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転生令嬢ヴィルミーナの場合  作者: 白煙モクスケ
第3部:淑女時代

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255/336

19:3a

11/16)一部表現修正。

大陸共通暦1781年:夏

大陸西方コルヴォラント:エトナ海諸島:某所

―――――――――――


 やっちまおうぜ。


 金塊をたらふく載せた『プチ・ルイズ号』の噂が流れた時、バカ共が大いにはしゃぎだした。

あれだけの宝船を黙って見過ごす手はねェ。あの金塊はベルモンテがコルヴォラントの同胞を裏切るために使われるってぇじゃねーか。こいつを分捕るのはコルヴォラントのため、こりゃあ立派な正義の行いだぜ。義は我らにありってなもんよ。だからよ、


 やっちまおうぜ。


 こんな会話が地中海沿岸諸都市のあちこちで交わされていた。それに、“商事”の工作員や現場要員達が煽ってもいた。それどころか、いざという時は現地の小悪党を雇って偽旗作戦を実施する用意さえしていた。


 ただし、エトナ海諸島の某島に根城をおく空賊ジャン・ジャックと彼の駆る武装飛空船『マスキアッチョ・マチルダ』は、“商事”の与り知らぬ者達だった。


 むろん、“商事”が把握していないゴロツキなど大勢いた。如何に手が長いと言っても、“商事”は民間組織。限界がある。


 さて、『お転婆マチルダ』の船員は4分の3がクレテア人とエスパーナ人で、ベルネシアが大嫌いだった。


 彼らにとって、ベルネシアは大冥洋で長年に渡って戦ってきた仇敵である。ベルネシアの財閥の金塊を奪うことに何の遠慮もない。

 金塊を運ぶ『プチ・ルイズ』がクレテア船舶ということも、問題ない。ジャン・ジャックとそのクレテア人水夫達は協働商業経済圏とやらに参加し、怨敵ベルネシアと手を組んだ祖国に失望しており、戦役後に祖国を経済的に蹂躙したベルネシア資本の仕事を請け負う者達など、売国奴に等しい。


 なにより、空賊ジャン・ジャックは元クレテア下級貴族だった。実家の世襲騎士家がベルネシア戦役後の戦争推進派貴族に対する粛清の煽りを受け、没落。父と兄は戦役で死し、母は没落後の極貧の中で衰弱死。ジャン・ジャックも貧困という煉獄の中で生きてきた。

 ジャン・ジャックにとって祖国もベルネシアもアンリ16世も白獅子も、等しく憎悪の対象だ。『プチ・ルイズ』を襲撃し、船員を皆殺しにすることとなっても構わなかった。


 とはいえ、『プチ・ルイズ号』はその名前と違って容易く襲える船ではない。

 大量の金塊を移送するため、重武装の警備員達が乗船しているし、戦闘飛空艇グリルディⅢ型改が護衛に付く。加えて、ラ・モレン警備保障の重装コルベット『サイトーン・ヒリガー号』も途中まで同行するらしい。


『プチ・ルイズ』を手籠めにするには、戦争鯨と重装コルベットをやっつける必要があった。よって、ジャン・ジャックは『マスキアッチョ・マチルダ』の幹部達と相談の末、海賊仲間にも声をかけた。

 単独で仕留められる相手ではないし、1000億円相当の金塊だ。山分けしても取り分はデカい。


 かくて『マスキアッチョ・マチルダ』を筆頭に、海賊の『オツィアーレ・イザベラ号』と『ノン・ポッパーレ・シェフィー号』、空賊エレモン四兄弟からなる空海賊連合が『プチ・ルイズ』を狙ってエトナ海諸島から出撃した。


 で。


 結論から言えば、『プチ・ルイズ』は砲弾を浴び、地中海の公海域に沈んだ。

“どういう訳か”、流れ弾を浴びた『プチ・ルイズ号』は炎上を起こした。船員と警備員の大半は脱出に成功し、護衛船『サイトーン・ヒリガー』に救出されたものの、『プチ・ルイズ』は金塊を抱いたまま海中へ没していった。

 ヴィルミーナの描いた“物語の通りに”。


 護衛対象を沈められた怒りからか、護衛の戦闘飛空艇グリルディⅢ型改は襲撃に失敗した空海賊連合を執拗に追撃した。エレモン四兄弟の駆る小型飛空艇群を蹴散らし、モテないシェフィー号を炎上轟沈させ、空回りイザベラ号を撃沈。逃げる御転婆マチルダ号を追いかけ、エトナ海諸島独立政府群の領海へ向かった。


 ここで、戦闘騒音を聞きつけ、領海境に出張ってきたエトナ海独立政府群の領海警備隊が、グリルディⅢ型改の領海侵入を咎め、即時退去の勧告を行った。当然の対処である。

 が、グリルディⅢ型改は逃亡する空賊船マチルダ号の追跡のため領海進入を認めろ、と逆に強訴した。これもまた、この時代の慣習としては珍しくはない。


 国際法やら契約法規やらエトナ海諸島独立政府の法やらを交えた押し問答が繰り広げられた末、グリルディⅢ型改から侮蔑的な言葉を浴びせられた領海警備隊が『威嚇射撃』を敢行。


 グリルディⅢ型改は撤退し、『エトナ海諸島独立政府の海軍から攻撃を受けた』とベルネシアとクレテアに報告した。

“白獅子の計画した通りに”。


 万事順調、と工作員達が密やかに祝杯を挙げている中、『プチ・ルイズ号』の顛末を把握し、“商事”のコルヴォラント担当理事は小首を傾げた。

「空賊ジャン・ジャック……誰? リストに名前が載ってないよ? え、誰なの?」


      ○


 白獅子財閥の新聞社や広告会社が『プチ・ルイズ号襲撃事件』の顛末に“尾ひれ背ひれ”を付けて騒ぎ立てていた頃だ。


 聖冠連合帝国を出航した『ブルステン・キュルケ号』がコルヴォラント半島の南端を越えようとしていた。

 この時、カーパキエ王国海軍のコルベット二隻が『デカパイキュルケ号』に接近し、停船命令と臨検通告を行った。彼らは『噂』によって疑心暗鬼に駆られていたから無理もない。

 加えて言えば、ヴィネト・ヴェクシア共和国から『キュルケ号が武器弾薬を搭載している』という情報が寄せられていたことも、彼らの背中を押した。


 こうした背景の下、『ブルステン・キュルケ号』が停戦命令と臨検通告を、“公海”上で受けた。


 この時代の地中海における国際法は、現代地球の国際法ほど厳密ではない。というか、そんなもんろくに守られていない。海賊海岸が跳梁跋扈していたことから分かるように、半ば無法海域である。民間商船も自衛のために武装することが常だったし、不仲な国同士の武装商船が小競り合いを起こすことも少なくなかった。


 列強国同士が明確にルールを定めたうえで、奪い合い、殺し合っていた大冥洋の方が文明的と言えるかもしれない。まあ、その殺戮と破壊と略奪の規模はエグいほどだったけれど。


 ともかく、カーパキエ王国海軍による臨検は『合法』だった。


 問題は護衛の民間軍事会社(デ・ズワルト・アイギス)だ。警備員(オペレーター)達は完全武装で、ベルネシア製火砲搭載の重装飛空船。下手な海賊より重武装だった。

 民間軍事会社(デ・ズワルト・アイギス)は契約国の免責特権を有しており、ベルネシアとクレテアと聖冠連合の限定私掠免状――武装の許可と海賊に対する戦闘と強奪の免許を持っていた。正規軍ではないから臨検を受けることになる。が、武装許可を持っているから武装を押収される謂れはない。


 この辺りの法解釈を巡り、カーパキエ王国海軍と民間軍事会社が揉めた。


 そこへ、カーパキエ王国海軍が『キュルケ号』に積載された帝国軍貨物箱を発見。中身を改めた。予想されていた武器弾薬はなかった。無害な文物だった。

 無害で……高価な文物だった。中央域やテュルク製の高価な絨毯やアンティーク調インテリア。それこそ金貨金幣で取引される代物だ。


 断っておく。臨検で積荷を押収、場合によっては船ごと接収……強奪することは珍しいことでは無かった。というより、その手の“臨時収入”が船員達のモチベーションだった。

 ましてや貧乏国家カーパキエ王国海軍の下っ端将兵である。御宝の山が敵対国の軍用貨物箱に収まっていたら、『押収』と言いたくもなろう。

 ある意味で、用意された“餌”だった。


 カーパキエ王国海軍はキュルケ号の武装と軍用貨物箱を全て押収する、と言った。

 ベルネシアに居る魔女の“期待通りに”


 キュルケ号の船長は『そのようなことは受け入れられない』と言い、民間軍事会社は『寝言は寝て言え』と罵った。それどころか『これ以上舐めた真似をするなら契約に則り、積荷と乗員の保護のため武力行使を厭わない』とすら言った。


 ―――記録として正確に判明しているのは、ここまで。


 以降の詳しいことは分からない。

 ただ『キュルケ号』内で突然、銃声が発生して済し崩し的に戦闘が勃発。

『ブルステン・キュルケ』は200トン分の黒色油が引火し、大爆発した。臨検のため接舷していたコルベット一隻も炎上轟沈。伝説ではこの爆発と海上火災はカーパキエ王国沿岸からも見えたという。

 両船の生存者はわずかで詳細の分かる者は居なかった。


 民間軍事会社の武装飛空船は、“偶然”、船員が所有していた最新式のイストリア製写影器を用い、燃え上がる『ブルステン・キュルケ』や波間から引き上げられる黒焦げの屍、救助された負傷者を撮影した。

 これらの写真はかつてない速さでベルネシア、聖冠連合帝国、クレテアへ届けられ、即日新聞に掲載された。


 カーパキエ王国とコルヴォラント連合軍を糾弾し、武力制裁を訴える文言が並ぶ新聞や広告が市井へ怒涛の勢いで流れ込んでいった。

 全てはヴィルミーナと白獅子が描いた『物語』の通りに。


 報告を受けたヴィルミーナは一人になってから、女神のように微笑み、歌うように呟く。

「リメンバー・メイン。リメンバー・ルシタニア。もう誰にも止められない」


       ○


『おチビルイズ』と『デカパイキュルケ』の撃沈は、当時においても陰謀論や謀略の見方が強かった。どちらの船も白獅子の荷物を運んでおり、護衛は白獅子の民間軍事会社。


 ある程度の事情に通じた者なら、怪しまないはずがない。

 当然のように『自作自演ではないのか?』と疑う声が上がった。特に反ベルネシア、反ヴィルミーナ、反白獅子の立場にある者達は強く疑っていた。中にはこの段階で『ヴィルミーナが王国を無用な戦争へ追い立てようとしている』と真実を言い当てた賢者も居た。


 しかし、無意味かつ無駄だった。真実は作られた世論の暴圧に勝てない。少数の賢者は圧倒的多数の愚者に勝てない。


 白獅子の新聞社と広告会社が土石流のように扇動工作を行い、“商事”が流す噂と風聞によって浸透していった。

 また、デルフィネを中心とした白獅子の”外交官”達が、既に国内の同業他社――地中海貿易関係者や対クレテア・地中海貿易関係者、ソルニオル経済特区出資者などを既に囲っていた。彼らも宣伝戦に駆り出し、強力なロビー活動を行っている。

 偏向報道と扇動工作の大津波が反対意見を押し潰し、真実を圧殺していく。


 では、ベルネシアの一般大衆がかくも白獅子の工作に食いついた理由とは何か。

 大衆が理解していたからだ。メーヴラントの中堅国家に過ぎないベルネシア王国が、列強として大国のクレテアやイストリアなどと渡り合っていられる理由は、海洋商業経済にあることを。海運商業がこの国の力であり、自分達の生活の根幹であることをよく理解していた。


 大衆には事件の真偽よりも、ベルネシアの海運商業が他国に妨害された、という事実がはるかに大事だった。

 この事態を見逃し、他国がベルネシア商船を襲い始めたら? ベルネシア海路を攻撃し始めたら? 我が国は、我らの生活はどうなる?


 外洋領土でも同様だった。海運が寸断されて本国から切り離されたら? 蛮地に進出した我々はどうなる? 私達が汗と血を流して獲得したこの生活は?


 白獅子の宣伝工作はこの不安と恐怖を強く刺激し、憤怒と憤慨を大きく煽る。民族主義、愛国心、信仰心、商業や経済の損得等々、あらゆる薪に燃焼促進剤を塗りたくって火にくべる。


 ヴィルミーナが描いた宣伝戦に対抗できる者は、いなかった。

 この時代、大軍の大攻勢を止める術を知る者は何人もいた。しかし、このような情報戦や宣伝戦のノウハウを知る者はまずいない。


 なぜなら、宣伝戦とは20世紀を通してマスメディアの価値と脅威、情報の値打ちと危険性、広告と広報、宣伝の効果などが学術的に検証され、社会的に実験実践された末に開発された現代地球の手法なのだ。前近代に『噂』や『風聞』の持つ破壊力を正しく理解している人間などいない。


 そして、宣伝戦の奔流はベルネシアを席巻するだけでなく、クレテアと聖冠連合帝国でも猛威を振るった。自国貨物船を沈められた両国は新聞や広告が煽るままに、報復と復讐の声が辻に轟く。宣伝戦の暴威はコルヴォラントでも吹き荒れた。冷静な識者や賢人の声を無知な大衆と愚者の怒声が掻き消している。


 元々、経済対立から緊張/緊迫した状況だっただけに、ヴィルミーナの情報工作は堰を切り、堤を破ったように激流を生んでいた。


 情勢は一線を越えた。あとはもう互いに宣戦布告を叩きつける機を整えるだけ。

 もう誰にも止めることはできない。


        ○


 キュルケ号事件後、精神的限界を迎えたカーパキエ国王が失神昏倒したため、倅の王太子や軍高官達が半ば達観顔で戦争の準備を進めている。

 なんせ聖冠連合帝国へ派遣した外交官は『今更我らの間で協議することなど何一つありますまい。機が満ちた時、然るべき文言を交わすのみでしょう』と追い返されていた。もはや逃げ道など無い。アハハもうどーにでもなーぁれー。


 公王ニコロはカーパキエ国王ほど精神薄弱ではない。人間的に下劣であっても、彼は望んで玉座を得るほどタフだった。

 ゆえに、ニコロは“敗北”を受け入れながら、考える。


 ベルネシアに派遣している内相ザンブロッタを始め、重臣達が発狂したように喚いていた。どうすればよいのですか陛下ッ! どうすればよいのですっ!? 我らはどうすればっ!?


 そんな周囲の声を無視し、ニコロは思索に没頭する。全身全霊を投じて思考する。

 アンジェロ事件後の展開は完璧だったはずだ。不確定要素たるヴィルミーナは表舞台から蹴り落とされ、無力化されたはずだ。白獅子はヴィルミーナのワンマン組織であるから、頭脳を欠いた巨獣には何もできないはずだ。白獅子の停滞でベルネシア経済にも縛りが出来たはずだ。自身が提案した札はベルネシアにもクレテアにも、大いに旨みがあるものだったはずだ。


 全てが上手く回る、はずだった。


 何だ? 何を読み違えた? 何を間違えた?


 アンジェロだけでなくヴィルミーナも殺しておくべきだったのか?


 違う。


 ヴィルミーナだ。ヴィルミーナこそ、あの小娘こそ殺すべきだったのだ。


 もっと早くに。そうアレの母親がベルネシアに帰国すると言った時に。


 殺しておくべきだった。


 ニコロは大きく息を吐く。

 事ここに至って選べる選択肢は二つ。


A:ベルネシアを介してクレテア・聖冠連合に与し、コルヴォラント諸国と戦う。

 これを選べば国境に展開しているフローレンティア軍が即座に侵攻してくるだろう。あるいは、法王国に空気を入れられた連中が謀反や叛乱を起こすかもしれない。その旗頭には息子が立つだろうか。それとも廃人と化している甥を傀儡にするか。


B:コルヴォラント連合国の一員としてクレテア・聖冠連合と戦う。

 この場合、強力なクレテア海軍と戦うことになる。ベルネシアも加わるかもしれない。劣勢になれば、やはり謀反が起きるだろう。保身に駆られた重臣達がニコロの首を差し出して講和を図るに違いなかった。


 どちらを選んでも、死刑執行までの時間が違う程度の結末が待っている。

 詰み、というわけだ。後は玉座という名の牢獄に座り、最期の時を待つだけ。


 いや――


“まだ”だ。


 もはや戦は避けられない。もはやベルモンテの、自分の未来は閉ざされた。

 だとしても、兄嫁を殺し、兄甥を廃人へ追い込み、甥孫を殺した。弟の妾やその甥や姪を手に掛け、獄に押し込めてきた。妻や我が子達も自分を恐れるだけで愛していない。多く者を粛清し、弾圧してきた。友などこの世界のどこにもいない。


 そこまでしてこの玉座につき、王冠を被り、王錫を握ったのだ。

“これしきのことで”諦めるなどあり得ない。


 ニコロ・ディ・エスロナはおよそ人格人品その他を褒められた男ではないが……

 紛れもなく王であった。


        ○


「多少の修正や変更、計画のズレはありましたが、大筋は完全に予定通りです」

「ここまで上手くいくと、薄ら恐ろしいものがあります」

 王妹大公家の書斎に通されたリアとキーラの言葉は、ぼやきのような響きがあった。


 窓から覗く中庭では、ヴィルミーナとリアとキーラ、三人の子供達が仲良く遊んでいて、愛犬グリとグラが尻尾を振り回しながら子供達とじゃれている。


「元々、火種が燻っていたところへ燃焼剤を撒けば、燃え広がって当然よ。とはいえ……ベルネシア国内でこれほど反応性が高かったことは、私も想定外だったな」

 ヴィルミーナは自身で淹れたお茶を口に運び、ふっと息を吐く。

「その辺りの検証と調査は後々で良い。ルイズ号とキュルケ号。法的に落ち度はないわね?」


 水を向けられたキーラは首肯する。

「ありません。細かな問題点が無いわけではありませんが、蟻の一穴にはならないと断言できます。憲兵隊や司法省が動くことはできません。仮に動いたところで、我々まで手は届きません。せいぜい新聞社や広告会社の人間に逮捕者が出る程度でしょう。ルイズ号に関してはエトナ海諸島政府の責任追及を出来るかきわどい線ですが……扇動工作で押し切れるかと」


「よろしい。王国府と議会はどう?」

「事件と我々、特にヴィーナ様の関与を疑うものは少なからずおりますが、フィーのロビー活動と扇動工作が少々効きすぎているようで、こちらの想定通りになるかは不鮮明です」

 リアはヴィルミーナの問いに答え、逆に質問を口にした。

「しかし、今回の件でヴィーナ様を追及し、その延長で国債と白獅子の機密技術の件を片付けようとする……本当にそこまでしますかね?」


「想定通りなら“儲けもの”。相手が動かないならそれはそれで構わない。予備案の2か3で対応すれば済む」

 リアの質問へ答え、ヴィルミーナは窓の外を窺う。子供達が歓声を上げている様に柔らかく目を細めた。少し前まであそこにもう一人いた。天使のような、哀しい少年が。


 あの襲撃のことを忘れた日はない。命の光が消えていく瞳。命の温もりが失われていく小さな体。血の臭い。何一つ忘れていない。忘れなどしない。この胸に宿る自責と痛悔、そして、怒りが減じたこともない。


「この『物語』を進め、必ず報復せねばならない」

 ヴィルミーナは子供達を見つめながら、誰へともなく呟く。

「奴らは私達と白獅子を弱いと見做した。私達と白獅子を殴っても良い、と判断した。

 ゆえに、絶対に報復せねばならない。何倍もの力を持って殴りつけ、何倍もの代償を払わせねばならない。私達と白獅子を弱いと見做す者がいなくなるように。私達と白獅子を殴っても良いと考える者がいなくなるように。

 バカ共に教訓を示さねばならない。私達と白獅子に喧嘩を売れば、ただでは済まないと。

 その教訓のみが私達と私達の大事な家族を守ることに繋がる。あの子達とその未来を護ることに繋がる」


 母親の顔をしたヴィルミーナへ、同じく母親であるリアとキーラが恭しく頭を垂れた。


 とそこへ、ドアがノックされ、ヴィルミーナの許可と共にドアが開く。

 御付き侍女メリーナが告げた。

「王国府より使者が参られました。緊急とのことです」


 ヴィルミーナは口端を吊り上げてリアとキーラへ告げた。

「表舞台に戻る時が来たようだ」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] おちびルイズ?デカパイキュルケ?空賊ジャン・ジャック?? うっ頭が
[良い点] >「元々、火種が燻っていたところへ燃焼剤を撒けば、燃え広がって当然よ。とはいえ……ベルネシア国内でこれほど反応性が高かったことは、私も想定外だったな」  ベルネシアも色々溜め込んでいるみ…
[気になる点] フランス革命前の18世紀末から米西戦争前の19世紀末へと何時の間にか社会が進んでる様な気もしますが新聞とかどの程度まで進んでいるのか、識字率とか色々謎です。 [一言] メイン号の時「ワ…
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