005
ヒューマン・グロリアスとかいうふざけた部隊名の兵に囲まれた馬車に乗りながら俺は観察する。と言っても周囲を見ていれば兵に何か言われる可能性があるから絶望したふりをして下を向きながら気づかれないようにして見ている。
鬼人族の村は獣道しか道はないようでガタガタとする道を進んでいく。周りも木々が生い茂っており鬼人族の村が人里離れた場所に存在することを証明している。それでも見つけて滅ぼしにかかったという事はそれだけバーレンベルグ連邦帝国は本気と言う事なのだろうな。
暫く進んでいくと漸く整備された道が出てくる。先程までの大きな揺れはなくなり細かな振動を感じるのみだった。まだ森を抜ける気配はない為今度は兵の装備を見る。村や出発する前はそこまで気が回らなかったからな。
兵は大半が鎧を付けているが中にはコートを羽織った軽装の者もいる。恐らく指揮官クラスの人間だろう。まるでナチスドイツの親衛隊のようなワッペンを付けている。そう言えばこいつらも親衛隊だったな。
兵の鎧は少し重そうに感じるが兵たちからは重そうな感じはしない。それだけ鍛えているという事か、異世界によくある魔法を使った道具の可能性もある。武器はほとんどが槍で剣を装備している者は少数だ。槍はよく見る細長い感じではなくよく騎兵が持っているような大きな槍だ。材質まではわからないが一級品である事が見てわかる。
これが一般的な装備なのかはわからないが装備だけを見るなら中世までと言えるな。銃らしきものがない所を見るとまだ作られていないのか?それとも速度を優先したのか?若しくは別働隊がいてここからではみえないだけかもしれないな。
「陛下。旧ベル公国領の亜人掃討が完了したとの事です」
「……ごくろう」
バーレンベルグ連邦帝国の帝都ハーケンブルグの帝城において帝国宰相ルドルフ・フォウル・バーレルンが国家統一皇帝フリードリフ2世に報告を行っていた。内容は、新たに支配した領土にいた亜人掃討に関する事である。バーレンベルグ連邦帝国は建国当時より人間至上主義を掲げ亜人を見下し蔑んできた。当初は市民権のはく奪や奴隷化に留まっていたが本格的に亜人国家と戦争が始まるとその思想は過激になっていく。国内に住む亜人達は亜人狩りと呼ばれる虐殺が行われ総人口の2割を構成していた国内の亜人は僅か一年で半数以下にまで激減した。そして建国から66年が経過した時当時スヴィニア共和国と呼ばれていた地域に亜人専用の迫害地域が作られた。
国内の生き残っていた亜人は全てこのスヴィニア国家弁務官区と呼ばれるようになったこの地域に集められ強制労働に従事する事となった。バーレンベルグ連邦帝国を支える魔石の採掘や農場で働く彼らは満足に食事も出来ずに餓死していく者が多く現れるようになった。
スヴィニア国家弁務官区誕生時には十数万はいた亜人も僅か9年で十万を切るまでに減っていた。それでも、亜人達はいつの日か訪れるであろう希望を持ち続けて必死に耐えていた。
「生き残った亜人は全てスヴィニア国家弁務官区に移送します。その際に帝都を通過する事になりますがよろしいですね?」
「……よきにはからえ」
謁見の間で行われる二人の会話だが宰相は皇帝の顔を見る事は出来てない。皇帝の姿は数段高くなっている場所ごと布で覆われている。厚手の布で宰相からは影ですら確認する事は出来ない上に聞こえてくるか細く、幼い声からは宰相に任せる短い言葉のみが発せられた。まるで、皇帝に関することを知られないようにしているかのように。
とは言え宰相は皇帝の姿を見たことがあるし理由も知っている。しかし、こうしているのは万が一の可能性も考えての行動だった。
宰相は皇帝の言葉を聞くと深く頭を下げ謁見の間を出る。その口元に笑みを浮かべながら。