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お待たせしました。
大陸共通暦1778年:王国暦261年:初夏
大陸西方メーヴラント:ベルネシア王国:王都オーステルガム。
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王妹大公家御用商人クライフ翁は自らが黄泉へ旅立つ際、遺産の半分を甥姪とその子供達へ与え、もう半分を白獅子財閥の私学の奨学基金とした。自身の商会はその権利を番頭達へ任せ『売却するも存続させるも好きにせよ』と遺している。
葬儀後、クライフ翁の私邸で催された立食式の会食で『兄貴より先に逝きおって愚弟め』と前クライフ伯オットーが嘆き、母ユーフェリアが番頭達と翁の思い出話をする中、ヴィルミーナはマルティン・“大熊”・ハイラムと顔を合わせていた。
故人を悼むようなやり取りはしない。ヴィルミーナは祖父代わりの翁が死んだ哀しみを“大熊”と分かち合う気は無かったし、“大熊”は義理事の一環としてこの場にいるに過ぎない。
よって、2人のやり取りは単純なビジネスとなった。
「ヴィルミーナ様はクライフ商会の持ついくつかの債権と事業を買い取るそうですな」
「流石に良い耳をしていること。ただし、誤認があるわね。事業は買取ではなく提携よ」
ヴィルミーナも“大熊”に合わせ、貴族婦人として接した。
「挨拶回りが控えているの。本題をどうぞ」
「クライフ商会が持つ食品関係とその関連債権を売っていただきたい」
“大熊”の率いるハイラム商会は協働商業経済圏発足以降、競争力の弱い部門を閉鎖、処分して戦える分野に注力していた。ここ数年はクレテアの豊富な農作物を安く調達し、保存食などに加工してから各外洋土や他国へ輸出/販売する、食品加工業へ注力中だ。
白獅子は食品加工業に勤しんでいないから取引に応じて良いが……長年、あれやこれやと競争していた相手だ。あっさり売っては芸がない。
「何かと張り合っている貴方へ売却してあげる利得が、私にあるのかしら?」
「昨年から何やら進めている大商いの準備、お手伝いしても構いません」
「おやおや。よろしいの? その大商いで割を食わされるかもしれないのに?」
「ええ。そちらに協力すれば、最も酷い吠え面を掻かされずに済みますからな」
“大熊”は白獅子の進めている大商いの内容を掴んでいると言いたげな、思わせぶりなセリフを並べた。
ヴィルミーナはポーカーフェイスを気取ることなく、素直にムッとした。
元々、ヴィルミーナの好みとして、感情や反応を隠すより堂々と晒し、そのうえで、相手がどう受け止めて何を考えるか読む方が易い。受動的より能動的に仕掛け、主導権を握るべし。
「良いわ。正式な交渉は後日、担当の者に任せますが、私の決定を伝えておきます」
「ありがとうございます。ヴィルミーナ様」
“大熊”は丁寧に一礼し、少し声を潜め、言った。
「ローガンスタインはいよいよ危ないですな。青鷲殿と倅達、重役達の対立が激しくて半ば分裂状態です。何かきっかけがあれば、間違いなく崩れます」
取引を飲んだことへのお礼だろうか。“お友達”の内情を暴露したことにヴィルミーナが怪訝顔を浮かべる。が、当の“大熊”は気にした様子も見せない。
「協働商業経済圏の影響ですな。どこもかしこも変化を避けられない。この御時勢に内輪揉めをしているような連中とつるんでいる余裕はありません」
大商人らしい打算と損得勘定。もっとも、だからと言って白獅子と和解する気も、関わり方を変える気もないのだろうが。
「R&Pの若社長は昨今の情勢を随分と楽しんでいるようですけれど」
「若社長ですか……? 年下の貴女に言われては彼も苦笑いを漏らしましょうな」
“大熊”は皺だらけの顔を綻ばせ、冷たくヴィルミーナを見据えた。
「全く難儀な時代になったものだ。往時、腹を据えて貴女をきっちり抑えておけば、こんな生き辛い世の中にならなかったかもしれませんなぁ」
「あら。まるで私が世界を変えたような物言いね」
ヴィルミーナは亡者を地獄へ蹴り落すように告げる。
「私にそんな力があったなら、もっと面白おかしく世界を引っ掻き回してるわよ」
「恐ろしいことをおっしゃる」
“大熊”は真顔で溜息を吐いた。
〇
王都オーステルガム小街区からクレーユベーレ市に移転した白獅子財閥の技術開発研究所は、白獅子の各種技術や学術の宝庫だけに、民間軍事会社による堅い警備体制が採られている。
第一線戦闘装備。警備犬。戦闘魔導術士。また、民間軍事会社施設から30分以内に飛空短艇で完全装備の人員が緊急展開可能、と徹底的に備えが施されていた。
王国暦261年の夏のある日、ただでさえ守りの堅い白獅子技研に一層の厳重警戒が施された。
ヴィルミーナを始めとする側近衆と関係事業代表の視察が行われたのだ。
大名行列のように大勢を引き連れて技研第一倉庫へ足を踏み入れ、ヴィルミーナは成果物の群れを目にする。
そこにはいくつもの実寸模型や試作品が並べられていた。
ヴィルミーナは厳粛な面持ちで並べられた実寸模型や縮小模型、試作品を一つ一つ時間をかけて検分し、緊張した面持ちの技師達から説明を聞き、質問を重ねる。優麗な美貌と冷厳さが合わさった時の威圧感たるや、ヴィルミーナと親しんでいるヘティも顔つきが強張らせずにいられない。
ヴィルミーナはまず主機系の模型を見て回る。
従来の石炭式蒸気機関を発展させた灯油/軽油式の蒸気機関は単式に加え、イストリアの複式も製造されている。船舶用蒸気タービン機関は新型の重油燃料式。
どちらも構造自体は特別変わっていないが、燃料ポンプとボイラー、排気回りは新開発。加えて、ボイラーの圧力計や水量計など細かな補器が追加されていた。
そして、満を持して開発製造されている内燃機関。
揮発油・魔晶油の混合燃料を用いた単気筒4ストエンジンだ。
※ ※ ※
こいつについて語る前に、少しばかり内燃機関の歴史に触れておこう。
内燃機関の本格的な研究が始まったのは、やはり蒸気機関の誕生と都市ガスの普及だった。
実のところ18、9世紀のガスエンジンも現代のガソリンエンジンも、原理的な意味で大差はない。燃焼室に燃料と酸素を取り込んで燃やし、そのエネルギーでピストンやクランクを稼働させる。これだけの話だ。
一般的には、1860年にベルギー人の電気研究者ルノアールが電気火花点火式の2ストガスエンジンを実用化し、1876年にオットーが高熱効率の4ストガスエンジンを開発したことが、近代内燃機関の原点だと言われている。実用に能う自動車用ガソリンエンジンの開発は、カール・ベンツによる1884年を待たねばならない。
その開発史は紆余曲折、山あり谷あり、七転び八起きの長い長い物語なので割愛させていただく。そもそも自動車史になっちゃうし。
ちなみに、昨今すたれ気味の焼玉エンジンが開発されたのも19世紀末だ。愛すべきポンポン船の心臓である。
ヴィルミーナが理系や機械系薀蓄に詳しかったなら、間違いなく最初に焼玉エンジンを作らせただろう。
なんたって構造が単純だし、植物油でも動くのだから。第一次産業革命期にガソリンエンジンへ挑むなんて無茶は考えもしなかったはずだ(根本的な技術的、学術的蓄積が足りないんだから無謀ですらある)。
まあ、既に手遅れだが。
※ ※ ※
白獅子製4ストエンジン――開発主任技師と王国暦にちなんでグローニンガー・エンジン61(Gron61)と名付けられた。
説明を聞くに、このグローニンガー・エンジンの諸元は排気量約800㏄の単気筒4スト。出力は1馬力に満たず、最高回転数は500にも届かない。点火装置に小型魔晶を詰めて起動させることで、霧吹き型の気化器と電火の魔導術理が発動。エンジンが動き始める仕組みらしい。
――なんやけったいな仕組みやなぁ。
自動車史に深い造詣を持たないヴィルミーナの感想はその程度だった。点火装置や気化器や電火点火の開発製造に苦労したベンツが知ったら『何が魔導術だボケェッ!』とブチギレる代物だとは思わない。
ヴィルミーナは技師達へ質疑応答を交わした後、告げた。
「このGron61は全世界最初の一歩となる。これから将来に渡って開発される様々な内燃機関の原点よ。偉業を成し遂げたわね。貴方達の努力とその成果に携われたことが誇らしいわ」
ヴィルミーナの簡潔な、だが手放しの称賛に、開発主任技師とそのチームが身を震わせる。
同時に、彼らは莫大な富が約束されたことでも、やはり身を震わせた。
船舶用のタービン式蒸気機関やレシプロ式蒸気機関の開発チームもやはり主任技師の名前がエンジン名称になり、また蒸気機関一機につき、4パーセントの特許報償が開発チームに分配される決まりになっていた。たかが4パーセントの分配と思われるかもしれないが、単価が高いし、少なくとも販売数は100単位で出るだろうから、莫大な額になる。
内燃機関の開発チームも同様の恩恵にあずかることが決定したのだ。
ヴィルミーナは続いて、製造が予定されている石炭式蒸気機関の作業車の試作品や模型を見て回り、灯油式照明器具や暖房器具、ガス式コンロなど新商材の試作品を検分していく。
資料を手に担当技師達の説明を聞き、少しでも疑問を想ったことはがんがん問い詰め、少しでも言い淀んだり、ビッグマウス的な回答を寄こしたりしたら、即座に問題の解決を命じる。まるでゲシュタポの尋問みたいだった。
そして、冷や汗を掻かされたのは技師達ばかりではない。
一通り見て回ったヴィルミーナは側近衆達と、これら新商材を扱う製造事業の各代表や担当者達へ矛先を向けた。
「販売営業所、修理整備工場、各人員の教育などの体制作りはどう?」
「営業所と整備工場の初期準備は概ね予定通りですが、王国南部、西部で用地買収の遅れなどから7割程度です。人員教育は営業所に関しては問題ありません。ただし、整備員の技術習得に若干の不安があります」
パウラが代表して報告すると、ヴィルミーナは微かに険を浮かべた。
「ハコの準備は多少遅れても構わない。とにかく人員の教育と修練へ注力して。アフターケアの体制を少しでも強力にしておくこと。販売後は“間違いなく”故障や不具合の報告が嵐のように届く。その対応が今後の明暗を左右するわよ」
前世、現代地球の熾烈な競争市場を知るヴィルミーナは、アフターケアの重要性が身に染みている。どれだけ良いものを作っても、アフターケアをおろそかにすると顧客は逃げるし、新規客も逃げてしまう。
ましてや作業車――農耕用トラクター、クレーン車、装輪式ブルドーザー、ポンプ車等“絶対に”想定外の扱いがされる機械は、アフターケア体制が欠かせない。これは従来の事業で既に実例がいくつも報告されていた。
前世で富農の娘だったヴィルミーナは、農家がどれだけ農機具を蛮用するかよく知っていたし、農機具メーカーの営業所の故障や不具合への対応を常に評価査定していたことも、よく知っている。だからこそ、継続的に顧客を囲い込むためにはアフターケアが欠かせない。
「能う限り備えなさい。それが成否を分ける。貴方達の努力に期待します」
各事業関係者に薫陶を与えた後、ヴィルミーナは再び技術者達へ視線を移し、告げた。
「貴方達も販売後には想定外の不具合や問題が山ほど届く。そのことを踏まえて開発完了に満足せず、改良と改善、発展向上と進歩進化に努めなさい」
はい、総帥っ! と全員が将兵のように唱和した。
視察を終え、ヴィルミーナは技研の会議室を使い、側近衆達と簡単な話し合いの場を持つ。
第一倉庫に並べられた成果物についてあれこれと話し合った後、ニーナが難しい顔で懸念を表明した。
「ヴィーナ様。各地へ派遣する整備員の筋から技術情報が漏洩するのでは?」
「あり得るわね」
ヴィルミーナはニーナの懸念を肯定する。
「でも、しばらくは大丈夫でしょう。うちの製造技術や資材抜きでは同水準のモノなんてそうそう作れない。それに、先行者権益は囲ってある。キーラ、法務上の手抜かりは無いわね?」
「四重にチェックしました。あったら責任を取って辞職します」
キーラが胸を張って自信たっぷりに応じる。
頼もしい、とヴィルミーナは微笑む。
「それでも権利絡みの裁判は起きるだろうから、法務部には対策準備を進めさせて。これは技研も協力するように」
「わかりました」とヘティ。
会議が進み、マリサが問う。
「開発車種の件ですけれど、やはり通常の移動用車両、輸送車両の開発は後回しにするのですか?」
「そこに手を出すと馬車業界、陸運業界が強く動く。それに、空輸業界も黙っていない。当然、その関連業界だって力を合わせて潰しに来る。そもそもウチの陸運と空輸だって反発するわ」
ヴィルミーナはぼやくように答えた。
「喧嘩を売るなら、燃料業界。魔晶魔石よ。石炭業界は需要拡大と増加で協力してくるだろうけれど、魔晶魔石は強烈に抵抗するわ。それこそ魔晶魔石公社を筆頭に王国府、貴族、財閥、関連業界が戦列を組んでね。こっちもしっかり根回しして軍勢を組まないと勝てない」
一旦、御茶を口にして喉を潤し、ヴィルミーナは目を鋭く細めた。
「だからこそ、陸運や空輸、その関連業界まで敵に回せない。特に飛空船の造船絡みは強力なところが多い。戦いに負けたら法的に規制される可能性まである」
良い例が近代イギリス自動車産業だ。
イギリスで蒸気自動車が開発され、乗り合いバスや貨物輸送者が出回り始めた時――
馬車組合がキレた。おぅコラァ、誰に断って陸運業界に乗り込んでんだぁっ!?
路線を増やして台頭し始めた鉄道業界も邪魔をした。あのねえ、ライバルは馬車組合だけで十分なんですよぉ。
前者は歴史ある古豪組織で後者は国策事業絡み。新興の蒸気自動車産業に太刀打ちできるわけもない。
ついには赤旗法案――市街内では上限時速3キロ、郊外では上限時速10キロ、挙句は車両の運行に伴い、旗持ち誘導員が居ないとダメ――というとんでもない法案を通されてしまった。
かくてイギリスにおける蒸気自動車の発展は閉ざされた。合掌。
しかし、利権に汚いのがイギリス人の特徴なら、利権に食らいついて諦めないのもイギリス人。蒸気自動車業界は方針転換して、蒸気機関式の農業用トラクターやクレーン車、ポンプ車などを開発。この技術ツリーが後に無限軌道トラクターへ辿り着き、世界最初の戦車を作り出すわけだ。
話を戻そう。
ヴィルミーナとしては、イギリス蒸気自動車の二の舞は御免被る。方々へきっちり根回ししておく。飲ませて食わせて抱かせて贈り物をして取り込む。必要なら恫喝恐喝脅迫だって辞さない。
デルフィネが手を挙げた。
「広報の件ですけれど、新聞広告やポスターなど既存手法以外に一つ派手に動きたいと考えています」
「農業用トラクターの上に立ってデルフィ様が歌いますか?」とリアがからかう。
「そんなことしませんっ! ……いや、面白いアイデアかも。や、そうじゃなくて」
デルフィネは百面相しながら、アイデアを開陳した。
「ウチの商材の展覧会を催しませんか?」
「それは白獅子が扱う商材全てを集めた展覧会ということですか? 凄いことになりますよ?」
「予算が……予算が……う、頭が」
眼鏡の奥で目を瞬かせるテレサの隣で、育休から復帰した大金庫番ミシェルが呻く。商戦攻勢を控えて経理仕事が大変なことになっているのだ。
「でもまあ、広報という観点では効果があるかもね」
ヴィルミーナは思案顔を作る。
現代地球ではこの手の展示会、展覧会は頻繁に行われている。
ラジオやテレビ、インターネットが無いこの時代、広報は新聞広告、ポスター、営業回りと口コミに限られる。展覧会の効果――話題性は無視できない。
「とはいえ、現段階ではまだ勇み足ね。展覧会云々は動力機関搭載の商材が揃ってから。今はとにかく準備を確実に、入念に、周到に、そして、深く静かに進めなければならない」
ヴィルミーナは全員を見回し、微笑む。
「厳しい戦いになるけれど、この戦いに勝てば世界が変わる。いえ、私達の手で変えられる」
その凶暴で獰猛で、背筋がゾッとするほど美しい笑みに、“姉妹”達は戦慄に近い昂揚を覚え、同じように美しい笑みを返す。
まるで『その言葉を待っていた』と言わんばかりに。
白獅子の女王と貴婦人達の恐ろしい企みを、世界はまだ知らない。
〇
そんな視察の帰り道。王都オーステルガムへ向かう連絡用飛空船の中で――
今さっき届いた緊急報告ですが、とアレックスがヴィルミーナへ告げた。
「イストリアで馬車鉄道の一部を蒸気機関車に置き換える試験が行われるそうです」
「え、ほんとに?」
ヴィルミーナは目を瞬かせた。
ベルネシアでは、産業革命前から一部都市内に馬車鉄道が施設されていた。イストリアやクレテアも主要都市に馬車鉄道を敷いている。
軌道上を進むというアイデアの出所は定かではないが、移動と物流の効率化を図った結果だろう。地球史ではこの鉄路と蒸気機関が結びついて蒸気機関車が登場した、と言われている。
もっとも地球世界と違い、魔導技術文明世界では蒸気機関車と鉄道の実用化が停滞していた。
この世界にはモンスターがいるからだ。
地球史では人類が邪魔な動植物などを絶滅させていたが、この世界では不可能だ。
モンスター自体の強力さに加え、モンスターは脅威でありつつも重要な資源だから、『モンスターを絶滅させたい』なんて言ったら、冒険者組合や素材業界やその他諸々が猛反対する。
それに、自然や生態系を破壊することはあまりにも危険が大きい。
たとえば、小中型モンスターを過度に駆除したなら、餌を喪失した捕食性モンスターが人界へ流れ込む。カロルレンで起きた大災禍や大飛竜の例を見れば分かるように、怪物達が荒れ狂った時の被害は凄まじい。
別の問題もある。
市街内ならともかく山林原野に敷いた線路――鉄資源を盗むバカが確実に現れるのだ。それも次から次へと。身体強化魔導術なんて便利な手段があるから、重たい鉄塊を盗むことも容易い。
すなわち、モンスターという脅威と人間の愚かさが魔導技術文明世界における鉄道普及を妨げており、蒸気機関車からの技術ツリーが拡大していなかった。
これまでは。
「イストリアの馬車組合がよく受け入れたわね。試験運用とはいえ、成果が出れば置き換えが進むでしょうに」
渋面を浮かべたヴィルミーナが呻くように呟く。
「現状、郊外や都市間輸送にまで手を出せないからでしょう。とりあえず蒸気機関車の輸送力を確認したい、そういうことなのでは?」
「おそらくね。しかし、これは我が国でも類似意見が出てくるな……」
アレックスの見解に首肯を返し、ヴィルミーナは独りごちるように言った。
「というか、マリサかヘティ辺りが言い出しそう」
「大丈夫でしょう。皆、今回の大勝負に夢中ですもの」
目を細め、アレックスは白い歯を見せた。色気の滴る笑顔だった。
「世界を変える方がずっと面白いですからね」




