21:8c
大変お待たせしました。
魔導技術文明世界初のモータースポーツレースは車輛レギュレーションがかなり雑だった。
蒸気圧とボイラー容量の上限値以外は全てオッケー。どんな機関形式でもどんな駆動方式でも構わない。ぶっちゃけ技術的に諸々の条件設定できる水準に無かった。それくらい機械化車輛技術はまだまだ稚拙だった。
逆に蒸気圧とボイラー容量が条件づけられた理由は、当時の蒸気機関がそれほどにボイラー爆発の危険性が高い代物だったからだ。
たとえば、イギリスでは1860年代初頭から1870年代末の約20年間で爆発事故が約10000件。アメリカでは1880年から1919年までの間にボイラー爆発事故が14000件。
原因は大まかに4つ。
設計や構造上の欠陥と不備。要するに作りが悪い。
製造技術の未熟。要するに出来が悪い。
鋼材の品質不足。要するに物が悪い。
運用上の問題。要するに現場の扱い方が悪い。
かくして毎日どこかでボイラーがドッカンドッカンと爆発していたわけだ。
両陛下を筆頭にやんごとなき方々が台覧する記念大会で、そんな醜態を晒して貰っては困る。最低限、爆発しない程度のレギュレーションを定めよう、と大会実行委員会は考えたわけだが、前日の大型トラクターのドラッグレースでボイラーを吹っ飛ばした奴らが続出し、本命の蒸気車輛レースにしてもトラブルとクラッシュがいくつも発生していた。残念ながら目論見は失敗だったと言わざるを得ない。
それでも……皆がそうした醜態を楽しんでいた。競馬とは全く違う見たこともないレースに、自分達が歴史を目の当たりにしているという事実に、観客達は昂奮していた。
もちろん、レースの参加者達も。
「見せてもらおうか、ロンドベル農耕組合のマシンの性能とやらをっ!」
「ロンドベル農耕組合のマシンは伊達じゃないっ!」
フロントノーズに角を付けた赤い車輛と、白い車体に赤いユニコーンマークを付けた車輛がママチャリ並みの速度で競り合っていたり。
と思えば、
「俺が遅い……っ! 俺がスロウリィッ!? そんな、なぜだー! 奴のキャラが濃すぎるのかっ!?」
「てめーっ! 俺を極楽鳥アタマと呼ぶんじゃねえっ!」
やたらキャラの濃い男達がちょろちょろと競っていたり。
「うぼぁ―――――っ!」
どかんっ! とボイラーを爆発させてリタイヤする奴がいたり。
「ぬわ――――――っっ!」
どかんっ! と路肩の防護柵へ突っ込んで横転リタイヤする奴がいたり。
現代地球の世界ラリーやマン島ツーリストトロフィーみたいなレース展開とは全く別ベクトルだが、なんだかんだで盛り上がっている。観戦用飛空船のやんごとなきお客様方も眼下の競走を楽しんでいた。まぁテレーズ王女はクレテアの選手がリタイヤして御機嫌を斜めにし、ウィレムがあれこれと気を揉んでいるけれども。
「競馬とは趣が大分異なるけれど、これはこれでとても良いわ」
王妃エリザベスが楽しそうにオペラグラスを用いて眼下の競走を見物していた。イストリア王室は先代王朝の頃より大の馬好きであり、エリザベスも例外ではない。
ちなみにそのオペラグラスは夫が自分で使うために用意させたものだが、いつの間にか彼女の手の中に納まっていた。
「優勝争いはヴィーナの白獅子とイストリアのトレビシック・パーソンズに絞られたようね」
「いや、もう一台だ」
国王カレル3世は妻に奪われたオペラグラス代わりに小型望遠鏡を用いていた。控えていた護衛騎士の私物を献上させたらしい。
「紅一点が駆る青い雷が迫っているぞ」
〇
黎明期の車輛は現代のように空力特性など考慮されていなかった。それでも、魔導技術文明世界の場合。空を泳ぐ飛空船技術が培われているこの世界の技術者達は、同時代水準の地球世界技術者よりも『空気抵抗』の存在について理解が深い。
白獅子のシンギング・エリーとトレビシック・パーソンズのウォークライ。ステラヒールのドンダー。優勝候補の車両がいずれもボート型車体を採っている理由は、飛空短艇のデザイン――空的抵抗を考慮した形状――を流用していたからだ。
まあ、ボート型車体を採っていても運転席に風防が無いため走行風がぶち当たるし、速度が遅いため排気音を背後に流せないし、構造的欠陥から機関部放射熱も排し切れていない。性能不足のサスペンションとタイヤは粗い路面に泣き言を訴え続けている。
カタログスペック上の性能も、カタログ外の要素も、未熟で稚拙で杜撰だ。
疎ましい風圧、やかましい駆動音と排気音、息苦しい排熱、酷い乗り心地。数々の問題に悩まされながらも、世界初のレース専用マシン達はひたすら走り続ける。
世界最初のモーターレース大会で世界最初の女性レーサーとなったイネス・バラーサは目元を覆うゴーグル越しに先行する白いマシンと黒いマシンを睨み据えていた。
「あと少し……あと少しで追いつけますっ!」
「そのあと少しが厳しいンだがなっ!」
イネスの隣でダブルアクティング式V型4気筒エンジンを宥めて賺してあやしているメカニックのミトニックが汗塗れの顔で笑う。
先に述べた通り(21:7参照)、ストロミロMkⅡドンダーに搭載されたスターリング・エンジン――ストロミロ・エンジンはレース用に新開発したダブルアクティング方式の外燃機関だ。
当初の設計で製造されたエンジンは想定より出力が発揮されず、シリンダー部分を大型化することになった。おかげでエンジンルームに収まりきらず、ボンネットからシリンダーヘッドがにょっきりと飛び出す事態を迎えた。
ちなみに、この状態に至ってなおも出力に不安があったため、カーヤはシリンダー内のガスを加熱膨張/冷却縮小する機構に高度な魔導術理を施した。加熱と冷却の熱量差を過大とすることで封入ガスの膨張/収縮を少しでも高効率化している。
もちろん、それだけ激しい熱量変化をもたらすことはシリンダーやシーリングに大きな負担をもたらすし、エンジン自体に与える負荷も厳しくなる。制御の困難さは語るまでもなかろう。ミトニックが担う重責は如何ほどか。
この無茶な負担を能う限り軽減すべく、シモン・フランソワ・ディメが指揮する開発陣は知恵を絞り、駆動系を合理化・効率化することで対応した。
すなわち――
ミトニックが排気音と走行風音に負けじと叫ぶ。
「嬢ちゃん、次のカーブでギアチェンジだっ! 合図で一つ下げろっ!」
ステラヒールのビックリドッキリメカは手動式三段変速機だった。
『なんでぇ、それだけかよ』と思う方もいるかもしれない。
だが、自動車黎明期のこの時代、変速機の開発はまだまだ埒外のことだった。
なぜなら蒸気機関は停止状態から出力可能であるため、停止状態から回転数と出力を稼ぐ機構を必要としなかった。パワーを出したければ、ボイラーの圧を高め、駆動系へ伝達するエネルギーを増やせば良い。
スターリング・エンジンではそうした楽ちんの手段が取れないため、上限のある出力を少しでも効率的に駆動系へ活かすべく、変速機を搭載することにしたわけだ。
問題があるとすれば、変速機――マニュアルミッションの開発は、部品の材質や工作精度、用いる潤滑油の粘度や耐熱性、構造的難易度、とクリアすべき条件が多いこと。
地球自動車史においても、自動車用変速機はベンツの自動車が市販されてから10年近く経ってから、フランスのパナール社がようやく実用化している。
ステラヒールの開発陣が暗中模索しながら試行錯誤の末に作った変速機はシンプルな非同期型設計の選択摺動式だった。同様の機構は現代地球の自動車やバイクの変速機にもあるが、当然ながら現代地球の物みたいにスムーズなギアチェンジ出来るはずもなく。
そもそも……クラッチが“無い”。
自動車に明るくない方のために言っておくと、自動車用であれ、バイク用であれ、マニュアルトランスミッションは一般的に、
クラッチを切る→エンジンと変速機の駆動伝達カット→ギアチェンジ→クラッチを戻す→駆動伝達再開。
という操作を採る。自転車のギアチェンジにクラッチが必要ないのは、クラッチが必要なほどの回転数ではないから(もちろん他にも理由はあるけれど)。
乱暴に言ってしまえば、ステラヒールは蒸気自動車に自転車用変速機をぶっ込んだのだ。
その操作はドライバーとメカが協力し合い、回転数メーターと駆動音などを頼りにスロットルコントロールでギア変更に適した回転数に調整し、無理やり嚙み合わせる。
無 理 や り 噛 み 合 わ せ る。
イネスがスロットルペダルとブレーキペダルで速度を調整しながら、パワーステアリングという便利な機構を持たないハンドルを頑張ってぐいぐい回し、マシンを旋回させていく。
遠心力と荷重に引っ張られ、車体が軋む。ストロミロMkⅡドンダーがコーナーのチョークポイントを超え、立ち上がりに向かう。
「備えて、備えて―――」
ミトニックが北方ノーザンラント語を呟きながら、蒸気機関の制御盤を慎重に弄って準備を整えていく。
イネスは右手をハンドルから操作桿へ伸ばし、
「今ッ!!」
相棒の怒声に合わせてレバーを一つ前方へ押し込んだ。
心胆を擦り減らす、老婆の絶叫みたいな金属が擦れる音がつんざく。不安を掻き立てる鋼板をハンマーで力いっぱい殴りつけたような接続音が響く。刹那の後、シャーシ全体が悶えるような衝撃が突き抜け、マシンが激走を再開する。
ギアチェンジが完了したと判断するや否や、ミトニックは即座に減退させていた外燃機器を回復させ、イネスがスロットルペダルを踏みこんで回転数と速度を取り戻しにかかった。
ギアを落としたことで駆動系のトルクが増した。排気管から力強い雄叫びを広がり、コーナー旋回で失った速度と運動エネルギーを取り返すように足を速めていく。
「もう2000回転伸ばしたらギアを戻すっ! 用意をっ!」
「ああもう、忙しないっ! 気が休まらないっ! 怖いっ!」
泣き言を上げるイネスへ、ミトニックが笑い飛ばす。
「ははは、最高だろうっ!? 楽しめ嬢ちゃんっ! 俺は最高に楽しいぞっ!!」
「ぜんっぜん楽しくない――――――っ!」
イネスはゴーグル内で眉目を吊り上げて叫んだ。
○
英国面という言葉を御存じだろうか。
その国の民族性や気質を存分に感じられる“実例”を挙げたエスニックジョークがあり、イギリス人の民族性や気質が顕著に表れたものを『英国面』と呼ぶ。
雑に要約するなら――
英国面とは『目的完遂に全振りしてしまい、付随する問題を無視/甘受する』傾向がとても強く、他国民なら『バカ言ってら』と一蹴するようなアイデアでも、目的完遂に適うなら『本気で検討』を始め、実現可能なら『本当に実行してしまう』。そして、目的完遂が達成できたら、問題があろうとそのまま使い始めるイギリス人の気質や民族性である。
この英国面が成功した場合、ドレッドノート級戦艦のように世界的な影響を与えることがしばしばあるが……大抵の場合は他国民から『正気の沙汰とは思えない』とか『なんでそんなことしたの』とか、『ほら言った通りだったじゃん』と呆れられる結果を迎えている(だから英国面なんて言葉が生まれたとも言えよう)。
一応、イギリスの名誉のために言っておけば、これはイギリスに限った話ではなく、日本や中国やドイツやアメリカやフランスやロシアやスペインなどなど、どこの国にも大なり小なりあること。日本人の魔改造愛好主義なんか他国民からしたら心と頭のビョーキに見えるぞ。
長々と記したが、何が言いたいかというと……
大陸北方の雄にして現列強内の海洋覇権国家イストリア連合王国は、いささか英国面的気質が濃かった。
力強く駆けるシンギング・エリーを追いかけ、猛々しく駆けるドンダーに追われる現在二番手のウォークライ。
単式膨張型ボイラーと水平対向式大型二気筒の複動式機構。紛れもなくこの自動車黎明期において屈指の完成度を持つ蒸気エンジンであった。イストリア蒸気機関メーカー最大手の英名は伊達ではない。
しかし……
「くっ! どうにも少し届かんっ!! しかも、徐々に追いつかれているっ!」
『悔しいけど、連中のマシンの方が少し速いっ! エンデバーのテクで挽回してくれっ!』
トレビシック・パーソンズのマシンはタンデム式のため、ドライバーのエンデバーとメカのロビーは伝声管を通じてやり取りしていた。
「確かに私のテクで挽回は不可能ではないが……ここは勝負に出るべきだなっ! ロビー、奥の手だっ!! あれを使うぞっ!」
『ええっ!? 本当に使う気かっ!? やめておいた方が良くないかっ!?』
「ふっ! 勝つために必要な冒険だっ! 折り返し点を越えた直線で仕掛けるっ! ロビー、準備しろっ!」
『くそっ! イカレてるよ、エンデバーッ! 準備するっ!』
吐き捨てるように相棒が了承すると、ウォークライを駆るエンデバーは不敵に笑う。
「ベルネシアの諸君、刮目するが良い。イストリアを代表するトレビシック・パーソンズの技術力をっ!」
〇
レースの折り返し地点の大きな180度コーナー。
旧修道院跡地の正門前操車場に進入した白いレースマシン“シンギング・エリー”が砂埃を上げながらコーナーを旋回していく。
高い技術力を持つ白獅子のワークスが手掛けたマシンに小細工など無用かつ不要。純粋に強い。単純に強い。まさに獅子の如きマシンなのだから。
同マシンを駆るレクス・ヴァン・ハウブルトは高い集中力を維持して運転し続け、相棒の機関士ヴァンダーカムも白獅子製の複動式直列三気筒蒸気機関ロスリング84型エンジンを緻密に管理し続けている。正しく白獅子のワークスが選んだ精鋭である。
そんな“シンギング・エリー”が滑らかにコーナーのチョークポイントを超え、立ち上がりに入った時だった。
続いて立ち上がりのラインへ入った“ウォークライ”が、その名の通りに凄まじい咆哮を上げ、大量の排気煙をぶちまける。
ぎょああああああああっ!! と奇怪な絶叫を上げ、黒いマシンが爆発的な加速を発揮。排気管から青い活性魔素粒子を吐き出しながら激走し、みるみるうちにシンギング・エリーへ追いつき、ぬらりと横へ並び、じりじりと追い抜いていく。
「!? なんだ、あの伸びはっ!?」
目を丸くして仰天するレクスを横目に、ウォークライの手綱を握るエンデバーが高々と笑う。
「ふははははははっ! これがトレビシック・パーソンズの技術力だっ!!」
白いシンギング・エリーを追い抜いていく黒いウォークライ。その排気に含まれる青い活性魔素粒子と駆動系が発する奇怪な雄叫びに、機関士のヴァンダーカムは眉根を寄せた。
「奴ら、どんなビックリドッキリメカを仕込んだんだ?」
ヴァンダーカムの疑念を諸賢へ解説しよう。
しつこく繰り返すが、リュッツェン市で催された世界初のモーターレースのレギュレーションは蒸気圧とボイラー容量の上限を定めているだけだった。
すなわち。ボイラーから排出される魔素を転用することは、レギュレーションにもルールにも違反しない。
トレビシック・パーソンズがエンジンに仕込んだビックリドッキリメカは、ボイラー内で作られる高圧蒸気に内包される魔素をシリンダー内で励起活性化させて熱圧力に転換。ピストンの運動エネルギーを増大させ、駆動系の回転速度を無理やり上げるというもの。ナイトロモドキである。
このためにシリンダーやピストン、コンロッドなどに高価な魔鉱合金や金剛鋼を用い、手間暇かけて緻密な魔導術理を施している。
むろん、こんなことをしたらシリンダーがぶっ飛ぶ危険性が飛躍的に高くなるし、急激な出力や速度性能の変化は操縦性や車体に大きな負担を与える。事故の危険性も段違いに高まるだろう。
さりとて、英国面的理屈で言えば、『出力と速度を上げるという最優先目的を完遂できるなら、無視して良い問題』となる。そう、なるのだ(念押し)。
ともかく――
黒きマシン“ウォークライ”が爆発的な加速を発揮して白いシンギング・エリーを追い抜いた様に、沿道と観戦用飛空船内の観客達は歓声とどよめきを上げた。
「あの黒いの、急に速くなったっ!」とジゼルが目を丸くし「パパ、どういうこと?」
「パパにもよく分からないが……排気煙がきらきらと青く光ってるだろう? あれは多分、活性化した魔素粒子だ。エンジンに魔導の仕組みを仕込んでるんじゃないかな」
レーヴレヒトの鋭い観察眼は答えを捉えていた。それ以上の答えも。
「しかし、序盤からあの仕組みを使わなかった辺り、何かしらのリスクもあるのかもな」
飛空船内の誰もが先頭争いに注目する中、ヒューゴ少年だけは三番手を走る青いマシンを一心に見つめ、頑張って! と心の中で強く応援していた。
〇
トレビシック・パーソンズの黒いマシンが首位に躍り出て、勝利の歓喜を味わえた時間はそう長くなかった。
魔素利用機構――魔素による駆動補助機構の耐久性の検証不足。そもそもの構造欠陥。製作技術の精度不足。部品素材や潤滑剤の品質不足。レース下という高ストレス状態の緊張がもたらす判断と認識の誤り。
原因はいろいろ考えられるが、ともかく、“それ”は起きた。
高圧蒸気に含まれる魔素を用いた高負荷稼働は、高圧蒸気の熱量と相成ってピストンに激しい高温化を招き、瞬く間に金属疲労をもたらした。そして、ぱきりとピストンの角から剝離した爪先ほどの金属片が破滅的な事態を招じさせる。
ウォークライの猛々しい駆動音に『ガギョッ!!』と不吉な異音が走り、バブーッと口に含んだ飲み物を噴き出すように、排気管から蒸気混じりの排煙が盛大に噴出した。
「!? なんとぉ―――っ!?」
勝利の笑みを引きつらせる運転手のエンデバー。
『!! ヤバいっ!! エンデバーッ! 一発逝ったっ!』
機関士のロビーが悲鳴を上げながら大急ぎで制御盤操作し、魔素利用機構を停止。二番シリンダーの稼働を停め、高圧蒸気のラインを残る一番シリンダーへ流した。排蒸口を開けて余剰高圧蒸気を逃がす。『ポーッ!』と甲高い悲鳴と共に白蒸気が勢いよく排出されていく。
排気管から黒煙を、排蒸口から白蒸気を、盛大に黒と白の気体を吐き出しながら、ウォークライは急激に速度を落としていった。
「なんだこれはっ!? ロビー、どうなっているっ!?」
エンドバーは動揺して伝声管へがなり、相棒のロビーも慌てふためいてまくし立てる。
『二番シリンダーが損壊っ! ミッション辺りも怪しい振動が出てるっ! 二番シリンダーが逝った時にドライブシャフトかカムシャフトが歪んだのかもしれないっ! 燃調も狂ったみたいで不完全燃焼を起こしてるっ!』
「長いっ! つまりなんだっ!」
『走れるが、これ以上は飛ばせないっ! それどころか完走できるかも分からないっ!』
「ふざけるなっ! なんとかしろっ!!」
顔を真っ赤にして憤慨するエンデバーは相棒へ怒鳴った。
『どうにもならねえよっ!』ロビーも負けじと怒鳴り返す『残り一発とガタついてるミッションでなんとか走り切れっ!!』
と、そこへ白いマシンが颯爽と傍らを抜き去っていく。
刹那。シンギング・エリーの運転手レクス・ヴァン・ハウベルトが人差し指と中指をピッと伸ばし、敬礼染みたサインを送って寄越した。
「くそったれがーっ!!」
エンデバーが白いマシンの尻を睨みつけながら吠えた時、ウォークライが垂れ流す黒煙を突っ切り、青い雷が飛び出してきた。
「邪魔っ!!」
レースに参加した運転手の中で唯一の女性。麗しき乙女イネス・バラーサは薄褐色の肌を煤塗れにしながら怒声を発し、ウォークライを追い抜いていく。
「ぐうぅうううううっ!!」
悔しさのあまり、エンデバーはもはや言葉を発することも出来ず、がんがんとコクピットの縁を殴りつけていた。
レースはついに、そして、誰もが予想していた通りに、誰もが期待していた通りに――
白獅子とステラヒールの一騎打ちとなった。
レースシーンは次回で終わりや。長々と続けてしまって、申し訳ない。
モブレーサーの元ネタ選びが楽しかった(小並感)




