Ⅸ.幼馴染のお姫様
「いつか今日の事を笑い話にしようぜ‼」
ジンクは笑いながら息を引き取る
-あぁお前の意思を引き継いで俺は皆を護る‼
リオはそう決意した。そこでリオの周りは一旦暗くなった。
「ねぇ…私は?」
リオがの後ろから女の子の声がする。
「どうして私を無視するの?寂しいよ…」
リオが後ろを振り向くと、自分より少し身長の高い女性が立っている。
顔にモヤがかかって分からないが、リオは何故か懐かしさを感じた。
「ずっと一緒に…」
女性がリオの右手に触れた。
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その女性が触れたと同時にリオの目は覚める。
寝室の開いた窓からどこか懐かしさを感じる風が流れて来た。
心地よい風に当たりながらリオは泣いていた。
-どうしてこんなに悲しいんだ?
理由が分からなかった。夢なのに本当に右手に触れられた感触がある。
両手で目を擦りながら涙を拭う。
「朝か…」
窓に朝の日差しが差し込んで、リオが外を見ると鳥が仲良く飛んでいた。
昨日までの騒動がまるで夢の様な平和な朝だった。
「ようやく起きましたわね!!全く起きないから心配しましたのよ!!」
部屋の扉の前に立っていた女性が、サラサラな長い黒髪を揺らしながらベッドの上のリオに突進してきた。
城内の客室の為、扉からベッドまで10メートル程あるのだが、女性は一瞬でベッドにダイブして抱き着いた。
彼女とリオの顔は息遣いが分かる程近付いており、唇が触れるまでわずか数センチの所だった。少女とリオは一瞬だが見つめ合った。
-近い近い近い…
リオは慌てる。リオは少女の金色の大きな瞳から目をそらす。恥ずかしいのもあるが、この様子を城の人間達(特に王様)に見られる訳にはいかないと思った。
「もう少し離れてくれ!!エリアス姫…」
そう言ってリオは両手で抱き着いているエリアスを離した。
エリアス姫。本名エリアス・フォン・ポラリス。
ポラリス共和国の姫君であり、リオの2つ年下の幼馴染の1人。昔から活発で明るく、民衆思いの良く出来たお姫様だ。
「ふふふふ…良いではありませぬか、良いではありませぬか!!」
エリアスはリオをいやらしい?目で見つめながら、両手をリオに向けながら両指でピアノを弾くように変な動かし方をしていた。
-どこのおっさんだよ…むしろポラリス王はそんな変な事してないよな?
リオはエリアスの行動を見て、彼女の受けている教育が心配になる。
「ふふふふふ…私本当に心配したのですわよ…本当に、本当に。」
半笑いのエリアスは次第に目元に涙を浮かべる。リオが無事な様子を見て、安心したのか彼女は次第に泣き始めた。
本当にリオの事を心配していたようだ。
「幼馴染の貴方とレイを両方失ったらと思ったら、不安で不安で…せめて貴方だけでも無事で良かった。」
グスッと涙を拭きながらエリアスは言う。
-エリアスの幼馴染のレイか…学校でまったく話さなかったな…誰だろうか?
「安心しろよ。俺は絶対にお前の前からいなくならない。今よりもっと強くなってお前やポラリスの人間をみんな護ってやるから!!」
エリアスの頬に流れる涙を一刺し指で掬い、リオは優しく言葉をかけた。
「私も貴方がずっと笑える世界に出来るように頑張りますわ!!」
そしてリオとエリアスは見つめ合った。
「あ~あ~、ごほん。」
ポラリス王が咳ばらいをした。いつの間にか付き人と共にリオの部屋に入っていたようだ。
メガネをかけた執事がリオ達に声を掛ける。
「ええと、朝食の準備が出来ましたので客人用の食堂にお向かい下さい。エリアス様は王と共にいらして下さい。」
「えぇ、私リオ様と一緒に朝食を食べる約束をしましたのよ…お父様!!私達の中を引き裂かないで下さる?」
エリアス姫はポラリス王と付き人の執事を睨みつけた。
-え、そんな約束をしていない…
リオは戸惑いの表情を浮かべて、王に助けの視線をチラリと送る。
ポラリス王はその視線に気付いたようだ。
「ううむ、2人が約束したならしょうがないな!!うん、では久しぶりの友達との時間を楽しみなさい。友達とのね…友達だよ!!」
ポラリス王は『友達』という言葉を強調しながら執事と部屋を去っていった。
リオは王様とエリアス姫の愉快なやり取りを見て、ようやく王都に帰って来たのだと実感した。
-今回の事も感謝してもしきれないな…
リオが故郷を失った後も、良くしてくれた王様達。本当に彼らには頭が上がらない。
彼女も寝ている間、心配でずっと見守ってくれていたのであろう。エリアスの目元には軽いクマが出来ていた。
「本当にありがとうな、エリアス!!」
リオはエリアスの目を見つめて感謝の言葉を述べた。
「うふふふふ、構いませんのよ!!それでは約束通り、今から一緒にお風呂に行きましょうか?」
-え?朝ごはんじゃないの?お風呂?そんなに自分汚れているのかな?
リオはどう反応したら良いか分からなかった。一瞬固まるリオだった。
部屋の扉が<バーン>と勢いよく開いた。王様が今の言葉を聞きつけて、焦って入って来たようだった。
「だ~~~~か~~~~ら~~~~、君達と~~~~も~~~~~だ~~~~~ち~~~~~だ~~~~~よ~~~~~~ね~~~~~~?」
ポラリス王はリオ達を睨みつけて来た。その後執事に目配せをした。
「やれ」
顎をクイッとやって、執事にエリアスの背中を掴ませ引きずらせた。
「あ~~~~~れ~~~~~~、お止めになってお父様あ~~~~」
両手をバタバタさせて、執事はエリアスを引きずって部屋の外へと去った。
ポラリス王は部屋の扉の前に立ちリオにニッコリと微笑んだ。
「朝っぱらからすまないね。疲れているだろうから、娘の無茶に付き合って無理はしないでくれ。ではまた後程…」
王様は手を振りながら、客室を去った。
王様が去った後でリオは楽し気に溜息をついた。
「まったく、こんなんじゃ休めないな…」
リオは少し微笑んで、窓の外を眺めた。
-そよ風が気持ちいいな。