20:10a
お待たせしました
大陸共通暦1781年:晩秋
大陸西方コルヴォラント:ベルモンテ公国
――――――――――
真っ黒な雨雲が王都に覆い被さり、太陽を遮っている。
ざあざあと風切り音を引いて落ちてくる大きな雨粒。石畳の汚れが側溝に押し流され、側溝内を汚れた雨水が勢いよく流れていく。
朝食後、ヴィルミーナは侍女達の手で着付けられていた。
化粧を済ませ、用意された衣装をまとっていく。光沢のある墨色のスレンダードレス。裏地が朱色の片掛け黒マント。金糸の飾り緒。襟元には十字章に似た装飾品。優雅な腰帯に儀礼短剣を佩く。薄茶色の長髪を深紅の飾り紐でハーフアップに。
着せ替え人形になりながら雨天の朝模様を眺め、ヴィルミーナは谷川俊太郎の詩を思う。
カムチャッカの若者。キリンの夢。メキシコの娘。朝もやのバス停。ニューヨークの少女。寝返り。ローマの少年……ローマの少年はなんやったけ。
主の髪を仕上げ終え、侍女の一人が仕上げにティアラを被らせた。
軍礼装的なドレスに瀟洒なプリンセス型やクラウン型は似合わないため、シンプルで細めのカチューシャ型ティアラだ。
姿見鏡を一瞥し、ヴィルミーナは小さく口端を緩めた。
「うん。いつも通り完璧な出来ね。ありがとう」
「有難き幸せ」と微笑む侍女達。
ドアがノックされ、ヴィルミーナが『どうぞ』と応じれば、御付き侍女メリーナが姿を見せる。メリーナは侍女然とした装いではなく、蒼を基調としたフォーマルドレスにベールを被り、装飾品に見せかけた魔導触媒を幾つも装備している。
御付き侍女兼護衛魔導術師メリーナが問う。どこか緊張気味に。
「まもなく御時間です。よろしいですか?」
「ええ」
ヴィルミーナは不敵に告げた。
「“出陣”しましょうか」
さあ。決着の時や。
そして、宮城西宮に滞在していたベルネシア一行が会場のある東宮へ移動を開始した。
ヴィルミーナとアルトゥール、クレメント大主教を中心に諸官が続き、一行を礼装の海兵隊が直衛し、前後を完全武装した民間軍事会社の要員が展開している。無論、要人の傍には最精鋭の護衛が控えていた。
ヴィルミーナの傍には筒型覆面で顔を隠した民間軍事会社の警護員と、御付き侍女兼護衛魔導術師メリーナが付き添っている。その後ろにはアストリードとパウラが続く。2人ともヴィルミーナに合わせてどこか軍礼装的なフォーマルドレスを着こんでいた。
東西宮を繋ぐ大連絡路へ向け、一行が西宮中庭傍廊下を進んでいく中、
「……本当に仕掛けてくるでしょうか?」
メリーナが些か険しい顔つきで密やかにヴィルミーナへ問う。
「もう“始まって”いるかもね」
ヴィルミーナが薄く微笑んだ。覆面で顔を隠している警護員が苦笑するように涼やかな双眸を細める。
冗談めかして告げられた言葉は、真実でもあった。
王太子ピエトロのクーデター以来、ベルモンテの政情は不安定だ。
陸軍の主力は北と南の国境に張り付いているが、血気盛んな青年将校グループやいくつかの部隊が強く反発しており、怪しい動きを見せていた。艦隊が壊滅して以降、持て余している海軍将兵の一部や愛国者気取りの貴族や民衆も同様だ。
中でも、教会の強硬派が異端を討つべし、背教者を誅すべしと喚き散らしている。
むろん、王太子派も黙って指をくわえてはいない。軍の不穏分子を拘束し、実働部隊から排除していた。また、市井の短慮で愚昧な手合いを片っ端から捕縛し、予防拘禁している。
加えて、白獅子の荒事師達、ベルネシアを始めとする各国の諜報員や工作員、調略されたベルモンテ貴族などが暗躍し、“脅威”を物理的、政治的に排除していた。
さながら幕末の京みたいな有様に対し、策謀を巡らせている魔女は腹の中で嘲り笑う。
パープリン共がよぉ踊りよる。ま、バカが淘汰されて丁度ええわ。
酷薄な悪意を滲ませるヴィルミーナを横目にし、警護員は控えめに頭を振った。
またぞろ悪いこと考えてるな、と言いたげに。
○
ベルモンテ宮城の大広間は『豪華絢爛』の一語に尽きる。
大理石の床と壁は鏡のように磨き上げられており、壁に飾られた絵画や彫像はいずれも歴史的逸品ばかり。圧巻は広い天井一杯に描かれた一枚絵だ。
『ベルモンテ公の戴冠』と呼ばれる天井画で、国祖たる初代公王がお告げの聖天使から王冠を授かり、天使や聖人達から祝福される様が描かれている。天候が良好なら、天井際に並ぶ明かり取り窓から差し込む陽光が絵画を一層映えさせただろう。
バルベリーニ宮の天井画並の大作やん。見事やな。とヴィルミーナは前世の海外旅行で目にしたバロック天井画の大傑作を思い返す。
ベルモンテ宮城の天井画はモチーフがいささかお手盛りに過ぎるが、これほど大きな一枚絵を作り上げた財力と権威は感嘆に値する。また純粋な芸術としてみた場合、讃嘆しか出てこない。
もっとも、この日、大広間に集まった者達は見事な天井画を楽しむ余裕を持ち合わせていない。大勢の諸侯諸官から警備兵まで誰も彼もが、己の抱える心情と苦難に沈痛な面持ちを浮かべていた。
そして、女子供――諸侯の妻子の姿も目立つ。
ヴィルミーナは密やかに眉をひそめた。
子供がおるな。
彼らの“選択”次第では、子供達が巻き込まれてしまう。
ヴィルミーナという女はビジネスにおいて子供を見捨てることを厭わないが、眼前で無辜の子供が斃れる様に心を動かされないほど、人間性を捨てていないし、人間を辞めてもいない。
か弱き子供を守ること。それは近代文明人の務めであり、大人の責任であり、ヴィルミーナの良心だった。
一方で、悪心が嗤う。
ガキなんかほっとけばええ。事が起これば、ここで死なんでも似たような目に遭うやろ。早いか遅いかの違いでしかあらへん。“これまでのように”見捨てたらええ。
善悪の二律背反。
細面に微かな苦悩を滲ませながらも、ヴィルミーナは警備主任の海兵隊将校に決断を伝えた。
「想定に変更なし。我が国と友邦の要人を守り抜くことを最優先。ベルモンテ側の付帯損害は考慮無用。責任は私が取る。為すべきを為しなさい」
「了解しました」と海兵隊将校が首肯したところへ、
「間もなく国王代理ピエトロ王太子殿下が御入室されます。皆様、調印式開会の御用意をお願いいたします」
侍従官らしきもの年かさの男が見事なバリトンを響かせる。
ベルモンテの人々は大広間の右側に、ベルネシアその他の関係者は左側に別れていく。
大広間に用意された雛壇に瀟洒な長机と椅子が並び、背後には大聖堂から運び込まれた聖剣十字像と祈祷台が据えられていた。
ヴィルミーナとアルトゥールがベルネシア側の先頭に立ち、一歩引いたところにクレメント大主教と外交官や軍将官が並ぶ。
両国の兵士や警護官達はいつでも捧げ剣、捧げ筒の姿勢を取れるよう準備した。
「国王代理ピエトロ王太子殿下。御入室されますっ!」
大広間が静寂に満ちる。しわぶき一つ生じない。
凍るような静寂の中、ピエトロ王太子は自身の妻子と妹――王女アウローラ一家、それと母である王妃を伴って大広間に入室した。
ヴィルミーナは初めて目にする父方従兄姉とおばに対し、血縁的親しみをまったく覚えない。遠い親戚というラベルが貼られた赤の他人。その程度の感慨だった。
なんというか――子沢山やな。
ピエトロの子は5人。アウローラの子は6人。上が14、5歳。下は2、3歳で合わせて11人。
近世的多産価値観なのか。それとも、マリア・テレジアよろしく血が細ったエスロナ家の復興を叶えるべく励んだのか。
お年玉を上げることになったら泣きの入る額になるな・・・とヴィルミーナがつまらぬことを考えているうちに、調印式が始まる。
○
調印式に国際会議のような丁々発止のやり取りは無い。
これまで重ねた交渉の結果を正式に認め、約定書にサインするだけ。つまるところ約定の周知を目的とする発表会であり、『交渉お疲れさまでした』というセレモニーだ。
此度の調印式にしても、雛壇上の長机で用意された降伏文書にサインして戦争から足抜けし、和解状にサインしてエスロナ家の諍いも終わり。勝者達は西宮で勝利の美酒を呑み、敗者は後始末を思いながら苦い酒を舐める。
それだけのこと。
長机にピエトロとアルトゥール、聖冠連合帝国外交官、クレテア王国外交官、タウリグニアとナプレ王国外交官が並ぶ。それぞれの国に収められる公式文書にまずピエトロがサインした。
白鷲頭獅子の幼羽に金細工が施された儀礼用羽ペンにインクを付け、羊皮紙にベルモンテ全権代表としてその名を記す……のだが、現実の重圧と重責に手が大きく震える。
列強の老練な外交官達は冷厳にその様子を見つめ、若いアルトゥールは憐憫を覚え、タウリグニアの外交官は淡白に、ナプレの外交官はどこか優越感を滲ませていた。
ピエトロは幾度も深呼吸し、肚に力を入れて震えを抑え込み、なんとかサインを記していく。用意された全ての降伏文書にサインし終えた時には、その顔は土気色になっており、脂汗がありありと滴っていた。どれほどの苦悩を抱えながらペンを握っていたのか、誰の目にも明らかだった。
ベルモンテ側からすすり泣きがこぼれ聞こえてくる。王妃と王太子妃、王女は大粒の涙を拭い、年長の王子や姫も目を赤くしていた。年少の子供達は周囲の不穏な気配に釣られて泣き出しそうだ。
ヴィルミーナはその光景を目にしながら冷淡に思う。
暢気に泣いていられるお前達は幸福だと。
お前達が私に喧嘩を売ったことでどれだけ死んだか分かっているのか? と。
6枚の降伏文書にそれぞれ6人の名前が記され、降伏文書の調印が終了した。これで正式にベルモンテ公国は敗戦国となり、同時に地中海戦争から脱落した。
調印式は進む。
ピエトロを残してアルトゥールを始めとする外交官達が雛段から降りていく。
代わりにヴィルミーナが雛段へ向かう。予定ではヴィルミーナ一人で雛壇へ向かうはずだったが、警護員と魔導術師メリーナが付き添った。
「護衛の方々は下がられたい」と雛壇に控えていた年かさの近衛騎士が渋面を返す。
「断る。王妹大公嫡女様が席に着かれるまでは下がらぬ」
メリーナが朗々と告げる。
「無礼なっ!」
近衛騎士が瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にするも、
「構わぬ。付き添わせて良い」
壇上からピエトロが疲れ切った声で告げた。近衛騎士は口惜しそうに一歩引いて道を譲る。
「務め御苦労」
ヴィルミーナは一顧にせず機械的に近衛騎士に告げ、壇上に登っていく。
警護員とメリーナがヴィルミーナから三歩分ほど離れた。
従妹の着席を確認したうえで、ピエトロは言った。
「和解状にサインする前に少し言葉を交える時間を貰いたいが、如何か」
「どうぞ、王太子殿下」
ヴィルミーナは首肯し、壇下に控える者達へ顔も向けず告げた。
「殿下に御飲物を出して差し上げろ」
幾人かの侍従が弾かれたようにすっ飛んでいき、大急ぎで水差しとグラスを用意した。
「気遣い感謝する」
ピエトロは疲弊しきった顔に切ないほど悲しい微笑みを湛えた。
その笑顔にヴィルミーナはアンジェロ少年を思い出す。憐れで悲しい少年。
ああ、そうか。ヴィルミーナは初めて会った従兄があのドブネズミの傍らで、息の詰まるような人生を送ってきたことを察する。あのドブネズミを恐れ。あのドブネズミの敵達から狙われることを恐れ。
侍従がグラスに冷水を注ぎ、ピエトロは冷たい水を煽って喉を湿らせた。
「御苦労。下がって良い」
涙を誘うほど優しい声音で侍従を下がらせ、ピエトロは大きくゆっくりと息を吐いて、ヴィルミーナへ言った。
「私は幼い頃、一度だけ貴女に会ったことがある。とはいっても、貴女はユーフェリア様に抱かれた赤ん坊だったが」
ピエトロはヴィルミーナの顔を見つめながら続ける。
「あの時も調印式だった。ユーフェリア様がベルネシアに帰国するための手続きをしていた。亡き祖父と先代の枢機卿の前で貴女の王位継承権放棄の書類にサインしていた」
「意外な御縁があったようですね」
ヴィルミーナが感情のこもらぬ相槌を打つ。というより感情を込めようがない。今、ピエトロが語ったように、ヴィルミーナとピエトロの接点は皆無に等しい。
結局のところヴィルミーナとエスロナ一族の関係性は、血縁のある完全な他人、なのだ。
王太子は疲れ顔で小さく頷き、
「奇縁の誼で教えて欲しい」
問う。
「貴女はベルモンテに来て、血族に出会い、何を感じ、何を思った?」
「私がエスロナ家の一員である感覚を抱いた、と御期待されるならば、否です。私に流れるベルモンテ公国人の血を感じた、と思われるなら、否です。私がこの国やエスロナに血のつながりを感じ取って親近感を覚えた、ということも、やはり否です」
ヴィルミーナは淡々と言葉を紡ぎ、明言する。
「この国は私にとって見知らぬ外国であり、エスロナは他人です」
「それでも、貴女の血の半分はエスロナ家の、ベルモンテ公国人の血だ。貴方に覚えがなくとも、貴女の出生地はこのコルヴォラント半島のちっぽけな国だ」
ピエトロは他人同然の従妹を見つめる。
「ベルネシア王妹大公の娘。メーヴラント有数の財閥総帥。北洋沿岸の魔女。西方圏経済界の怪物。貴女を象る言葉にエスロナもベルモンテもコルヴォラントも無いが、貴女の真の根源は此処だ。地中海に飛び込む鴉の翼。この小国が貴女の原初だ」
「私の人格形成にこの国もエスロナも一切関与していない」
「しかし、人間は縁からそうそう逃げられない。特に血と地からは」
大きく息を吐き、ピエトロは訝るヴィルミーナへ告げる。どこか説くように。
「貴女自身が如何に否定しようとも。だからこそ貴女は今、ここにいて、私と向かい合っている」
「否定はしません」
冷淡に応じ、ヴィルミーナは親しみを覚えぬ従兄を見つめ返す。
「されど、その縁も今日、この場にて終わりだ。我らは再び別離する。いずれ我らのつながりは家系図上にしか存在しなくなる」
「それは幸福な別れだな」
ピエトロは瞑目し、時間を掛けて深呼吸を終えた後、ヴィルミーナに一礼した。
「問答、感謝する」
「こちらこそ」
ヴィルミーナの心のこもらない返しに頷き、ピエトロは羽ペンを手に取って和解状へサインを書きこむ。
続いてヴィルミーナも和解状にサインした。思わず溜息がこぼれそうになる。
この紙切れにインクを走らせるためにどれほどの血と金を費やしたことやら。
そして、2人は立ち上がり、向き直った。
ベルモンテ国王代理たる王太子ピエトロは居住まいを正し、厳かに語った。
「我が父にして公王ニコロが貴殿に行った全ての所業。貴殿と貴殿の御家族、また貴殿の財閥に多大な惨禍と苦難を与えたこと。私ピエトロ・ディ・エスロナはベルモンテ国王代理としてこれら全ての責任を認め、ここに謝罪する。そして、これらの件に関与し、罰すべき罪を犯した者達を“例外なく”処分し、能う限り償うことを約束する」
しばし瞑目した後、ヴィルミーナはゆっくりと首肯する。
「ヴィルミーナ・デア・レンデルバッハ=クライフ・ディ・エスロナはベルモンテ国代理ピエトロ王太子殿下の真心と誠意を受け取り、謝罪を認めます。わだかまりを胸の奥深くにしまうことを神の名の許に誓いましょう」
互いの宣言が済んだ。
そして、ヴィルミーナは握手を求めて右手を差し出す。
ピエトロが応じて右手を伸ばした、
その時。
事は起きた。
○
この義挙を為せば、諸君は暗殺者の汚名を被り、その骸を焼かれ、墓に眠ることも許されぬ。
然れども、いずれ歴史が諸君の正しさを証明し、諸君を聖なる英雄の列に加えるであろう。
諸君らの献身は敬虔なるベルモンテを邪悪な異端の手から救い、愚かな背教者達を信仰の正道へ引き戻す。諸君らは一粒の麦となり、コルヴォラントの未来に黄金の麦穂を広げるのだ。
その手を異端と背教者の血に染め、命に代えて魔女を討て。
諸君に神の加護があらんことを。
祝福あれ。
○
「神敵討滅ッ!」
大広間右側のベルモンテ諸侯諸官から怒号が響き、刺客達が動いた。
一部の警備兵達が手にしていた小銃を構える。一部の将校や貴族男性が佩いていた儀礼刀を抜きながら躍り出た。一部の貴婦人や令嬢が装飾品を触媒に魔導術の発動を図る。大広間の窓が割られ、数人の狙撃手が雛壇場へ銃口を向けた。
大広間左側のベルネシア海兵隊や民間軍事会社員が即応した。
まるで刺客の襲来を予期していたかのように。
特に数人の民間軍事会社員の動きは迅速だった。後の先を採る如く小銃や拳銃を構え、瞬間的に脅威度を選別して真っ先に排除すべき敵へ銃口を向ける。
同時に、第二王子アルトゥールや政府高官の護衛達も凄まじい練度を発揮し、即座に護衛対象を自身の背後に庇い、魔導術を即発させた。大気中水分と足元の大理石を用いた氷と石の防護壁を創り出す。
しかし、最速で動いたのはヴィルミーナの警護員だった。
そこらの石ころより人間味の欠いた目つきの警護員は、瞬時にヴィルミーナへ肉薄し、ヴィルミーナを背に庇うように抱き寄せながら右腰の回転式拳銃を抜いた。
全ては時間にして僅か数秒の出来事。
そして、いくつもの金属的な銃声がつんざき、青い発砲光が輝く。複数の魔導術が発動し、白刃が走った。
一拍遅れて大勢の悲鳴と怒号、鳴き声と罵声が広がって、本格交戦と大混乱が開始。
放たれる銃弾。
飛び交う銃弾。
引き裂かれるような悲鳴。張り裂けるような怒号。
幾重もの血と肉片が飛び散る。魔導術の氷刃や炎弾が踊る。広げられる魔導障壁。交わされる剣戟。白刃の衝突音と煌めく火花。
撃たれ、斬られ、焼かれ、貫かれ、裂かれて斃れていく者達。大理石に広がっていく鮮血。
出口へ向かう者。転倒する者。踏みつけられる者。親とはぐれて泣き出す子供。
ヴィルミーナの警護員は笑えるほど超高速のラピッドファイアを行い、瞬時に弾倉の6発で6人の刺客を射殺。再装填せず弾倉が空の回転式拳銃を捨て、後ろ腰から予備の回転式拳銃を抜く。
そこへ速射を潜り抜けた貴族男性が急迫。魔鉱合金製の片手剣を振るう。
だが、白刃が警護員に届くことは無い。
メリーナが放った魔導術の指向性衝撃波が貴族男性を捉えて吹き飛ばす。貴族男性が大理石の壁に激突して“圧潰”した。同じく、メリーナは守るべきヴィルミーナの周囲に氷の防壁と魔導障壁を展開。魔導術の炎矢を防ぐ。
激戦。紛うこと無き激戦。
されど、戦いは長く続かない。
精強なベルネシア海兵隊と完全武装の民間軍事会社武装要員が次々と刺客を始末していき、死闘は数分で終結へ向かう。
銃声と剣戟と魔導術の音色が絶え、大広間に怒号と罵声と悲鳴とすすり泣きと苦悶の合唱が響く。
戦闘終結の混迷とした状況の中。
ヴィルミーナが警護官とメリーナに守られながら防壁の陰から出てくる。近衛に守られたピエトロの下へ向かう。
その時、ベルモンテ貴族の男の子が斃れた刺客の拳銃を拾い、雛壇へ銃口を向けた。
金属的な硬い銃声が走り――
雛壇に血が広がっていく。
次回で本章は終わりとなりますが、閑話で後始末とその後のエピソードを上げる予定です。




