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転移魔術

 戦闘終了後。二足歩行犬コボルトの魔石や死体を収納魔術(ストレージ)に収め終えたのち。


「……大丈夫か?」


「だ……だずがっだぁぁぁ〜〜……」


 地べたにへたり込んでいたリサへ声をかけた。


「……まったく。ケガはないな?」


「はいぃ〜〜……」


 俺の手を借りてリサはよろよろと立ち上がる。


 攻撃そのものは喰らっていないはずだが……気分よくイキれると思っていたら当てが外れ、危うくかじられそうになったのだ。それなりに精神ダメージを負っている様子だった。


「……取りあえず、だ。お前の戦いぶりを見たうえでの評価だが――」


「……ああ、はい……。花マルでしたかね……」


 この期に及んでその自己評価の高さである。うっかり関心しそうになるな。


「いいや、不合格だ」


「ええ〜……」


 俺が率直に言うと、リサは不満げにくちびるをとがらせた。


「エミルさん、私は褒められて伸びるタイプなんですよ? なにはなくともまずはヨイショから入るべきだと思います」


「……だったらまずは褒めておこう。実際のところ、筋は悪くない」


 別にリサのたわごとに乗せられた訳ではない。本心から思った事だ。


「守護魔術はもちろん、剣術のほうも基礎は身についている。斬撃にも鋭さがあったし、実際にコボルトを仕留めている訳だからな。素質は十分にある」


「でしょー!」


「が、だ」


 遮るように言う。


「その剣筋のよさを完全に潰しているのが、あの距離感のなさだ。ぜんぜん剣が届いていなかったじゃないか。まるで踏み込みが足りていない」


 そして、その原因も容易に想像がつく。


「……おおかた堅牢な守護魔術に頼り切っていたのが理由だろうな。身の安全を図りながら戦う事に慣れすぎているんだ」


 要するに、攻撃への意識が薄くなってしまっているのだ。


 確かに盾役は敵の攻撃を引き受けるのが主な仕事ではある。が、まったく攻撃に参加しなくていいと言う訳でもない。状況次第では防御のみに専念する事もあり得るが、それは少数の例外ケースである。


「……だってー、しかたないじゃないですかー。私はガチガチに守ってこそ輝く女なのですからー」


「その守りも、調子に乗ったおかげで破られていたけどな」


「むぐ」


 俺が指摘すると、リサは口をつぐんだ。


 今回使った防盾魔術シールドは、銀月熊の時に使っていた防壁魔術プロテクション(後から聞いた)より魔力消費は軽いが強度は弱い。コボルトは銀月熊より弱いとはいえ、考えなしに集中攻撃を受け続ければ破られて当然である。


「でもですねー、だけどですねー……」


「何度も言うが素質はあるんだ。鍛錬をして弱点を克服すれば、お前はさらに頼れる戦力として成長できるだろう」


「あ、やっぱそうですよねー! いやあさすが私! 勇者に認められるほどの才能を秘めていたとは!」


「……その調子に乗りやすい性格も原因のひとつだぞ……」


 少しは懲りろ。


「……まあそれは今後の課題として、今日のところは戻ろうか。甘露草はこれだけ集めればひとまず十分だ」


 ついでに、他のポーションの材料も――例えばマナポーションに使われる『ミドリタケ』というキノコなどなど――採取しておいた。


 もちろん、もうひとつの材料である"ファール"も十分に調達できた。成果としては上々である。


「そうですね。いまから戻るとなると……家にたどり着くのはだいたい夕過ぎくらいですかね」


 リサは木々の隙間からのぞく空を見上げながら言った。


「いや。ここ(・・)ならちょうどいい。……リサ、ちょっとこっち来てくれ」


「はい?」


 リサは疑問顔を浮かべつつ俺の正面へ寄ってきた。


「失礼するぞ」


「ひゃ?」


 俺はリサの手をしっかりと握った。


「……や、やだなー、エミルさん。いくら私がかわいすぎて惚れちゃったからっ

て、なにもこんな場所で告ろうとしなくてもー」


「……なにを勘違いしてるのか知らんが……まあいい。忘れものはないな?」


「? はい」


「……しかし、俺もつくづく運がいいな。なにしろ、自宅として購入した土地に

魔導脈(マナライン)が流れていたのだからな」


「え? ……エミルさん、まさか――」


「そのまさかだ。――転移魔術(ファストトラベル)


 瞬間、俺たちの体が魔術の光に包まれた。


 独特の浮遊感。そのまま数十秒ほど、どこかへと流されていくような感覚。


 浮遊感が収まる。光が晴れる。


 視界の前に現れたのは元・『紅蓮のインフェルノ』――俺たちの店舗兼自宅であった。


「…………」


「うむ、ただいま。リサは先に休憩していてもいいぞ。俺はそのあいだにギルドへ魔物の素材を換金しに行ってくる。それが終わり次第、ヒールポーション作りに取り掛か――」


「…………待った待った待ったっ!? ちょい待ってくださいっ!?」


 さっそくギルドへ向かおうとする俺を、リサが慌てながら引き留めてきた。


「どうした?」


「な……なんで私たちのおうちがファストトラベルの転移地点になっちゃってんですか!? 普通、転移魔術はマナラインが地表付近に出ている場所でしか使えませんよね!?」


「うむ、その通りだ」


 俺はうなずく。


 魔術にせよ道具にせよ、転移はそうした場所でしか使えない。どんな場所でも使える訳ではないし、どこへでも自由に移動できるものでもない。要は『点から点へ移動する』ものなのだ。


「だが、俺はもう少し深い位置を流れているマナラインも探り当て、利用する事ができる。普通なら転移地点として適さない場所であっても、俺ならば転移をおこなう事が可能だ」


「……マジっすか……」


 リサは微妙に口調を崩しながら言った。


「ああ。ついでを言えば、いまの転移でさっきの場所も転移地点として"記憶"できた。今後は樹海のあの場所へ直接移動できるようになったぞ。採取も楽になるだろう」


「……すごい……勇者しゅごい……」


「まあ、これも女神リーブラの加護と鍛錬のたまものだ。……それより、換金へ行ってくるから留守番は頼むぞ」


 そう言い残し、俺は冒険者ギルドへと向かった。

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