エピローグ
ご閲覧ありがとうございます。
小説を初めて書いたのでアドバイスとか頂ければ幸いです
ポラリス共和国の中のアスタルテの街。かつて魔王を倒した勇者が育ち、その子孫の住んでいる穏やかな街は、今日も平和な日となると誰もが思っていた。
魔王討伐後に共和国、帝国の2大国、小国が集まり集合体となった諸連合国を始めとした列強諸国は、魔王が治め魔族が暮らす魔国が平和を乱さないよう条約と停戦を結び、それにより平和が400年続いていた。
勇者の子孫でアスタルテの街を治める貴族の嫡子リオ・フォン・ジアースは12歳である。まだ幼くはあるが平和な世界である事を祈り、多くの人を守るためと剣の特訓に励んでいた。大きな瞳は未来を見ているかのように透き通っており、深紅の髪は光を弾きまるで彼は太陽のように輝いて見えた。
だが体が小さい為か女子のように間違えられる。それくらい整った如何にも貴族であるかのようなの子であった。しかし彼自身は女子に間違われる事をよく思っていない。その為剣の特訓を毎日欠かさず行っている。特訓を積めば年が8歳離れた兄のように、屈強な漢になれるとリオは信じていた。
リオは兄トーラスが大好きだった。強くて優しくて憧れだった。今日も何気ない一日が過ぎて、兄に特訓の成果を見て貰うつもりだった。
平和だった日々は突如終わりを迎える事になる。帝国の人間が攻めてきたのだ。
燃え盛る街並み…家やレンガの壁は崩れいたるところで道を塞いでいる。安全な場所に逃げようとする人々は帝国の兵士によって次々と殺されていっている。
リオはいつも街の外で剣の特訓をしていた。運の良いことにその為街で騒ぎが起きている際に帝国の兵士と鉢合わせずに済んだ。
貴族の嫡子の為外出の際は本来は付き人が着くのだが、やんちゃな彼は内緒で家を抜け出していた。付き人はチップを渡され、彼に懐柔されていた。だから彼のやんちゃを見逃していた。
-何なんだよ!!これは…街のみんなが…
街に戻り、周りを見渡すと知り合いだった人達の亡骸がそこら中に転がっている。更に街は恐らくだが敵兵に火をつけられて、安全な場所や逃げ場は限られた状態になっている。
-母さん、父さんはどこにいるんだ?
リオは家のある街の中央に向かおうとしていた。まずは父と母に合流し、指示を仰ぐのが先だと考えたからだ。勇気を出して、燃え盛る街へと踏み出した。
また余裕があればジアース家に伝わる神器を確保しようとも思っていた。
-瓦礫が山となり道を塞いでいる。こんな時に兄さんがいれば…
兄トーラスは17歳だが、飛び級で士官学校を卒業し既にポラリス共和国の騎士長に成り上がった実力者だ。勇者の家系である自分たちが宿す『削除』のギフトを使いこなす。
『削除』のギフトは魔力を用いて対象を削る事が出来る力だ。特にトーラスは手をかざした数メートル先の物を大きく削る能力だ。
一方でリオは右手で直接触った物を少ししか削る事が出来ない。
この世界には生まれながら持つ『ギフト』という力を授かって生まれる事がある。「火」「水」「風」「雷」「土」、「光」「闇」の元素を基礎として生まれる力だ。本来詠唱と媒体が必要な魔法が、それらを無しに魔力消費だけで使う事が出来る。
例えば火魔法を使うには竜の鱗などの火属性の媒体を用いて詠唱を行う必要があるが、「火」関連のギフトを持つ人間は魔力を消費するだけで火魔法を使える。
このギフトは遺伝で引き継がれる事が多く、魔力量も関係しているため貴族が授かる事が多い。またギフトは1人につき1つの属性だが、まれに2つ以上の属性のギフトを持ち、新しい力に進化させる者もいる。
例外的に勇者と魔王はこの規則に囚われず全ての属性を用いた事が伝えられている。
勇者の子孫に代々引き継がれている『削除』のギフトは「土」「風」の2属性が合わさった独自のギフトではあるが、勇者以外に他の属性を持つ者は一族に生まれず『削除』のギフトのみを受け継いできた。
「削除」
リオはギフトで右手で瓦礫を削除するが、ほんの数ミリしか削れない。「削除」「削除」と何回もギフトを使うが殆ど瓦礫は変わらない。
-魔力が尽きるまでギフトを使えば何とかなるかも…でもその間に帝国兵が来る。
リオは身軽な体で瓦礫の山をよじ登り街の中央を目指していた。家は街の中央にある為、迂回するより辺りが一面火の海となっている瓦礫の山をよじ登った方が、帝国兵に出会わないだろうと考えていた。
「うっ」
瓦礫の山をよじ登った先で惨状を目にする。先の中央広場に共和国の兵士の死体が大量に転がっていた。
この光景を見て、危険を察知したリオは街の外へ引き返す事にした。今まで訓練を受けた自分より強い兵士でさえ殺されているのだ。自分に勝てる筈がないと判断した。
-兄さん、母さん、父さんは大丈夫か?いや大丈夫だ…みんな強いんだから…
そう思いながらも不安な気持ちで胸が押しつぶされそうだった。
考え事をしながら瓦礫の山を下りた為か、おりる際に鉄の杭が足に引っかかった。足が少しえぐれてしまったが逃げる分にはギリギリ問題はなさそうだ。
足を引きずりながらリオは必死で街の外を目指す。帝国兵に見つかる前に逃げなければ殺されると分かっていたからだ。
街の出口が見えかかった時だった。リオの目指す街の出口付近に人影が立ちふさがった。
がっしりとした長身で、落ち着きながらも存在感があるまるで月のような人間…一目で兄トーラスだと分かった。
「はぁ…手遅れになるかと思ったよ。本当に良かった。」
兄トーラスは街を回っていたのだろう。深紅の髪は灰にまみれ、装備も血や土で汚れている。右手に剣を構えていたが、安堵の様子を浮かべてリオに近づいて来た。
「兄さん…アスタルテの街が…」リオは兄に出会えた安堵からか、泣きそうな声でそう兄に伝えた。もう彼の心はパンク寸前だ。片足を引きづりながら街から逃げるまでに見た悲惨な光景は少年には辛過ぎた。
リオは兄に少しずつ近付き、倒れるように兄にもたれ掛かった。
「安心しろリオ。俺が全てを終わらせるから。」
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「街の外には救援に駆けつけているコメット家の軍がいる筈だから、少し休んだらそこへ急ぎな。それくらいの時間は稼ぐからさ。」
血を流しすぎていたのだろうか?意識がもうろうとしていて、いつの間にか崩れていないレンガの壁にリオはもたれ掛かっていた。
もうろうとする意識の中、トーラスが瓦礫の山を一瞬で『削除』し、燃え盛る街の中に消えて行くのを見た。その兄の背中がリオが見た兄の最後の光景だった。
その日ゾディア帝国は魔国と合併しゾディア魔帝国が誕生した。
それからすぐに魔帝国の王位は若き魔王が継いだらしい。リオの一族が管理していた神器『叡智の書-黒-』はゾディアに奪われ魔王が適合者だった。これは400年前と同じである。これが意味することは、再び世界は魔王に支配されるという事だ。
対をなす神器『叡智の書-白-』はリオの母が命と引き換えに守り、ポラリス王の手元に運ばれた。それは絶望の中の唯一の希望であった。