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先月は更新回数が乏しく、大変申し訳ありませんでした。
エルンスト・プロドームは経営者や実業家として優秀でも、技術的な知識は皆無に等しい。間違っても自分が主役として動力機関を開発することなど出来ない。
まあ、その点は問題ない。ヴィルミーナが“そう”であるように、エルンストもまた、自分に出来ないことは出来る奴に任せればよい、と考える人間だった。
最大の問題は別にある。
白獅子の技術的優位性だ。ヴィルミーナは起業以来、人材を集め、資金と資源を投じて育成してきた。今や白獅子技研の実力は西方随一。特に動力機関に関しては世界最高水準にある。
白獅子の技研ほどの陣容を整えようとすれば、時間と金がいくらあっても足りない。
故に並外れた鬼才か、常軌を逸した畸才を軸とする少数精鋭しかなかった。
むろん、そのような人材は竜玉より稀少であり、欲したところで早々見つかるものではない。
ただし、手がないわけではなかった。
エルンストは道楽者という評に相応しく多趣味であり、趣味を通じて幅広いコネクションと人脈を持つ。人材を求める時、屋敷のサロンや酒場の個室、猟場や競技場で『これぞという人はいないかな?』と問えば、相応の名前を得られたりする。
共通暦1799年、白獅子の展示会から数日後。
エルンストは実業家仲間の――おっさん達の蹴球同好会でちょっとばかり汗を流した後、クラブハウスでムール貝とポテトフライを肴に冷えたビールを呷っていた時。
「開発力のある技術者が欲しいんだ。白獅子の動力機関に挑めるような」
「おねだりする相手が間違っていないかね、エルンスト? 白獅子やイストリアが手掛けた絡繰り物は魔導学者の守備範囲外だよ」
すだれ頭の壮年男性――魔導学院のビースタ教授は微苦笑しながらスパイス・ビールを口に運ぶ。
「そうなのかい? 魔導学院内で動力機関研究を立ち上げる動きを耳にしたんだが。てっきり人材が揃っているものかと思ったよ」
エルンストがちくりと刺せば、ビースタ教授は苦い顔を浮かべる。
ヴィルミーナが某所で発した『魔導技術は停滞している』という言葉は、ベルネシア国内の魔導術士達を強く刺激した。技術者も学者も『素人が何も分かっとらん』と憤慨しつつも、図星を突かれたようなバツの悪さを覚えており『見返したらぁ』と意気込んでいる。
「相変わらず耳が早いな」
ビースタ教授は嘆息をこぼしつつ、苦い顔を崩さずスパイス・ビールで舌を湿らせる。
「君の言う通り、魔導学院内でも動力機関の研究部署を立ち上げようとしているが……実現には何年も掛かる。なんせ学院には理論研究者が幾人かいるくらいだ。彼らにしても、これまで白獅子の動力機関開発のために引き抜きが掛からなかった者達、と言えば分かるだろう?」
「思った以上に厳しい状況だな」とエルンストも眉根を寄せて唸った。「魔導筋から人を得るのは無理か」
演技掛った調子で仰々しく溜息を吐くエルンストに、ビースタ教授は陶製ジョッキを弄りながら思案顔を作り、切り出す。
「エルンスト。何をする気なんだ?」
「挑戦さ」
エルンスト・プロドームは飛びっきりの悪戯を思いついた悪ガキのように笑う。
「動力機関市場に乗り込みたい。そのために魔導技師が欲しいんだよ」
「つまり、魔導技術ベースの動力機関を作ると? 工学技術ではなく?」
「ああ。魔導技術由来の動力機関だ。白獅子の女王様をアッと驚かせてやりたいのさ」
口端を吊り上げてニヤリと微笑むエルンスト。ビースタ教授も釣られるように微苦笑を浮かべた。
「まったく。君は道楽者だな」
ビースタ教授は思う。確かに道楽だ。しかし、悪くない。まったく悪くない。特に白獅子の女王様を驚かせるという点が良い。白獅子が最も力を入れている分野で魔導技術を示す。それは最高の道楽だ。
エルンストと同じく、ビースタ教授も悪ガキ面を浮かべる。類は友を呼ぶ、というわけだ。
「心当たりが一人だけいる。ただ、現段階では未知数だ。君の期待に応えられるかどうか分からない」
「博奕になるわけだ」エルンストは唇の両端を歪め「面白い。どんな人だい?」
問われたビースタ教授は若干意地悪っぽく微苦笑し、答えた。
「君と同じだよ。紙一重のクチさ」
○
王都オーステルガム計画拡張区画の一角。
ガテン系御用達の飯処。客で賑わう昼飯時。カウンター席でどえらい美人がガツガツとパワーランチを掻っ込んでいる。
いや、残念な美人というべきか。
年の頃はまだ二十代半ば頃か。幾日も洗っていないだろう栗色の長髪は脂と汚れで茶味がかっていたし、化粧皆無な顔は酷く肌荒れしている。充血した双眸には黒々とした大きなクマ。すらりとした長身を包む上着もズボンも縫い目がほつれているわ、あれやこれやで汚れているわ……
ともかく小汚い美人は鬼気迫る勢いで烏竜のステーキや白身魚のムニエルを食らい、パンやジャガイモを口に突っ込み、野菜を貪り、ワインを呷って胃袋に流し込む。
新人:すげェ食いっぷり。あの姐さん、なにもんスか?
親方:魔導技師の先生だ。日頃飯もろくに飯も食わずに仕事をしてるらしい。
で、この店に現れちゃあ、ああやって馬みたいに食うのさ。
怒涛の勢いで昼飯を平らげると、残念美人は食後の余韻を味わうことなく腰を上げた。卓に銀幣を置いて出入り口へ向かう。
「ストロミロ先生も年頃の娘なんだから、もうちょっと身なりとか仕草とか気にしちゃあどうだい」
眉をひそめる女将が小言を吐くも、残念美人の回答はただ一言。
「ほうっておいて」
残念美人がふらつきながら店を出ると、店の前に場違いなほど上等な馬車が停まっていた。
客車の乗降口前で控えていた初老の御者が恭しく一礼する。
「カーヤ・ストロミロ様ですね?」
「……誰?」
怪訝そうに眉根を寄せる残念美人――カーヤ・ストロミロへ、
「我が主エルンスト・プロドームがストロミロ様に是非お会いしたいと所望しており、こうしてお迎えに上がりました」
初老の御者は客車のドアを開けて乗車するように手振りで促す。
むろん、どれだけ頭と股が緩くとも、知らない奴の馬車に乗り込むような女はいない。
カーヤも御者を無視し、誘いを拒絶するように踵を返した。
瞬間、御者が告げる。
「我が主はストロミロ様が魔導学院在学中に提出した論文について、大変強い関心を抱いております。ストロミロ様の御提案を実現することの可否と将来の可能性について、お話を伺いたいと」
カーヤは動きを停め、再び御者に向き直る。双眸を吊り上げて御者を睨み据えた。
「……どういうこと?」
「詳しいことは我が主から直接どうぞ」
御者は慇懃に馬車のドアを示す。
カーヤ・ストロミロは残念美人であるが、甘い話に引っかかるパープリン女ではない。
しかし、どんな人間にも踏み出す瞬間がある。自覚的であれ、無自覚であれ、自ら望んで悪魔の許へ歩み寄る瞬間が。
カーヤは馬車へ向かって踏み出した。その歩みに迷いは一切見られない。
馬車内は最上級の仕立てが施されていた。北方変異樹の木材フレームには瀟洒な彫刻が施してあり、向かい合うシートは滑らかな最高級ベルベットだった。飲み物を容れた保冷庫すら完備してある。
そして、壮年の紳士が座っていた。
濃紺色のスリーピース。襟元にはスカーフタイ。袖口のカフス。全てが最高級品。誰が見ても金持ちと分かる50絡みの紳士はにやりと微笑んだ。
「私がエルンスト・プロドームです。不躾な招待に応じてくれてありがとう、カーヤ・ストロミロ女史」
エルンストはカーヤに向かい側へ着席を促す。
警戒心全開の仏頂面を湛えたまま、カーヤはエルンストの向かい側に腰を下ろした。先ほどの飯処を利用するガテン系達の年収より高い座席へ座ることに、気後れをまったく見せない。
カーヤが着席した直後、見計らったように馬車が進み始めた。非常に滑らかな発進で客室は微動にしない。
「この馬車は白獅子製の最高級馬車でしてね。一流の御者が扱えば、このように乗り心地が快適極まる」
エルンストはにこにこと微笑みながらホスト役を務める。
「何か飲み物は? シャンパン、シードル、果実水と揃えてあります」
無言で首を横に振るカーヤ。大きなクマがある双眸でじろりとエルンストを睨む。深青色の目が口ほどに物を語っている。
さっさと本題に入れ。事情を説明しろ。
しかし、エルンストは気にすることなく小さな車載保冷庫から小柄な瓶を取り出し、栓を抜いた。ぽん、と小気味よい音色が響く。
よく冷えたシードルを口に運び、エルンストは瓶を持たぬ左手でぽんぽんとシートを叩く。
「現在、主流となっている馬車にはベアリング式車軸、板バネ式サスペンション、副筒式ダンパー、硬質処理化スライム皮革製タイヤなどが採用されています。
今から20年ほど前、ベルネシア戦役前にクェザリン郡の代官が音頭を取って、郡内の諸工房や町工場が共同開発したもので、今は白獅子財閥が胆の部分を担っています。
特に車軸のベアリングやサスペンションの板バネ、ダンパーなどの根幹部品は白獅子製の高品質な添加鋼でないと、性能が落ちる。とはいえ、それでも他国製馬車を圧倒する踏破性や走行効率性を有していますがね」
長話に含まれる真意が見えぬカーヤが不信感と苛立ちを覚え始めたが、エルンストはシードルで喉を潤し、話を続けた。
「先にも言いましたように、この馬車はクェザリン郡という片田舎の技術屋達が総結集して作り上げた、とされています。
それは事実だけれど、不正確だ。
クェザリン郡の代官ゼーロウ男爵の御細君は王妹大公殿下の御学友で、殿下は毎年のクェザリン郡を訪問しておられた。さらに言えば、ゼーロウ男爵御次男様は王妹大公御嫡女にして白獅子財閥総帥ヴィルミーナ様の夫君であられる。
これは私の想像に過ぎませんが、おそらくこの馬車の新技術開発を進めたのは、ヴィルミーナ様でしょうな。当時はまだ白獅子財閥を起こしておられなかったから、縁深いゼーロウ家を通じてクェザリン郡で作らせたのでしょう」
「何が言いたい、のですか?」
取ってつけたような敬語でカーヤが指摘すると、エルンストはにんまりと微笑む。
「一般論で言えば、この馬車は充分に素晴らしいものです。普及し始めた頃は車両技術の革新とさえ評価されました。ところが、今やこの馬車も過去のものになろうとしています。他ならぬヴィルミーナ様の手によってね。貴女は白獅子の展示会に行かれましたか?」
問われたカーヤはこくりと頷く。態度は未だ固い。
エルンストは満足げに首肯し、シードルの瓶を呷ってから大きく息を吐いた。
「白獅子の蒸気船や工作機械、作業用車輛。いずれも素晴らしいものだ。新しい時代を感じさせる。だけど、この状況は“つまらない”」
「つまらない?」
カーヤが怪訝そうに繰り返すと、エルンストは双眸を微かにぎらつかせた。
「ええ。ええ、そうです。ストロミロ女史。私は品目が多い店が好きでしてね。肉料理に限っても、肉の種類が多ければ多いほど良いし、料理の品数が多ければ多いほど良い。選ぶ楽しさが増しますからね。そして、これは決して私だけの趣向ではないと考えています」
言葉に熱気が乗り始めていた。エルンストはぎゅっとシードルの瓶を握り込み、
「これから多くの分野で機械化が進むでしょう。その根幹を担うものは間違いなく動力機関だ。そして、動力機関の市場は白獅子に掌握されようとしている。このままでは白獅子の開発製造する動力機関が標準となり、主流となってしまう。それは些か多様性に欠いた退屈な世界だと思いませんか?」
「……つまり白獅子とは方向性の異なる動力機関を作り、市場へ殴り込みを掛けたい。そういうこと、ですか?」
カーヤの反問ににたりと口端を歪めた。
「ええ。まさにです。ストロミロ女史。ヴィルミーナ様の白獅子は非常に強力な組織です。しかし、彼らは強大であっても無敵ではない。
たとえば、あれほど非凡な開発陣を揃えていてもなお、魔導技術系統の動力機関は開発成功に至っていない。彼らをして蒸気機関や内燃機関の研究開発で手いっぱいになっている。
分かりますか、ストロミロ女史。今が好機だ。今を逃せば、彼らも魔導技術系統の動力機関を手掛ける。いや、既に手掛けているかもしれない。動力機関市場を支配する気なら、魔導技術系統の動力機関を開発しない訳がない」
エルンストは怒涛の勢いでまくしたてる。道楽者の情熱、と片付けるには熱量が高すぎる。狂気すら垣間見えた。
シードルの瓶を干し、エルンストは前のめりになってカーヤを真っ直ぐに凝視する。深青色の瞳を貪婪に輝かせながら、熱のこもった言葉を重ねた。
「ストロミロ女史。貴女が魔導学院時代に記した論文を目にしました。有体に言ってしまえば、私にはほとんどを理解できませんでしたがね。
ただ、私の信頼する友人が言っていましたよ。貴女は動力機関に対して独自の発想と思考を持っていると。私の野心と目的を委ねるに値する人材は貴女以外に居ないともね」
エルンストは空瓶を屑籠に放り込み、いよいよ切り込んだ。
「私と一緒に白獅子へ挑戦しませんか? 歴史にその名を刻んでみませんか? 世界に選択肢を一つ増やし、少しばかり多様性を満たしませんか?」
その様は勧誘や招請というより、悪魔が魂を奪おうと甘言や佞言を弄しているようだった。
カーヤは眼前の異様な男に気圧されながら、誘いを断るという選択肢を早々に捨てていた。
なぜならば。
カーヤ・ストロミロは――
夢を叶えるためなら悪魔と手を握る、そんなフォン・ブラウンの如き女だった。
目的を果たすためなら悪魔より冷徹になる、そんなコロリョフ染みた女だった。
自身の目指し、求めるものを実現させるためならばなりふり構わない、そんなポルシェのような女だった。
であるから、カーヤ・ストロミロは言った。
「一つ聞いておきたい」
常人なら、なぜ自分に白羽の矢を立てたのか尋ねたかもしない。ところが、カーヤはそんな非建設的な、よりはっきり言えばまったく無駄な質問などしない。ある部分に限り強烈な自負と自尊心を持つカーヤは、エルンストが自分を選んだことを当然だと認識している。
ゆえに、カーヤの放つ言葉はもっと具体的で、もっと即物的だった。
「私にどれだけ金を出せますか?」
エルンストは満面の笑みを浮かべた。
「私に能う限り」
この日、エルンスト・プロドームはカーヤ・ストロミロという竜を手に入れたのだ。
○
エルンストにとって、カーヤ・ストロミロとの出会いは多大な幸運であったが、幸運は他にもあった。
地中海情勢が悪化し、ヴィルミーナと白獅子の目がそちらに向けられた。アンジェロ事件の発生後は財閥の総力を挙げて地中海とコルヴォラント半島の戦に注力していた。
如何にヴィルミーナが怪物染みた女であっても、白獅子が表に裏に強力な組織であっても、耳目の届かず、手が足らない場所が出てくる。
また、ヴィルミーナと白獅子の動向を好機と見做したルダーティン&プロドーム社も、アルグシアやエスパーナ経由で戦争市場の蜜を舐め取ろうとしており、道楽者の会長に注意を払わなかった。
おかげでエルンストはヴィルミーナや娘婿に掣肘される事無く動けた。
まず、エルンストは動力機関の研究開発を秘匿すべく隠れ蓑を設立する。本国西部の片田舎にイストリア製トラクターの耕作車両を農家に貸し出す農業支援会社を作り、カーヤや研究開発の人員を整備士として送り込む。
実際に行われていたことは整備ではなく研究開発であったが、もちろん周囲にはそんなこと分からない。
プレハブ小屋染みた安普請で、カーヤの設計した魔導技術式の動力機関を、クレテア経由で調達した白獅子製の資材を白獅子製の精密工作機で部品に加工し、試作。試作した動力機関をイストリア製トラクターに積んで試験する。といったトライ&エラーが繰り返された。
まったくせせこましいというか、涙ぐましいというか、ともかくそうした隠蔽活動のおかげで、白獅子はエルンストの暗躍に気付かなかった。
まあ、それどころではなかった、とも言うべきか。
共通暦1780年から81年に掛け、ヴィルミーナは地中海戦争とベルモンテ潰しに全力を投じしていたし、82年以降は地中海戦争の後始末に忙しかった。
そして、地中海戦争後は無思慮な連中の起こした陸運絡みの騒動に奔走させられている。道楽者と大熊が会談するまで、ヴィルミーナや白獅子がエルンストの暗躍に気付く余裕が無かった。
別の視点を挙げるなら、ヴィルミーナと白獅子に少なからず先入観があった点も見過ごせない。
蒸気であれ内燃であれ、動力機関は自分達が長い時間と多くの人員、高額な機材や設備を投じてようやく実用化し、商品として流通させたもの。大々的な用意や準備無くして動力機関の研究開発や製品化など不可能。ましてや、白獅子の動力機関は産業革命で先行するイストリアをして冷や汗を掻くほどの代物。
そんな白獅子製動力機関に挑む動力機関を、少人数の開発陣が片田舎の安普請でこさえているなど、想像だにしなかった。
加えて、ヴィルミーナも側近衆もエルンスト・プロドームとマルティン・ハイラムの会談が『挑戦』の起点だと思った。
そのため、エルンストとハイラムが実用レベルの動力機関を開発するまで数年の時間を要すると見做していた。
ところが、実際にはエルンストが動き出して既に5年が経過しており、カーヤの研究開発は白獅子製やイストリア製の蒸気機関を構造的な踏み台にしたことで、想像以上の開発速度を発揮していたのだ(その分、いろいろと無茶もしたが)。
つまり……エルンストがハイラムに融資を求めた理由は、ゼロから動力機関を開発製造するためではない。
カーヤ・ストロミロが開発した魔導式動力機関を“製造販売”するための生産体制を整えるために、資本を必要としたから。
すなわち共通暦1784年。エルンストは白獅子へ挑む下準備を終えていたのだ。
共通暦1784年:王国暦266年:初春
大陸西方メーヴラント:ベルネシア王国:王都オーステルガム
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「ストラギア?」
王都社屋の執務室で、ヴィルミーナは書類に目を通して怪訝そうに眉根を寄せる。
「古ベルネス語でステラヒールと読むそうです」
アレックスも困惑気味に眉を下げながら、簡単に説明した。
「登記上は西部の片田舎にある農業支援会社で、農機の貸し出しや整備、農作業請負なんかを扱っているみたいですね」
「その田舎の農機屋がどうして王都で招待会を開いて、ウチに招待状を寄こすの?」
ヴィルミーナの疑問にアレックスも答えに窮し、少し考え込んでから可能性を指摘する。
「今、調査に当たらせていますが……もしかしたらプロドームとハイラムの筋かも」
アレックスの指摘に、ヴィルミーナの眉間の皺を深くした。
「可能性はあるわね。ウチも昔は技研に馬車工房のガワを被せていたし、このステラヒールとかいう会社が隠れ蓑かも。登記上で設立はいつになっているの?」
少しお待ちを、とアレックスは手元の書類をめくり、眉目を険しくした。
「……っ! 設立は79年、約5年前です」
「5年っ?」
ヴィルミーナは目を瞬かせ、ハッと息を呑む。
「――私が地中海に足を取られている間に準備を整えていたということか。であるなら、道楽者と大熊の茶飲み話は……」
「やはり動力機関でしょうか?」
「わざわざ耕作機械を取り扱う会社をガワにしている辺り、間違いないでしょうね」
苦い顔つきでアレックスに返し、ヴィルミーナは右手中指で顎先を弄りながら続けた。
「このステラヒールの情報を搔き集めて。会社の資本金やその出どころ、経営実態から社員一人一人の個人情報も経歴はもちろん性癖まで一つ残らず」
「すぐに」とアレックスは力強く頷き「この招待会は如何します?」
「ヘティとキーラは必ず連れて行く。予定を開けておくように伝えて」
白獅子の技術系総奉行と法務系親方を現場へ連れて行き、技術的な知見と特許関連の意見を求めるためだ。
ヴィルミーナは眉目を険しくしながらも、どこか楽しげに招待状を突いた。
「さてさて、どんなものを見せてくれるやら」




