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大陸共通暦1781年:秋
大陸西方コルヴォラント:コルヴォラント半島南部
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ナプレ王国はカーパキエ侵攻に際し、カーパキエ貴族の調略を積極的に行わなかった。
此度はカーパキエの完全な征服と戦後の同化を前提にしており、少数の旧カーパキエ貴族の縁者や戦後に必要な者以外、カーパキエ貴族の臣従を認めない方針で固められていた。
国王アルフォンソ3世は何かと反抗的な領主貴族をカーパキエ領や後に攻め込む法王国などへ転封させる気満々であり、それだけに現地領主貴族など邪魔でしかなかった。欲しいのは領地と領民だけ。カーパキエ領主貴族は要らないのだ。
ある意味で完全な押し込み強盗であるナプレ王国陸軍約4万が、カーパキエ国境へ襲い掛かった。
迎え撃つカーパキエ王国は戦争の開戦劈頭に王都エリュトラを襲撃されており、海軍艦艇と国営弾薬工廠を喪失して以来、武器弾薬の慢性的な不足に喘いでいた。搔き集められた弾薬を使い尽くせば、それまでだ。
まともに戦えるのは一戦だけ。ならば、その一戦に全てを投じてナプレ王国が許容しかねるほどの痛打を与え、有利な条件での降伏的講和を図るしかない。相手頼みの大博奕だ。
カーパキエはこの決戦に能う限りの戦力を搔き集めた。
陸軍諸部隊、エリュトラ襲撃で船を失った海軍将兵に教会の騎士や武僧、国内の冒険者、各諸侯の私兵に徴募された民衆。総勢で7万強。非戦闘要員を含めれば10万を超すだろう。まさしく根こそぎ動員だった。
頭数は揃えても、先述したように武器弾薬が足りない。例によって、旧来の先込め銃(マッチロックさえ用意された)や年代物の青銅砲や時代遅れの弓に弩、弩砲まで用意された。挙句は撃沈した船艇から潮水に浸かった銃砲や装薬を引き上げて使う始末。
本当の意味で末期の最終戦の様相を呈している。
二次大戦初期の劣勢にあったソ連軍なら銃を2人で一丁持たせて自殺的な飽和突撃を試みただろう。出入り口を塞いだトーチカで死ぬまで戦わせたかもしれない。大戦末期の日本軍なら自滅的な銃剣突撃に出ただろう。
しかし、カーパキエ王国首脳部はそこまで兵士達――国民に冷酷でも無責任でもなかった。
カーパキエ王国首脳部は決戦の臨む諸部隊へ『最後の一発まで戦え』と厳命はしても、最後の一発を放った後のことは前線指揮官の判断に一任された。つまりは言外に『やることやったら降伏しても良いよ……』と諦めに似た許可を与えていた。
が、ナプレに征服されたら領地を失うだろう領主貴族やその従士下士官兵達、信教的理由から裏切ったナプレを敵視する従軍僧や宗教右派の兵士達は士気旺盛だった。平民達も愛郷精神や純朴な信仰心、あるいは何らかの利己的目的から、戦いへ身を投じていた。
それに、戦争協定や戦時条約がないし、人道なんて甘っちょろい概念の乏しい時代だ。侵略が肯定され、侵略に伴う蛮行が許容される時代だ。
侵略者から家族を守り、故郷を守り、惚れた娘を守り、土地や私財を守り、民族の誇りや人間としての諸権利を守るためには、戦うしかない。
半ば諦念を抱いていた首脳部と違い、カーパキエ人達は悲愴なほど勇気と闘志に燃えていた。
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地中海性気候は乾いた夏と湿潤な冬を迎える。秋の終わりが見えてきたこの時分、地中海に飛び込む鴉の嘴辺りは雨雲の来訪が増え始めていた。
ナプレ王国軍4万が侵攻を開始したこの日も、小雨が降ったり止んだりを繰り返している。
両国の現国境周辺はなだらかな丘陵耕作地とオリーブなどの果樹畑が広がっている。旧レムス帝国時代の街道も通っているものの、国境関所によって寸断されていた。作戦運動を妨げる障害はいくつかの灌漑水路と橋、戦闘拠点となりうる集落や村だ。
ナプレ王国軍は街道を中心に、旅団や連隊単位で幅約20キロに展開して進軍。街道沿いに4個旅団約2万5千。左翼に二個連隊他で7千。右翼に増強一個旅団8千。他少数の軍用飛空船と翼竜騎兵部隊に、ベルネシアから提供された重武装飛空船。
数的には根こそぎ動員を掛けたカーパキエ軍が優越しているものの、ナプレ王国軍は動員兵力が全て正規の将兵。協商圏から提供された装備(イストリア連合国製の中古品をクレテアが移送した)で完全充足。しかも上空援護付きで火力は圧倒的に優位。
ただし、両国共に旧態的な戦列式の隊形戦術を採っている。文化的なコルヴォラント人は野蛮なメーヴラント人と違って軍事研究に熱心ではなかったし、そもそも小国は先進的な軍制や戦術の研究などに割く予算がない。
というわけで。
「前時代的だな」とベルネシアから派遣された飛空船の士官が眼下の様子に呟く。
両軍ともに濡れ湿った農耕地に戦列を展開していた。
どちらもナポレオン時代チックな飾り付シャコー帽に燕尾上衣と脚絆を巻いた軍袴。単発銃を抱え、弾盒帯を左右に袈裟掛けし、背中にランドセル型背嚢を担いでいる。
両軍の貴族将校は洒脱で高品質の軍服を着こんでおり、佩刀している。装甲兵や重装騎兵は伝統的なコルヴォラント様式のお洒落な甲冑をまとっていた。
カーパキエの徴募兵や領民兵は私服姿で雑多な得物を抱えており、なんとも切羽詰まった印象を禁じ得ない。
展開している砲兵の火砲はナプレ王国軍がイストリア製の前装式施条砲と自国産の前装式滑空砲。カーパキエ軍は前装式滑空砲に加え、骨董品の青銅砲や弩砲すら混じっている。
「第一次東メーヴラント戦争でもカロルレン軍が似たような有様で抵抗していたらしいが……悲惨だな」
遊戯盤の駒のように整然と並ぶ両軍の戦列を見下ろし、重装飛空船の士官は溜息をこぼした。
「特配を出せ。忙しくなる前に美味いものを食っておこう」
○
「ナプレは予定通りに事を進めているな」
性豪王アンリ16世は年上の愛妾タイレル夫人と昼食後の情事を楽しんだ後、午後の政務を始めていた。
今回の体位は中々に良い塩梅だった。マリー・ヨハンナとも試してみよう。
夫人との性交渉を振り返りつつ、アンリ16世は報告書を読み進めていく。
ナプレ王国のカーパキエ侵攻に伴って生じたコルヴォラント半島南部戦線。その戦況は想定通りだった。
国境を舞台にした両軍の戦いは想定通り、ナプレ王国軍の勝利に終わった。
冷厳な物質的現実は創作物的奇跡を許さない。ナプレ王国軍の職業軍人達はカーパキエの健気な素人達を鉄と炸薬で粉砕している。
カーパキエ軍は約8000名の犠牲を出して潰走。ナプレ王国軍の損害は死傷1000名程度だったという。
手持ちの銃砲弾を使い果たしたカーパキエ軍に出来ることは、もう多くなかった。ズールー戦争のシャカ・ズールー軍さながら銃砲を並べた敵戦列へ刀剣と弓矢、それに魔導術で挑むしかない。
惨い話ではあるが、望ましい戦況と言えるだろう。
「北部戦線の方も概ね予定通りか」
「はい、陛下。冬に備えて要地と拠点の確保に努めております」
宰相リメイローは淡白に言った。主君から仄かに漂う女性向け香水の匂いに自然と仏頂面が出来ていた。
リメイローはぼやくように言葉を続ける。
「しかし、冬の到来までにランドルディアを倒すことも出来たでしょうに」
「ナプレが南部を制圧するまではこのままで良い」
アンリ16世はこともなげに言い放ち、報告書を卓上において茶を口にした。
「カーパキエは半月もあれば片付くでしょう。予定ではその後、法王国へ侵攻することになっていますが……伝統派の総本山を攻めることに民衆がどのような反応を起こすか読み切れませんな」
憂慮顔のリメイローが声に不安を滲ませる。
「さして状況は変わらんだろう」
も、アンリ16世は不安など微塵も感じさせぬ調子で語る。
「真っ先に駆けつけそうなランドルディアは我が軍に攻め込まれて兵力を割く余裕が皆無だ。フローレンティアもタウリグニアに圧迫されているし、ベルモンテの動向に警戒を解けない」
「ベルモンテについてはどうお考えで?」
「降伏が成れば、戦争から足抜け出来る。一部の宗教狂いや時勢を理解しない連中が法王国の戦いに参じるかもしれないが……どちらかと言えば、降伏を決めたベルモンテ政府に反旗を翻す可能性の方が高い。檻に閉じ込められた老狐に踊らされてな」
淡々と予測を並べるアンリ16世。前世持ちのヴィルミーナが一目置いているだけあって、その見識は鋭い。
「ニコロ公にそのような力が残っていると?」と訝る宰相。
アンリ16世は太鼓腹をぼりぼりと掻き、昼飯の献立でも告げるように言った。
「奴自身の力は関係ない。要点は奴が不満を持つ反動分子共にとって、都合の良い看板ということだ。余に不満を抱く者共がサルレアンの許へ群がるようにな」
王家と傍流サルレアン公爵家の暗闘は根深い。リメイローは王家血族の争いに踏み込むことを避け、話題を変えた。
「ナプレの侵攻開始に伴い、協商圏経済界が動き始めています。“戦後”を見込んだ動きは既にありましたが、活性化しております。後程カルボーンが報告に参りますので、詳細はそちらから」
「逞しいことだ」アンリ16世は絵画の女性天使、の尻を眺めつつ「節操がないともいうべきか」
ナプレ王国の半島南部征服が現実味を帯びたことで、半島内部の経済構造――利権の変化に対応すべく協商圏と聖冠連合帝国の資本家達が活発に動き始めていた。
ただし、“美味しいところ”は密約が結ばれた段階で概ね分配されている。自由競争と看板を掲げていても、ポールポジションは政商達や強力なコネを持つ大資本家が占めているのだ。
「ベルネシアの魔女殿がベルモンテの経済侵攻を思いとどまったことで、ベルモンテ利権を巡って混乱も起きているようです」
リメイローの続けた言葉に、アンリ16世はくつくつと顎肉を震わせた。
「卿は魔女殿が本当にベルモンテへ寛恕を与えたと思うか?」
「無いですな」リメイローは老婆の裸踊りを見たような顔つきで即答し「あれはそのような気質ではありません」
「同感だ。ベルモンテへ送り込んだ国教会の坊主達が望ましい成果を上げたならば良し。そうでないなら、大義名分として徹底的に叩く。魔女殿の書いた脚本はそんなところだろう。小鬼猿でも分かる“易しい”話だ」
「たしかに」リメイローは首肯しつつ「ですが、斯くも易しい話にニコロ公が引っ掛かりそうですぞ」
「それは少し違うな、リメイロー」
アンリ16世は顎の肉を揉みながら、不敵に口端を歪める。
「あの老狐は自分の脚本を進めようとしている。この状況に至ってもなお、自分の脚本で舞台が進められると思っているのだよ」
「老耄ですな」リメイローがしかめ面で毒づく。
「どうかな」アンリ16世は背もたれに体を預け「“王らしい”在り方ではある」
どこか悲しげにつぶやき、アンリ16世は目を瞑った。晩年の父アンリ15世が脳裏をよぎっていた。病を患ってから、父は自分の考えと世界観に固執してしまった。ベルネシアを征服してしまえばクレテアの未来が開かれる、という自身の脚本に囚われてしまった。
そのせいで暗君として歴史に刻み込まれた。
ままならぬものだ。アンリ16世は大きく深呼吸する。父ほど真摯にこの国へ尽くした王はおらぬだろうに。
アンリ16世は父の仕掛けた戦争を撥ね退けたベルネシアに対し、お門違いの恨みは抱いていない。北洋沿岸の小癪な国だとは思うが、その程度だ。
戦争末期と戦後に経済戦を仕掛けてきたヴィルミーナにも怨みはない。国を守るために出来ることをしただけであるし、戦後の経済侵攻にしても、こちらから殴ったのだから殴り返されても仕方ないことだ。
とはいえ。
父に汚名を被らせ、己の国を荒らされたことに些か思うところはある。ベルネシアやヴィルミーナにしたら逆恨みでしかないが、聡明なアンリ16世とて主観的感情を完全に切り離すことはできない。
アンリ16世は豪奢な執務椅子の肘置きを使って頬杖をつく。
かつて我が国を手痛い目に遭わせた魔女と、下らん脚本に我が国を巻き込んだ老狐。少しばかり踊らせてみるか。
「エトナ海諸島の扱いについて議論が起きていたな」
「は?」唐突な振りにリメイローは困惑しつつ「え、ええ。はい、陛下」
真っ先に降伏したエトナ海諸島自治政府群の扱いについて、クレテア内でちょっとした議論が生じていた。
先頃、クレテア海軍がエトナ海諸島を領有してコルヴォラント半島に睨みを利かせてはどうか、と提案していた。地政学的軍事戦略としては悪くない案だ。
しかし、エトナ海諸島の経済的価値は然程高くない。領有化しても大した税収や利益は望めないだろう。経済的負担が大きいのではないか、と大蔵省が渋い顔をしていた。
また、ベルネシアも口を出していた。エトナ海諸島の領有化自体には反対しない。ただし、その場合は賠償金の分配額に反映させたい。つまり土地を獲るなら、その分、金はこちらに寄越せ。
アンリ16世は顎の肉を摘まみながら言った。
「戦後の地中海権益について今一度、協議が必要だろう」
「そうですな。戦争が終われば、我が国とベルネシア、聖冠連合。新生ナプレを含めた会議を開くことになりましょう」
リメイローが素直に同意すると、
「そうだろう。その通りだ」
アンリ16世は悪戯っぽく口端を歪めた。
「ゆえにな、その会議の事前協議として直近に話し合いの場を作ろうと思うのだ」
「事前協議ですか」リメイローは思案顔を作り、官僚的常識から首肯した。「まあ、必要ですな」
「そうだろう。そうだろう。まったくその通りだ」
悪戯小僧然とした笑みを湛え、アンリ16世は本題を切り出す。
「その事前会議に魔女殿を招聘しよう」
「はぁ……はあっ?!」
宰相は一拍遅れてから海老のように目を剥いた。王の期待通りの反応だった。
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ナプレ王国軍侵攻部隊がカーパキエ王都エリュトラ郊外に達し、王都攻略戦に備えて再編成と攻勢準備を始めた頃。
ヴィルミーナはエンテルハースト宮殿に参内し、クレテアからの“招待状”について話し合っていた。
王国府の一部は自分達を差し置いてヴィルミーナが指名されたことに不快感を抱いていたが、大部分の高官達はヴィルミーナのクレテア行きに強い不安と憂慮を抱いていた。
先のベルネシア戦役時にヴィルミーナが大規模仕手戦を行い、クレテア経済の背骨をへし折り、戦後の経済侵攻で大きな役割を担ったことは西方中に知られている。
言い換えるなら、戦後の強烈な食糧と燃料不足、経済混乱による犠牲者は間接的にヴィルミーナが手に掛けたとも言えよう。
肉親を殺された恨みは許せても食い物や金の恨みは許せない、なんて俗語があるくらいだから、クレテア人達のヴィルミーナに対する怨恨は深かった。
「断った方が良いわ」
王妃エリザベスが姪っ子を気遣う。
むろん、その思いやりにはヴィルミーナをクレテアに赴かせることで生じるあれやこれやの損得も含まれていた。ベルネシアの王妃として当然のことである。
王妃も今やアラフィフであるが、美しく老いを重ねているためか、エリザベスは容貌の衰えを感じさせない。
「御義母様のおっしゃる通り、辞退した方が良いと思う」
いとこの嫁である王太子妃グウェンドリンが言った。
こちらは女盛りの三十路を迎え、超絶美貌の大輪を咲かせている。
「私も御義母様と御義姉様の御心遣いに従った方が良いと思います」
同じく従弟の嫁である第二王子妃マグダレーナが姑達の意見に賛同し、首を縦に振る。
変わり者の元聖冠連合帝国皇女は今日も麗貌を大陸中央風衣装で身を包んでいる。
王家女性陣から招待状に反対を説かれ、ヴィルミーナは優雅に微苦笑をこぼした。
「御三方とも、少しばかり心配し過ぎですよ。私がクレテアで恨まれていることは百も承知です。でも、それはアルグシアに赴いた時も同じ事。大丈夫。何も起きませんよ」
王家女性陣は互いの顔を見合わせ、揃ってヴィルミーナを睨んだ。
「何を企んでるの?」「どんな企てをしてるの?」「何を狙ってるのです?」
大同小異な詰問。これにはヴィルミーナも練達な表情筋を動員して遺憾の意を訴える。
「酷くありません?」
「これまで何をしてきたか胸に手を当てて振り返りなさい」と王妃。
「貴女は前科があり過ぎる」と王太子妃。
「ヴィーナ様の“武勇伝”を考えれば当然の疑問です」と第二王子妃。
三者三様の言いようにヴィルミーナは拗ねた。唇を尖らせ、眉間に皺を寄せてそっぽを向く。
「臍を曲げる前に答えなさいな」
王妃エリザベスが北方人らしい金髪を揺らして問い質す。
ヴィルミーナは敬愛するおばに詰められ、小さく息を吐いた。
「私は今でもベルモンテに怒っています。自身の愚かさの八つ当たりかもしれませんが、エスロナ本家を根絶やしにし、ベルモンテ全国民を地獄の底に蹴り落としてやりたいくらいに」
紺碧色の瞳に宿る昏い熱量に、グウェンドリンが息を呑み、マグダレーナが身を震わせる。エリザベスが静かに先を促す。
「一方で、“姉妹達”が与えてくれた赦しを容れようとも考えている。これは本心よ。私の愚かさを自戒し、悲劇を起こさなくてもいいのでは、と思っている。だからこそベルネシア国教会に穏当な仲裁を依願したし、偽りはない」
圧を抜き、ヴィルミーナはそろそろと息を吐き、
「同時に国教会へ委ねたことは、ベルモンテを秤に掛けた意味合いもある。連中が私の譲歩と寛容にどう応じ、どう向き合い、どう報いるか。彼らが私の差し伸べた手を払うと言うなら」
ゾッとするほど冷たい声で言った。
「彼らには真に貧しいことの恐ろしさを味わってもらう」
「言い分は分かった。でも、それとクレテアの招聘に応じることは……」
グウェンドリンが言葉を途中で止め、顔をひきつらせた。エリザベスもマグダレーナも気づいて、顔を蒼くする。
「貴女、ベルモンテに誘いをかける気なのね?」
「夫が教えてくれたのだけれど」
ヴィルミーナは怖気を覚えるほど優しい微笑を湛えた。
「隠れた小鬼猿を捕える時は、分かり易いくらい隙を見せた方が良いそうよ」
完全に飲まれたエリザベスが新たに気付いて、否。自身も誰もこれまで気づいていなかったことに戦慄する。
なぜ、ユーフェリアが静観している?
彼女にとって唯一無二の娘が暗殺されかけ、名誉を酷く貶められているのに。その下手人が自身の憎み恨むベルモンテのエスロナ家だというのに。
溺愛という言葉ではおよそ追いつかないほど、娘に依存しているユーフェリアが、ここまでされて、何もせずにいる?
“ありえない”。
「一つだけ教えて」
エリザベスはすがるような声を出しながら、ヴィルミーナを真っ直ぐ見た。その翠色の眼には恐怖に似た感情が宿っている。
「ユーフェリア様は、もう“動いて”いるの?」
ヴィルミーナは答えず、ただ邪気の無い笑みを返した。
ツイッター始めました。
昔ちょっと触れた頃と違ってて、使い勝手がよく分からない。




