16:6+
昼を迎え、ベルネシア特使とカロルレン密使とアルグシア連邦諸王による秘密会議が終わる。その内容はほとんどアルグシア(特にブローレンの白髭王)による独演会と一方的な通告で条件交渉すら叶わなかった。
ヴィルミーナをして思わず唖然となるほどだった。会議? これが? 本気で?
カロルレン密使など卒中を起こしそうになるほど激昂したり、急性貧血を起こしそうなほど顔を青くしたり、と忙しなく顔色を変えていたが。
それでも、明後日に再び会議を開くことを確約させた辺り、ヴィルミーナは頑張ったと言えよう。
ともかく、秘密会議は終わり、関係者の退室が始まる。
最初に会議室を後にしたのは、カロルレン密使だ。
コーゼル=カロルレン公爵は悄然としていた。無理もない。散々ぱら顔を赤くしたり青くしたりせいもあるだろうが、何よりアルグシアが近いうちに軍事行動へ出ることを確信したのだから。祖国の明日を思えば、落ち込みもしよう。
次に、特別会議室を出ていくブローレン王国白髭王は酷く機嫌が良かった。
彼はカロルレン密使を赤くしたり青くしたりすることを楽しみ、小賢しいベルネシアの小娘を唖然とさせたことを大いに愉しんだ。
伝統的貴族男性である白髭王は、女が政にしゃしゃり出ることを良しとしない。貴族婦人は御家のために嫁ぎ、夫を立て、夫に尽くし、子を産み、家を守る。それが白髭王の貴族女性観だった。ヴィルミーナのように恋愛婚などと平民の如き振る舞いをし、政治の世界に踏み込み、陣頭に立って商いをするなど、彼には慮外も甚だしい。
続いて部屋を出ていったヴァイクゼン王は、ピットブルみたいな顔へさらに深く皺を刻んでいた。茶番に付き合わされて迷惑千万とでも言いたげな顔つきだった。
次いで、連邦議長アウグスト2世は意気消沈しているシュタードラー子爵を伴って会議室を出た。
そうして残ったハイデルン国王がメイファーバー国女王とヴィルミーナ、御供のマルクに声を掛けた。
「昼食を共にしないかね?」
メイファーバー女王は鷹揚に首肯し、不機嫌面を隠そうともしないヴィルミーナへ悠然と告げる。
「特使殿。お昼に付き合うなら“種明かし”して差し上げるわ」
メイファーバー女王の発言、両王の態度と表情と仕草。ヴィルミーナはアルグシア内部が意見統一こそ成立したが、一本の絹糸に掛かっていることを即座に把握した。
ヴィルミーナはマルクに目配せし、不機嫌顔のままお招きに応じる。
「御相伴に与らせていただきます」
〇
熱せられた鉄皿の上で、大きなハンバーグがジュウジュウと音色を奏でている。焼けたデミグラスソースの匂いが香ばしい。
付け合わせは、山盛りのベイクドポテトと人参のグラッセ。それとザワークラウトにピクルス。サイドに小エビと小ジャガイモのフライ。ジャガイモを含む根菜とベーコンのアイントプフ。
飲み物はワインではなく、シュナップスの炭酸水割、果汁を加えてどうぞ。
邪な話は食事の後に。なので、豪奢な昼食中は無難な話に終始する。
話題はもっぱらハイデルン国王の子供やメイファーバー女王の孫の話、転じて、アルグシア連邦版王立学園――連邦高等学院の生徒達の話だった。
連邦高等学院では領邦間の結束と連帯を促進するため、各領邦から貴顕や富裕平民の子弟子女に加え、各地で学業優等生の奨学推薦者を迎えているらしい。ベルネシアの王立学園が貴族子女専門という事を考えれば、アルグシアの連邦高等学院の方が先駆的だろう。
「素晴らしい試みだと思います。青い血の私が言うのもなんですが、優秀な人材は出自に関係ありませんからね。それに、階級間の相互理解や出自を越えた結束も生まれそうですし」
ヴィルミーナは素直に称賛したが、メイファーバー女王は苦い顔を返した。
「理念としては、まさに特使殿の言う通りだと思うわ。でもね、実際はそう上手くいってないのよ」
「? そうなので?」
「むしろ貴賤の対立や反発が目立つ。それに、結束の方向性がね……連邦主義や愛国主義に傾きすぎていて、愛郷精神や領邦への忠誠心が薄れてしまう」
ハイデルン国王がぼやいた。
彼らアルグシア連邦内領邦君主を日本風に例えるなら、江戸幕府隷下の大名で彼らの国は藩みたいなもの。藩士が藩ではなく幕府や日本という国(当時はそんなもの、概念上の存在でしかなかった)に忠誠や忠義を向け、藩主や藩をないがしろにするようでは困るし、迷惑だった。
それはともかくとして、話の水は独身のマルクへ向けて流れた。
「宰相御嫡男がいまだに独身とは。それはいけませんな」
「こんな美男子を放っておくなんて、ベルネシア婦人もだらしない」
ハイデルン国王の目が野心的に光り、メイファーバー女王の目も貪婪に煌めく。
「よろしければ、我が姪を紹介させていただけますかな?」とハイデルン国王。
「あら、私の孫娘もぜひ御紹介させて欲しいわ」とメイファーバー女王。
「え、いや、その、御気持ちは大変ありがたくありますが、アルグシア王族の方を娶るなど私には恐れ多く……」
マルクが即座にヴィルミーナへ顔を向けて助けを求める。ヴィルミーナも困り顔で応じた。
「両陛下の御厚情はペターゼンにとっても我が国にとっても誠に栄えですが、婚姻となるとお答えしかねます。御容赦を」
「あら。御自身は恋愛婚を成し遂げ、従弟のソルニオル公カスパー卿の素晴らしい縁組を仲介されたヴィルミーナ様とは思えぬ発言ですこと」
おほほほ、と笑うメイファーバー女王。目はまったく笑ってない。
あー……そう来ると思ってん。だーら私は結婚話にあれこれ言えへんねん。藪蛇になってまうから。すまんな。これ以上は無理やで。
ヴィルミーナはマルクへ肩を竦めた。
マルクは顔を引きつらせ、咄嗟に眼鏡の位置を修正する振りをして思考を猛回転させる。下手に断れば非礼。かといって是と答えるのは論外。マルクの心にはいまだアリシア・ド・ワイクゼル嬢の幻影が色濃いのだ。
聡明なるマルクは冷や汗を拭きながら答えた。
「き、帰国前に一度、御茶会の場を設ける、では如何でしょう?」
「まあ、そんなところですかな?」ハイデルン国王はにんまりと笑う。
「あまり先走ってもなんですしね」メイファーバー女王もにやりと笑う。
猛獣共が獲物を捕まえたと言いたげな顔で笑う中、ヴィルミーナはそっと溜息を吐いた。
こりゃ帰国したらペターゼン侯夫人から大目玉食らうかもしれへん。
そうして、食後の紅茶とケーキが届く。
邪な話の時間だ。
〇
「私達の話がまとまった理由を、一言でいえば、金よ」
メイファーバー女王が螺鈿細工の細い煙管を吹かした。ふくよかな体躯を紫煙の組み合わせが女マフィアのドンみたいだ。
「東部閥がね。折れたのよ。これまで連中は占領地域の利権分配の比率を我々に直接1割2分、間接で2割3分、連邦に8分しか認めなかった。しかし、貴女が協定参加国の間を鷲頭獅子のように飛び回っている様に焦ったのね。全部で5割6分まで飲んだ」
「我々は停戦講和に伴う領土獲得後、イストリアやベルネシア、クレテアと取引額を増加させる予定だ。関税を始めとする諸条件は貴国らに配慮することも含めてな」
ハイデルン国王がメイファーバー女王の言葉尻に接ぎ穂を加えた。
「そして、我々は停戦講和による領土獲得を推進するべく、東部閥の限定的な行動を容認し、一部支援することを決めた」
ヴィルミーナはカップの取っ手を撫でつつ、両王を順に見つめる。
「なるほど。では、南部閥は? 彼らは西と北とはまた違う事情を抱えています。将来の利権話では首を縦に振らないはずです」
「おや、御存じなかったのね」
メイファーバー女王が薄く苦笑いを湛えた。知っていて当然、と言いたげな反応。ハイデルン国王も口端を微かに歪めている。
「限定攻勢のための資金と物資を法王庁とコルヴォラント勢力から調達する。地政学的条件から南部閥はその中継利益を得ることで同意した」
ハイデルン国王は御茶を口にしてから続けた。
「貴国の聖王教会開明派も連邦内開明派を通じて援助を決定している。どうやら北方圏の開明派もこれに同調しているようだ」
ヴィルミーナは苦い思いに駆られる。
カロルレンを舞台に伝統派と開明派の“市場争い”が起きとるのは知っとったけど、ここまで積極的に動いとるとは。
実体はどうあれ、政教分離が進んだ現代日本の前世記憶があり、ベルネシアが宗教色の薄い世俗国家だったことで、ヴィルミーナはどうしても宗教勢力の関与に注意が薄い。
地球史において欧州、南北アメリカ、アフリカ、アジア圏、世界中で各宗教勢力が政治にも経済にも獰猛に関与してきた。我が国で言えば、寺社勢力と武家の闘争が有名だろう。
たとえば、ヴァチカンにしても共産主義の勃興以降、世界の裏側で反共闘争に関与してきた。某作品で有名になったキリスト教結社『オプス・デイ』も、スペイン内戦時に超保守派が反共闘争のために生んだ組織だ。ナチへの協力もキリスト教的反ユダヤ主義より反共主義が強かった。冷戦期間中も反共活動の強力なスポンサーだった。
こうした事実を知識として持ちながら、教会の動きを軽視したことはヴィルミーナの人間的限界ともいえる。
ヴィルミーナが言い訳するなら、この状況はさほど問題とはいえないことか。
予備案移行の承諾と停戦講和後のカロルレン利権さえ確約されるなら、アルグシアとカロルレンが一戦しても不都合はないし、宗教勢力が信者獲得を競っても構わない。聖冠連合に主導権を与えても、似たような話になっていただろう。
ただ、描いた絵図が狂わされることは困る。この件はサンローラン協定参加国全てが参加しているのだから。自身の面目が潰される、なんて低次元の話では済まない。
「両陛下にお尋ねしますが、連邦として予備案移行は確約されるものと考えてよろしいですか?」
「もちろん、と言いたいところだが、危ういな。東部閥はどさくさ紛れに何かするかもしれない」
ハイデルン国王が渋面で応じ、
「神聖レムス崩壊でも9年戦争でも、ブローレンは領土的野心を剥き出しにしてきた。我々も無かったとは言わないし、何もしなかったわけではないけれど、あそこは別」
メイファーバー女王がどこか忌々しげに煙管を吹かす。
「ブローレンは混乱と戦禍を最大限に利用し、同じアルグスの血を流させた恥知らず共よ。奴らが約を違えても驚かないわ」
メイファーバー女王の悪罵に、ハイデルン国王も沈黙を持って同意した。アルグシア連邦内の対立は根深い。
ヴィルミーナはカップを口元に運び、御茶でのどを潤す。それから問う。
「メイファーバー、ハイデルン。両王国は停戦講和を支持し、予備案移行を肯定する。そう言質を頂いても?」
「構わない。ただし、」
ハイデルン国王は分厚い胸板の前で太い腕を組んでいった。
「アルグシアにとってカロルレンが滅び、その領土を併呑する方が良い、という事実は動かない。仮に限定攻勢でその目が見えたなら、我々は国際的信用を失ってでも、カロルレン征服を優先するだろうことは理解してもらいたい」
予防線を張ったハイデルン国王に、ヴィルミーナは首肯を返しつつ、腹の底で舌打ちする。
ブローレン王国に非をおっ被せとるけど、あんたらも充分に野心的やんけ。
しかし……
腹の括り方が足りひん。そない『上手くいったらええな』ゆう姿勢じゃあ、聖冠連合のセイウチには通じへんわ。
まぁええ。
ヴィルミーナは素知らぬ顔でカップを口元へ運ぶ。
私はもうこの件の主導権を“投げる”。これ以上、この“素人”共とは付き合えへんわ。描いた絵図を聖冠連合に渡して高みの見物や。
ヴィルミーナの口元はカップに隠れ、両王の目に触れることは無かった。
が、隣のマルクは見た。見てしまった。見てしまい、危うく『ひぇ……っ』と呻きそうになった。
マルク・デア・ペターゼンは見た。
ヴィルミーナの笑みを。
〇
「シュタードラー卿。そう肩を落とすな。卿がどうこうという話ではない。防諜面から君を外さなければならなかった。それだけだ」
アウグスト2世が意気消沈しているシュタードラー子爵を慰めつつ、2つのグラスに高級蒸留酒を注いだ。クレテア産のブランデーが色気ある芳醇な香りを漂わせる。
グラスの一つを薦められたが、シュタードラー卿は手を付けない。代わりに背筋を伸ばし、軍の上官へ抗議するように言った。
「今日の一件から、ベルネシアをはじめ諸国は私を非主流派と見做すでしょう。私は各派閥から監視を受けていますし、ヴィルミーナ様を招聘した件で強い非難を受けていることも事実です。しかし、これまで祖国への忠誠と信義に嘘偽りがあったことは決してありません。この扱いは我慢できません」
シュタードラー子爵は明言する。
「辞職します」
領邦貴族とはいえ、シュタードラーは子爵。青い血を持つ貴族だ。相手が連邦議長や諸王であろうとも、面目を潰されて黙ってはいられなかった。誇りを守れない貴族は貴族ではない。
「卿の憤慨はよく分かる。口先ではなく本心からな。私とてこの椅子に座るまで数えきれないほど泥水を啜らされてきたのだ。卿も今胸中にある苦みに耐え、怒りを抑えろ。その先に立つ瀬がある。それに、卿は国内一のベルネシア通だ。挽回の機会はすぐに来よう」
アウグスト2世が滾々と説く。
も、シュタードラー卿は首を横に振った。
「申しあげたとおり、私は非主流派と見做されます、閣下。ベルネシアは私の“価値”に疑問符を抱くでしょう。なにより、外交特使として招聘したヴィルミーナ様に対し、あのような不誠実な真似は“危険”すぎます」
地球史を例に挙げるなら、外交は基本的に不誠実だった。約束を反故にしたり、守らなかったり、偽ったり、騙したりした例は腐るほどある。信用重視の外交が主流になったのは、二度の大戦による反省と冷戦期に幾度か生じた核の危機によって、だ。
それでも、双方の利害と要求の擦り合わせによる妥協に至るためには、相互の国力差以上に相互信用性が重要だったことも事実だ。
信用。つまるところ交渉において信用に勝るものはない。にもかかわらず、アルグシアは小便を引っ掛けた挙句に後ろ足で砂を被せるような真似をしてしまった。それも、ベルネシアの怪物に。
シュタードラー子爵は真剣な眼差しでアウグスト2世へ告げた。強い危機感と懸念を込めて。
「閣下。あの若い女性がクレテアの背骨をへし折ったことを忘れないでください。なにより、カロルレン征服予備案の絵図を描いた張本人であることを」
「忘れてはいない。だが、彼女は所詮、一王族で一財閥当主にすぎまい。ベルネシア王の裏書が無ければ何もできん。仮に我が国へ対して強い反感を覚えたというなら、代わりの親アルグシア派を見つければよかろう」
しかし、その強い危機感をアウグスト2世は共有できない。
それはアウグスト2世の人物眼が乏しいからではなく、身近に警戒すべき相手が多すぎたからだ。隣国の怪しげな立場にいる姫より、油断ならない諸邦君主達や手綱を握るのに苦労している諸派閥領袖達に意識を注がざるを得なかった。
外敵より家中統制に気を配らねばならない戦国大名を想像すれば、アウグスト2世の立場が理解できるかもしれない。大友氏や尼子氏、甲斐武田とか。
もっとも、そうしたアウグスト2世の見解は、シュタードラー子爵の失意を強め、追い打ちを加えるだけだった。
シュタードラー子爵はグラスに手を付けず、踵を返して退室した。
〇
聖冠連合帝国とアルグシアは両国の間にあるザモツィア地方を巡って長く対立している。
ザモツィアは聖冠連合帝国の帝室シューレスヴェルヒ家所縁の地。なんとしても取り戻さねばならない。
一方のアルグシアにとってザモツィアは戦乱の中で勝ち取った大事な国土である。一センチとて譲る気は無い。
ザモツィアの件が片付かない限り、聖冠連合帝国とアルグシアが和解することは決してない。たとえ、カロルレン征服の共同事業を手掛けていても、両国は相互に相手を敵と見做している。
そして、敵に対して嫌がらせを講じるのはテーブルマナーだ。
「所詮、連中は内輪揉めばかりの二流国。むべなるかな」
聖冠連合帝国外務官僚メッテルハイム卿は、柔らかくも冷たい微笑をヴィルミーナへ向けた。
予定が大きく狂ったものの、メッテルハイムはヴィルミーナと会談に応じ、“事情”と“提案”を聞かされ、この反応だ。良い性格をしている。
「勘定書きを寄こされるのは構いません……が。ここまで段取りをつけてから手放してよろしいので? “成果”はこちらのものになりますよ?」
メッテルハイムは20代終わりの若者で、背が高く栗色の巻き毛に男前の顔立ちをした美男子だ。情報機関の報告ではサージェスドルフの“教え子”の一人であり、次代の帝国閣僚を担う“逸材”らしい。
ちなみに、容貌に違わず浮名を流す類の男のようで、この派遣で早速、アルグシア貴婦人と良い仲になっているとかいないとか。
「予備案移行が実現されるなら構いません。イストリアとクレテアも同意見です」
ヴィルミーナは困惑気味のメッテルハイムへしれっとうそぶく。
「たしかに私は段階的征服案の発案者ですし、此度の停戦講和の絵図を描きました。しかし、主役はあくまで貴国、カロルレン、アルグシアの三国。特に貴国は事の発起人でしょう? 絵図の仕上げは貴国に譲ります」
意訳――面倒なところはオメーがやれよ。
「ふむ」
メッテルハイムは整った顔立ちを物憂げにしながら考えこむ。周囲(特に女性)から見られることに慣れた男の仕草だ。ナルシストっぽいが、女の“食い方”を心得ている。
この坊主、そのうちヤバい娘に手を出して痛い目に遭いそうやな。
ヴィルミーナがそんなことを考えていると、メッテルハイムはおもむろに口を開いた。
「……分かりました。勘定書きを受け取りましょう。貴女の描いた絵図もこちらで仕上げます。まあ、貴方の望む仕上がりになるかは、保証しかねますが」
「貴国なら期待に、いえ、期待以上の仕上げをして下さると信じていますよ」
刹那、メッテルハイムとヴィルミーナの間に殺気のやり取りが交わされる。
そして、メッテルハイムはにっこりと満足げに微笑む。女殺しの笑み。もっとも、既に最高の男を得ているヴィルミーナには全く通じないが。
ヴィルミーナは疎ましげに問う。
「カロルレンに戦う力は残っていないようですけれど」
「国の存亡が掛かっているのです。絞り出すでしょう」
どこか芝居がかった態度でさらりと告げ、メッテルハイムは悪戯っぽく口端を上げた。
「それにまあ、我が国から彼らへ少しばかり“贈り物”をしますよ。皇后陛下の誕生日も近いことですしね。ふふ、皇后陛下の御下賜品といったところでしょうか」
そう楽しげに喉を鳴らすメッテルハイムは、お堅い御令嬢を色欲の世界に堕とそうとする美形の男性淫魔みたいだ。
何をするか分からへんけど、とヴィルミーナは思う。この“坊主”はあのセイウチとは別ベクトルのワルやわ。将来、鬱陶しいことになりそ。……オンナ絡みで失脚するか殺されへんかな、コイツ。
こうしてメッテルハイムとの会談を終え、ヴィルミーナは会議室から出る。




