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お待たせしました。
大陸共通暦1771年:ベルネシア王国暦254年:仲春
大陸西方メーヴラント:ベルネシア王国:王都オーステルガム
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春の夜更け。魔導式ランプの照らす王妹大公家嫡女の寝室。
ヴィルミーナは豪華な作りのベッドに寝そべりながら、カロルレン征服予備案移行に関する外交資料に目を通していた。で、レーヴレヒトがそのヴィルミーナに抱き着き、Dカップの胸に顔を埋めて寝息を立てている。ヴィルミーナが時折思い出したようにレーヴレヒトの耳元を優しくくすぐると、熟睡中の子犬みたく身をもぞもぞと揺らす。
この“坊主”はたまーにこういう無防備な甘え方を見せる。愛い奴め
ヴィルミーナは慈しみに満ちた面持ちで若い夫の髪を撫でつつ、資料を読み進める。
文面からは諸国の冷徹さと冷酷さと悪意が伝わってくる。
聖冠連合帝国もベルネシアもクレテアも、この機にアルグシアを弱らせようと画策していた。聖王教会すらこの戦争を利用している。
そして、アルグシアは付け込まれるに相応しい荒れ模様だった。
ヴィルミーナはサイドボードに置かれた報告書を一瞥する。“商事”の調査内容を鑑みるに、アルグシア連邦は思った以上に危機的な状況にある。東メーヴラント戦争を機にこれまで溜まりに溜まっていた内部不和が爆発したのだ。
この時期のアルグシアはあらゆる立場が対立していた。
主戦派と講和派、強硬派と穏健派、地域閥争い、地域主義者と連邦主義者(愛郷主義と愛国主義の対立とも言える)。政府、軍部、宗教、経済、各産業、それぞれの権益対立。そして、王侯貴顕や聖職者の特権階級者と彼らに搾取される民衆の根源的闘争。
クーデターや内戦が起きていないことが奇跡だ。神聖レムス帝国崩壊と9年戦争の記憶が、最後の一線をつなぎとめているのだろう。あるいは、一部の賢人が必死に連帯と結束を図っているのかもしれない。
しかし、とヴィルミーナは思う。
これはちっと読み難い状況になってきたなぁ。
ヴィルミーナの読みでは、カロルレンが敗北的講和による窮乏の加速で市民革命かクーデターが発生すると思っていた(この場合のクーデターは単なる政権奪取ではなく、我が国の討幕運動のような国体変更の内戦型クーデターだ)。
ところが、アルグシアの国内情勢も非常に危うい。
仮にアルグシア連邦内にプロイセン王国のような強国があれば、この機にまとまりのない連邦体制に代わり、自らを中核とした帝国の建設を図ったかもしれない。
だが、アルグシア連邦は東西南北の勢力均衡で成り立つ寄り合い所帯だった。そのくせ、多数決の原理が有効に働いていない(多数決が機能していたら、そもそも西南北の反対でカロルレン征服は否決されている)。
比較的友好関係にある西部閥を援助してリーダーシップを取らせても良いが、その西部閥にしても内部で連邦主義者や民族主義者が根強く、連邦政府がサンローラン協定に伴って旧領――現ベルネシア東部国境地域――ベルネシア領有権を認めたことに反発。反ベルネシア派も伸長している。ゆえに、迂闊な援助はできない。
カロルレンはともかくアルグシアが崩壊してしまうとベルネシアの安全保障上いろいろ不味い。かといって、潜在的な敵国を生かすためにベルネシアの国富を投じるのも話が違う。
んー……どうしたもんか……
ヴィルミーナはしばらく沈思黙考した後、何もかも面倒臭くなって資料をサイドボードに放り、ランプを切った。
果報は寝て待てゆうしな。
レーヴレヒトを抱きしめ返し、ヴィルミーナは目を瞑った。
〇
アルグシア連邦高等外務官シュタードラー子爵は、サム・ワーシントン似の容貌に酷い疲れを滲ませていた。いや、その端正な顔に浮かんでいるのは疲労だけではなく、祖国アルグシア連邦に対する不安や憂慮、ある種の失望も色濃い。
春は中旬を過ぎ、一日ごとに陽気が強まっているのに、アルグシア連邦議会は冬の嵐が終わらない。かつての暖かな連帯と結束は失われ、冷たい相互不信と嫌悪が飛び交っている。
先日、聖冠連合の陰険デブが打ってきた手は特に悪辣だった。
――貴国単独での軍事作戦に不安があるなら、我が軍が協力して差し上げても良い。まあ、その場合はザモツィアの件でいくらか譲歩してもらおうか。
これで軍事的手段において、聖冠連合と協力する可能性は完全に断たれた。むろん、単独でカロルレン王国と戦うことは不可能ではない。既に向こうは虫の息なのだから。問題はアルグシアもまた、単独で戦争をやるには議会で反対の意見が強く、実務的には昨年の戦いで破綻した兵站問題が解決困難という点だ。
リュッヒ伯が罷免覚悟で議会に提案した有償借款と国債引き受け依頼も、ベルネシアとクレテア、イストリアは拒絶こそしなかった。が、借款の抵当や国債の利回りについて厳しい条件を提示しており、とても折り合いがつきそうにない。
どうしろってんだ。シュタードラーは額に手を当てて唸る。
「閣下。間もなくベルネシア出先商館です」
馬車の御者席に座る護衛から報告が届き、シュタードラーは気を取り直して顔を上げる。
ベルネシアに国としての援助を期待できなくとも、白獅子やハイラム商会などの民間資本に依頼する手がまだ残っている。ベルネシア王国は基本方針として民間の商経済に口を出さない。国益や法を犯さない限り、その経済活動と利益追求行動に掣肘が加えられることはない。
まだ目はある、ということだ。
それに、アルグシアにさらなる波乱と不和をもたらすだろうが、”彼女”を引っ張り出せれば……閉塞的な現状を打開できるかもしれない。
シュタードラー子爵の目的地ベルネシア出先商館は白獅子財閥主体の特殊商業施設だ。
事実上のベルネシア外交施設を兼ねている関係から、出向官僚や軍人が多数滞在していた。たとえば、“事務局”の職員は王国府の商工筋や外務筋、“警備員”にもベルネシア正規軍が多数存在する。
加えて、少数ながらイストリアやクレテア系企業の連絡員も駐在していた。
さながら列強国の統合前線司令部。それがベルネシア出先商館の実情だった。
出先商館の周辺は以前から諜報と防諜のイタチごっこが繰り広げられていたが、今は不穏さを通り過ぎて殺気が感じられる。事実、年明け頃からこの街では不審死や行方不明者が急増していた。社会の裏側では既に流血が始まっている。
ベルネシア出先商館では大口の業務取引が主のため、小売りの類はしない。その関係で出先商館の外見は一見すると、バロック調の煉瓦製ビルにしか見えなかった。敷地の外壁は背が高く、外壁上には鉄柵まで設けてあり、正門も大きく武装警備員の門衛待機所はちょっとしたトーチカを思わせた。
アルグシア連邦政府の紋章入り公務馬車は流石にフリーパスだったが、商館正面玄関を潜ってロビーに入れば、護衛を含めて簡単な身体検査を受けざるをえない。
聖冠連合帝国のソルニオル事件後、『安全管理の基準が引き上げられまして』とのこと。
そうして煩雑な手間をやり過ごし、シュタードラーは応接室へ通された。
応接室の調度品は高級品ながら落ち着いた趣味で統一され、壁の絵画を始めとした装飾品も豪勢さより上品さに重きを置いていた。
美しい女性職員がシュタードラーと秘書へ、大陸南方産の珈琲と花蜜漬けの柑橘を用いたパイを提供した。ま、シュタードラーは珈琲より強い酒が欲しい気分だったが。
ともかくシュタードラーと秘書が珈琲とパイで一息入れた頃、一組の男女が入室してきた。
女性は白獅子財閥重役のテレサ・ド・フィルデ男爵令嬢。
黒縁眼鏡を掛け、柔らかな栗色の髪を緩く一つにまとめ、右肩に掛けるように垂らしていた。中肉中背の体を青と黒のフォーマルで包み、胸元にブローチを付けている。
まだ二十代前半の乙女ながら、白獅子総帥ヴィルミーナの信用厚い側近衆の一人で、今回の会談のためにベルネシアから派遣されてきた白獅子の『全権大使』だ。
男性の方はハイラム商会の大幹部でヨシアス・パイナンという。平民階層出身者ながらハイラム商会の出先商館駐在者におけるトップで、現代風に言えば、ハイラム商会アルグシア担当総責任者と言った塩梅か。
歳の頃は40絡み。東方の河童というモンスターみたいに頭頂部が薄いが、顔立ちも容姿も俳優のように整っている。その美丈夫振りが却って頭頂部の有様に世の無常さを感じさせる(もしくは、神が珍しく公正さを示したというべきか)。
2人は丁寧な挨拶を交わし、シュタードラーの向かい側に腰を下ろした。
「此度の御訪問は我々ベルネシア民間資本への“商談”と伺っておりますが……高等外務官の閣下御一人ですか?」
年長者のパイナンが先んじて口を開く。
出先商館の主体が白獅子であり、貴族階層者であるテレサの方が立場は上だが、年長者を立てていた。
「まずは外交上の諸問題と共有認識の確認を、という事です」
シュタードラーは平民出身者のパイナンへ礼節を弁えて応じた。ここで居丈高に振る舞うような人間は高等外務官にはなれない。
「ある程度の実務内容にも権限はあります。多少踏み込んだ内容でも問題ありません」
「そういうことでしたら、遠慮なく本題に入らせていただきましょうか」
パイナンは首肯し、テレサにもきちんと確認を取る。
白獅子とハイラム商会は敵対関係にあるが、2人とも外国人相手の共同仕事にそうした“些末な事情”を持ち込むほどアホではない。
「総帥からはこの交渉における全権をお預かりしております。問題ありません」
テレサは黒縁眼鏡の位置を修正しながら、はきはきと挑むように答える。武闘派眼鏡っ娘の気質は二十歳を過ぎても健在である。
こうして始まった“商談”は、すぐさま暗礁に乗り上げた。ハイラムが国債引き受け条件に難色を示し、テレサも同様に芳しくない反応を返したからだ。
「ハイラムとしては貴国の提案する利率8分では請け負いかねます。せめて利率1割は確約していただかねば」
パイナンは具体的な数字を挙げつつ、テレサに水を向けた。
「白獅子は如何ですか?」
「我々も御社同様、利率は1割にして欲しいですね。ただ配当期間を5年から3年に短縮し、期間超過時の補償規定を設けて頂けるなら、9分、いえ、8分5厘でも構いません」
テレサの前向きな回答にシュタードラーの秘書が表情を緩めかけたが、当のシュタードラーは表情を一層固くした。外務官である彼は、補償規定という油断ならない単語をさらっと加えていることを、決して聞き逃していなかった。
シュタードラーの反応を見たテレサが言葉を続ける。
「御不快かもしれませんが、貴国の情勢不安は我が国にも届いております。我が国の民間資本が貴国の国債購入や投資に不安が大きい。ある程度の補償規定がなければ受け難いかと」
「確かに、それは言えますな」
パイナンはテレサに同意した。
「加えて申し上げれば、我が国の民間資本は先の戦役後、クレテアに投資、進出しておりますので、貴国の要求に応えられる余裕を持つ組織がどれほどあるか……」
「ローガンスタイン卿は如何だろうか」とシュタードラー。「彼の御仁の財閥はレーヌス大河事業に相当額を投じておられると聞く。御二人から投資の拡大を促してはもらえないか?」
レーヌス大河利権の争奪戦で、青鷲ローガンスタインに敗れた白獅子のテレサは、やや渋い面持ちを浮かべてパイナンへ言った。
「青鷲ならばハイラム商会の方が所縁深いでしょう。パイナン殿。可能ですか?」
テレサから『ウチはそんな便宜図ってやる気はねェよ』と言外に告げられ、面倒を押し付けられたパイナンは小さく息を吐いた。
「話を持ち掛けることは可能ですし、請け負っても構いませんが……レーヌス大河利権はアルグシアにとっても重要でしょう。貴国、いえ、西部領邦閥の方々は青鷲の拡大を許されるので?」
「もちろん、外資の参入に不満を持つ者は現れるでしょうが、彼らの不満を補って余りある理と利があれば、必ず説得して御覧に入れます」
こっちも必死なんだよ、とシュタードラーは目で告げた。
「閣下がそこまでおっしゃって下さるなら、当社としても青鷲に打診してみましょう。ですが、結果に関しては過度な期待はしないでいただきたい」
パイナンは釘を刺しつつ、シュタードラーに“善意”を示した。この了承は、自分達の懐が痛む話でもなし、という面も大きい。
会談は3時間ほど続いたが、狡猾でタフなベルネシア商人の2人は外務屋シュタードラー相手にも一切隙も油断も見せず、また“甘さ”も示さなかった。シュタードラーの心のメモに新たな失望の記録が増える。
ただし、“仕事”の話が終わって気楽な雑談に入ると、テレサがちょっとした身の上話を披露した。
「私の母方はかつてアルグシアから亡命した一族でして、貴国の情勢を少しばかり案じております」
テレサの母方はアルグシアの亡命貴族、父方はクレテアの亡命貴族。血統的にベルネシアの血は薄い。むろん、テレサのアイデンティティーは完全にベルネシア人であり、ベルネシア貴族であることを誇りにしている。それでも、血の由来を無視するほど薄情でもない。
「ほう。さようでしたか。母君の家名を伺っても?」
「東部ブローレン王国のフォン・フライシャー男爵家と聞いております。度重なる動乱で御家が衰退し、最後は亡命を余儀なくされたとか」
西部閥の領袖ハイデルン王国に並ぶ東部閥の中核ブローレン王国はアルグシア連邦内でも屈指の武闘派国だ。なんせ神聖レムス崩壊と9年戦争で領土を増やした国の筆頭格だった。ただしそのツケは大きく、今も内政面が後れていて経済が弱い。
「ふむ……神聖レムス崩壊と9年戦争で断絶した御家は多い。私の家も辛うじて生き延びた父祖の一子がなんとか伝えた家だとか。貴女の母方御家族のように国外へ―――」
シュタードラーはハッとした。
そうだ。国外に逃れた貴族は多い。いや、貴族だけではない民もだ。その中にはテレサ嬢のように成功した者もいるだろうし、アルグス人の民族意識を持つ者や、ルーツの原点たるアルグシアの地に想いを持つ者もいるだろう。
そうした者達に助力を得られないだろうか。
そして、会談が終わってハイラム商会のパイナンが去る中、シュタードラーがテレサを呼び止めた。ちょっとした”用”があると。
シュタードラーは”劇薬”に手を伸ばす。もしかしたら、この行動が祖国アルグシアを決定的に変えてしまうかもしれない。悲劇的な未来を招くかもしれない。そうなれば、自分は歴史的な背信者となるだろう。
それでも、現状のアルグシアを変えるため、危険へ踏み込まねばならない。
アルグシア貴族として、祖国と民へ尽くす義務があるから。
シュタードラーはテレサに告げた。
「フィルデ男爵令嬢殿。ヴィルミーナ様に我が国へ訪問をお願いしたい」
「総帥にですか?」
警戒気味に訝るテレサへ、シュタードラーは続ける。
「私は我が国と貴国との関係改善や現在の交流は、ヴィルミーナ様が為されたことと思っています。あの方なら我が国の現状に変化をもたらしてくれるのでは、と」
「そうおっしゃられても……」
当惑するテレサに、シュタードラーは切り札を出す。
「では、ヴィルミーナ様と王国府へ、我が国に訪問いただけるなら見返りに我が国の学術や産業技術を輸出する準備がある、とお伝えください。こちらはその目録です」
連邦政府内や民間の”同志”から調達した、ベルネシアが無視できない切り札。とんでもないものを押し付けられたテレサが悲鳴を上げる。
「こ、困りますっ! このようなものを渡されても、私の立場では是とも否ともお答えできませんっ!」
「突然の申し出ですから、そうおっしゃるのも当然ですな。しかしながら――」
シュタードラーは言った。迫真のまなざしと共に。
「現在、我が国はその時間が限られています。どうか返答は御急ぎを」
〇
当然ながら、会談終了後、テレサは大慌てで帰国し、ヴィルミーナと王国府へ事を報告した。
そして――
「あんた、まーたしてやられたわね」
「あんな酷い不意打ち、どう対応しろってのよっ!?」
小街区オフィスで催された緊急会議にて、テレサはすぐさまマリサにからかわれていた。
「しかしまあ、ヴィーナ様は人気ですねえ」
くすくすと楽しげに笑うデルフィネ。白魚のような指を折りながら続けた。
「イストリアにクレテア、聖冠連合。そして、今回のアルグシア。方々から熱い視線を集めてらっしゃる」
「そのうち暗殺者が送り込まれそうね」
ため息をこぼしつつ、ヴィルミーナは手元にある資料――シュタードラーが切れる手札を確認した。
シュタードラーのいうアルグシアの産業技術は別段、目の色を変えて欲しがるほどの物でもない。そもそも現状、産業革命はイストリアとベルネシアが主導であり、工業機器や産業資材に動力機関の開発に関してはベルネシアが、もとい白獅子が巻き返しすら見せている。
ただ、無視できないものもいくつかある。
数学や物理学、魔導素材加工技術や魔導素材主体の化学と薬学には、ベルネシアより秀でているものが散見できた。特に都市ガス利用に関してはベルネシアより先進的だ。まあ、これはベルネシアにガス資源が乏しい事情もあるが。
白獅子の技術関係総奉行であるヘティなどは「ヴィーナ様。すぐにアルグシアへ行きましょう」と自らも乗り込む気満々。
金庫番のミシェルも算盤を弾いて「ヴィーナ様。儲かります」と言い出す。
民間軍事会社やその関連事業を扱うエステルに至っては「軍事技術も引っ張れませんか?」とおねだり。
あ、おねだりしたのはデルフィネも同じで「芸術分野からも色々引っこ抜いてきてくださいな」。
一方、“信奉者”ニーナは「ヴィーナ様を政情不安定な仮想敵国に行かせるなどありえない」と断固反対。
「向こうに使節団なり外務のトップなりを派遣させましょう」とパウラやリアもニーナに追従して対案を挙げる。
そんな中、“侍従長”アレックスがヴィルミーナに問う。
「王国府は何と?」
「私人として赴くことは絶対に却下。公人として派遣する場合、アルグシアから提供される技術は全て御国主導で民間全てに還元するそうよ」
私人として不可の理由――ベルネシア王族が私情で仮想敵国に赴いて、仮想敵国のために一肌脱ぐなんて許されざるよ? 当たり前じゃん。
公人として可の理由――予備案移行の推進。アルグシアに貸しが作れるうえ、敵国の各種技術という余禄付き。
ただし、公人として赴くなら、当然、その成果は国益だ。で、国益である以上、アルグシアが提供する技術を白獅子の独占は許されない(ソルニオル経済特区の抜け駆けが周囲の不興を買っていた)。それに、御上としてもアルグシアから得た技術を国内企業へ売って国庫を満たしたい。
「派遣する場合の名目はサンローラン協定内容を確認する外交連絡の特使ね。クレテアと聖冠連合にも話を通すそうよ。下手に勘繰られても面倒だから」
ぼやき気味のヴィルミーナに、キーラがくすりと笑う。
「王国府もこの戦争の利益配当を欲しがってる連中にせっつかれているのかもしれませんね」
「それで、ヴィーナ様はどうお考えで?」
「行きたくはないわよ。新婚なのよ? 愛しの旦那様といちゃいちゃしてたいわ」
投げやり気味にアレックスへ応じ、ヴィルミーナは言った。
「まあ、さっさとカロルレンの素材資源を押さえたいし、アルグシアの技術を得られるという話も悪くない。ただし、わざわざ足を運ぶには足りないわね。私の”出演料”には安すぎる」
ヴィルミーナの垣間見せた冷厳さに、側近衆達が背筋にゾクゾクとした快感を覚えた。まったく教育と薫陶がよぉ行き届いている。
「何を求めるおつもりで?」
マリサが興味津々といったワクワク顔で尋ね、ヴィルミーナは答えた。
「私の訪問に合わせてカロルレンから特使を呼ばせる。実現できるなら要請に応えて出向いてやるわ」
「それはまた……」アレックスが呆れ気味に「カロルレンが応じるかどうかの問題もあるのでは?」
「他国の小娘に頼らざるを得ないほど困ってるなら、それくらいの苦労は実現するわよ」
ふん、と鼻を鳴らしたヴィルミーナは、それと、と続ける。
「そろそろ放浪息子に私のことを思い出してもらうわ」




