掟
……『里で生まれた者は里の中で暮らさなければならない』掟、か。
アルジェントがファルマシアへ移住するのは思いきり抵触してしまうな。
「そんな掟が……」
「うむ。『どうせエルフたちなんて里に引きこもってばっかだし、別に困らないよな』みたいなノリで作られたものじゃけどな」
「「「…………」」」
こういう奴らなんだ。
「というかアル。お前はそもそも掟を尊守するような奴だったか?」
当然といえば当然の話だが、掟に対するエルフの態度には個人差がある。
全体を見ればノリノリで加担する者が多数派であるが、ほどほど程度の者も少なくはない。そして、割と冷めた態度のエルフも無視できない程度にはいる。
俺が尋ねてみるも、アルは軽く手を振った。
「そりゃあ確かにワシは掟にさして興味はないがの。かといって、里で暮らす以上はまったくの無視という訳にはいかんよ。ワシにも付き合いというもんがあるのじゃよ」
まあ、それもそうか。彼女としても里の秩序(と言っていいのかどうかは知らんが)を乱して仲間に迷惑はかけたくはないだろう。それに、ファルマシアへ永住するという訳ではない。掟を無視して住民たちの顰蹙を買った結果、里へ戻れなくなっても困るはずだ。
「まいりましたね……」
「まいったな……」
リサとシャノンが同時につぶやいた。
「このままでは、うちにセクハラ魔のアルさんを迎え入れる事ができません――」
「このままじゃ、この変態エルフを工房に連れてくる事ができねえ――」
しばしの沈黙。
「「……別にそれでもいいですね(いいな)」」
「待て。……気持ちはよく分かるが待て」
この色情魔を工房に招き入れる危険性に気づいたらしい。ふたりの意見が排除の方向で一致した。
理解はできるが。
「こいつは工房にとって重要な人材なんだ。頼むから我慢してくれ」
「だって、アルさんと一緒に生活するって事は私の美巨乳がつねに危険にさらされるって事じゃないですかー……」
「俺が厳しく目を光らせておく」
「けどなー……」
「確かにこいつは疑いようもない変態だが、いちおう悪い奴ではない。ただ色欲に忠実な変態であるだけだ。ひょっとしたら犯罪行為へ走りそうになる時があるかも知れんが、仮にそうなっても俺が体を張ってでも食い止めるから心配するな」
「……おい。いくらなんでもワシへの信用がなさすぎやせんか……?」
そういうセリフは己の行いを省みてから言え。
「とにかく。お前たちに手出しさせないようア ルにはきっちり誓紙を書かせる。だから頼む」
「………………まあ、そこまで言うのなら……」
リサに続き、シャノンも渋々といった風に肯首した。
「話はすんだかの? ……ともかく、そうした掟があるからなんとかしてもらわねば移住できんのじゃよ」
「そうか……」
まいったな。
最悪、付与魔石粉が必要になるたび俺が里へ行けばいいのだが……さすがに手間が大きい。それではポーション作りの効率が――
……ん?
"なんとかしてもらわねば"?
「……なあアル。いまの言い草だと、まるで俺たちに掟をなんとかできるみたいな感じだな」
「うむ」
アルはうなずいた。
「このような掟もあってな。『里の長に功績を認められた者は、可能な範囲で望みをひとつ叶えてもらえる』……と。これは他の掟より優先されると長も言うておった」
「なるほど。つまり、当たるべきは里の長か」
「そういう事じゃ」
「いまからでも会えるか?」
「おそらく大丈夫じゃろう」
「なら、さっそく向かおう」
俺は言った。
アルの案内もあり、また俺が以前この里を訪れた際に里長とも会っている。当然屋敷への道も迷いようがない。寄り道せずまっすぐに向かう。
……まったくの余談だが、その道中――
「おい、人間だ……」
「人間がいるぞ……」
「人間がどうして里に……」
エルフたちから遠巻きに指をさされたあと、
「いらっしゃーい! エルフ里へようこそ!」
「あれ? お兄さんどっかで見た事あるような……ひょっとしてリピーターのお客さんかな?」
「いつもありがとう! 今後もエルフ里へ気軽においでね!」
一転してにこやかに挨拶された。
「……おい。これはなんだ」
「ああ。掟で『人間を見かけたら挨拶の前に「人間が里にいるぞ」的な雰囲気をかもし出さねばならない』と定められておるからの」
「……そうか」
「まあ、ひと皮剥けばあの通り人懐っこいというか無警戒な連中じゃがの」
「……そうだったな」
つくづく思う。
なんだこの里。
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