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大陸共通暦1771年:初夏
大陸西方メーヴラント:カロルレン王国:ペレノビリ市
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カロルレン王立軍の軍服は、クラウン部分の小さなシャコー帽。軍服は青灰色の上下。袖口やズボンの脇に黄線が走っている。
が……近頃の軍服はどうにも作りや品質が荒い。従来支給されていた黒皮革製胸甲は物資不足のため、廃止。ブーツも物資節減のために靴とゲートルに変更。シャコー帽と袖章の部隊章も簡便なものになっていた。酷い者になると私服同然の格好だった。
一方、貴族将校達の軍服は従来通りだ。軍帽や上衣は作りも素材も高品質で、瀟洒な飾りが施されている。たとえば、促成少尉エーデルガルト・フォン・ノイベルク侯爵令嬢など、そのままパーティに出られそうな美しい軍服をまとっていた。
非貴族将校のラインハルト・ニーヴァリ中尉は兵士達と同じく官給品の軍服を着ていた。ただ軍帽は姉の手縫い製でちょっぴり寸法がズレている。第二軍救援作戦後に特配の食料を送ったら、返礼として贈られたものだった(ラインハルトの姉は刺繍よりモンスターを狩る方が得意な女性だ)。
昼飯時近く。カロルレン王国南部防衛線の要衝ペレノビリ市。ラインハルトは石と煉瓦で組まれた外郭城壁上を進んでいく。
彼に挨拶する兵士達の顔には明らかな敬意が浮かんでいる。
カロルレン王立軍南部防衛軍の兵士達は、年若いラインハルトを『不屈のラインハルト』とか『小獅子』とか呼んでいた。夏季攻勢や先の第二軍救援作戦で示した不撓不屈振りを評価してのことだ。
少年中尉ラインハルトに従えば、どんな地獄からも生還する望みがある。そんな風に噂されていたし、何より彼の出自が自分達と同じ平民で、しかも差別されがちな少数民族出という事情も大きかった。
しかし、ラインハルトの指揮下に入りたがる者は少ない。なぜなら、夏季攻勢や第二軍救援作戦での扱いを見る限り、ラインハルトはどうにも貧乏籤を“押し付けられる”人間のようだから。普通の兵士達は勇者や英雄の率いる部隊より、危険の少ない平凡な部隊を好む。“まとも”な兵士は激戦地送りを望まない。
ちなみに、ペレノビリ市の街娘や女性兵士のラインハルトを見る目は熱い。柔らかな鈍金色の髪。端正な顔。引き締まった長身痩躯。ミステリアスな雰囲気の美少年だから当然だ。ただし、貴族令嬢副官エーデルガルトが寄り添うように付き従っているから、彼女達が言い寄ることは難しい。
この状況に、当のラインハルトは困っていた。
エーデルガルトは二期上でノイベルク侯爵家の御令嬢。噂では第三だか第四だかの王子の良い仲らしい。そんなやんごとない美少女に寄り添われるというのは、非常に居心地が悪かった。
なんせラインハルトの実家ニーヴァリ家は王国内少数民族ベースティアラント系の貧乏豪族だ。貴族でも何でもない。貴顕の御令嬢に慕われるなど、もっと直截に言うなら、王子の恋人に慕われるなど、特大級の厄介事にしかならない。
ラインハルトは下半身が元気な年頃だが、手を出して良い相手かどうかの分別はつく。エーデルガルトに手を出せば、待っているのは良くて底なし沼。下手すれば煉獄。冗談じゃない。
というわけで、ラインハルトは美少女少尉に寄り添われて酷く居心地が悪い。
そんな悩めるラインハルトはエーデルガルトを伴い、外郭城壁の一角に据えられた観測所に入る。
「中尉殿。やっこさんら何かする気になったらしいですぜ」
軍曹に観測鏡を勧められ、ラインハルトは軍帽を脱いで観測鏡を覗き込む。黒縁の視界に聖冠連合帝国軍の前線が映った。
ペレノビリ市の外郭城壁から5キロほど先。聖冠連合の前哨線の奥から飯炊きの煙が何本も立ち昇っている。帝国兵達は前哨塹壕の中に潜んで姿を見せないが、時折、シャコー帽がぴょこぴょこ見え隠れしていた。
――こっちは一日一食。ヤギのゲロみたいな麦粥か、ちっぽけなジャガイモ。肉や野菜は数日に一度だけだってのに……羨ましい。妬ましい。
しばらく黙って様子を窺っていたラインハルトは、違和感を覚えた。
「増強されている、が……」
哨戒線の各砲座には、カロルレン軍の多銃身斉射砲や火砲が据えられていた。
戦力増強にしても、なんで我が軍の鹵獲兵器を使ってんだ? 弾薬や整備部品の補給に困るだろーに。
「攻勢が近いのでしょうか?」とエーデルガルトが静々と尋ねた。
直感的には『違う』とラインハルトは思う。聖冠連合帝国の陣地から攻勢前特有の張り詰めた雰囲気が感じられない。
しかし、ラインハルトはエーデルガルトに何も答えず、軍曹に問う。
「翼竜騎兵か飛空船の偵察頻度は増えてなかったよな?」
「定期便だけです」とエーデルガルトが代わりに答えた。
昨年末以来、聖冠連合帝国軍は積極的に動いていなかったが……何かしている。しかし、何をしているのだろう? 例の停戦講和の噂はやっぱりデマだったのか? いったい、どうなってるんだ?
戦争という巨大機構において、末端の歯車に過ぎないラインハルト達が疑問の答えを得たのは、カロルレンと聖冠連合帝国の一時休戦が成立した後だった。
ペレノビリ市周辺に展開していた聖冠連合帝国軍は、休戦協定に基づいて国境付近まで撤退していく際、陣地内に配備、集積した大量の武器兵器に物資を置いていったのだ。
それは東メーヴラント戦争南部戦線において全滅したカロルレン第二軍から鹵獲、回収した銃砲、刀剣類、魔導具に装備、弾薬や各種物資等々。しかも、帝国軍の食料や医薬品まで残されていた。
公式には、『後退時に移送しきれない物資を現地にて処分せり。連絡に誤認があり、破壊処分できず。まことに遺憾』と記録されているが、もちろん事実は異なる。
とにもかくにも、聖冠連合帝国皇后の誕生日を祝う恩賜品がカロルレンへ贈られた。
〇
アルグシア連邦軍カロルレン侵攻軍は陰鬱な空気が漂っていた。特に侵攻軍総司令部の雰囲気は御通夜会場と見紛うばかりの有様だった。
「限定攻勢に出ろ。可能ならカロルレン王都まで進出すべし。気軽に言ってくれる」
フリッツ・フォン・トロッケンフェルト大将は娘や妻の我儘に振り回されて苦労する旦那さんみたいな顔で、深々と溜息を吐いた。
「どうにも、本国の連中は我々の状況を理解しとらんようだ」
参謀長ヤンケ准将は大柄な体躯を揺らす豪快な苦笑いと共に、敵情報告をした。
「敵は前線でも後方でも兵力と物資の移動が始めとります。完全に“掴まれ”とりますな」
「だろうな。聖王教会や聖冠連合が流しているのだろう。あるいは、ソープミュンデ経由でベルネシアやイストリアも噛んでいるだろうよ」
トロッケンフェルト大将はそう毒づいて臍を噛む。
各国はアルグシアに与しながらも、現状これ以上の勝利を望まず、今の段階でカロルレンの息の根を止めることを許さない気だ。いや、諸国だけではない。教会のように国内にも軍の足を引っ張るものは少なくない。
「おまけに停戦講和と休戦の噂で士気も上がらん」
侵攻軍の将兵の士気は最低状態だった。出世欲や野心の強い者達以外は皆、厭戦気分に飲まれている。当然だろう。誰だって死にたくない。不潔で不衛生な戦場から生きて家に帰りたいと願うのは当たり前のことだし、戦争の終わりが見える中、進んでドンパチしたがる奴はアホか物好きだけだ。
戦争再開を見込んで戦略的要衝や優位な地形を確保する必要があるが……そんな戦略的思考を現場将兵に説いたところで『知ったことか』と返ってくるだけだろう。
「せめて食い物を与えられれば、多少はマシになるでしょうが……依然、兵站状況の再建も芳しくありませんからな」
ヤンケ准将が頭を振る。
アルグシア軍の兵站機構は昨夏の損害から立ち直れずにいた。ゲームなら資源ポイントを振り分ければサクッと回復するが、現実には恐ろしく難しい。
機材や道具は工場で生産できても、人間や馬匹は畑から採れないし、工場でも作れない。
たとえば、二次大戦時のソ連は無尽蔵の兵力を持つと評されたが、大戦後期は白ロシア系の兵士が激減してしまい、ウラル系、シベリア系、中央アジア系ばかりになった。現代ロシアにおいても白ロシア人の人口率は回復していない。
さらに言えば、兵站機構の胆たる管理職――高等教育を受けた貴族将校や経験豊富な高官や将官の損失は致命的だった。高等教育修了者が少ないこの時代では、即時回復など不可能な損害である。
トロッケンフェルト大将とヤンケ准将は頭を抱えるしかなかった。
それでも、軍人は命令を下されれば、実行しなければならない。軍隊とは合理性を尊びつつ、不条理と理不尽を旨としている組織だからだ。
「……限定攻勢が主です。王都なんちゃらは無視しましょう。実現不可能です」
「だな。やれることをしよう」
トロッケンフェルト大将はヤンケ准将と共に作戦地図を見下した。幸運の金貨が埋まっている場所を探すような目で。
そんなものがあるかどうか分らぬまま。
〇
アルグシアから帰国したヴィルミーナは、王国府へ参内して国王カレル3世と重臣達へ報告した後、レーヴレヒトを“拘束”して屋敷に引っ込んでしまった。
アルグシア訪問で、ヴィルミーナはすっかりやさぐれてしまった。
ヴィルミーナ自身、アルグシアとカロルレンを一戦させてすり潰す陰謀の絵図を描いていたが、まさかアルグシア自身がその青写真を引いていて、ヴィルミーナを利用して国内意見の統一を図るつもりだったとは思っていなかった。
百歩譲って利用されるのは構わない。むしろ、ヴィルミーナのような立場の人間は他人に利用されることを覚悟しなければならないから。
しかし、くだらない茶番劇の演出役をやらせる? この私に?
ざけんな。
というわけで、ヴィルミーナは帰国中、飛空艦コーニギン・ベルサリスの船上で宣言した。
――私は1週間ほど旦那様と愛欲と肉悦の日々に耽るわ。
レーヴレヒトは『俺は仕事があるんだけど……』と控えめな拒否を申し出たが、もちろん考慮されるわけもなく。
さて、白獅子の女王陛下が慰安休暇を取っている間も、雌ライオン達はお仕事がある。
小街区オフィスの大会議室に側近衆達が集まり、テレサとヘティとマルクによるアルグシア出張の始めから終わりの報告会が催されていた。
その内容は――マキラ大沼沢地を中心としたパッケージング・ビジネスや賠償金を肩代わりすることでカロルレン経済を食い荒らす計画、停戦講和後にカロルレン軍将兵を傭兵として南小大陸の独立戦争へ輸出する計画等々、薄ら恐ろしい話がてんこ盛りだった。
だが、何が恐ろしいかといえば、これらの話は既に国王と王国府の裁可を得ているということだった。国家の持つ酷薄な怜悧さには側近衆も言葉がない。
「――それで、ヴィーナ様は自身が休暇中、私達がアルグシアに出張中だった時と同じく組織の経営を私達に委ねると仰せよ」
テレサが話し終えると、
「それじゃ、ヴィーナ様は大いに乳繰り合ってる頃かな」
「言葉を選べ。言葉を」
マリサの言い草に、アストリードがげんなり顔を湛える。
「それにしても、ドラン殿をカロルレン総支配人に据えるとはね。まあ、理由を聞けば、妥当な人選の気もするけど……いやはや」
リアが溜息をこぼす。
側近衆達は全員が強大な権限を持つ財閥の重役だったが、それでも独自ポストには憧れがある。なんせ、イストリア出先商館建設責任者から現地総支配人に繰り上がりしたエリンなどは『まいっちゃうなーまいっちゃうなー総支配人とか。かーっ! まいっちゃうなーっ!』と超得意げな手紙を側近衆の面々に送りつけていた。側近衆達は友人にして競争相手であるから、この手のマウンティング合戦はザラだ。
さらに言っておくと、聖冠連合帝国ソルニオル領経済特区の現地総責任者には、流通事業部から抜擢された幹部が赴任している。側近衆だけでなく各事業部にもポストを与えるという前例を作るためだった。
「カロルレンで企図されているパッケージング・ビジネスの内容を鑑みれば、妥当な人選よ。社会を根底からひっくり返すような革命の発生を見込んでいるんだもの。“裏切者”を使う方が良い」
“信奉者”ニーナが容赦なく言い放つ。
「ただ、現地の焦土化と完全撤収を見込んでいるのが少し不満ね。せっかく利権を確保した土地なんだし、武力行使するなら維持を前提にした方が良いのでは?」
「違うわ、ニーナ。ヴィーナ様はパッケージング・ビジネスの導入から損切りの撤収まで一連の実験をしたいのよ。現地を完全に使い潰すつもりなんじゃないかしら」
パウラの指摘にデルフィネが息を呑む。
「ヴィーナ様は時折、悪魔よりも恐ろしい顔を見せますけれど……今回はとびきりね」
デルフィネの見解に側近衆達は無言で同意する。ヴィルミーナの許で何年も働き、その考えや計画に触れてきた側近衆達も、今回の件は流石にひやりとさせられていた。
そんな中、アレックスは瞑目し、ゆっくりと深呼吸する。
アレクシス・ド・リンデは白獅子側近衆の中で最も良心的かつ平和主義者だ。往時の戦争を経験して以来、彼女の戦争への忌避感、より広義で言えば、暴力への忌避感はとても強い。
それでも、白獅子の持つ凶悪さ――ヴィルミーナのビジネス時における酷薄な冷徹さに対して反発することは無い。アレックスも経済原理における弱肉強食を理解し、承服していたからだ。
ヴィルミーナが南小大陸における戦争商売を仄めかした時は猛烈に反発した。一方、ヴィルミーナが企図する暴力行為を含めた地域の経済植民地化事業――パッケージング・ビジネスを否定しなかった。
これはアレックスの良心や道徳心や倫理観が許容できる範囲だったし、何よりもヴィルミーナと白獅子の名誉を守るため、パッケージング・ビジネスを拒絶するのではなく、自身が介在して尺度と節度、分別を守らせる方が良いと考えていた。
アレックスはおもむろに口を開く。
「ヴィーナ様はこの件をドラン殿へ完全に委託するのかしら?」
「いえ、計画自体は私達が策定する。ドラン殿はその計画の範囲内で自由裁量権を持つ現場監督や現地調整役という面が強いわ」
ヘティはおずおずと続ける。
「それから、このパッケージング・ビジネスの計画のたたき台を私達で話し合って検討するよう言われてる。互いに意見をぶつけ合って喧嘩しなさいって」
アレックスは内心で強く安堵を覚えた。
「よかった。ヴィーナ様は私達の意見を聞いてくださるのね」
世間では白獅子をヴィルミーナのワンマン組織と見る目が強い。確かに白獅子はヴィルミーナを頂点とするライン重視の絶対君主制だから、世間の認識は間違っていない。ただし、正しくもない。白獅子には側近衆と各事業代表というスタッフも存在する。特に、ヴィルミーナは自身が育てあげた側近衆達の意見を軽んじたりしない。
もちろん、ヴィルミーナが側近衆の意見を無視し、強権を発動することもある。大規模仕手戦を手掛けた時、ヴィルミーナは自身の指揮統率を絶対とし、周囲に意見を許さず手足として動くことを強制した。
パッケージング・ビジネスは白獅子創設の頃から企図されていた計画だけに、ヴィルミーナが大権を行使する可能性があった。そうなっては止めようがない。
アレックスは面々に向け、意見を述べる。
「暴力を伴う計画である以上、慎重にやらないと大変なことになるわ。解体された勅許会社の例もある軽率な真似はできない」
「そうは言うけれど、国情不安定な国なのよ? どれだけ想定しても不測の事態は避けられないし、武力行使せざるを得ない。現地人の命より社員の安全を優先させるべきよ」
民間軍事会社の総管理官であるエステルが言った。あの戦争以来、穏健的タカ派のエステルは抑止のための軍拡論者だった。
済し崩し的にアレックスとエステルが睨み合う中、
「その辺りの話し合いは長くなるわ。なんか食べ物と飲み物を用意しましょう」
デルフィネの意見に皆が苦笑いを浮かべた。
「喧嘩にするわけですし、酒はよした方が良いですね」とリアも追従した。
「経費で落とすから領収書をもらうように」と金庫番ミシェルが超然と告げた。
マリサがにやりと笑う。
「皆、何喰いたい?」
〇
ヴィルミーナが一週間ほど社会から逃避し、愛するレーヴレヒトと延々と肌を重ね、爛れた時間を過ごせたのは、二日に過ぎなかった。三日目にして、ヴィルミーナ自身が厭きてしまったからだ。仕事中毒の二本足主力戦車女なのだから、さもありなん。
とはいえ、休みを切り上げて仕事へ復帰するのも体裁が悪いし、無理やり一週間の休暇を取らせたレーヴレヒトに申し訳が立たない。それに、半月留守にしたせいか、ガブが酷く寂しがっていたし、母ユーフェリアも娘と過ごしたがっていた。
なので、久し振りにクェザリン郡のゼーロウ男爵家へ御邪魔することにした。これにはレーヴレヒトもにっこり。ガブは旅行に大はしゃぎ。ユーフェリアも満足。
レーヴレヒトは両親と兄夫婦と先々年に生まれた甥っ子と温かな時間を過ご――さずにさっさとクェザリンの山林へ赴いてしまった。一人で。いや、正確には対モンスター狩猟犬たる愛犬ガブを連れて。
「嫁を置き去りかい」とヴィルミーナが思わず呆れる素早さであった。
「愚弟が申し訳ない」
アルブレヒトが詫びるが、ヴィルミーナは差して気にした様子も見せず二歳の甥っ子を膝に乗せ、こちょこちょと顎先を撫でる。甥っ子がきゃっきゃっと笑う。うーん、可愛い。
「レヴには無理をさせてますから、こういう時くらい好きにさせてあげますよ」
「そう言っていただければ幸いです」とアルブレヒト。
「それにしても……可愛いなあ」
ヴィルミーナは甥っ子をよしよしと撫でた。
「顔立ちはマルガレーテ様に似てらっしゃいますけれど、目元はゼーロウ男爵様やアルブレヒト様にそっくりですね。将来は美丈夫になりますよ、きっと」
「ですよね、ですよね」とマルガレーテが得意げに言った。
これにはアルブレヒトも苦笑い。ゼーロウ男爵夫妻もにっこり。そんな中、ただ一人王妹大公ユーフェリアが唇を尖らせた。
「ヴィーナも早く孫を作って。ママも可愛い孫を皆に自慢したい」
「鋭意努力中です、御母様」
眉を大きく下げつつ、ヴィルミーナは思う。正直なところ、子作りを目的とした作業的性交渉は”つまらない”。性交渉は愛の営みか熱情の睦み合いが良い。
でもまあ……そろそろ”当たって”もおかしく無いとは思うけれど。
「あ」
皆が一斉に声を挙げると同じくして、ヴィルミーナが髪を引っ張られる感触を覚えた。目線を下げると――。
甥っ子が笑顔でヴィルミーナの薄茶色の髪を涎塗れにしていた。
しばらく後書きに宣伝を乗せます。御容赦を。
新作『彼は悪名高きロッフェロー』を始めました。




