表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

決戦、そして

 私立・都乃宮みやこのみや女学院に通じるシャトル乗り場は、校外の正門そばと校内の理事長室そばの2箇所に設けられている。


 内、理事長室内には地下実験棟への出入り口があるそうで、何らかの罠が仕掛けられている可能性が濃厚だった。


 なので念を入れて正門そばの乗り場を利用してみたが、意外なほどあっさりと到着。


「うーわ…初めて来た時にも思ったけど、いかにもラスボスの居城ってな雰囲気だなぁ」


 暗闇に茫然と浮かぶ巨大なシルエットを見上げて、久城陽子くじょう ようこは武者震いを隠さない。


「私もこんな夜遅くに、ここから見るのは初めてかなぁ?」

「んにゃ!」


 少し前まで実際住んでいたにもかかわらず緊張した面持ちの都乃宮美夜みやこのみや みやの言葉に、膝の上のクロめ身震いしながら同意。


 ちなみに禍力まがりきが濃厚な場所、かつ夜間には美夜は自動的にナイトモードに切り替わるそうで、その瞳は血のように真っ赤に光り輝いている。


「あ、その目の色で思い出した。あたしが初めてここに来た日も、お前ら真夜中まで禍物まがものと闘ってたよな?」


「あの夜は特別だったんだよぉ。いつもはそんなに遅い時刻には出没ないのに、なんでかあの晩だけ…」


「あ〜あん時の禍物たちね。アレ、唯ちゃんサマが通してあげましたン♪」


 陽子と美夜のやり取りを聞いていた真中唯まなか ゆいの思わぬ一言に「なぬぅ!?」と驚く親子二人。


「たぶんクロちゃんの後をつけて来たんだろうけど、正門を通れなくてウロウロしてたから、どーぞどーぞって警備装置を切ったげたのよン♪」


「ふんにゃにゃにゃあーっ!!」


 ホラやっぱりボクのせいじゃなかった!とクロが猛抗議。あのあと美夜にオシオキされてエライ目に遭ってたからなぁ。


「アレで陽子ちゃんも此処のコトがよぉ〜っく解ったと思うし、結果オーライねン♪」


「やっぱオメーの仕業かよ…」


 当時、重要書類を唯に盗られた挙句、わざわざここまで呼び出されたことを思い出し、陽子はげんなりした顔色を浮かべた。


「どーせなら昼間にしてよぉ! 夜中は私、そ、そのぉ…ちょっとエッチになっちゃうから…」


 夜目にも真っ赤な顔で塞ぎ込む美夜に、唯はニマニマ意地悪く笑いかけ、


「おかげで陽子パパとチューして、おまけにオモラシしちゃったしねン♪」


「思い出させないでェーーーッ!!」


「そんなにキモチヨカッタのン?」


「いやぁあぁあ〜〜〜っっ!!」


「ホントに親子なんかいオメーら? いつまでもバカやってねーで、とっとと行くぞオラ!」


 このままだと美夜が本気で号泣しそうなのと、自分まで面倒事に巻き込まれそうな気配を察知した陽子は、一人でさっさと正門をくぐった。


 直後に「あっヤベッ罠がっ!?」と慌てて身構えたが…拍子抜けするほど何もなかった。


「やっぱりこっちで正解だったのかなぁ?」


 クロを抱えた美夜もおっかなビックリ正門をくぐるが、やはり大丈夫。


「ふ〜ん? シロガネたんならきっと何か仕掛けてると思ったんだけどねン?」


 最後に唯も正門をくぐり…かけたところで、裏手に何か貼り付けられているのを発見。

 くぐり終えてから引き剥がしてみれば…見覚えのある呪符だった。


「…なるほどねン。ただのおバカさんかと思ったけど、なかなかの曲者くせものねン♪」


「何してんだ、早く行こうぜ!」


 陽子に促されて、唯はその札をこっそり懐にしまい込むと、軽やかな足取りで皆の後を追った。





 校舎内に入り、一路、理事長室を目指す。


 外見とは裏腹に内装は近代的だが、深夜ともなればやはり不気味だ。

 真っ暗闇にときどき消火栓の赤ランプや非常口の緑色の光が灯る程度。


 幸い星明かりが廊下を照らしてくれるおかげで歩くのに支障はないが、通路の向こうに何かが潜んでいても判らない。


「な、なんかコワイね…」

「んにゃあ…」

「つーかお前ら、元々ここに住んでたんだろ?」


 自分達が化け物の最たる存在のくせにビビりまくりな美夜とクロの様子に、陽子は呆れ返る。


「ここいらには何も仕掛けられてねーのか?」


「さぁ? シロガネさんなら知ってると思うけど…校舎の設計はお任せだったしぃ」


「なら奴の思うツボじゃん。ヤベーじゃん」


「大丈夫そうよン。たぶんこのまますんなり到着しちゃうんじゃない?」


 ときどき立ち止まっては何かを確認する素振りの唯が、能天気に応える。

 その手の中には、正門で見つけたのと同様の呪符が握り締められていた。




 やがて、あっけなく理事長室までたどり着いた神様一行は、恐る恐るドアを開け放つ。


 …美夜にとっては見慣れた、しかし他の者には見慣れない室内には、やはり変化はない。


「っていやいや、机の位置が違うよぉ?」


 日頃からそこに座っていた美夜でなければ気づかなかっただろう些細な違和感。

 見れば、理事長卓がわずかにズレて、真下に扉が付いているのが見えた。


「大昔のADVではお馴染みのトリックねン♪」


「何十年前の話だよ、今じゃそんな単純すぎるゲームはねーだろ?」


「まだカセットテープでピーゴロやってた時代の話だからねン♪」


「かせっとてえぷ…って何?」


「…いいの。忘れてン」


 たとえ何万年生きていようと、世代間のギャップを痛感するのは哀しいものだねン…と涙をちょちょ切らせる唯だった。


 気を取り直し、大昔からのしきたりに従い机をズラして扉を開けると…これまたセオリー通り、階下へ通じる隠し階段が現れた。


「階段かよ…車椅子泣かせだな」


「そーでもないよぉ」


 と美夜が傍らのスイッチを操作すると、階段が機械音を立てて動き出した。エスカレーターになっていたのだ。

 一段当たりのスペースは車椅子がすっぽり収まるサイズになっており、楽々降りることができる。


「…ムダに凝ってんな。せっかくだから、乗ってやるか?」


「パターン的に移動通路内に罠は仕掛けられてないみたいだしねン♪」


「んにゃんにゃっ!?」


 イヤイヤ待てや!とばかりにクロが扉の入り口付近を指差す。

 目を凝らしてよぉ〜っく見てみると…極細のワイヤーが張り巡らされていた。


「ワ、ワイヤートラップ…正気かアイツら!?」


「下手に飛び降りたら首チョンパだったわねン」


 コレはシロガネと月乃つきののどっちが仕掛けたのか?

 いずれにせよ、すんなり通してくれる気はなさそうだ。


「てゆーか、物理トラップは呪術じゃどうしようもないってコトねン…」


 人知れず納得して気を引き締める唯だった。


「お手柄だね〜クロちゃん♪」


「んふふにゅにゅ♪」


 美夜になでなでされて、まんざらでもない様子のクロ。


 そのクロが爪でひと撫ですれば簡単に切れるほどワイヤーの強度は脆かった。

 これなら最悪でも切り傷程度で済みそうだが、凶悪なことに変わりはない。


 ここまでして隠し通したい禁断実験…『人工神創造計画』とは、果たしていかなるモノなのか?


「さぁーて、鬼が出るか蛇が出るか…?」


 ようやくエスカレーターに乗り込んで、一行は学院の地下へと降りていく。





「…なんか急に古めかしくなったな?」


「作られたのは戦時中だからねン」


 降り立った地下空間は、コンクリートや木材が剥き出しになった簡素な造りだった。


 あちこちに設置された裸電球が周囲をほんのり照らしているが、現代の照明器具とは比べるべくもないほど薄暗い。


 エスカレーターに乗っていた時間からすると相当に地下深いためか、空調も効いてないのにひんやりと肌寒い。


「…ずいぶん詳しいな?」


「そりゃ〜管理者ですから。何度か来てみたことはあるわよン♪」


「なら話が早い。アイツらが何処にいるか判るか?」


「もちろん。きっと最下層の実験棟ねン」




 場所は変わって、その最下層の実験棟。


 先に到着した月乃は、予想外の光景にすっかり放心していた。


「…これが…」

「…左様。これぞまさしく、オリジナルの美弥子お嬢様です」


 最下層は草野球なら難なく出来そうなほどの広い円形空間となっており、床や天井が中央に行くほど膨らんでいる。最中心部では見上げると首が痛くなりそうなほどの高さがある。


 その中央に…ソレはいた。


 浴衣の胸元がはだけた半裸の少女。歳の頃は十才前後だろうか。

 金髪碧眼のその顔立ちは、美夜によく似ている…というか、見れば見るほど瓜二つだ。


 となれば当然のごとく見目麗しい美少女のはずだが…恐らくその姿を直視できる者は少ないだろう。


 何故ならば、その下半身はまるでイソギンチャクのような異形の怪物に呑み込まれた形で完全に融合し、両腕は自身の背丈よりも巨大な、カマキリのような鎌状に変形している。


 背中からは何本もの管だか触手だかが伸び、周辺の天井や壁に張り巡らされている。

 そのせいで、どこから見ても生物っぽいのに、何やら機械めいた印象すら受ける。


 思わず目を背けたくなるほどにおぞましいその化け物は…幸いなことに意識を失い沈黙していた。

 しかし身体のいたる箇所が呼吸するように蠢いていることから、いまだ生きていることは疑いようがない。


「コレが…一家を全滅させた…大火事の原因?」


「大火事というよりも、制御不能となったコレが手当たり次第に焼き払ったのです。

 家人が総出で対処し、なんとか禍玉を切り離して鎮めることに成功したものの…」


 引き換えに命を落とし、シロガネだけが生き残った。


「ご覧下さい、壮観たるこの御姿を…。これぞまさしく神と呼ぶにふさわしい…!」


「…悪趣味。」


 元が獣のシロガネは、やはり我々とは美的感覚が異なるのか。恍惚とした表情で絶賛するその意見を、月乃は一言で一刀両断した。


 年端もいかない少女が、自らの身体がこんな代物に変わり果てていく様を目の当たりにすれば…正気を保てないのも当然だ。


「私に…コレと…融合しろと?」


「はい、是が非でも! そのときこそ、我ら一族の悲願成就の…」


 なおも興奮した面持ちで先走るシロガネの言葉を遮り、


「…まっぴらゴメン。」


 月乃は再度、真正面から一蹴した。


「なんっ!?…約束が違うじゃないですか!

 貴女がオリジナルになりたいと言うからこそ、自分は願ってもないことだとこの場にお連れして…」


「約束なんて…してない。最初から…全然願ってもなかった」


 顔色一つ変えずに白状する月乃に、シロガネもさすがに苛立った感じで、


「ならば何故!? 我々は友達ではなかったのですか!?」


「お友達。だけど…前提が違う」


「何が違うというんですか!?」


 そこで月乃は大きく胸を張り、


「友達が間違ってたら…直してあげるのが…本当の友達。…一度言ってみたかった」


 誇らしげに言い放った。


「何を偉そうに!? 今ので貴女の好感度はだいぶん下がりましたよ! 友達を無くしても良いっていうんですか!?」


「どうせ元々…友達なんて…一人もいなかった。また…一人に戻るだけ。

 それに…こんなことで壊れる…友情なら…要らない。」


 などと強がってみせる割には全身をプルプルわななかせて、月乃は目に涙を滲ませた。

 そんな彼女の並々ならぬ決意に、シロガネは二の句が継げない。


 その時。


「…到着〜。なんとか友情が台無しになる前にたどり着いたみたいねン♪」


 場にそぐわない陽気な声とともに、唯たち一行がドヤドヤと実験棟に入ってきた。


「…遅い。もう…嫌われた」


「まあまあ。代わりと言っちゃ〜なんだけど、唯ちゃんサマは月乃たんのコト、だいぶん見直したわよン♪」


 ここに至るまでにあちこちで回収した月乃の呪符を片手に振りかざしつつ、唯はパチリとウインクし返す。


「この部屋、セキュリティーがやたらめったら厳重でねン。唯ちゃんサマでもなかなか近づけなかったけど…」


 だからかつて美夜と月乃の魂を入れ替えたとき、美弥子の禍玉そのものではなくコピーを持ち出すのでやっとだった。


「月乃たんがあらゆる罠をことごとく無効にしてくれたおかげで、こんなにあっさり辿り着けちゃったわよン♪」


「別に…あなたのために…した訳じゃない」


 口では反抗しつつも、褒められて嬉しくない訳がない月乃はやや頬を赤らめる。


「クッ、道理でやけに早く来られたと思ったら…!」


「シロガネはあたし達にコレを見られたくなかったみてーだが、月乃は逆にはやく見せたくてしょーがなかったみてーだな?

 それにしても…コイツはスゲーな…!」


 歯噛みするシロガネと対峙するように目の前に立った陽子が、絶景とばかりに化け物を見上げて呟く。


「…このヒトのコピーじゃなくて本当に良かったなって、今は思ってる」


 車椅子をクルリと回して部屋の隅々まで見渡した美夜が、その中心に鎮座する自分と同じ顔を見上げて、心底胸を撫で下ろしている。


「んにゃげろりん…っ」


 コレはヒドイ、コレは食う気にならない…と、美夜の膝の上のクロにも大不評である。


「えぇいっ、よってたかって無礼千万!

 美弥子お嬢様の御前だぞっ!?」


が高い、控えおろ〜ってか?

 どこぞの元気なちりめん問屋の御隠居じゃあるめーし、んなバケモンに誰が忠誠なんざ誓うかよっ!!」


「貴ッ様ァーッ!?」


 激怒して陽子に掴み掛かろうとしたシロガネを、


 パシィーーーン!


 と平手打ち一発で黙らせたのは…

 意外にも美夜だった。


「いい加減にしてっ!! こんな小さい子を、こんな酷い目に遭わせて…あなたはそれでも平気なのぉ!?」


 化け物の中心で眠る美弥子を指差し、美夜は涙ながらに抗議する。


「…お嬢、お言葉が…」


「もう、あなたの言うことなんか聞かない!

 これが私の素の喋り方なのっ!

 私はっ…あなたのお人形さんじゃないっ!!」


 心の底から振り絞った美夜の絶叫が、広い空間に凛とこだました。


「どうしてあなたはいつもそうなの!?

 なんで誤魔化してばかりで、私をまっすぐ見てくれないのっ!?

 お願いだから…ちゃんと私を見てよぉ!!」


「…………」


 予想外に激しい美夜の剣幕に、シロガネはもう何も言い返せない。


「…ちゃんと見たら…ダメになっちゃうからよねン?」


 これはもう収拾がつかないと見て取った唯が、愛娘のために助け船を出した。

 それもジェット翼船で。


「だってシロガネたん…ミヤミヤのこと、ホントは大好きでしょお〜ン♪」


 …は?


 その場の空気が確実に一時停止した。





「し…心外ですね! 大きな誤解です!

 こんなのよりは、月乃のほうがよっぽどマシ…」


 指差しでこんなの呼ばわりされ、がーんとショックを受ける美夜の隣で、


「…それは嘘。」


 シロガネの言葉を真っ向から否定したのは意外にも、マシ扱いされた月乃だった。


「『銀狼書庫』に置いてあったギャルゲー(エロゲ含む)を分析した。

 結果、金髪碧眼ヒロインものが8割。残り2割は黒髪清楚系」


「んなっ…!?」


 思わぬ処から思わぬ証拠を突きつけられ、シロガネはものの見事にたじろいだ。

 そしてそれ以上に、何故だかこんな時だけ言葉遣いが流暢になる月乃に、皆は動揺を隠せない。


「ヒロインの性格的には従順系と妹系が大半。残りはツンデレ系と幼女系で、お姉さんキャラはほぼ皆無。コレも美夜の傾向に合致。

 あと…総じて巨乳でエロエロ。」


「ちょっ、なに勝手に分析してるんですか!?」


「友達の嗜好を知っておくのは至極当然。」


「性的嗜好まで知られてたら逆に引きますよ、ストーカーじゃあるまいし!

 そんなことばかりやってるから友達できないんじゃないですか!?」


 ごもっともな御指摘に、今度は月乃がガーンとショックを受けた。


「尊い犠牲乙。てなわけで、ミヤミヤはまさしくシロガネたんの理想ドンピシャなわけだ〜ねン♪」


「ううっ…」


「でもでも、自分のお相手は昔から美弥子たんに決まってるから、いまさら他の子を好きになる訳にはいかない…とか考えてたんでしょ、こぉ〜んの生真面目チャン⭐︎」


「あぅうっ…」


「なるへそ。だからあえてつっけんどんな態度をとって、必要以上に近づかないようにしてたワケか…。つくづくガキだなテメーは」


「ぁぃぅぇお前に何がわかるっ!? うるさいウルサイ五月蝿ァーイッ!!」


 真っ赤になって否定すればするほどドツボにハマるシロガネたん。正直カワイイ。


「解るぜ、コレ見ちまったら嫌でもな…」


 部屋の中央に陣取って眠り続ける異形の怪物をしげしげ見つめ、陽子は静かに語る。


「美夜が、自分の本体がこんなんなってるって知ってショックを受けるのがイヤだったんだろ。美夜には何も知らないままで居て欲しかったんだ…そうだろ?」


 図星だったのか、いましがたの暴れっぷりはどこへやら、シロガネは押し黙ったまま何も応えない。


「さっき美夜の手首を切り飛ばしたのも、あそこまですりゃーもう追いかけて来ないだろうと思ったからだ。

 たとえ嫌われてでも、美夜にはこのまま変わらないで居て欲しかったんだろ?」


「…………」


「んでもって、シロガネ。お前がここに来た本当の目的は…この化け物と心中するつもりだったんだな?」


「!!??」


 シロガネのみならず、その場の誰もが陽子の推理に度肝を抜かれた。


「コレの禍玉のコピーな月乃をここに連れて来たのが何よりの証拠だ。コピーにしておくにはもったいないほどの月乃を見て、お前は決心したんだ」


 そこで陽子は月乃にチラリと視線を送る。

 不安げに聞き入っている月乃を安心させるため、まずは彼女の処遇から推測する。


「もちろん月乃にはどうこうするつもりなんて無い。オジョーサマの意思を引き継ぐヤツに、すべてを看取ってもらおうとしただけだ。

 そしてお前はここで、オジョーサマと全てを終えることで、お前ら一族の長年のしがらみにケリをつける」


 そこで陽子は美夜と月乃を交互に見やり、最後にシロガネに視線を合わせて…こう結論づけた。


「これで…都乃宮家は生まれ変われる。」


 しばしの沈黙の後…シロガネは観念したように膝から崩れ落ち、長い溜息を吐いて苦笑した。


「…よもや、貴様ごときにすべて見透かされようとはな」


「これでも一応は国語教師なんでな。文脈をたどれば、だいたい読み解けるさ」


 などとキメつつも、内心では的外れじゃなくて良かったとホッと胸を撫で下ろす陽子。

 だが当然、納得できない者もいた。


「…それで…その後、私はどうしたら良いってゆーの?」


 シロガネの好意が最初から自分に向いていたことを知っても…美夜には到底納得できない。


「あなたがいない世界で私だけ生き残ったって、しょうがないでしょ!?

 都乃宮家なんて知らない! 新しい世界なんて要らない!」


 崩れ落ちたシロガネを引きずり起こし、その胸ぐらを掴んで顔を寄せて…美夜は叫んだ。


「私は、あなたと一緒に居たいだけなのッ!!」


 ここまで言われてしまえば、もう覚悟するしかない。

 無論、死ぬ覚悟などではない。


「お嬢…自分は…」


 そこまで言いかけたシロガネの顔色が…にわかに強張る。


「伏せてッ!!」


 慌てて美夜を、その膝の上にいたクロごと突き飛ばす。

 直前まで美夜が座っていた車椅子が…次の瞬間、真横に真っ二つに裂けた。


 こんな芸当ができるのは…まさか…!?


 一斉に振り向いた皆の前には…大鎌と化した両腕を高々と振り上げた、異形の怪物。

 眠っていたはずのヤツが、明らかに活動再開していた。


「…な、何故!? 復活できる筈がないのに!?」


「オリジナルの禍玉もここにあるんでしょン?

 いつの間にか取り戻してたっことは…」


 青ざめたシロガネの悲鳴じみた言葉に、違和感を覚えた唯が問いかけるが、


「有り得ません!」


 シロガネは断言した。


「アレの禍玉は…もう無いんです。複製した直後に消滅してしまったから…!」


 衝撃的なその回答に、全員総毛立つ。


「で、でも、あちこち動いてたよな!? ってことは、禍玉がないのに生きてたってコトか!?」


「コイツは倒されるまでに何人もの禍人を喰らった! その禍玉を吸収したから、消滅までには至らなかったんだ!」


「ってことは何だ、禍玉を他にいくつも持ってやがるってことか!? さすがはラスボス、規格外にも程があるぜ!」


 絶望的ながらもどこか楽しそうな陽子に、なんでこの状況で…とシロガネは呆れ果てつつ、


「だがそれらはあくまでもサブとしてしか機能しない! メインの禍玉が無ければ、目覚めることなど…」


「あ…ソレ、たぶん…私?」


 ハタと気づいた月乃の問いに、シロガネはますます顔面蒼白となる。


「そうか、月乃はコピー品とはいえメインの…しまった!」


「でも私…別段、意識を乗っ取られて…は、いないけど…?」


「それで充分なのです。メインがそばにあれば、起動キーとして機能するのです!」


 昔のPCゲームみたいなシステムである。


「そしてここにはお嬢も…二人揃っている。

 中身が入れ替わっているため照合ベリファイに時間を要したが、結果的に二人分で同一人物とみなし、何よりオリジナルが消滅していることから…」


 シロガネは美夜と月乃の双方に目を合わせ、


「新たなメインの確保に乗り出した…!」


 つまり…アレの狙いはこの二人。


「捕まったら終わりです! なんとか逃げ延びてくだ…」


「無理。体力の無さには…自信アリ。」


 すかさずシュタッと挙手して、妙な自慢をする月乃に合わせ、


「わ、私はまだ体力には自信あるけど…足が…」


 真っ二つに裁断された車椅子を指差し、美夜も顔を青ざめさせる。


 おあつらえ向きに、敵はいよいよ猛攻開始!

 大鎌を備えた両腕が鞭のようにしなり、美夜と月乃におそいかかる。


「クソッタレが、生死は問わないってか!?」


 すかさず近くにいた美夜を抱き抱えて跳んだ陽子が吐き捨てると、


「敵の狙いはあくまでもメインの禍玉だ。最悪、一人分だけでも手に入れば良いと思ってる!」


 こちらもそばにいた月乃の手を引いて難を逃れたシロガネが応える。


「助けてくれたところを悪いけど、できればシロガネさんが良かったかな〜?」


「…私も…姉さんのほうが…」


『贅沢ゆーなァーッ!!』


 せっかくの緊張感をぶち壊す美夜と月乃のワガママに、陽子とシロガネの怒声が見事にハモった。


 なにしろそんな状況ではない。

 陽子には元から攻撃手段がないし、シロガネも月乃を庇いながらでは銃の照準が定らず、反撃もままならない。


 しかもこの怪物、両腕で別々の箇所を同時攻撃しているのに、狙いがとんでもなく正確だ。マルチコアならぬマルチ禍玉は伊達ではない。


 腕の数が人間同様2本なのは幸いだった。もっと多かったら逃げ惑うこちらのほうが混乱を極めていただろう。


「んむっ! はぎゅっ! にゅぎゃあ〜っ!」


 唯一、身軽なクロだけが場内を所狭しと駆け回り、怪物から伸びる無数の管を片っ端から食いちぎる大活躍をみせている。


 どうやらこの管は周辺の禍力を集めて本体へと送っているようだ。しかしなにしろ膨大な本数なので、有効打とは言い難い。

 このままではジリ貧だ。


「クゥッ…どうすれば…っ!?」


 絶体絶命のピンチに顔を曇らせるシロガネの隣で…

 それまでな〜んもしてなかった唯が、突然ポンッと手を打ち、


「じゃあ、『合体』しましょン⭐︎」


 一同、再び瞬間凍結。





「オシベと〜、メシベが〜、ガァーッタイ⭐︎」


 右手の人差し指で美夜、左手の人差し指で月乃を指した唯は、その二本指をなにやら卑猥に絡ませる。


 当然のように真っ赤になってしおれる生娘きむすめ二人。


「やいコラ、この期に及んでナニゆーとるんだこの脳汁ダダ漏れ女はッ!?」


 二人の間に割って入った陽子が、やはり真っ赤な顔で唯に噛み付く。


「ナニ想像してんのよン。二人合わせて一人前なら、何とかなるっしょン♪」


「そりゃそーだろーが、だからって何をどーすんだよ?」


「だからぁ…こーすんのよン♪」


 いきなり唯の両腕が触手のようにビュルンッと伸び、美夜と月乃の頭を鷲掴んで引き寄せた。

 キモッ、こんな技も持ってたのか! なんかも〜こっちの方がよっぽど物の怪っぽい。


 そして二人が抵抗する間もなく、両腕をギュルンッと大きく振りかぶってぇ…


「はーいガッチャンコぉーっ!!」


 ぐちゅブチャッ!!


「ちょおーっ!? 何やらかしてくれちゃってんのお前ッ!?」

「なんか色々弾け飛びましたよ今ッ!?」


 血相変えて詰め寄る陽子とシロガネに、


「ジョブジョブ。ヘイッ一丁上がりぃっ!!」


  陽子は握りたての寿司でも差し出すように、悪魔合体が済んだばかりのソレをペイッと放り投げた。


「アイタッマジ痛ッ! てか今あたしマジ死んだよね、グチャッて潰れたよねぇ!?」


「…えーっと…どちら様?」


 陽子が戸惑うのも無理はない。

 現れたのは、美夜でも月乃でもない第三の少女だった。


 頭髪は金髪と黒髪が交互に生えたストライプのストレート。

 着衣は両者とも学院の制服のままだったこともあり、まったく同じ制服姿。


 胸のサイズは、大きすぎる美夜と常識的な月乃の中間…かと思いきや、どういう理屈か薄型のスレンダー体型。


 そして顔立ちは…これが陽子が困惑した最たる理由だが…何故だか陽子に瓜二つ。

 要するに、まだら頭の陽子が誕生したのだ。


「不思議じゃないでしょン。片っぽは陽子ちゃんの娘で、片っぽは双子だもンね♪」


「いややっぱ不思議すぎるだろ。なんで掛け合わせたらあたしになんの?」


「陽子ちゃんの遺伝子の強さがそれほどってコトじゃないのン?」


 遺伝子の強さて。そう説明されれば納得できそうな気もするが、いざ目の当たりにすると、視覚処理する脳髄がそれを否定したがる。


「『美夜』プラス『月乃』だから、名前は『美月みつき』でオッケー?

 嫌なら『夜乃やの』でもいーけどン♪」


「…是非、前者でお願いします」


 本人たっての希望で名前は『美月』に決まった。おざなりで安直な割には良いセンスだ。


「んじゃ、サクサクやっちまいますか♪」


 性格も陽子っぽい美月はそう言いながら両腕をクロスさせて力むと…肘の先がシャキーンッと伸びて、刃物状の外骨格が飛び出した。


「うおっなんだソレかっけーじゃん!?」


 驚く陽子に美月はしれっと、


「パパも使えるよ⭐︎」


「ぱぱ?…てかマジで!? 知らんかった…」


「神様なんだから、たいていのことは望めば気合いでなんとかなるって♪」


 えらいライト感覚でテキトーに説明されたが、十得ナイフじゃあるまいし…などと思いつつ、陽子も肘に力を込めるイメージで両腕をクロスさせると…ジャキーンッ!


「あ…デキちゃった。」


「しかもパパのほうが黒くて太くてご立派♪」


 なんだか卑猥な物言いだが、事実だから仕方ない。


「なら、せっかくだから…」


 待望の武器を得て舌なめずりした陽子は…ただ一人、化け物のパイプカットに勤しむクロの奮闘ぶりに目をつけた。


「おっしゃ、まずはクロを手伝ってやろーぜ!」


「りょ⭐︎」


 息を合わせて、二人はそれぞれ真逆の方向に駆けた。


 当然のように化け物の両腕が二人を追跡するが、その速度や動きのパターンはすでに見切ったから当たらない。


 時折り、二人で交差して場所を入れ替えたり、急に同じ方向に並走してみせたりして敵の混乱を図る。


「へぇ〜っ!? 親子だか双子だかなだけあって、凄まじいシンクロ率だねン♪」


 唯も思わず感心しつつ、敵の猛攻を難なくかわしている。


 …案の定、いかにマルチ禍玉といえども敵の追尾能力には限界がある。当たり前だが腕の範囲外に攻撃は及ばす、本体の移動能力は壊滅的にニブい。これなら勝ち目はある。


 敵の混乱の隙を突いて、化け物の各部から伸びる無数の管を片っ端から切り落とす。

 面白いようにサクサク斬れて、見る間に管の本数が激減した。


「見事な連携だ。我々も負けてはおれんな…クロ!」


「んにゃっ!」


 やっと手が空いたシロガネもクロのバックアップに回る。


 この手のデカブツ相手の戦略は昔から決まっている。威力は低いが手数が多いシロガネが敵の動きを止め、その隙に接近したクロが会心の一撃をお見舞いするのだ。


 こちらも熟練の連携をみせ、残りすべての管の破壊に成功。


「へへっ、コレって楽勝じゃね?」


「んなアマいラスボス戦がどこの世界にあるよ。こーゆーのにはたいてい…」


 見くびる美月を陽子がたしなめたところで、敵の形態が激変。


 両腕が大きく裂けて4本腕となり、前側2本の大鎌はより鋭く長く進化。後側2本の先端には、見るからにヤバそうな銃器状のエモノが付いている。


 そして…根っこが生えたようにニブかった下半身は、なんと宙に浮き上がった!

 よく見れば、下面にはプロペラ状に高速回転する四肢が付いている。


 今までは外部より管を通して禍力が供給されていたが、供給経路が断たれたため、直接攻撃モードにシフトしたらしい。


「キモカッコイイ! ドローンかっつーの!」


「な? やっぱ第二形態になったろ。案の定、腕の本数も増やしやがったな」


 見るからに移動速度が向上し、さらには宙に浮いているため刃物やクロの肉弾攻撃が届かない。これは厄介だ。


「けど、浮いてるってことはヤツも低位置の相手は狙いにくい。シロガネ、間合いの外から銃パーツを攻撃しろ。

 クロはちょっと危険だが、真下のローターを狙ってくれ。全部壊す必要は無ぇ、半分やっつけりゃ浮けなくなる」


 テキパキと指示を出す陽子。昔とった杵柄で場馴れしていることに加え、たまにプレイするFPSでこの手の戦略計画はお手のものだ。


「貴様にしては的確だな、乗ってやろう」

「んにゃっさー!」


 快諾するなり、シロガネとクロはそれぞれの役割を開始した。


「んじゃ、あたしの今度の武器は…よっと!」


「うおっ、どっかで見たヤツ!? ならあたしも…」


 左腕を大口径のライフルに変えた美月を見て、陽子もさっそく真似しようとするが、


「無理だと思うよん。パパ、銃の構造知らないっしょ?」


 神様とて万能ではない。仕組みを知らなければ作りようがないのだ。


「チッ、しゃーねぇな…コレなら高いトコでも届くだろ」


 代わりに陽子が作り出したのは、中折れ式の長槍。折り畳み式にしたのは移動の妨げにならないための配慮だ。

 自分の腕を変形させたものだから曲げ伸ばしも取り回しも自由自在。使いようによっては真っ直ぐにしか飛ばない銃弾よりも応用範囲が広そうだ。


「うわカッケー! ちきしょーあたしもそっち系にしときゃ良かった。

 んで、あたし達の狙いはやっぱ…?」


「もちろん。まずはあの邪魔くせぇ両腕を落とす! そしてその後、唯が…」


「え゛、唯ちゃんサマにもなんかさせるのン?」


「ったりめーだろ、おめーさっきからな〜んもやってねーし!」


 とはいえ陽子は、なぜ唯が本気を出さないのか、その理由に薄々気づいていた。

 だからその原因を取り除かせる。


「唯には…あの子をなんとかして欲しい」


 陽子が指し示したのは、化け物の中枢…そこに位置する美弥子の姿。

 先ほどから果敢に攻撃を加えている皆も、この子にだけは極力ダメージを与えないよう細心の注意を払っていた。


「ん〜、それって意味あるのン? だって、あの子の禍玉はもう…」


「だから気兼ねなく切り離せるんだろーが」


 美弥子を見上げて渋り顔の唯に、陽子はいささか沈んだ顔色で応える。


 すでに解説したように、美弥子の四肢は化け物と完全に一体化している。だから取り外すには四肢を切断する以外にはない。

 もしも美弥子の意識がまだ残っていたならば、そんな酷なことは絶対出来なかった。


 そして、この化け物を完璧に葬り去るためには…たとえ無意味であろうとも、美弥子をあのままにしてはおけない。


「…相変わらずのお人好しだぁーねン。解った、やるだけやってみまっしょい♪」


 苦笑しつつも承諾した唯を残し、陽子は美月と目配せし合って、


「…いくぜっ!!」


 化け物の両腕めがけて一斉に走り出した。





 シロガネが狙う銃器状のパーツは、やはり銃のような攻撃を仕掛けてきた。ただし発射するのは弾丸ではなく、強酸性の反吐だが。


 これが途轍もない威力で、核シェルター並みの強度を誇る実験棟の壁や床が、被弾した端から雪に湯をかけたように溶けていく。


 だがしかし、たいがいの銃器がそうであるように、狙いを定めるには動きを止める必要がある。

 シロガネはその瞬間をひたすら待ちながら、部屋の壁際を四つ脚で逃げ惑う。本人いわく、完全に人型となった現在でもこちらのほうが速いそうな。


 陽子が言っていたように怪物自身のバカデカい身体があだとなり、下でウロチョロしている他のメンバーはほとんど攻撃されず、飛び道具を持って部屋の隅を駆け回っているシロガネにマトを絞っている。想定通りだ。


 やがて、敵の銃口がこちらに照準を定めて静止した待望の瞬間に狙いを定め…愛用の2丁拳銃で反撃!


 狙うはただ一つ…あらゆる銃器の最大の弱点である、銃口。

 もちろん並みの腕前ではかすりもしないが…シロガネの拳銃は誘導弾を撃てる。


 放たれた2発の弾丸はきりもみ状の軌跡を描いて威力を増しつつ、敵の銃口に吸い込まれるように消えていき…


 ゴバシャアッ!! おびただしい血飛沫と肉片を撒き散らして爆散した。


「よしっ、あと一つ!」


 シロガネが息巻いたところで…ドシュンッ!!

 もう一方の銃器パーツが遅れて粉々に弾け飛んだ。


「ごっめーん! 狙いが逸れてそっちに当たっちゃった!」


 左腕のサイ◯ガンを撃ち終えたばかりの美月が右手で拝んでいるのを見て、シロガネはプッと吹き出し、


「いえ、おかげで助かりました。今度は自分がそちらを手伝います!」


「ホント!? あんがと〜⭐︎」


 姿形は変われども中身は美夜と月乃、やはりシロガネとの息はピッタリだった。




 一方、クロが狙うのは怪物の本体下面、飛行には不可欠なローターパーツ。


 シロガネへの攻撃のおかげで部屋のあちこちに出来たクレーターに隠れながら接近を試みる。メンバー内でも一際小柄なクロなら、この手の隠密行動はお手のものだ。


 しかも、狙う下面のローターと床面との隙間は非常に狭く、クロ以外には入り込めない。

 咄嗟の判断にしては、陽子のキャスティングは驚くほど的確だった。


 さて床面に這いつくばって見上げてみれば…ローターのように見えるのは先端が板状に変形した触手状の脚。この巨大を歩行移動させるにはこの脚では力不足なため、浮かせるしかないのだろう。


 板状の部分は刃物と化した腕パーツ同様に硬そうなので破壊困難と思われる。

 ならば狙いは…中心の回転軸。

 一般的なプロペラはここが弱点だから、破損防止のため保護カバーが付いている。しかしこの脚にはそんな洒落たものはなく、軸が剥き出しだ。


 そこで…久々登場、クロ愛用の金属バット。 こいつを回転軸の根本近くに…叩き込む!


 バキャアッ!! 金属バットがひしゃげて軸の根本に絡みつく。

 バットは金属板を丸めて作られており、折れて広がった板は鋭利な刃物と化し…


 ブシャァッ!! 金属板が刺さった脚は、自らの重量と遠心力でたやすく切断されてちぎれ飛んだ。


「ぅにゃっ♪」


 まずは一基。4基あるローターのうち2つ破壊すれば、バランスを崩して墜落した本体は行動不能となる。つまり、あと1つ。


 だが、金属バットは今の攻撃で使ってしまった。もう一基はどうするのか?


 するとクロは素早く本体下から這い出し、ちぎれ飛んだばかりの怪物の脚を拾い上げると、再び本体下へと転がり込んだ。


 板状の部分を指でコンコン小突いてみれば、充分硬くて頑丈な感触。


「…にゃひっ♪」


 ニヤリと悪どい笑みを浮かべるなり、クロは先ほどと同様にその板を別のローターの根本にぶち込んだ!


 ドゴシャバキャアーッ!!

 金属バットよりも硬質だったらしく、怪物のローターは自らの脚パーツで粉々に弾け飛んだ。

 飛行不能となった怪物は大きくバランスを崩し、その場に横倒しに倒れ込んだ。


 その隙間からクロが無事に抜け出すのを見て、一同拍手喝采。


「でかしたぞクロ! さぁ〜って、いよいよあたしの出番だな!」


 陽子は腕まくりをして意気揚々と駆け出す。




 横倒しになっても怪物は最後の悪あがきとばかりに両腕をブンブン振り乱し、容易には近づけない。


 当然、本体の下敷きになっている腕よりはもう一方の腕のほうが動きが活発なので、まずはそちらを始末する。


 ガキィーン!! 腕先めがけて放った美月の弾丸は、大鎌に弾かれ場外ホームランと化した。


「チッ、やっぱ刃先はってぇな!」


「この類の相手は関節を狙うのがセオリーです!」


 シロガネが関節部めがけて数発撃ち込む。が、こちらも予想以上に硬くて弾が通らない。


「つーことはやっぱ…ガチの真剣勝負か!」


 ギィーーーンッ!! 美月たちの脇をすり抜けて怪物に斬りかかった陽子の槍を、大鎌が受け止める。


 動きを止めた陽子の足元に、下敷きになっているほうの腕が斬りかかる。

 それを縄跳びの要領で跳躍すると同時に、大鎌を支点にして槍のしなりを活かし、高跳びのように2段ジャンプ!


「うっひょ〜ヤルじゃんパパ!?」


 美月の歓声を耳にしながら、そのまま怪物の真上まで跳んで、真下へと着地。

 そこには…これだけの騒動の中でも眠ったままの美弥子がいた。


 …予想通り、怪物の大鎌は周囲をさまよいこそすれど斬りかかってはこない。美弥子を傷つけるのをためらっているようだ。


「悪く思うな…よっ!!」


 覚悟を決めて、陽子は美弥子の片腕めがけて槍先を振り下ろした。


 ズブシュウッ!


 肉と骨が断ち切られる嫌な感触とともに、美弥子の腕に繋がっていた怪物の大鎌が壁際にすっ飛んでいく。


「まずは一本…!」


 残る片腕は本体の下敷きなので動きが鈍い。それでも断ち切られてはなるまいと果敢に斬りかかってきたが、覚悟完了した陽子の敵ではなかった。


 両腕を斬り落とされた怪物には、もはや抗うすべはなかった。

 本体と一体化した美弥子の両脚を切断すると、首を落とされたゾンビのようにブルブル震え…やがて動きを止めた。




「…お帰りン」


 美弥子の亡骸…と言っても差し支えないほどに変わり果てた身体を抱き抱えて戻ってきた陽子を、唯が言葉少なにねぎらった。


「…嫌な仕事だったぜ」


 ごく短時間の活躍にもかかわらず疲れ果てた顔色を浮かべた陽子は、四肢が切断されて血まみれの美弥子を床に横たえると、その場にゴロリと寝転んだ。


「お嬢様…」


 シロガネが膝をついて美弥子の顔を撫でる。すでに意識が戻らないことを知っているからか涙はなかったが…やはり辛そうだった。


「…解ってると思うけど…禍玉がなけりゃ生き返るワケないかんねン?」


「…それでも…お願い」


 何も言えない陽子やシロガネの代わりに、美月が唯に蘇生を依頼する。中身の美夜や月乃にとっても、自身のオリジナルを見殺しにはできないのだろう。


「…オッケーン♪」


 唯は渋々、美弥子の額に手をかざす。

 神である唯にかかれば生物の蘇生はお手のものだが、魂がすでに存在しなければ土台不可能…


「…ン〜?」


 かと思いきや、にわかに違和感を広げる唯の表情。


「待って…なんか残ってる…!」


 静かなどよめきが巻き起こる中、唯の処置は終了した。


 ややあって…美弥子の瞼がゆっくりと押し開かれた。


 禍玉がとうに喪失し、決して甦ることはないはずの…その身体が。


 その唇がかすかにわななき…やっと聞き取れるほどのか細い声が洩れた。


「…やっと…出られ…た」


「お…お嬢様!?」


 まさかの期待に打ち震えるシロガネの肩越しに、皆が美弥子に注目する。


 しかし、その後の展開はまさしく誰もが予想外のものだった。


「久しい…な…シロガ…ネ」


 それは明らかに、シロガネが知る美弥子のものではなかった。

 というよりも、この雰囲気は紛れもなく…


「…こ…恒志郎こうしろう様…!?」



【第十三話 END】

 本来はこれで最終話のはずでした。

 が…終わんなかったねテヘッ⭐︎


 今回が十三話目で、なんとなーく縁起悪いなーとか思いつつ書き進めてたら、予想以上に長くなって収まりきらなくなったので、じゃあ次回へ持ち越しってことで。


 てなわけで次回で終了予定です。


 ネタバレになりますが途中で出てきた新キャラ、当初は全然別の展開を予定していたので、登場予定はまったくありませんでした。


 勢いで出しちゃったけど、今後のことはな〜んも考えてなかったし…う〜ん、どーしましょ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ