20:1
遅くなり申した。
大陸共通暦1781年:秋
大陸西方コルヴォラント:地中海:チェレストラ海某海域。
――――――――――
秋の払暁時。編隊を組んだ戦争鯨の群れがヴィネト・ヴェクシア共和国の島嶼領土ヴィネト島近海へ侵入していく。
ヴィネト島軍港はチェレストラ海屈指の海岸城塞都市であり、ハリネズミのような防空体制が整えられている。ベルネシア民間軍事会社のチェレストラ海沿岸襲撃作戦でも、ヴィネト島軍港だけは襲撃出来ずにいた。
これまでは。
群れの頭目たる改装飛空貨物船――管制船エル・アライラーから船隊に魔導通信が飛ぶ。
『エル・アライラーより全船。作戦海域に侵入した。作戦開始。繰り返す作戦開始』
号令が下り、群れは編隊を解除。戦争鯨達はそれぞれの役割を果たすべく動き始めた。
『こちらネルシルタ、ビルスリルとブラッカバーと共に戦闘哨戒へ移る』
『ハイゼンスレイ、エル・アライラーの直衛位置に着いた』
『セスシナングより発。グランスルと共にキャンピオンの護衛に回る』
グリルディⅢ型とⅣ型の改修型戦闘飛空艇が動く中、
『こちらキャンピオン。これよりキハールの発射を開始する』
群れの中心を飛んでいた改装大型貨物船で左右の舷側開閉扉が開かれ、搭乗員達が慌ただしく作業を始めた。
高度2700メートル。日本の富士山で言えば7合目付近の花小屋辺り。秋の平均気温は5度前後。飛空船は冷たい相対気流に晒されるため、体感温度は零度を下回る。
当然ながら搭乗員達はもこもこした防寒防風着を着こみ、ゴーグルと防寒マスクで頭を包んでいた(創作物らしく顔を晒していたら、瞼や鼻先、耳、唇が凍傷で失われる)。
露天作業に従事する搭乗員達は作業着内を汗みづくにしながら、船体外殻の両舷側に設置された鋼鉄製レールへ、翼竜ほどもありそうな黒い機械を据えていく。
それは白獅子財閥の技研で開発され、民間軍事会社の飛空船隊に試験配備された玩具だ。
大きく長い両翼。ずんぐりした胴体にはレールに沿うべくスリットが入っている。両足は円筒状でどうやらロケットらしい。小さな頭には緻密な時計細工のような着発信管と時限信管が収められており、胴体内の爆薬に繋がっていた。
搭乗員達はカモメに似た機械をレールに据え、両足のロケットに点火コードを装着。
担当士官が伝声管に叫ぶ。
「ブリッジッ! キハールの発射準備が完了しましたっ!」
『了解。キハール、順次発射せよ』
伝声管から返ってきた命令を受け、担当士官が大きく腕を振り下ろして怒鳴った。
「キハール一番機発射っ!!」
「了解、キハール一番機発射っ!」「一番機、ロケット点火ぁっ!」「点火っ!」
担当搭乗員達が声出し確認しながら右舷側の点火器のレバーを下げる。コードを通じて魔力がカモメ型機械のロケットに流れ込み、ロケットの魔導術理が起動。ロケットは筒内の魔石をドカ食いし始め、耳障りなほど甲高い稼働音と共に高圧噴流を放出。
キハールと呼ばれたカモメ型機械は噴気孔から真っ青な反応炎を吐き出しながら、右舷側レールを激走して離陸した。
機械仕掛けの怪鳥はロケットによって加速し続けていき、ロケットが魔石を使い尽くすと同時に魔導術理が発動。お荷物となったロケットが切り離される。その切り離し駆動をスイッチに、小さな頭の中に収められた魔導術理機構と時計仕掛け的駆動系が稼働開始。主翼の風切り羽を調整。水平飛行を維持し、巡行を始めた。
斯くて、魔導技術文明世界初の巡航ミサイルが払暁の蒼黒い空を征く。目指すはハリネズミのような防空体制を整えたヴィネト島軍港だ。
……はっきり言って、キハールは巡航ミサイルなどと称するのはおこがましい出来栄えだった。
地球世界初の巡航ミサイル・フィゼラーFi103通称V1号は簡素で安価な作りと言われているが、高圧空気式自動操舵機や3次元ジャイロ、高度保持装置などそれなりに緻密な自動飛行機構が備わっていた。
ところが、キハールにはそんなもん搭載されていない。ようやく蒸気機関に手を掛けたばかりの時代に自動飛行装置なんて作れる訳ねェのである。時計仕掛け的機構と魔導技術式の飛行安定機構――水平に飛ぶだけの仕組み――が備わっているだけだ。
平たく言えば、一度飛び出したらどこに飛ぶか分からないし、何処に落ちるかも分からない代物。本質的にはV1号より日本軍が飛ばしたふ号兵器こと風船爆弾に近い。正確には巡航ミサイルではなく、長距離滑空爆弾と呼ぶべきだろう。
「一番機の射出成功っ!」「やったぞっ!」
搭乗員達が喝采を上げる中、担当士官が冷や水を浴びせるように怒鳴った。
「喜ぶのは後だっ! 続けて二番機発射っ! 三番機の設置急げッ!」
命令を受け、搭乗員達が喜びを押さえながら作業に奔走する。左舷側レールから二番機が発射され、右舷側レールに三番機が据えられる。発射を終えた左舷側レールに四番機の設置作業が始まり、船倉格納庫から五番機と六番機が移送されてくる。
夜が明けきるまでの間に、民間軍事会社の飛空船隊は持ち込んだ全18発の巡航ミサイル・キハールを発射し尽くした。
この怪しげな兵器は約60キロという、この時代ではあり得ない距離を越えてヴィネト島軍港へ襲い掛かった。
もっとも、現地に着弾したのは18発中わずか3発に過ぎない。10発は機械的故障か、設計上の問題か、気象条件のせいか、道中に墜落。ヴィネト島軍港に到達しなかった。
残る5発はヴィネト島に到達したものの、軍港とは全く違う海岸や内陸の山林や農耕地など無人地帯に落ちた。うち1発が農村近くに着弾し、家畜のいくらかと不運な老人に心臓麻痺を起こさせている。
軍港に着弾した3発にしても、1発は阻塞気球に引っかかって防波堤の一角を破壊しただけ。もう1発は軍港市街地に落ち、民家数棟を破壊して少数の市民を殺傷したのみ。
そして、最後の1発が停泊中の二等戦列艦に命中。胴体内に詰め込んだ大量の爆薬を以って同艦を爆沈。配備弾薬を殉爆させたことで周辺船舶や港湾施設にも被害をもたらした。
18機も飛ばし、効果があったものはたった1発だけ。
兵器としての純軍事成果はお粗末な限り。
しかしながら、政治的影響や心理的効果は高かった。
これまでベルネシア民間軍事会社の襲撃を許さなかったヴィネト島軍港へ、対空砲火を一発も撃たせることなく一方的に爆撃し、戦列艦を爆沈せしめたのだから。
○
ヴィルミーナの紙飛行機に始まった白獅子の飛行機開発。
その一つの成果物であるキハール型長距離滑空爆弾を価格で問うたなら、高くはないが安いものでもない、だ。
材料自体は骨格こそ白獅子自慢の添加鋼が用いられているものの、胴体の外殻は薄っぺらな鉄板に過ぎない。大きな翼も大部分は鋼管に帆布を張っただけ。ロケットは軍用ロケット弾の流用。自動水平飛行機構が最も高価な部分だが、これだって魔導術理機構を除けば、単なる時計仕掛けに過ぎない。部品は安価な鋼板の加工品で、組み立ては作業工で済ませられる。
いずれにせよ……
「もっと性能を上げないと商品としては不適格ね。目標に当たらないことはともかく、目標まで到達しないことはいただけない」
ヴィルミーナは珈琲を口に運びながら、庭で遊ぶ子供達を眺める。
秋晴れの下、我が子達と義兄アルブレヒト・マルガレーテ夫妻の子供達が黄色い声を上げ、ゴム飛行機を飛ばしていた。クェザリン郡から王都にやってきたゼーロウ男爵家の義兄夫妻は子供達を王妹大公家の弟夫婦に預け、挨拶回りに出かけている。
いとこ達と楽しそうに遊ぶウィレム達を眺めながら、ヴィルミーナの隣に座るレーヴレヒトは愛犬ガブの頭を撫でた。
「今回の投入はあくまで実戦試験。現物の性能確認と運用経験を得られたら充分という話だったと思うけど?」
「それはそうだけれど」と不満顔の妻へ、
「純軍事的性能はともかく政治的、心理的効果は大きい。これで連中は選ばざるを得ない。穴倉にこもったまま死ぬか、穴倉から引きずり出されて殺されるか。どちらを選んでもチェレストラ海は秋の内にケリがつく。地中海通商は年内に正常化できるよ」
レーヴレヒトはさらりと語り、ヴィルミーナを横目に窺う。
「ただし、陸戦と政治決着は年をまたぎそうだな。そっちは?」
「それは構わない。財閥としてはあくまで地中海通商が確保できれば良い」
子供達に混じってはしゃぐ双子の黒犬と狸を眺めつつ、ヴィルミーナは続ける。
「元々は聖冠連合の黒色油や資源を円滑に調達するために臨んだことなのだから、そこの達成を最優先する。レヴもそうすべきと言ったじゃない」
「まあね」レーヴレヒトは首肯し「ただ、戦争は長引けば長引くほど、不測の事態も起こり易くなる。ナプレに陸戦隊を派遣するんだろう? 泥沼に引きずり込まれるかもしれない」
「その件も地中海通商さえ確保できれば、飛空船隊を回せるし、運転資金はナプレ王国から引っ張れる。問題ないわ」
私としては、とヴィルミーナは椅子の肘置きを使って頬杖をつく。
「ベルモンテの件がどう転ぶか、が気に掛かる。教会がしっかり仕事をしてくれるなら、それで良いと今は思ってるけれど……どうなることやら」
ヴィルミーナは前世覚醒以来、教会に対して常に距離を取ってきた。これは前世日本人的な宗教への関心の低さ、前世知識や経験による一神教への不信感や猜疑心によるところが大きい。当然ながらそうした姿勢は思考や行動にも反映されがちだ。
「宗教屋は基本的に真面目だよ。ただまあ……自分が間違っているかも、という想像力に欠けるけれど」
レーヴレヒトは珈琲を口にし、明日の天気を予想するような顔つきで言った。
「今頃は熱心に方策を検討してるんじゃないかな」
○
ベルネシア国教会は慌てていた。
理由はヴィルミーナが持ち込んだ案件――ベルモンテの降伏交渉に際し、ベルモンテ政府と公王エスロナ家、両者に対する仲裁を打診された件だ。
仲裁の内容はあくまで国教会に委ねられており、ヴィルミーナはその内容に基づき、ベルモンテとエスロナ家に対する報復の是非を判断するという。
話を聞かされた国教会のトップ総主教「えらいこっちゃ」と顔をひきつらせた、なんて噂が流れた。
事実である。
レーヴレヒトの予想通り、教会高官達は熱心に意見を交わしていた。
「ベルモンテは時の法王子息を祖とするエスロナ家を戴く国です。当然ながら、国民はほぼ全て伝統派信徒であり、エスパーナ帝国同様に教権も強く、我々開明派に対して強い隔意を抱いております」
「しかしながら、現公王代理のピエトロ王太子が玉座を簒奪する際、教会関係者や法王国使節団と交戦し、教会勢力が揺らいでいることも事実です。何よりこの案件が成功したならば、ベルネシア国教会の御稜威は大いに高まるでしょう。その高邁なる威徳は数多くの人々へ福音を届けることになりましょうや」
開明派と伝統派は外洋にて、セブンイレブンとローソンの市場争いの如く激しい信徒獲得競争をしている。今のところ、伝統派が優勢だった。
これは、聖王教の外洋進出が伝統派最右翼のエスパーナ帝国によって始まったためだ。先行者優位の原則は布教や宣教にも適用される。
一方で、異教と現地伝統文化を徹底的に破壊するエスパーナのやり口に反発し、外洋にて聖王教が酷く警戒されるようにもなっていた。
特に大陸東方や南亜大陸では宗教を臭わせた途端、明確な敵意を示すほどだ(8:3も参照のこと)。
たとえば、大陸東方の旭祥皇国がエスパーナ帝国と対立に至った経緯も、聖王教伝統派の浸透が発端だった。最終的解決として彼らは国内にて聖王教を禁教指定し、さらにエスパーナ帝国の東方植民地を征服した。ベルネシアとの貿易と交流も、原則として宣教師の派遣が禁止されている。
「問題はベルモンテというより、法王国ですな」
大主教の一人が困り顔で呟く。
「夏の終わりに先の法王ゼフィルス8世が崩御して以来、法王庁は混乱の極みにあります。次代法王の選出も滞っているようです。はっきり申し上げてしまえば、交渉窓口がどこなのか、そもそも窓口の有無も不明です」
「また、ナプレ王国は法王国へ侵攻する考えを持っているそうで、事態がどう変化するかも不明瞭です。まさか彼らが法王国を滅ぼすとは思いませんが……前例が無いわけでもありませんし……」
うーむ、とお偉方が唸った。
地球史においてカトリックの総本山ローマは幾度か大略奪を受けている。
5世紀の東ゴート戦争における3度の略奪。そして、ルネサンス期を終焉させたドイツ人傭兵達によるローマ劫掠。
魔導技術文明世界においても似たような歴史があり、古代レムス帝国崩壊後に西メーヴラント勢力から蹂躙された。近世には神聖レムス帝国と聖王教会の対立――王権と教権の抗争から聖都劫掠が生じ、後の9年戦争や神聖レムス帝国崩壊の遠因になっている。
伝統派国のナプレがそこまでやるとは考え難いが……聖都劫掠を招いた時の神聖レムス帝国皇帝も聖都を蹂躙したアルグス人傭兵団も基本的には伝統派信徒だった。
まあ、欲と飢えに駆られた野蛮人にとって、宗教的同胞などという事実は一顧の価値もない。この辺りは開明派も同じだ。
「まず以って我々はベルモンテ王国民の改宗を求めるか否か。これはまぁ、否でしょう。法王国の足元で斯様な真似をしては宗派戦争を招きかねません。次に、仲裁の際、ベルモンテ公王家が改宗を求めてきた場合。これもそれとなく翻意を促しましょう。ベルモンテ公王家はかつての法王一族。彼らの改宗は大変な功績となりますが、現状では政治的問題の方が大きすぎます」
大主教の一人がお歴々を見回しながら語る。
「此度はあくまで王妹大公家とベルモンテ公王家の和解。我々は仲裁者として振る舞う。事が成れば、これでも充分な利得です。欲を出すべきではありません」
我が意を得たり、と総主教が頷く。
「過ぎたれば災いとなす。ほどほどに弁えるべし。清き自制こそ最も大きな幸福をもたらす」
「問題は誰が担うか、ですな」と別の大主教が言った。
事の達成が困難極まることは容易に想像できる。政争に慣れたお歴々はあからさまに目を反らすような真似はしなかったが、自ら進んで煉獄に身を投じる者もいない。ゴセック辺りなら『進んで銃砲に身を晒すような者は長生きできんだろう?』とシニカルに笑うところだ。
「クレメント大主教。貴殿に任せたいと思う」
重苦しい沈黙を破るように、総主教が小柄なクレメント大主教を静かに指名した。
「貴殿は群島帯にて原住民へ多くの正しき福音を届けた。また、エスパーナ統治時代に伝統派へ染まった者達を数多く改宗させた実績もある。貴殿の経験と英知に恃みたいと思うが、どうか?」
「そう褒めて頂いては断り難うございますな」とクレメント大主教は苦い顔を浮かべつつ「ふむ。いくつか皆様の御助力を願いたくありますが、それが叶うならば、非才の身ながら教会と信徒のため、務めてみましょう」
「快諾ありがとう。兄弟よ」と総主教はにっこりと微笑み「して、まず何を求めるかね?」
「聞けば、ベルモンテ公王家は王権を捨てる覚悟とか。なれば、レンデルバッハ家がベルモンテ至尊の椅子を求めぬことを誓っていただきませんと、我らは王座簒奪の尖兵と誤認されかねませぬ」
クレメント大主教は人差し指を上げながら語り、親指を立てた。
「次に、王妹大公嫡女ヴィルミーナ様はベルモンテに苛烈な報復を御企てとのこと。まあ、これは我ら教会に仲裁を求めたことから一顧されたようですが、彼女の報復に便乗を図っていた経済界のお歴々がヴィルミーナ様に再考を求めぬとも限りません。これに釘を刺しておかねばなりませぬ。ヴィルミーナ様と経済界。密接な連絡が必要です」
ふむふむと頷く面々へ、クレメント大主教は中指を立てながら語る。
「そして、もっとも困難なのが法王国への連絡。まずもって彼らに話を通しておかねば、難事が更なる難事となりましょう。問題は先にも語り合ったように、これより法王国が戦になりかねぬこと。彼らは我らを利用し、戦禍を逃れようと足掻くはず。この対処は王国府や他国とも図らねばなりません」
「他にも細かな問題がありそうだが、概ねはその三点ですかな」
別の大主教が言い、総主教へ水を向ける。
「人手が要りますな。それも相応の位階と伝手を兼ね備えた」
「うむ。要員を選び出さねばならんな」
総主教は鷹揚に首肯し、全員を見回し、
「各々方。敬虔なる我らが信徒に良き福音を届けんがため、力を合わせようぞ」
聖剣十字の印を切り、大主教達と共に唱和した。
「祝福あれ」
○
物質的救済と精神的救済。
聖王教会は長年に渡って後者を重んじてきた。魂の救済を強く説き、貧乏人達へなけなしの小銭すら献金皿へ納めるよう、奨励してきた。
そうして世界中の献金皿に注がれた浄財が法王庁に集積され、強大な教権の源泉となってきたのだ。アルグス人傭兵達が聖都を襲った理由も、聖都に金がたんまりあると知っていたからだった。
ナプレ王国アルフォンソ3世も知っていた。
聖都に莫大な金があることを。聖都だけでなく法王国各地の主要教会施設にも、相応額の資産が納められていることを、ナプレ国王は知っている。
そして、アルフォンソ3世には金が必要だった。
元々のコルヴォラント不況で金が無かったところへ、この戦争。まず以って軍資金がカツカツである。半島南部制圧という乾坤一擲の大博奕に臨んだが、これも原資が全く足りない。協商圏から融資や支援を受けているものの、大概が返済義務を伴うため強く当てにできない。
金が要る。借金ではない金が。
カーパキエを滅ぼすのは領土と半島南端の優良なエリュトラ港を得るため。ただし、カーパキエにも金が無い。戦禍に荒れたエリュトラ港の復興と各地の開発に金が要る。
だから、アルフォンソ3世は法王国とベルモンテを征服したい。領土的野心もあるが、現ナマを手に入れるために。コルヴォラント南部の征服後、支配を確実にするべく資金が要る。
金が要るのだ。金が。それこそ大枚が要る。
「既に死に体のカーパキエなど鎧袖一触。後回しにしても良いのですが、法王国を侵攻するとなると、やはり方々へ根回しが必要です。追い詰められた坊主共が我が国へ聖伐軍を訴えかねませんから。もちろん今日び聖伐軍義勇兵など集まらんでしょう。しかし、聖伐軍を差し向けられるというのは、風聞が良くありません」
宰相の見解に頷き、アルフォンソ3世は逞しい腕を組んで唸る。
「ベルモンテの方はどうか?」
「あちらはピエトロ王太子がぶち上げた王権返上で面倒な事態になっています。迂闊に関わると、どんな厄介事に巻き込まれるか分かりません。列強に任せてしまいましょう」
思案顔を浮かべる主君へ、宰相は滔々と言葉を編み重ねていく。
「先立ってチェレストラ海の戦を済ませてしまいましょう。次いで、カーパキエを征服。その後に情勢を見極めて法王国かベルモンテへ侵攻。問題はどこまでやるかですが……」
「法王国もベルモンテも南半分を獲れれば良い。その先の偉業は子々孫々の判断に任せる」
アルフォンソ3世は豪快に鼻息をつき、
「兎にも角にも、チェレストラ海……ヴィネト・ヴェクシア海軍か」
顎を撫でながら眉根を寄せた。
「我が国と陸軍国家の連合艦隊でコルヴォラント半島随一の海軍に勝てるのか?」
奥ゆかしき宰相は肩を竦めるだけだった。




