003
「第32分隊隊長ルフルフ兵長です!鬼人族の子供を捕まえました!」
皆さんこんにちは。転生したら村は燃え、なんか殺気立った兵に捕まり時々首に付けられた縄を手綱を通して絞められつつ司令部と思われる場所に連れられて来た神崎龍馬です。ここに来るまでの間に鬼人族と思われる人の死体を見つけた。額に角があり俺も同じ位置に何か違和感を感じるからこいつらの言うとおり俺は鬼人族なのだろう。
鬼人族の村に転生させると聞いていたけどまさか人間以外になるとは思わなかったな……。取り敢えず俺は大人しくしている事しか出来ないから大人しくしておく。ここで暴れても殺されるだけだろうしな。
「うむ。ご苦労。馬車に運べ」
「はっ!ほら、ついてこい!」
「うっ!」
兵長と名乗った男が手綱を思いっきり引く。途端に俺の首は前のめりになると同時に首が絞まる。息苦しさを感じつつ、言うとおりに歩き始める。司令部の後ろには馬車がいくつか止まっているが荷台は頑丈そうな鉄格子となっている。鉄格子の中には複数の鬼人族が入れられているが全員下を向いているか気絶でもしているのかピクリとも動かない奴らばかりだ。
加えて、明らかに15にも満たない子供や女性、老人ばかりだ。成人男性は一人として入っていない。これはつまり戦える人は戦い死んだか抵抗中という事だろうな。村の全体はわからないがそれなりの規模だろう。それなのに見る限り30人もいないな。
「よし、お前はここに入れ」
「はい……」
10台以上ある馬車の中で三人しか入っていない場所の鉄格子に入れられる。中にいるのは同年代の女子ばかりだ。鉄格子が開いたことで三人は俺の方に視線を向けてくるがその内の一人が目を見開いている。どうやら俺の体の知り合いのようだ。
「ゼクス!?無事だったの!?」
「……えっと、誰ですか?」
「え?」
少女には悪いけど記憶喪失のふりをさせてもらおう。実際、村の事なんて覚えてないから記憶喪失としか言いようがないからな。そんな俺の答えに少女は何処か悲し気に、絶望したように涙を流し始める。手は後ろで縛られているから涙をぬぐう事も出来ずにその場で泣いている。
「ゼクス、そんな……。どうして……」
「えっと……、貴方は?」
「私よ!ミラよ!貴方の婚約者の!」
「婚約者?」
驚いた。俺は既に許嫁がいたようだな。そう思った俺は改めて少女を見る。鬼人族特有と思われる角が額から生えているがそれを抜きにしても将来有望と言える容姿をしている。今は美少女という言葉がぴったりだ。歳はおそらく同じか前後だろう。そして体は……、よくわからないが少し諦めた方が良いスレンダーな体型だ。だが、身長さえあれば同性に持てるレベルの美女になれるだろうな。
「ミラ、さん?」
「……本当に覚えてないの?実は記憶をなくしたふりをしているんじゃないの?」
「……自分が誰なのかさえ覚えていないんです」
ゼクスと言う俺の体の持ち主の事を知っている相手に普段の口調は不味いと思い若干敬語のようなもので話したがそれが記憶喪失という事を後押ししたようだな。少女はすっかり記憶喪失だと思ってくれている。その隙を見て残り二人を見る。どうやら俺の事もミラという少女の事も知らないようで俺達を感情のこもらない目で見ている。そこで初めて気づいたがこの鉄格子は少し臭い。鬼人族の村が襲撃を受けてどれだけ経ったのかはわからないが日の周りぐらいからして数時間は余裕で経過しているだろうな。そして、ここにいるのはミラを含め容姿に優れた女子ばかりだ。途中で通った鉄格子で兵士と思われる男が中に入っていたがここも同じ扱いを受けたのだろうな。よくよく見ればミラもそう言う形跡がある。
突然襲撃され凌辱された上に婚約者の俺は記憶喪失。軽く絶望しても仕方ない状況だな。それでも、俺が生きていたという事実は大きいようで最初に見た時よりも瞳から生気を感じる。
そして同時に襲撃も終わりが近いという事が分かる。そんな凌辱用の鉄格子に男の俺を入れたんだ。容姿がどうなっているのかはわからないがさすがに掘られるという事は無いだろう。つまり、俺達が移送される時間が近いという事でどこに行くのかはわからないが確実に逃げたいと思える場所というのは分かるな。
はてさて、これからどうすればいいのやら……。