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転生令嬢ヴィルミーナの場合  作者: 白煙モクスケ
第3部:淑女時代

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21:3+

お待たせ申し候

 今では自動車産業の大巨人となったトヨタも、自動車業界参入前は大手の機織り屋に過ぎず、自動車製造へ挑戦する際は随分と悩んだらしい。


当時の日本の工業力は列強を名乗ることが恥ずかしい水準であり、国内市場は外国の輸入車一択状態。苦労しいしいに国産車を開発して販売したところで、本当に売れるかどうか分からない。


 後にトヨタ初代社長となる豊田喜一郎氏は、特に販売価格と月当たりの販売量(および生産量)の設定に随分と頭を悩ませていたようである。

 輸入車と同等の性能や信頼を持ちつつ、価格面でも互角に勝負できなければならない。性能や信頼性に劣るものでは話にならず、国産車といえど高額では商売にならないのだから。


 結果、豊田喜一郎氏は自動車製造を始める前に自工技術の育成と、自動車商売が軌道に乗るまで持ちこたえられる経済力の養成を行ったという。


 この辺りは脱サラのラーメン屋にも通じる話だ。

 曰く『起業して一番大事なのは、客が来るようになるまで持ち堪えられるか』。


 創作物だと飲食店を起業してポンポンと客が来るようになるが、実際は「開店からひと月の間、客が一人も来なかった」なんて話がザラにある。

 商売が軌道に乗るまでに体力(資金)が尽きて倒産/借金達磨、なんて話は枚挙にいとまが無い。


 であるから、エルンストは自ら方々に赴き、営業を掛ける。社長自らのトップセールス。“大熊”から資金を引っ張ってきて生産体制を整えられるようになったが、肝心のものが売れなくては倒産一直線だ。


 先の“お披露目会”も営業の一環であり、更なる投資の募集でもある。

「しかし……白獅子が根を張っているところは難しいんだよなあ」


 なんたってヴィルミーナは作業車両や産業機械を販売する際、各地に営業所兼整備場を据えてアフターケア体制を構築している。人員の教育や養成、体制構築の費用はデカかったが、一度回り始めれば強い。


 農家のおじさんや工場の社長が連絡をすれば、営業所から整備士がすっ飛んでいき、現場で診察。可能ならその日のうちに稼働状態まで持っていくし、最悪でも修理を確約する。

 これが大きい。白獅子製なら買った後も面倒を見てくれる、という信用と信頼が顧客の囲い込みを生む。


 エルンストに同じことは出来ない。なんたって資本力も組織力も足りないのだから。自身の資産と“大熊”の融資だけでは全然足りない。

 となれば……


「狙い目はイストリア製蒸気機関を扱っているところだな」

 イストリア製蒸気機関は売りっぱなし商売だった。この時代の外資に白獅子のようなアフターケア体制を築くことは難しい。輸入販売店とて同様だ。


 なにより、アフターケア体制は人件費がデカい。強欲なイストリア人資本家はこの手の経費がかさむ商いを好まない(自社工場の工員達を奴隷のように扱っていた辺り、御察しである)。


「イストリア製蒸気機関を自分で整備や修理をしている人間なら、ある程度は自分で弄れるだろう。白獅子のような整備員の派遣ではなく、販売店に相談員を置く形で済むかな」

 よーし、これからがんばっちゃうぞぉ。


 エルンストがふんすっと鼻息を荒くした、その矢先。

 東メーヴラントで三度(みたび)の戦雲が立ち込め、白獅子が装甲トラクターなる動力機関搭載の陸戦兵器をカロルレン駐留中の民間軍事会社へ供給する旨が発表された。


      ○


 何かに熱中する者は往々にして生活を犠牲にする。

 法王国で“遊んで”いたギイ・ド・マテルリッツが研究室に籠り、御付きの高級娼婦に寝食やシモの世話を任せきりになっていたことが良い例だろう。


 齢29歳。女盛りのカーヤ・ストロミロも例外ではない。


 たとえば、ステラヒール社に用意されたカーヤ・ストロミロのオフィスは惨憺たる有様だ。

 8畳間近くある部屋はあらゆる場所に資料や論文や報告書などが積み上げられ、そこら中に紙くずや食いカスその他が散乱し、そこかしこにメモや殴り書きが貼ってある。用意された応接セットは物置台に化けており、高級ソファは仮眠ベッド扱いだ。溢れ返ったゴミ箱には、着汚した着衣や下着などが無造作に突っ込まれていた。

 酷い。

 これで排泄物が詰まったペットボトルやビニール袋があったら、現代の引きこもり廃人の部屋である。


 そして、一度スイッチが入れば、彼女はこのゴミ溜めオフィスに籠って自宅へ帰らなくなる。

 時折思い出したように寝食を取るだけで着替えも入浴も歯磨き洗顔もしない。栗色の髪が脂ぎって茶色気味になっても、充血した目の下に真っ黒なクマが出来ても、着衣の首元が垢で真っ黒、あちこち汚れだらけになっても、委細無視。まったく気にしない。

 酷い。

 どえらい美人な容姿が一層、その無惨さを強調していたし、とかく臭いと汚さときたら、最前線下の女性兵士や長期狩猟中の女性冒険者並みだった。


『私達はストロミロ技師の能力と情熱を認めています。だから、もうちょっと清潔にさせてください。お願いですから』

 といった具合に、現場や周囲からトップのエルンスト・プロドームの下へ陳情――ではなく懇請が来るくらい酷かった。

 今や、ステラヒール社の誰もがカーヤの美貌を忘れている始末だ。


 で。


 白獅子財閥が装甲トラクターをカロルレンに駐留する民間軍事会社へ供給する、という報道を見て以来、カーヤは取り憑かれたように資料や論文を読み漁り、思索し思案してアイデアを書き殴り、試算と検討を重ね続けていた。


 白獅子のエンジンと車輛の技術は軍事の実用レベルに達している。追いつかねば。追い越さねば。今度こそ私の手掛ける純粋な魔導式エンジンで……っ!


「あれはネジが外れきってるな。ああいう人間は良い仕事をするが、自分の健康や命に無頓着だ。放っておくと勝手に弱って死んでしまう。世話係をつけてやった方が良い」

 マルティン・“大熊”・ハイラムが苦笑交じりに助言し、

「ですな。ただ、あの娘は対人関係に難がある。人選が悩ましい」

 エルンストは大熊に同意しながらも困り顔を作る。


「彼女の“噂”は聞いている。好みが一般的な嗜好と異なるそうだね」と大熊は言葉を選ぶ。

「……まあ、いろいろ複雑です」

 こめかみを掻き、エルンストは小さく頷いた。

「なんとかしてみますか」


     ○


「そういう訳でしてね。彼女の世話係に適切な心当たりは有りませんか?」

 エルンストは手元の白磁製カップをじっくり見物しながら言った。白みが冷たい。東方の産かな。


「おいおいおいおい。競合会社のあんたに人を紹介しろって? 正気か? ウチは白獅子傘下だぞ。よしんば、その話を受けてウチが間諜を潜り込ませるとは考えないのか?」

 シックな調子で整えられた応接室で、北洋貿易商事の専務が呆れ顔を浮かべていた。


 そう、エルンスト・プロドームは白獅子財閥の後ろ暗いところを担う北洋貿易商事に乗り込んで『人』の調達を試みていた。図々しいというか、なんというべきか。

 ちなみにエルンストとこの専務は趣味仲間だ。同じ蹴球チームを後援している。むろん、プロである専務は仕事と私生活を分けており、趣味仲間だからと甘い顔はしない。


「その危険性を考慮しても、信頼できる人間が欲しいんだ。私の大事な竜を世話するに足る人物をね。そちらは情報を得られる限り、彼女を傷つけるような真似はしないだろう?」

 エルンストの示唆に専務は頷く。

「ああ。”婿殿”の手が届かないように、か。たしかにウチの人間なら手出しは出来ないわな」


「家族の不和を晒すようで恥ずかしいが、私と婿殿は不仲でね。おかげで嫁がせた娘や孫達とも微妙な関係になってしまった」

 さらっと語るエルンスト。

「この間のお披露目会以降、さっそく私の新会社を傘下に取り込もうとしてる。まったく欲深の酷い婿だよ」


「そんな奴と結婚させられた娘さんに同情するよ」

 専務は鼻息をつき、思案顔を浮かべた。茶を一杯飲み干してから告げる。

「この件は俺の独断では応じられん。“本社”に報告して御意向を図らにゃならん。おそらくは紐付きの派遣をすることになるが、それで構わんのだな?」


「言ったろう? 情報漏洩の危険より彼女自身の安全が優先だとね」

 エルンストはカップを置き、含蓄に富んだ眼差しを向けた。

「それに、ヴィルミーナ様の気質なら、この件の人材に紐も首輪も付けないよ」


「? そら、どういう意味だ?」と訝る専務。

「面子の問題さ。正々堂々と立ち向かってきた挑戦者が競争以外のことで助力を求めてきた。あの方はそんな助けを無下にしたり、利用して埋伏の毒を含ませたりするかい?」

「貸し一つ。そう言って済ませそうだな」

 専務はエルンストの意見に納得しつつも、

「忠告するぞ、プロドーム。あの方の貸しは安くない。それに、」

 にやりと同じく含蓄に富んだ悪い笑みを返す。

「利子が付くことを忘れるなよ」


 結論から言えば、エルンストの読みは正しかった。


“商事”から報告を受け、ヴィルミーナはまず呆れ、次に笑い、最後に「紐も首輪も無用。最適な人物を紹介してあげなさい」と鷹揚に命じたという。

「間諜はさせないと?」とマリサが面白味を込めて問うたところ。


「彼らとは正面切って競うことに意味がある。彼らが競合相手として成り立つなら良し。力不足なら潰すだけよ。間諜の必要はない」

 ヴィルミーナは優雅に目を細めた。冷たくも美しい微笑。

「“商事”には我々を慮ることなく、友人に最良の人材を紹介してあげるよう伝えて」


 後年、ヴィルミーナはこの決断を思い出す度に苦笑いを浮かべることになる。

 大盤振る舞いが過ぎた、と。


      ○


「秘書?」

「兼世話係だね。君は放っておくと生活力が皆無になるから」

 怪訝顔のカーヤに、エルンストは続ける。

「それとね、君の動力機関を売り込んでいた最中、良い人材と出会った。動力開発に関してはこれまで同様、君の思う通りにやって良い。ただ、車両の開発は彼と相談して欲しい」


「私は魔導式機関の開発が出来れば構わない、ませんが……車両開発における優先権は私にあると考えて良い、ですね?」

「もちろん。ウチの強みは何と言っても君の作るエンジンなのだからね。他所はどうだか知らないが、ステラヒールはまずもってエンジンを優先だ。君のエンジンに合わせて車や機械を開発する」


 エルンストは掌中の竜を活かすべくエンジン最優先の開発方針を固めた。この方針の是非は歴史に委ねるとして、この思い切りの良さはカーヤを喜ばせた。


「その開発協力の人はどんな人、ですか?」

「君のように自分の手で何かを生み出そうとする人物ではないね。私みたいに出来る人物へ委ねる気質でもない。そうだな、例えるなら」

 少し思案してからエルンストは言った。

「自分の頭で考えたものを多くの人達の手を借りて形に出来る人間、かな」


制作(プロダクト・)責任者(マネージャー)か」

「そうだね。そう表するべきかな」

 カーヤへ頷き、エルンストは続ける。

「それと、君の世話係はしっかり物をいうタイプだ。上手く付き合っていくなら、君もしっかり意見と理由を言いなさい」

 その言葉にカーヤは心底面倒臭そうに顔をしかめ、エルンストはくすくすと笑った。


 それでは、件の人物を御紹介しよう。


 シモン・フランソワ・ディメを一見して技術者や職人と見做すことは難しい。

 大柄な体躯。筋骨たくましい両腕。堂々たる腹回り。顔立ちは山賊のようで、従軍経験があるのだろう。右頬に刀傷がある。40代半ば。左手の薬指には質素な結婚指輪がはめてあった。


 地味ながら質の良い着衣を着こみ、ネックスカーフは洒落ている。どう見ても洒落者には見えないから細君の趣味だろう。細君が選んだ着衣を素直に着こむ性質らしい。


 シモンは鍛冶屋の倅として生まれた平民だ。実家で修業した後、外洋派遣軍に参加。海軍砲兵として教育を受けるも、現地の人手不足と鍛冶屋の倅という出自から事実上の整備兵として活動。ベルネシア戦役後に退役。

 郷里で兄の継いだ鍛冶屋を手伝っていた折、農家や個人経営の工房や工場などに蒸気機関が普及するにつれ、整備士紛いの商売を始めた。

 そうして自身でも蒸気機関を弄り、車両モドキを自作して転がしていたところを、エルンストに勧誘された。という経緯だ。


 要するにシモンは市井のメカ屋である。松田重次郎や本田宗一郎みたいな、だ。


 さて。

 王国西部にあるステラヒール社――とは名ばかりの安普請。その社長室にて。


 シモンは大きな体躯を沈めるようにソファへ腰かけ、向かい側に座る洒落た道楽家と小汚い格好の鬼才へ言った。

「――なるほど。このストロミロ・エンジンを搭載した輸送用車両を作れと」


「出来るかね?」

「作業車両を作れと言われたなら、考え直すよう答えましたが、輸送用車両ならば、まあ。出来なくはないですな」

 尊大な口調で語るシモンへカーヤが噛みつく。

「作業車両がダメというのは、私のエンジンに問題があると?」


 シモンは反抗期の娘に対する父親のような顔つきで答える。

「資料で確認した限りでは君の作った蒸気機関、ストロミロ・エンジンは問題ない。出力も信頼性も上々だ。ただし構造や形状が違いすぎる。既存の車両構造のまま搭載して運用できるか分からない。ましてや、作業車両は色々と条件(ハードル)が高い」


 たとえば、地面を耕すだけの簡易トラクターにしても耕作地(軟地形)の踏破力や重量鋤を牽引して地面を耕す負荷に耐える頑丈さが要る。畑に入って『沈みました。進めませんでした』では話にならないし、地面を耕そうとして『鋤が折れました。牽引装置が壊れました。負荷で足回りやボイラーが壊れました』では論外である。


「つまりだな。未舗装であれ、一応は整地された道路を走る輸送車両の方がまだ無理が少ない。乱暴に言ってしまえば、エンジンとタイヤとサス。この三つさえしっかりしていれば、一昔前の馬車よろしく材木と粗鉄で作った車体でも構わんのだ。商品として売れるかは別だが」

「社長としては売れるものを作って欲しいね」

 エルンストの冗句を相手にせず、シモンは太い顎を撫でながら雇用主へ続ける。

「技術的に先行している白獅子が蒸気機関搭載の専用車両を開発しないところを見ると、話に聞く内燃機関を軸にするようですな。こちらも内燃機関を開発するので?」


「私は魔導式機関を作るつもり」カーヤは挑むように「内燃機関など作らない」

「車両開発は君のエンジンが優先ということだから、その点については問わない。が、姿形もない魔導式機関を待っていては商売にならん。だから、君には常に二つの動力機関開発を求めたい」

 シモンは両手の人差し指を立てた。

「二つ?」と眉根を寄せるカーヤ。


「そうだ。一つは君の目指す魔導式機関だ。これに関しては何とも言えん。社長と相談してくれ」

 右手を下げ、シモンは左手の人差し指を掲げた。

「もう一つは商売のためのエンジン作りだ。会社を儲けさせ、俺達を稼がせ、君が本当に作りたい魔導式機関を作るため資金確保に蒸気機関や内燃機関を作る。君が作った既存の蒸気機関を改良や改造で済ませても良いが、君自らにも作って貰わなくはならない。この会社のエンジンは君の名前と技術力が担保だからだ」


 シモンの明瞭な説明に、カーヤは了承せざるを得なかった。本音を言えば、魔導式機関の開発に没頭したい。が、ステラヒール社が倒産しては開発のために必要な資金も資源も施設も人でも失ってしまう。

 ゆえに、カーヤは唇を尖らせながら露骨に渋々と頷いた。

「わかった。それで良い」


「理解して貰えて結構。まあ、本当の相互理解は共に仕事を始めてからだろうが、よろしく頼む。ストロミロ技師」

 シモンが大きな右手を差し出し、カーヤは人間不信の猫みたいにその手を掴んだ。

「……よろしく」


 2人のやり取りを見守っていたエルンストは満足げに呟く。

「君達の物作りが楽しみになってきたよ」


「それで、私の秘書とやらはどこ? 顔合わせは今日だったはず」

 不満顔のままカーヤが問う。


 エルンストは悪戯坊主のように言った。

「既に君のオフィスへ向かわせてある。今頃は掃除をしてる頃からじゃないかな」


 瞬間、カーヤは血相を変え、社長室を飛び出していった。


 その背中を見送り、シモンはエルンストへ顔を向ける。

「あんな“逸材”、どこで見つけたんです?」

「分かるかい?」とエルンストは自慢げに反問した。


「分かりますとも」

 シモンは鼻息をつき、カップを手にした。すっかり冷めたお茶を口にし、どこか拗ねるように言う。

「あの娘っ子で“楽しむ”ために私を用意したんでしょう? いい面の皮だ、まったく」


 エルンストはにやりと白い歯を見せた。悪魔のように良い笑顔だった。

「私は道楽家だからね」


      ○


 カーヤさんがオフィスに飛び込めば。


 なんということでしょう。

 ゴミ箱同然だったオフィスは新築の如く綺麗になっているではありませんか。


 害虫や鼠を養っていた食いカスなどは綺麗さっぱり処分され、床も壁もピカピカです。カビが生えかかっていた窓からは燦々と春の日差しが入ってきます。


 室内に所狭しと並んでいた資料や書類はもちろん、そこら中に貼られたメモや書き殴りも全てファイリングされ、ラベル付きで棚に並んでいます。どんなアホでも何がどこにあるか一目瞭然でしょう。


 物置台と化していた応接机は綺麗に磨き上げられ、仮眠ベッド扱いだったソファもリファインされています。


 メモ書きに対応すべく大きめの黒板とメモ貼り用コルクボードが用意されています。

 役立たずだったゴミ箱はより大きなゴミ箱が用意され、ずぼらなカーヤさんにも対応しました。


「噓でしょっ!?」

 カーヤさんは生まれ変わったオフィスを前に悲鳴を上げました。何故でしょうか?

「前の部屋に馴染んでたのにっ!」

 あのゴミ溜めに馴染む……頭が湧いているのかもしれません。いわゆるキチガイと紙一重のクチなのでしょう。


「貴女は文化的生活を送るべき人間であり、このステラヒール社を代表する魔導技師です。相応しい御部屋で仕事を行う義務があります」

 ドア際に控えていた匠が挨拶を口にしました。

「だ、だれっ!?」

 今更気付いて驚くカーヤさんへ、御紹介しましょう。


「イネス・バラーサ。本日付で貴女の秘書兼お世話係を務めます」

 御年17歳。カーヤさんから一回り以上年下。お肌がツルツルスベスベです。可愛い。

 南小大陸の出身で父方がベルネス・エスパンの混血で、母方が南小大陸人という中々に凝った混血者です。可愛い。


 淡い栗色の長髪を三つ編みに結って巻き上げ、幼さの残る可憐な顔立ちに、意志の強そうな薄紫色の双眸が宿っています。仄かな薄褐色の肌をした細身を包む衣装は、薄青のブラウスシャツに体形を露わにするタイトな形状の黒い綿製サロペット。腰を絞るように巻かれた装具ベルトにはメイド仕事用のあれこれ。足元は編み上げブーツです。可愛い。


「御心配なく。この私がお世話するからには貴女を決して物乞い同然の有様にはしませんし、貴女の御部屋やお住まいもゴミ溜めや鼠の巣窟にしたりしません。安心してお仕事に専念なさいませ」

 イネスさんの一方的な宣言に、カーヤさんは感激の声を上げます。

「ふ、ふ、ふふ、ふざけるな―――――ッ!!」





「何か聞こえてきましたが」

 訝るシモンへ、エルンストは悪戯が成功した悪ガキのような満足を湛えた。

「なに、出会いが上手くいっただけさ」


      ○


 後世の歴史家は語る。

『ストロミロ女史は紛れもなく鬼才。称賛に値する才女である。

 しかし、


 彼女へ資金や施設その他を与えたエルンスト・プロドーム。

 彼女を巧みに御して産業開発者たらしめたシモン・ディメ。

 彼女が全力で仕事に専念できるよう支え続けたイネス・バラーサ。


 この三人を得たからこそ、カーヤ・ストロミロは真に竜へ化け、獅子の群れに挑むことが出来たのだ』

自動車黎明期に自信あり、な方々に御意見を求めましたところ、

マイソフさん、K1028さんから御意見をいただき、zf_ttさんから資料を御紹介いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

ありがたく今後の執筆の参考にさせていただきます。


また、いつも拙作に温かな御感想を下さる皆さんにも感謝申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 疑問に思っていること。 飛行船の推進動力はなんなのでしょう? それは、エンジンにならないものなのでしょうか?
[一言] before afterテイストの箇所。 イネスさんはコレット管理官の薫堂を受けた人かな~と予想。
[良い点] もう頭の中に可愛いしか残ってないんですが [一言] 敵に塩だけじゃなく新巻鮭まで付けちゃってるじゃないですかー!
感想一覧
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