閑話28b:ブラックオプス1781
お待たせしました。
この夜、法王国オルゴネーゼ伯領聖ベンヴェヌート騎士修道院へ行われた夜間強襲作戦は、押し込み強盗そのものだった。
戦争鯨が全力砲撃で兵舎を破壊し、2隻の飛空短艇が対地掃射で防壁や側塔の夜番警備兵を制圧する。その間に貨物飛空船が屋外練兵場に強行着陸。傭兵部隊の銃兵と装甲兵が二手に分かれ、修道院本館と大倉庫へ向けて駆けていく。
前者の目的はギイ、後者の目的は大量破壊魔導兵器だ。
「時間はねェぞっ!! 急げ急げ急げ―――――っ!!」
メガホンを抱えたニステルバウムが開放甲板に仁王立ちし、ゴリラ面に似合いの怒号を上げる。
ニステルバウムの言葉通り、作戦に使える時間はそう多くない。
オルゴネーゼ伯領軍が押っ取り刀で駆けつけてくる。小国の小身貴族であるが、手勢の限られたニステルバウムにとっては重大な脅威だ。
それに、騎士修道院側が奇襲効果から立ち直ったら面倒なことになる。一分一秒でも早くギイを確保し、大量破壊魔導兵器を奪取しなくてはならない。
無論、押し込み強盗に黙って宝をくれてやるほど、聖堂騎士団は惰弱ではない。
「討ち入りじゃあっ!! 出合え出合えーぃっ!!」
夜番の者達が先駆けして迎撃に向かい、本館内に寝泊まりしていた騎士達も急いで戦闘準備を整える。
これがニステルバウムの最初の誤算だった。
ニステルバウムは真っ先に兵舎を潰せば、騎士修道院側の戦力の大半を無力化できると考えていた。その見込み通り、兵舎には騎士修道院の下士官兵が寝泊まりしており、兵舎が破壊されたことで下士官兵の大半が死傷した。
ところが、聖堂騎士やその従士、騎士見習い達は修道院内に居住しており、最初の強襲攻撃の損害を被らなかった。それどころか、兵舎や防壁の攻撃を優先したため、戦支度を整える時間すら得られていたのだ。
アニメチックな外套と甲冑を着込んだ騎士達が、刀剣類を手に続々と鉄火場へ赴く。それも青筋を浮かべて。
「神聖なる修道院に斯くの如き乱暴狼藉っ! 許さんぞ下衆共っ!」「賊共を生かして帰すなっ! 斬れ斬れ斬れィッ! 斬って斬って斬り捨てィッ!!」「神に代わって誅滅してくれるわ―――――――っ!!」
こうして状況はニステルバウムが期待した一方的な蹂躙劇にならず、グロテスクな死闘となった。
特に、騎士修道院本館へ突入した部隊は聖堂騎士達と真正面から激突した。玄関ホールで、礼拝堂で、廊下で、食堂で、それぞれの個室で熾烈な近接白兵戦が繰り広げられる。
銃声と砲声。爆発音。剣戟の音色。怒声。罵声。悲鳴。断末魔。泣き声。
静謐を尊ぶ神の家は、戦争交響曲の演奏会場と化していた。
野戦服姿の傭兵達が後装式単発銃を斉射し、手榴弾を投げつけ、爆薬を放り込めば。
魔導術を扱える騎士達が炎弾や氷刃を放ち、衝撃波を叩きつけ、魔導術で防壁を作り出す。
そして、甲冑を着込んだ装甲兵と騎士達が剣や手斧や戦棍を握り、盾を構え、がっこんがっこん殴り合い、斬り合い、殺し合う。
文明技術水準の設定がいい加減なファンタジーゲームみたいな光景。まあ、エルフもオークも小人も獣人もいないし、露出過多の女戦士もいないが。
それに繰り広げられる死闘にはCEROの鬱陶しい規制もない。
手足が千切れ飛び、首が斬り落とされ、ハラワタが撒き散らされる。半身をズタズタにされた死に損ないが泣き喚き、軍服が焼損して全裸になった重傷者が火傷の痛みに藻掻き狂う。年若い少年傭兵だろうと、幼さの残る乙女騎士だろうと、分け隔てなく無惨な死に様を迎える。
死の恐怖を味わい、仲間の血を浴びた傭兵達は怒り狂う。武器を持たぬ修道士や司祭、住み込みの下男下女にも銃弾を叩き込み、銃剣を振るい、刀剣を振り下ろす。
聖堂騎士達もまた、怒り狂っていた。負傷して戦えなくなった敵を捕らえずに容赦なく抹殺していく。
双方から冷静さと理性が失われ、修道院内は血肉に塗れていく。
「くそっ! 真面目に戦争しやがってっ! あいつら、本当にコルヴォラント人かっ!?」
傭兵部隊のコルヴォラント人指揮官が吐き捨て、大型ランドセルみたいな魔導通信器の通話具に怒鳴る。
「火力支援を寄こせっ! 修道院内を掃射しろっ!!」
飛空短艇が高度を下げ、窓越しに修道院内へ掃射を行う。銃弾、擲弾、小口径砲弾が注ぎ込まれ、修道院を凌辱する。窓ガラスや石材のタイルが砕かれ、壁床や支柱が抉られ、高価な調度品や内装が焼かれ、文化財が破壊されていく。
聖堂騎士達が如何に頑丈な甲冑を着込み、強固な防御魔導術を駆使できるといっても、艦砲の直撃に抗えるほどではないし、機関銃や擲弾銃の掃射を防ぎきれるものではない(それが可能だったなら、戦争の主役は銃砲にならなかったはずだ)。鉄量と炸薬が騎士達を修道院ごと打ち砕く。
修道院本館で激闘が繰り広げられている一方、もう一つの舞台――大倉庫の攻防戦も熾烈を極めていた。
兵舎が破壊されて兵力の大半を失い、騎士達が修道院内で死闘を繰り広げているためか、大倉庫側の守りは薄い。
その守りの薄さ――劣勢が大倉庫の警備隊や騎士、技術者達をトチ狂わせた。
このまま奴らにむざむざ奪われたり壊されたりするくらいならっ!
やけっぱちになった人間の採る行動に、人種や民族の違いはない。
○
有事の際、こういう教会施設の避難所は地下の酒蔵や保管庫というのが通り相場で、気の利く施設の場合、施設外に脱出可能な秘密通路を備えている。
聖ベンヴェヌート騎士修道院は気が利いている施設で、修道院の地下施設の一角から外の墓地へ秘密通路が通っており、いざという時の脱出が可能だった。
襲撃者側がそのことを知ってさえいなければ。
秘密通路の出入り口が爆砕され、
「突入、突入突入ッ!!」
怒号と共に、エスパーナ帝国製小銃や散弾銃を抱えた傭兵達が、次々と修道院の地下に侵入していく。
避難所のはずが突如戦場と化し、地下に避難していた修道院の非戦闘員達が泣き喚きながら逃げ惑う。
聖堂騎士の主力は地上で迎撃戦を行っているため、地下に配された戦力は少ない。数人の聖堂騎士と騎士見習い。それと―――
人柄は褒められたものではないものの、魔導の天才が居た。
「美女はいくらでも歓迎するけれど、野蛮人はお断りだね」
ギイ・ド・マテルリッツは予備動作無しに魔力衝撃波を放ち、賊を牽制する。
『くそったれ』と賊がコルヴォラント語で悪態を吐く。対魔導装備無しで魔導術士と近接戦を挑むなど、熊に素手で挑むようなものだ。一旦後退して距離を取る。
地下の戦いに僅かな停滞が生じたところへ、
『ギイッ! ギイ・ド・マテルリッツッ!』
賊が制圧した方から大陸西方メーヴラント語が聞こえてきた。
ギイには聞き覚えがある声だった。加齢と喫煙で多少変わったが、子供の頃から聞き慣れた声だった。
『この大馬鹿野郎っ! わざわざ迎えに来てやったぞっ!』
かつてはジョック崩れの女食いのチャラ男で、今や伊達男でスケコマシの間諜モドキ。
古馴染の親友カイ・デア・ロイテールだ。
ギイは思う。
こりゃ“不味い”。
カイが現れたことではない。王太子近侍がわざわざ自分を殺すためにコルヴォラントまで赴くことはない。おそらくエドワードの肝入りで身柄を確保しに来たのだろう。それは良い。御厚情痛み入る次第。友情のなんと有難いことか。
ただし、時と場合がよろしくない。
だって、ほら。
ギイの傍には聖堂騎士達が居るわけで。エリートである彼らは大陸西方諸語を当然のように解するわけで。
「この襲撃はお前の企てかっ!!」
監視兼護衛の若い聖堂騎士が激甚な憤慨と憤怒に染まる。同時に、これまで堪えてきた衝動を解き放つ歓喜を混ぜた、とっても獰猛な表情をこさえた。
他の聖堂騎士達や騎士見習いの少年少女も、血走った眼差しと得物の切っ先をギイへ向けてきた。地下に逃げ込んだ司祭や修道士や下男下女達も『おめーのせいかよっ!』と敵意剥き出し。
やっぱりこうなるよね。
「あー、待った待った。僕を疑う気持ちはよーくわかるけども。この件は僕も与り知らないというか」
ギイは両手を上げて弁明を試みるも、
「黙れ、異端者めっ!! 貴様のせいで、俺達の仲間がっ! 友がっ!」
若い聖堂騎士がギイに怒声を浴びせる。剣を握る手に力がこもり、柄がミシミシと悲鳴を上げた。
「ギイをこちらへ寄越せっ! それでお前らを見逃してやるっ!」
カイが大陸共通語で呼びかけてきたが、
「我ら誉れ高き聖堂騎士っ! 賊如きと交渉などするものかっ!」
若い聖堂騎士は罵声を返し、ギイへ切っ先を突きつける。
「上官からは貴様が裏切ったなら斬り捨て良いと言われているっ! まさにその時だなっ!」
「状況証拠だけで判断するとは嘆かわしい」
ギイはふっと微笑み、ぱちん、と指を鳴らした。
瞬間、若い聖堂騎士を筆頭に周囲の騎士や騎士見習い達、非戦闘員のその他がバタバタと倒れていく。
「な、何が――」
若い聖堂騎士は強烈な酩酊感と三半規管の狂いにより、立つことはおろか剣を握ることもできない。
動揺する若い聖堂騎士を見下ろし、ギイはしれっと嘯く。
「大気中の成分を少々変えた。君らがごちゃごちゃやっている間にね。何、小一時間ほど休めば元気になるさ」
「バ、バカな……魔力反応など――」唖然とする若い聖堂騎士へ、
「この程度の小細工、君らに感知されるほどの魔力を必要としないよ。僕はこれでも“まあまあ”腕が立つんでね。いや、大人の余裕といったところかな?」
にやりと口端を歪め、ギイは資料が詰まった革鞄を拾い上げ、昏倒している高級娼婦を一瞥した。
「彼女は何も知らない。拷問とか酷いことはしないであげてくれ。じゃ、世話になったね」
あっさりとした別れを告げ、ギイは若い聖堂騎士をまたいでカイの待つ方向へ歩み始める。
「今からそっちに行く。撃たないでくれよっ!」
「さっさと来いっ! 傭兵の超過勤務手当がかさんでるんだっ!」
カイの怒声を聞き、ギイは楽しげに笑う。
あのチャラ男から超過勤務手当なんて単語を聞く日が来るとは。
○
このままでは賊に強奪されるか破壊される、と判断した騎士修道院大倉庫の警備兵や技術者達は、大倉庫内で組み立て中の新型大量破壊魔導兵器を使用することを決断した。
死なば諸共、目にもの見せてくれる。とばかりに。
騎士や警備兵達が死に物狂いで時間を稼ぐ間、大倉庫の中で技術者達が象の成獣並みにデカい物体に群がり、大急ぎで起動可能状態に持ち込もうと工具を振るっている。
管と金属体がごてごてと寄せ集められた、スチームパンクな胴体の上に、魔鉱合金製の大きな大きな凹面の円形盤が据えられていた。その円形盤の外縁から伸びる複数の支柱によって、太く長い円柱物体が支持されている。
現代地球世界風に例えるなら、大型パラボラアンテナのコンデンサー部分に大型望遠鏡を引っ付けたような、と言ったところだろうか。
「工程10番から14番は省略っ!」「おい、その導管をしっかり止めろっ! 吹っ飛んじまうぞっ!」「転換盤の設定表はどこだっ!」「ダメだッ! 魔力を流してみなけりゃ分からんっ!!」「とりあえずやっちまえっ! どうせ敵が踏み込んで来たらおしまいだっ!」
表の戦闘騒音に負けじと大声で怒鳴り合いながら、技術者達は大慌てで新型大量破壊魔導兵器を整備していく。
組み立て中の代物であり、そもそも稼働試験すらしていないブツを、ドンパチの最中に、戦闘出力でぶっ放そうというのだから無理無茶無謀を通り越して、狂気の沙汰だ。
もっとも、このスチームパンクなパラボラアンテナのお化けは、生まれからしていい加減だった。
ギイの手掛けた基礎理論と設計を基に製作された縮尺試作品が、研究所の試験場で“まあまあ”の成果を挙げた。これによりいきなり実寸の現物製作に進んでしまったのだ。戦争の情勢が怪しかったせいもあるだろうし、法王庁上層部が兵器開発というものを理解していなかったせいもあるだろう。
「魔石を詰めろっ!」
主任技師の怒声と共に、手透きの技術者や警備兵が急いで胴体部の動力庫へ魔石を詰め込み始めた。まるで蒸気機関車のボイラーに石炭を詰めるように、スコップや箕を使って動力庫へ一般用魔石を押し込んでいく。
空からの対地掃射が大倉庫付近に荒れ狂い、衝撃波などで建物が悲鳴を上げる。
「蛮人共がぁっ! 好き放題やりやがってえっ!!」
目を血走らせた主任技師がガラスの一枚も残っていない天窓越しに戦争鯨を睨む。
戦闘の激化に焦りながらも、技術者達は発射工程を進めていく。
「魔石、装填完了っ!!」「支脚展開良しっ! 固定完了ッ!」「発射台、準備よろしっ!」「転換盤の設定終わりッ! 撃ったら吹っ飛ぶかもなっ!」「収斂蓄積筒、調整良しっ!」「照準合わせ、完了っ!」
パラボラアンテナのお化けが顔を頭上の天窓、その先に居る戦争鯨へ向け終え、技術者の一人が代表して叫ぶ。
「発射準備、条件付きで完了っ!! 魔力抽出転換を終え次第、撃てますっ!!」
「魔力抽出転換、開始っ!」
主任技師が吠えた。
起動レバーが入れられ、点火魔石が励起反応を開始して魔導術理が目を覚ます。起動魔導術理をスタートに、スチームパンクな胴体部の96もの魔導術理機構が順次駆動開始。動力庫に詰められた大量の魔石を励起反応させ、氷を溶かすように魔力を抽出していく。
魔石から絞り出された魔力は魔導術理機構に従って無数の導管内を駆け抜けながら、圧力と熱量と密度を高めていく。
その巨大な負荷に象の成獣並みに大きなパラボラアンテナのお化けが、恐ろしげな唸り声をあげ、ガタガタと巨躯を揺らし始める。無理やりつなげられた導管や機構から励起反応の緑光粒子が漏れ出していた。
技術者達が顔を不安と恐怖に引きつらせ、期待と興奮に歪め、知的好奇心と子供染みた歓喜に双眸を輝かせる。
胴体内を駆け巡った魔力が凹面円形盤――転換盤へ注がれ、盤面にみっちり刻まれたスタロドープ式魔導術理式へ火を入れる。
瞬間、曼荼羅にも似た転換盤のスタロドープ式魔導術理が青緑色の励起反応を発し、転換盤を中心に全8枚の立体魔導術理を投影。さながら転換盤を花床に花が咲いたようだった。
そして、雌しべのように屹立している――支柱で転換盤の前方に据えられた円筒――収斂蓄積筒の底に向け、八枚の花弁から青緑光粒子が奔流と化して流れ込む。
その光景はどこか神聖さすら感じるほど美しく、どこか悪魔的なまでに恐ろしく、技術者達は二重の意味で聖剣十字の印を切った。
この時代らしい簡素な計測機器はほとんど意味をなしていなかった。表示が荒れ狂って精確な数値や状態が一切分からない。それでも、律儀な記録係達がクリップボードにペンを走らせる。
高密度魔力を注ぎこまれていた収斂加速筒の外筒に青緑色の励起反応光が走り、幾何学文様が浮かび上がったことを確認し、技術者が怒鳴った。
「発射準備完了っ!!」
主任技師が絶叫した。
「撃て―――――――――――――――――――――――――ッ!!」
○
主任技師が吠える少し前から、修道院内に居た全ての者達が強大な魔力の波動を感じ取っていた。
魔導術教育を受けている彼らの知識や常識から言って、これほどの魔力波動を生じさせるモノはただ一つ。
大量破壊魔導兵器。
カタストロフの発生が近いと判断した両陣営は即座に戦闘を中断し、退避に移る。
如何に魔導障壁があっても、爆心地付近に居て無事に済むかなど誰にも分からない。アリシア・ド・ワイクゼルがワーヴルベークの戦いで聖女と謳われたのは、一個の人間が大量破壊魔導兵器の放出投射魔力を抑え込むという、“奇跡”を起こしたゆえだ。
傭兵部隊は死体を置き去りにし、負傷者を担いで練兵場の貨物飛空船へ向かう。
聖堂騎士達は負傷者を抱えて修道院地下の避難所を目指す。
誰も彼もが破滅の予感を抱いて恐れる中、カイと傭兵達に囲まれながら練兵場へ向かっていたギイは、嗤っていた。顔を引きつらせながらも双眸を爛々と輝かせて。
練兵場に停泊していた貨物船に乗り込みながら、カイは眉目を吊り上げて怒鳴る。
「お前が作った大量破壊魔導兵器の威力はっ!?」
「理論値だけなら、この修道院を綺麗さっぱり更地にできるっ!」
ギイは汗を拭いながら冷笑しながら怒鳴り返す。
「ろくでもないもん作りやがってっ!」とカイが罵倒し、
「作っただけだよっ! 使うかどうかは僕の責任じゃないねっ!」とギイがせせら嗤う。
ギイがマッドサイエンティストそのものの発言を披露していた時、修道院上空を飛ぶニステルバウムの戦争鯨と飛空短艇も困惑し、憂慮に駆られていた。
地上から届く強烈な魔力波動に魔導通信器が不能となり、浮揚機関の出力も不安定になり始めていた。船体に施されている魔導障壁が早くも反応を始めている。
ニステルバウムも船員も皆、これはヤバい、と感じていた。地上の連中を見捨てて退避すべきだと。
しかし、ニステルバウムは退けない。この大一番に人生の勇躍が懸かっているのだ。自分だけでなく家族の未来が懸かっているのだ。子供達がしがない雇われ船長の子として育つか、準貴族の子として育つかの瀬戸際なのだ。
ニステルバウムは退けない。いや、退くものか。
「大倉庫を破壊しろっ! 奴らが大量破壊魔導兵器を使う前に潰せっ!」
奪取が出来ずとも良い。命令は破壊も許容していた。手柄の値打ちが下がるが仕方ない。
もしも、この時にニステルバウムの船が高機動なグリルディ型戦闘飛空艇だったなら。乗員が捨て駒扱いできない水準の高練度な人員だったなら。
ニステルバウムの目論見は成功しただろう。
しかし、彼の扱っている戦争鯨はポンコツに毛が生えたような武装飛空船で、人材はこの危険な作戦で消耗しても良い水準の者達だった。
よって――
○
大倉庫内に咲いた魔導術理の大造花は雌しべに収斂蓄積し、投射口へ集約した魔力を莫大な可視光熱エネルギーに転換し、線状投射した。
刹那。
大気が焼け、弾け、熱膨張した轟音と衝撃波が大倉庫内のあらゆる物を吹き飛ばし、技術者達を焼き払った。
大倉庫内を薙ぎ払う激烈なエネルギーは、青光をまといながら空へ一直線に疾駆し、天井を円形に焼き切りながら夜空へ走った。
夜闇を切り裂く青光の一線は、ニステルバウムの駆る戦争鯨を捉え、一瞬で船体の魔導障壁を蒸発させ、船体ごと船内の乗員を炭化させつつ、あらゆる金属物質を融解させた。
周囲を飛行していた二隻の飛空短艇は、光線の直撃こそ受けなかったものの、その輻射熱に気嚢と船体が焼け、乗員ごと火だるまになって墜落していく。
離陸したばかりの貨物船もその熱エネルギーの余波を浴び、修道院の外へ落ちていった。
時間にして一秒の三分の一にも満たぬ線状投射時間で、パラボラアンテナのお化けは限界を迎えた。大量の魔石を食いつくし、胴体部の各所は耐久限界を迎えて破損し、凸面円形盤は焼け、収斂蓄積筒は投射熱に負けて半ば溶解する。
魔導技術文明世界史上、初となる光線型大量破壊魔導兵器の最初の一撃は成功であり、同時に、現時点における技術的限界を暴露した。
そして……乗り込んだ貨物船が墜落したものの、カイとギイは何とか生きていた。しぶとい。
「あああ、くそ。不味いことになった」
煤塗れの顔でカイが嘆き、
「こんなことなら君に着いていくんじゃなかったなあ」
鼻血を拭いながらギイがぼやき、
「お前のこさえたガラクタのせいだろうがっ!」
「君達のやり口が乱暴で杜撰だったからだろ。僕のせいにするない」
言い合う2人へ生き延びた傭兵の一人が言った。
「旦那方、これからどうすんです? 脱出のアシはパーになっちまいましたぜ」
かくして、ミッションがアップデートされた。
『法王国から自力で脱出せよ』




