
両脇からぐりぐりと身を寄せられ、それをくすぐったく思ったシトラスが笑う。
それを見てミュールも笑う。
シトラスの笑顔に釣られて、両脇の二人の顔にも笑顔が浮かぶ。
馬車の中は笑顔に包まれた。
三章の本編もこれで終わりです。
幕間では本編で掘り下げられなかった各勇者とミュールを投稿予定です。
幕間も本章で終わりです。




