004(地図あり)
「大隊長!村及び周囲の制圧を完了しました。大隊は28名が死亡、21人が重傷、117人が軽傷です」
「うむ。ご苦労。野蛮な亜人は?」
「はっ!鬼人族約300体のうち半数が死亡、捕虜が約100、約50が行方不明乃至逃亡しました。逃亡した者は全て東に向かいました。そこには指揮下に入れた周辺の都市防衛隊がおりますのですぐに殺されるか捕虜となるでしょう」
「よし!それならば問題ないな。直ぐに捕虜をスヴィニア国家弁務官区へ移送せよ。途中逃亡や反抗の意志を見せた者は容赦なく殺せ」
「はっ!」
鬼人族の村の外に設置された大隊司令部で部下から報告を受けたヒドラ・ブナベスは口角を上げる。彼が率いる帝国軍武装親衛隊亜人殲滅特化大隊「ヒューマン・グロリアス(人類の栄誉)」はこれで三つ目の亜人と呼ばれる存在の村を殲滅したことになる。彼の所属するバーレンベルグ連邦帝国の上層部にこれを報告すればヒドラ達への褒章は間違いなかった。
それを考えたヒドラは自然と口角が上がっていたが直ぐに表情を戻し冷酷な指揮官としての顔になる。司令部の外では殲滅が完了し大隊長からの指示を整列して待っているのだ。獣の首に巻きつく蛇の絵柄が描かれたワッペンを左腕側のコートに通したヒドラは大隊の前に立つと呼吸を整え叫ぶ。
「大隊諸君!我らの任務はこれにて完了した!帝都ハーケンブルグに帰還する!そののちは亜人管理局に捕虜を引き渡す!……とは言えそれは我ら指揮官の仕事だ。諸君らは帝都に帰還後は次の命令を万全にこなせるように傷を治し、英気を養ってくれ!人類に栄光を!」
「「「「「亜人に死を!」」」」」
「……僕たちは大分敵視されているんだね」
比較的近くから聞こえてきた指揮官と思われる男の言葉に俺はそう言った。俺が鉄格子に入れられてからすでに一時間は経過しただろう。その間に捕虜は五人ほど連れて来られたがそれ以上は来なかった。つまり鉄格子の中にいる者が村の生存者と言う事だ。もしかしたら逃げ延びた者もいるかもしれないがそれはもっと少ないだろう。下手したら誰もいないか片手で済む程度だろうな。
「仕方ないよ。ベル公国と違ってバーレンベルグ連邦帝国は私達みたいな種族を敵視しているから」
「ベル公国?バーレンベルグ?」
「え、一般常識も忘れちゃったの!?」
「た、多分そうかも。教えてくれる?」
「勿論よ!」
俺の無知にミラは驚いているがこればかりは仕方ない。どうやったって思いだせるレベルのものではないからな。
そんな訳でミラに軽く教えてもらったが、どうやら俺はかなり不味い状況にいるようだ。
まず、バーレンベルグ連邦帝国は人間至上主義を抱える人間単一国家らしい。元々は十の小国の集合体だったが僅か五年で周辺の二か国を併合し、当時存在したエルフの国を滅ぼしたらしい。その後もいくつもの国家を併合、滅亡させて領土を拡大させたらしい。今では最強国家となっており周辺国で一国二国で立ち向かえる国は存在しないようだ。
そして、ここらへんは元々ベル公国の領土だったようで平和に暮らしていたが去年ベル公国が敗北して領土の半分を奪われたらしい。その為この村はバーレンベルグ連邦帝国とベル公国の国境付近になってしまい人間至上主義であるバーレンベルグ連邦帝国にこうして攻撃されたという事らしい。
「僕たちは殺されるのかな?」
「分からない。でも、生き残った亜人は全て一か所に集められているってお父さんが言ってた……」
一か所に集めているのか……。アウシュビッツみたいな感じだったら確実に殺されるな。強制労働という形かもしれないがどちらにしろこれから待ち受けるのは苦難の道という事は確実か。
せめて一年前に転生したかった。そうしたらこんな風に初手から詰んでいる事なんてなかったのにな。