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儚国の復讐者《デリーター》  作者: クマだクマお
儚国の勇者
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Ⅴ.騎士としての誇り②

 10人近くの帝国の兵士は剣や槍を構え、一斉にリオとジンクの2人に攻撃を仕掛ける。


 2人はそれぞれ『液体化』と『鋼鉄化』のギフトで全身を変化させ攻撃を受ける。


 リオは攻撃を受け流した後右手の『削除』のギフトで敵兵の呼吸方法を削除し無力化する柔の戦い方。ジンクは鋼の体で攻撃を受け止め、そのまま槍を使って反撃する剛の戦い方。2人とも傷ひとつ付いていない。


 戦い方は違う2人だが、息はピッタリと合っており、あっという間に敵兵を倒してしまった。


「ううむ…厄介ですねぇぇ」

 レヴィアは2人の予想外の強さに驚き、左手を上げて兵士に攻撃を止めさせる合図をする。

 その後右手で指鉄砲のポーズを取り、ジンクの方に右手人差し指を向けた。


「バン」

 その言葉と共にジンクの方向に小さな水の玉が跳ぶ。それは彼の右足に当たった。玉が当たった部分は一瞬で溶け始めた。


「クソッ」一瞬でジンクの足がただれてしまう。それにより激痛が襲い、倒れ込みかけた。

 しかし痛みに耐えながら、槍を軸にして崩れた態勢を立て直し再び武器を構えた。


「おっおっおっ。『腐蝕』の力ならば難なく倒せそうですねえ…」


 そうしてレヴィアは軽く笑いながら呟いたと思うと、急に険しい顔になって

「帝国兵よ。貴様らは本を持つガキを殺せ。その本を奪えば楽に殺せるはずだ」



 レヴィアはそう呟くと馬から飛び降りて、両手で指鉄砲のポーズをして両指をジンクの方向に向けた。

 ジンクは先程の攻撃が当たらないように、木に隠れながらレヴィアに対して反撃をする機会をうかがっていた。


 しかし木はレヴィアの攻撃を5発程度受ければ腐蝕によって倒れてしまう。隠れる場所がなくなる前に決着をつけなければと、ジンクは策を巡らせていた。



 一方でリオは槍を持つ帝国兵8人に囲まれていた。リーチのある槍でリオに触れる事無く、白の書を彼の手から離そうとしているようだった。槍でちょこまかと攻撃する様子は、リオにとっては滑稽だった。


「ははははは」

 笑いながら白の書を持った左手を肩より上に上げて注目を集める。帝国兵の視線がその本に行くのを確認した。


 次の瞬間、左手の白の書を空中へ放り投げる。高い場所に投げ捨てられた白の書に敵兵の顔と視線が向く。その瞬間鞘に納めていた剣を左手で抜き、素早い動きで兵士の首に斬りかかった。



「抜刀」

 一瞬で周りの兵士は全員倒れた。鮮やかな居合術による一閃だった。素人では何が起きたか確認すら出来ないだろう。

 上に投げられた本に注目する際に、全ての兵士は上を向き無防備に首を差し出したのだ。その差し出された首をリオは斬っただけだった。


 驚くべきは敵兵が倒れる際には、既にリオは剣を納刀している事だ。


 リオは剣術にかけては超が付くほど一流である。自分のギフトが弱いことを自覚していた為、兄トーラスに少しでも追いつく為に、剣術を極めようとしていたからだ。

 そのため兄の自称ライバルのルクスにも剣術を教わった。リオの剣術の実力は学校ではトップ、ポラリスの国内でも上位に入るレベルに到達していた。


 だからこそ魔術師タイプだと勝手に勘違いしている敵兵に対して、うまく奇襲をかける事が出来た。

 宙に浮いている本を華麗にキャッチして、余裕そうな表情を後方の敵兵に見せつける。



 8人の兵士が一瞬にして殺されたのを確認し、後ろで待機していた兵士はその強さに恐れをなして逃げようとしていた。


-敵兵は残り10人程か…これなら余裕だな。

 リオがそう思い、レヴィアに背を向けて一瞬油断をしていた。


「バン」

 レヴィアの呟きと同時に、リオは利き腕の左腕と右足を撃たれてしまう。それで態勢を崩し、同時に白の書を落としてしまう。撃たれた足の膝を地面に着け、地面に(ひざまず)いてしまう。


「帝国兵よ。貴様らごと始末しても良いのだぞ!!たかが1人殺せないなら、死ね!!」

 レヴィアの非情な一言がその場に響く。戦いの流れが変わるのを恐れたレヴィアは仕切り直した。


 その言葉に恐れを抱いた兵士は、足を震わせながらリオに剣で斬りかかって来た。

 利き腕は痛みで少し抜刀が遅れる。


-油断した…殺される…

 リオがそう思った時にジンクがカバーする。鋼鉄化した槍で向かってくる敵兵達をを突き刺した。その後、恐れにより武器の構えを緩ませた兵士から倒していく。


 それにより生まれた隙を用いて、リオは抜刀し敵兵に斬りかかる。これによりリオとジンクはあっという間に残りの兵士を壊滅させた。


「やれると思った瞬間、油断しすぎなんだよなぁ…敵兵も、お前も。」

 リオに向かってアドバイスをする。

「すまない。助かった…」

 リオは白の書を左手で拾いながら感謝の言葉を告げる。

「いや、これで後はあのキショイ魔将だけだ。」

 リオは槍に付いた血を払い飛ばしながら言った。



「ぎぃぃぃぃ。貴様ら貴様ら貴様らぁ!!」

 レヴィアが思っている以上に取り乱している。帝国兵30人弱を僅か2人で壊滅させられた事に(いきどお)りを感じているようだった。


 レヴィアは両手を地面に着け呟いた。

「魔将が1日に2人もやられる失態を犯す事は出来ない。」


 リオとジンクはレヴィアが何か攻撃してくると構えたが、一向に攻撃が来ない。むしろわざと隙を作っているような動作だった。

 そう油断したのも束の間だった。山頂から「ゴゴゴゴゴ」と言うような、何かが崩れる音がしているのだ。


「もしや…」そう思いリオは山の上を確認する。すると山頂から地面が崩れ、土砂がこちらに向かって来ているのだ。


 リオとジンクの意識が土砂崩れに向かいそうになっているのを確認して、レヴィアは再び両手をリオ達の方に向けて、腐蝕の玉の攻撃を連続で飛ばしてくる。


-これは短時間で決着を着けなければ死ぬ。


 前方には7魔将、後方からは土砂崩れ…一刻も早く土砂崩れから逃げなければならないが、レヴィアは逃がしてはくれないだろう。絶対絶命の状況だった。


-一か八かに賭けようか。

 リオはジンクに近付いて

「あいつと戦って、10秒程時間を稼げるか?」と聞く。

「たったの10秒で良いのか?余裕だよ‼」ジンクは自信ありげに答えたが、実の所は不安だった。


 レヴィアはまだ奥の手を持っているかもしれないからだった。だがリオが何か対抗策を見つけたならそれに賭けるしかないと思った。

 現状ではジンクの能力はレヴィアに対して不利だったからである。


 リオは右脇に白の書を挟み、左手で剣を抜く。その剣先に右手を当て「削除」と呟いた。


「じゃあ頼んだぞ‼相棒!!」

 そう言ってジンクがレヴィアの左手側に走りだすと共に、左手でレヴィアのいる方角に投げつける。


「バン」レヴィアの腐蝕の玉はリオの左肩に命中する。その瞬間に肩に激痛が走る。


-めっちゃ痛い…だけど…

 リオは渾身の力で投げ飛ばした。左腕はしばらく使い物にならないくらいダメージを受けた。だが投げられた剣はレヴィアに命中することはなかった。それどころか彼の頭の少し上側に弧を描いて飛び、彼の後ろ側に剣は落ちてしまった。


 ジンクは投げた剣が外れたと思い、一瞬立ち止まろうとする。が、

「狙い通りだ!!破裂しろ!!」

 リオは渾身の力で叫ぶ。その言葉と同時に反射的にジンクは鋼鉄化で防御態勢に移りながら、レヴィアの方に走る。



 レヴィアは反射的に後ろの方を向き、一瞬で腐蝕魔法で2メートル程の防御壁を張った。だが剣どころか何も破裂しない。


 この一連の動作はリオのブラフだった。敵に一瞬のスキを作る為、またあわよくば大きな技を使わせる為に、無駄な動作を用いて敵を騙した。

 敵だけではなく味方も騙す事になったが、ジンクの実力を評価している為の行動だった。


 このブラフは敵が強ければ強い程、戦いに集中していればしているほど効果が絶大なテクニックだった。



 現にこれで生まれた一瞬の隙により、ジンクはレヴィアとの間合いを詰める事が出来た。更には一旦戦闘を仕切り直して、ジンクはその後の先制攻撃を行う事が出来た。


 ジンクの鋼鉄化した槍による一撃は容赦なくレヴィアの心臓を突きにかかる。


 が、レヴィアは流石と言ったところか、手刀により槍の先端を斬り取った。その後ジンクの右足を引っ掛けた後にバックステップで距離を置いた。


 レヴィアの自らに触れたモノも腐蝕させるという、本来彼が追い詰められた時に用いる奥の手を使ったのだった。それほどまでに2人に追い詰められているというところだった。


 ジンクの槍は先端の穂が無くなり、引っ掛けられた右足は鋼鉄化していたにも関わらず、腐蝕によりただれてしまった。だが鋼鉄化していなければ、足はレヴィアの腐蝕により今の攻撃でえぐり取られていただろう。


「おぉぉぉぉぉ。まさかガキに…2人のガキごときにぃぃぃぃ」

 レヴィアは激昂(げっこう)していた。彼は先程の山頂を腐蝕させ山崩れを起こし圧倒的に有利だと思っていた。後は自分が焦った子供を追い詰めるだけだと思っていたからだ。

 しかしリオのブラフにより不利な立場となる。むしろ今追い詰められていた。子供に追い詰められる、それは7魔将の1人である彼のプライドが許さなかった。


 レヴィアは追い詰めた原因のリオを殺そうと周りを見渡すが、リオは見つからない。僅か一瞬で彼の視界から消えてしまった。


「うおぉぉぉぉ。」

 ジンクは切っ先の無くなった槍を支えにして、棒高跳びのように跳んで一気にレヴィアに近付く。


10秒(じゅうびょお)ぉぉぉぉぉ」

 ジンクは必ず約束を守る男だった。だからリオとの10秒を稼ぐ約束を必ず果たそうと、槍を捨てて肉弾戦に持ち込む事にした。『鋼鉄化』のギフトで両腕を最大限に強化して、レヴィアに突っ込む。


 一瞬ではあるが肉弾戦の激しい攻防が繰り広げられた。

 ジンクの右ストレートはレヴィアによって払われる。続いての左フックは、下にもぐり込まれ無効化される。それと同時にレヴィアはジンクのみぞおちにストレートのパンチをお見舞いする。

 ジンクはその攻撃を察知して、みぞおちを最大限鋼鉄化する。パンチを受けジンクのお腹がただれると同時に、怪我をしていない左足を軸に右足で思いきりレヴィアの腹を回し蹴りした。


 ジンクの足がレヴィアに触れて更にただれると同時に、レヴィアはジンクの鋼鉄の重たい足の一撃で思いきり吹き飛ばされて、地面に叩きつけられた。


「うがっ」「うぐぅ」レヴィアとジンクは同じように呻き声を上げる。

 レヴィアは吹き飛ばされ態勢が崩れて地面に倒れている為、あと一撃でジンクがレヴィアを倒せる状態だった。


 レヴィアは捨て身の特攻で重たい一撃を喰らう事までは想定外だった。普段の人間ならば、レヴィアに触った時点で、触った部分が溶けて苦痛でのたうち回るからだ。


-まだ5秒だ…後半分くらい。

 ジンクはこの一瞬だけでも、時間がとてつもないほど長く感じた。一瞬でも気を抜けば死ぬ。

 だがその一瞬は永遠のように長く辛い。その状態でアドレナリンが分泌され、思考が驚くほど加速していたのだ。

 彼は今興奮しているが、頭が冷静であらゆるパターンを予測できるレベルだった。


 それは今まで以上の力を出している極限の状態だった。その為、痛みも軽減されている状態だった。


「ラストォォ」ジンクは勝ったと思った。足の最後の力を振り絞り、レヴィアに跳び掛かる。右足はここから先は使い物にならない程ボロボロになっていた。しかし勝利の為、足を犠牲にしてでもレヴィアを倒そうとしていた。


「バン」レヴィアは地面に倒れながらも、指鉄砲をジンクに向け、彼の胸を撃ち抜いた。

「くっ」ジンクはそれでもレヴィアにとどめを刺そうと、一気に跳躍する。

 その瞬間、レヴィアは先程リオのブラフに対して使った腐蝕魔法の防御壁を発動した。


-あっ、俺死んだわ…

 ジンクは死を覚悟した。最後の最後に油断をしたのだ。止めを刺して早く終わらせようと焦り過ぎていた。



「削除」

 リオは『液体化』により、ジンクに意識を取られているレヴィアの背後に近付いていた。そして『削除』のギフトにより、レヴィアの『腐蝕』のギフトを削除した。

 その瞬間腐蝕魔法の防御壁は消え去る。


「やれると思った瞬間、油断しすぎなんだよなぁ…敵兵も、お前も。」リオはジンクの先程の言葉をそっくりそのまま返した。


 ジンクの鋼鉄の渾身の右ストレートは、レヴィアの顔面に直撃して彼は一瞬で息絶えた。そのストレートを見舞うと同時に、ジンクはレヴィアの体に倒れかかった。限界だった。


 リオは右手でジンクの右手を取り

「ナイスファイト!!」と(ねぎら)った。

 ジンクはリオの右手を取り

「お前がいなきゃ死んでた。ありがとうな!!」と感謝を告げた。

 二人は互いの顔を見て、微笑み合った。この瞬間お互いの事を戦友だと認め合った。


 しかし無情な事にレヴィアの最後っ屁は残っていた。

 山頂からの土砂崩れだ。土砂崩れの音は時間が経つほど大きくなり、もう後少しでリオ達の元にやってくるだろう。


 土砂に巻き込まれたら、二人は一貫の終わりだ。更にまだ山の中やふもとにいる人間も巻き込まれる恐れがある。万事休すなのは二人とも理解していた。


「クソッ…ここで終わりか…」リオはそう呟く。


 ジンクはリオの手を取りながら自分に残った力を振り絞り立ち上がった。

「まだ助かる手段は残っているぜ!!」


 ジンクはそう言うと、ただれている右足を引きずりながらリオの前に立つ。

 リオを庇うように両手を広げた。そして深呼吸を一回。痛みによって、彼は呼吸が出来ているかすら分からなかった。既にジンクは痛みで感覚さえ麻痺している状態だった。


「まだ助かる手段は残っている。禁忌術式フォービドゥン・スペル

 そう言ってジンクは自らの両手を胸の心臓の上に乗せた。

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