01・ヴァジエーニ
わたしたちが暮らす地球から、遠い、遠い、とある星にある王国に、ヴァジエーニという少年がいました。
彼の住んでいる家はとても小さく、ボロボロです。
それでも、古い家や家具を大切に使い、掃除もされた家はキレイで、そこにヴァジエーニは父親と母親と、三人で住んでいました。
小さい頃のヴァジエーニは両親が大好きでした。
父親が作った笛で遊び、母親が薬を作るのを手伝って過ごす時間が、本当に、大好きでした。
けれども、ある日、友達の一人が言いました。
「ヴァジエーニの服は、古いし地味だね。おうちも小さいし。変なのっ!」
そう言って、ヴァジエーニを指差して笑いました。
すると、彼の言葉を聞いた、まわりの友達もクスクスと笑いはじめます。
ヴァジエーニは恥ずかしくて、悲しくなりました。
ヴァジエーニは「他人を笑うみんなが嫌なやつだ」とは、思いませんでした。
むしろ、自分が努力して、みんなに笑われないよう頑張ろう、と思いました。
ヴァジエーニはの父親はとても無口な人で、いつも、黙々と笛を作って売っていました。
母親はのんびり、おっとりした人で、薬を作って売っているようでしたが、やってくるのはお金のない人ばかり。いつもお金の代わりに、安い食べものなどと交換してばかりいたので、とても貧しい生活をしていました。
ヴァジエーニは両親に言いました。
「お父さんの笛はすごくいいものなんでしょう? お金持ちの人に、もっと高く売って、服も家も、キレイで豪華なものにしようよっ!」
「お母さん、薬をちゃんとお金を払う人にだけ売ろうよ。そうすれば、服も靴も安物じゃなくて、いいものが買えるよ?」
けれども、父親も母親も、首を横に振るばかり。
せっかくヴァジエーニがアドバイスをしても、聞く耳を持ちません。
ヴァジエーニは自分の意見のほうが、とても優れていると思っていたので、どう考えても愚かなことをしている両親に、腹が立ちました。
こんなボロボロな家も、まともに会話もできない父親も。
お金をもらわず商品を渡してしまう、頭の悪い母親も。
みんな、みんな、大嫌いだ、と思いました。
その日から、ヴァジエーニはよく空想するようになりました。
自分がこんなところにいるのは、絶対におかしい。
きっと、自分は赤ん坊の頃にさらわれて、今の父親と母親に拾われたに違いない。
本当は、どこか遠くに、自分が住むために用意された、美しくて大きな家があって。
そこには尊敬できる父親と、美しい母親が住んでいて、自分が帰ってくるのを、ずっと、ずっと、待っているのだ。
そんなふうに思っていたので、ヴァジエーニはいつか、本当の家に帰るために、たくさんの努力をしていました。
まずは、安心して旅ができるように、お城の騎士のように強くなろう、といつも剣を使う練習をしていました。
魔法が使えるようになりたかったので、杖を買うためのお金を稼ぐため、いろいろなお店のお手伝いもしました。
残ったお金は、旅の途中のご飯を買うために残しておくつもりでした。
また、本当の両親の息子としてふさわしくなるために、いっぱい勉強もしました。
頭のいい本当の両親が、計算もまともにできない息子を見たら、がっかりするだろう、と思ったのです。
そんなヴァジエーニを見ても、父親はいつも遠くから無言で見てくるだけで、なにも言いません。
母親はいつも笑顔で、ヴァジエーニをよく褒めましたが、とても簡単で、できて当然な事を「すごいねぇ、すごいねぇ」と騒ぐ母親が、彼はあまり好きではありませんでした。
こんなことで、いちいち騒ぐなんて、母親はできがわるいに違いない、と思っていました。
ヴァジエーニは、いつか必ずこの家を出て行くんだ、と、ただただ強く、心に誓いました。
さて、たくさんの努力をしたヴァジエーニは、とても強く、頭のいい青年になりました。
周りの人たちは「ヴァジエーニほど、頭がいい者はいない」と言いました。
また、旅の人も「ヴァジエーニほど、強い者はいない」と言いました。
隣の町の人もヴァジエーニの話を知っていて、「ヴァジエーニはとても頭がいいから、どんな問題も解決できる」と言いました。
でも、ヴァジエーニはちっとも嬉しくありませんでした。
周りの大人たちは年上のくせに、子供だった自分より弱く、頭が悪いのです。
自分をすごいと思ったことがないヴァジエーニには、彼らが努力を怠っているようにしか見えませんでした。
そうとは知らず、大人たちはヴァジエーニをほめ続けました。
だから、気づけば国中の人が「ヴァジエーニほど、強い者はいない」と言うようになっていました。
そして、その話はお城の王様の元にまで届きました。
子供向けなので、小学六年で習う漢字からルビをふっています。
常用漢字チェッカーのサイトを作ってくださった方、ありがとうございます!