決意の告白
リオとエリアスは人々の避難の為城下町に来ていた。
-ポラリスの町とか久し振りに歩くな…
士官学校に入るまでは王都にいたが、それ以降リオはずっと寮にいたので2年振りだった。
リオの隣ではエリアスがルンルンと機嫌良さげに歩いていた。
-なんだかんだでエリアスに協力して貰う事になった。
あの後ルクスがエリアスの兵士全員の力を借りたいと言ったので、リオはエリアスと一緒に王の頼みをこなす事になった。
-本当に姫を連れて来て良かったのか?何かあったら大変だぞ…
若干不安になりつつも、リオとエリアスは順調に街の人に今回の件を伝えていった。
・街の人々にいつでも逃げられるように荷物をまとめるように
・不安な者には城や貴族の領地の一部解放するので、その場所への避難するように
・アンデッドがいるかもしれないので、避難時以外は夜の外出は控える事
住民もエリアス姫からの直接の頼みという事で、皆心良く了承していた。
-改めてエリアスの人望は凄いな…
リオはエリアスの人望に感心しつつ、更に彼女が街の人の名前を全て覚えている事にも驚いていた。
夕方になりようやく住民への呼び掛けが終わった。午前から始めたが、予定よりもだいぶ早く終わった。
-流石に昨日の疲れも残っていて疲れたな…
リオは少し疲れた表情をしていたが、一方でエリアスは全く疲れた様子を見せなかった。
エリアスはリオの疲れた様子に気付いていたが、拳を握り何かを決意したように頼みごとをする。
「リオ様に着いて来て欲しい場所があるのですが…」
エリアスは少し申し訳なさそうな顔をしてリオに頼む。
リオはエリアスが何か普段と様子が違うのに気付いたので、彼女に着いて行くことにした。
そうしてエリアスに連れて来られたのは大きな時計台だった。
この時計台はリオたちが子供の時によく遊んだ時計台…時計台の中は小部屋が多く、また5階まであるのでこの街を一望できる。
-この時計台は秘密基地として良く使ったな…夕方になるとみんなで夕日を眺めたっけ。
リオは昔を振り返る。もう戻れない平和だった昔を…
-久しぶりだしドアはちゃんと開くかな?
昔の様にドアを開ける。すると少し汚れた子供たちが沢山いた。
この子供たちはエリアスが国から集めた孤児達だった。
「あぁ、エリアス様だぁ!!今日も来てくれたの?」
子供たちは笑顔でエリアスの元に駆けつける。昔のみんなの様な、屈託のない笑顔で…
エリアスも子供一人一人に笑顔で接する。
「このお兄ちゃんは誰?」
普段は一人でエリアスが来ていたようで、付き添いの人間が来るのが珍しかったようだ。皆リオの事を不思議そうな目で見ていた。
「この人がずっと話していた私の勇者様だよ。今は本当に勇者様になってしまったけど…」
エリアスは少し恥ずかしそうに子供たちに言う。
「あぁ、将来結婚する人なんだぁ!!今日は結婚の報告?」
子供はみんな楽しそうに聞いて来る。
-ん?結婚?いやちょっと待ってくれ。訳が分からないよ…
リオは少し困惑して、エリアスの方を見た。エリアスは少し恥ずかしそうに眼をそらし、リオの手を握って階段のある方に引っ張っていく。
「リオ様。もう少し私についてきて下さいますか?」
エリアスはリオの手を引っ張り恥ずかしそうに階段を上がっていく。
「わぁぁ!!ラブラブだぁ。ラブラブ、ラブラブ」
意味をよく知らない子供たちは無邪気にキャッキャしていた。
階段を上がる間、2人は無言だった。少し気まずい空気が流れていた。
そして階段を上り、時計台のてっぺんの鐘のある展望台にたどり着いた。展望台に上がると綺麗な夕日が沈みかけていた。
-あぁ、この夕日は変わらないな!!
「変わってしまったな…昔と…」
リオは悲し気に呟いた。平和だった昔…もう戻れない昔…出来るならば戻りたいと思っていた。
リオの頬を涙がつたう。その頬をエリアスが触れ、涙を拭う。
「えぇ、昔と大分変わってしまいましたね…」
エリアスも寂しげだ。
「覚えてますか?昔、リオ様や私、トーラス様にルクスにレイにグラブ達、幼馴染でよくここに来ていた事を?」
エリアスはリオに聞く。
-レイって子は覚えていないが…
「あぁ、みんなで良く遊んだな。昔はお前は展望台から見る景色が怖いって言ってたな。それでいつも俺の後ろにいたな。」
リオはクスリと笑った。
「あらまぁ、余計な事ばかり覚えていますのね!!あの頃から私は変わりましたのよ!!」
エリアスは少し怒りながらリオと同じようにクスリと笑う。
「そう…貴方がもう一度…いえ、ずっと笑っていられるように変わろうと思いましたの…」
エリアスはリオに聞こえない程度に呟く。
また少し沈黙する。リオは再び沈みゆく夕日を眺めようと、西の果ての空の方を向こうとした。
エリアスは決意を決めたかの様に真剣な目になる。リオの両肩を掴み、彼女の方に体を向かせた。そして二人は見つめ合った。
「昔は貴方に守って貰っていましたが、今度は私がリオ様を守ります。貴方がずっと笑っていられるような国を作ります!!だから私と将来結婚してください。」
エリアスは恥ずかしがる事無く、真剣な表情でリオに告白した。
リオはエリアスの告白に驚いた。うすうす彼女の気持ちに気付いていたが、告白されると思っていなかった。しかもそれが結婚という事で頭が混乱していた。
「俺には好きな人が…」
断ろうとする。しかし
-いや、俺に好きな人がいない…だがもやもやする?
好きな人がいる…いた筈なのに何故かいない、不思議な感情だった。
「リオ様がレイの事を好きな事は知っています。だけど私は貴方を振り向かせてみせる。もう貴方が悲しむ顔は見たくないし、絶対に貴方を手に入れてみせる!!」
そう言ってエリアスはリオを抱きしめた。
-俺は彼女の思いに応えるべきだろう…王女とか、勇者とかの立場に関係なく一人の女性として!!
何故かリオは泣いていた。前に進もうとするたびに、過去の皆を失う記憶が頭に流れ込んで来る。それにより決意が鈍くなる。
「でも俺はお前まで失うのが怖い…好きだった人が俺の前からいなくなるのが怖いんだ…」
-父さん、母さん、アスタルテの街の人、士官学校の先生、ジンク、そしてレイ…
-そうだレイの事を俺は忘れていた。俺の幼馴染の…
リオはレイの事をうっすらだが思い出した。かつて好きだった少女の事を…
-過去には戻れない。失ったものは取り戻せない。だから未来に進むしかない!!
「貴方がいる限り、私は絶対にいなくなりません。その為に私は強くなったのですわよ。」
リオが気絶しそうなくらい強い力で、エリアスはリオを抱きしめた。
リオの中にあった孤独感、虚無感、喪失感等の負の感情がエリアスの抱擁によって、体から消え去っていく。
リオもエリアスの思いに応えようと思った。そう先へ進むために…
「エリアスありがとう。お前がいたから俺は未来へ進む事が出来る。だから俺は生きている限り、お前を絶対に護る。魔王を倒したら結婚しよう!!」
そう言ってリオはエリアスの唇にキスをした。お互い初めてのキスだった。不格好ではあったが、お互いが通じあった瞬間だった。
夕日が沈み、月が東の空を登り始める。
2人から笑顔が消えない世界。2人はそんな明るい未来へと進もうと決意した。
リオは沈みゆく太陽に『必ず彼女を護る』と誓った。
2人を祝福するかのように優しい風が吹いていた。