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初春の夕暮れ。
ソルニオル領の港で巨大な火球が生じ、積乱雲のように真っ黒な煤煙が空へ昇っていく。爆薬と可燃物を満載した貨物船が爆発し、港湾地域を大混乱に陥らせた。
同時刻。
旧市街区ではいくつかの建物が突然、火事を起こして激しく燃え上がった。炎は周辺建物も飲み込み始め、街区規模の大火事になりそうだった。
ソルニオル領に治安出動していた陸軍部隊も、これらの対処に緊急出動し、市民の避難や負傷者の救助、消火活動などに奔走する。
街全体が大騒ぎしている中、ソルニオル公爵屋敷の警備部隊の許へ、馬車と騎馬で編成された増強小隊がやってきた。
鋭い目が特徴の涼しげな美青年大尉が警備部隊の隊長へ命令書を渡し、告げた。
「すぐに被災地域の応援へ向かってください。現場では先行隊の指示に従うようにとのことです。皆さんが戻ってくるまで、私の隊が公爵閣下の警備を代行します」
命令書には治安出動部隊の総指揮官のサインも入っていたから、警備部隊は素直に従い、中隊120名を連れて港へ向かっていった。
美青年大尉――帝国軍の制服を着たレーヴレヒトは彼らを見送り、呟く。
「上手くいったな。大金使った甲斐があったか」
軍服と命令書を調達した結果、かなりの予算を費やしたが、正規軍とドンパチやるリスクに比べれば安い。
レーヴレヒトは馬車内の魔導通信器を使い、作戦指揮所に報告する。
「パサージュ108よりCP。状況完了」
『了解。ガルテン52。状況報せ』
『ガルテン52、配置完了。いつでもどうぞ』
『了解。作戦を開始せよ。時間はないが、狩りを楽しめ』
夜闇の帳が半ば落ち、港湾部と旧市街区を焼く炎が官能的に煌めく中、レーヴレヒトは三人連れて公爵屋敷の正門へ堂々と向かった。
詰所のソルニオル公爵家警備兵――私兵達が訝るも、陸軍少佐に化けたレーヴレヒトは抜け抜けと言った。
「公爵閣下に警備の引継ぎ報告と御挨拶したい。正門を開けてくれ」
私兵達は怪訝に思いつつも正門を開けた。直後、レーヴレヒトと三人の部下達はナイフを抜き、思わず笑ってしまいそうなほどの早業で正門警備の私兵達を殺害、物陰へ放り捨てる。
帝国軍の制服を着た任務部隊135:パサージュ108が堂々と正門を潜り、公爵屋敷の敷地内へ侵入していく。そして、再び正門は固く閉じられた。
裏門では任務部隊136:ガルテン52の面々が放った弩の矢弾が、裏門警備兵達を始末していた。平民服に覆面をし、戦闘装備をまとった特殊猟兵達が敷地内へ次々と進入していく。
狩りが始まった。
正面玄関扉を潜った任務部隊135:パサージュ108は陸軍の制服に覆面を付け、行動開始。
拳銃。後装式単発小銃。散弾銃。手榴弾に音響閃光弾。ナイフに手斧。刃付けしたスコップ。あらゆる得物を使い、てきぱきと私兵達を殺害し、家人達を拘束して大広間へ連行していく。
わずかでも抵抗すれば、女や老人でも即座に射殺した。
私兵達が慌てふためきながら、迎撃態勢を整え始めたところで、裏手から侵入した任務部隊136:ガルテン52がその背中を襲う。
不意打ちされてばたばたと殺されていく私兵達。
圧倒的練度を誇る特殊猟兵達は草でも刈るように私兵達の命を刈り取っていく。同時に、重要目標の捜索作業も行われた。
「三バカ息子と家族がいないぞ」「家人を締め上げて吐かせろ。見せしめに2、3人八つ裂きにすれば口を割る。手早くやれ」「屋根裏部屋、地下室も見逃すな」
特殊猟兵達も珍しく大騒ぎだった。
なんせここは敵地のど真ん中。帝国陸軍部隊がぎょうさん居て、いつ公爵屋敷に戻ってくるか分からない。時間が掛かればかかるほど、脱出時の危険が増す。
そのため、
「降伏しろ。従えば殺さない」「武器を捨てて投降しろ」「死にたくなければ、降参しろ」
時間を省くべく、特殊猟兵達は滅多にしない降伏の呼び掛けを行った。
呼び掛けを受けた私兵達は、仲間が次々と殺され、屋敷の区画を速やかに制圧されていく状況に、諦め顔で降伏していった。
レーヴレヒト達が屋敷の制圧と目標捜索を続ける中、一個分隊が捕獲した家人と降伏した私兵達を管理していて、
「こいつ、似てるな」「そうか? 違くない?」「取り逃すよりマシだ。連れてけ」
捕らえた私兵と、殺害対象リストの人相書きに記載されていた家人――老若男女問わず順次中庭に連行し、”処分”していく。
その流れ作業のような殺害は、処刑や虐殺というより食肉加工場の屠畜作業を思わせた。
リストに名前が載っていない家人だけが、殺戮から生き延びた。彼らは晩年までこの恐怖の体験を忘れなかった。
狩りは勢いを増していく。
レーヴレヒトと三人の部下が公爵屋敷の中枢たる公爵執務室へ向かう。
道中に私兵が幾人か立ちはだかったが、速やかに弾丸を打ち込んで始末していく。死体を踏み越え、執務室のドアを蹴破る。
広い執務室内に老紳士が一人だけいた。
ルートヴィヒ・フォン・シューレスヴェルヒ=ソルニオルは、武器らしいものを持たず、執務机に着き、煙草を吹かして20年物の蒸留酒を舐めていた。
「――貴様らだけか」
が、入室してきたレーヴレヒト達を一瞥すると、煙草を握り潰して激昂した。
「?」発言の意味が分からず、レーヴレヒト達は小首を傾げた。
「このルートヴィヒを討ちに来たのが、貴様らだけだというのか。帝国随一の大悪漢にして西方一の奸雄たるこの私を、貴様らの如き数匹の狗が討つというのかっ!」
「? ? ? ?」
レーヴレヒトにはルートヴィヒの怒りがさっぱり理解できない。
最期の時にルートヴィヒが何を求めているか、なんて興味も関心もない。レーヴレヒトの頭にあるのは、この出し殻ジジイを捕獲し、機密情報を確保して無事にここから脱出することだけだった。
であるから、『グリフォン・ガルテン襲撃』に失敗し、討伐軍が来るであろうことを予測したルートヴィヒが、屋敷を包囲した討伐軍相手に松永弾正久秀の如きド派手な死に様を果たし、伝説にならんと考えていたなど、レーヴレヒトの想像になかった。
アニメや漫画ならここで問答の一つもするのだろうが、レーヴレヒトはそんな御約束を完全に無視し、無言のままルートヴィヒへ歩み寄り、銃口を頭に突きつけて言った。
「機密資料はどこだ?」
「この狗がっ! 誰に口を」
レーヴレヒトは拳銃でルートヴィヒの左爪先を撃った。足の指が二、三本ほど千切れただろう。ルートヴィヒが甲高い悲鳴を上げる。も、レーヴレヒトはそうした反応を無視して撃鉄を起こして、告げた。
「機密資料はどこだ? どこにある?」
「き、きさ――」
ルートヴィヒの恨み言より早く、レーヴレヒトは再びルートヴィヒの左爪先を撃った。残っていた足の指が吹き飛び、先ほどより派手に血飛沫が舞う。
「機密資料は? 機密資料はどこにある? どこだ?」
ルートヴィヒは苦痛に大きく歪み、脂汗塗れの顔を上げ、血走った眼でレーヴレヒトを睨みながら、右壁の書棚を指差した。
「……その奥に隠し部屋がある。資料はそこだ」
「そうか。では開けろ」
レーヴレヒトはルートヴィヒを引きずり起こし、書棚の前へ放り投げた。強化魔導術で筋力増強しているため、痩せた老人など枯れ木に等しい。
屈辱と苦痛に顔を大きく歪めながら、ルートヴィヒは書棚の一画に右中指の印章指輪を差し込む。書架に用いられた魔導機構が触媒を通じてルートヴィヒの魔力を受け取り、がらごろと音を立てて隠し部屋を開放する。
6畳半ほどありそうな部屋には書架が並び、大量のノートや書類束が収められていた。その全てがソルニオル家が為した悪行の記録だ。
その部屋の奥に頑丈そうな金庫が据えてあった。
もちろん、レーヴレヒトはルートヴィヒに金庫を開けさせる。あれこれと文句や抗議をするルートヴィヒの左爪先を強く踏みつけ、悲鳴を上げて悶絶する彼へ告げた。
「開けろ」
ルートヴィヒはある意味で不幸だった。よりによって眼前に現れた首狩り人が、脅しも賺しも交渉も通じない相手だったのだから。ルートヴィヒの才覚も器量も爵位も権力も資産も、レーヴレヒトには通じない。レーヴレヒトにはまったく意味を成さない。なぜなら――
任務中のレーヴレヒトは人間の姿をした兵器だから。
銃は引き金を引かれたら弾丸を放つだけ。打ち手の貴賤など気にしない。放たれた弾丸はその運動エネルギーを喪失するまで飛び続けるだけ。命中先のことなど気に掛けない。特殊猟兵レーヴレヒト・ヴァン・クライフも同じこと。
ただ任務を遂行するだけ。
今は、ルートヴィヒを拉致誘拐し、機密資料を回収するだけだ。
開錠された金庫の中は、空だった。
いや、正確には一枚だけ手紙があった。
『親父よ、望むままの最期を遂げてくれ。俺達は生きる。あんたの息子達より愛を込めて』
ルートヴィヒは一瞬呆けた後、
「qawsedrftgyhujikolpッ!!!!!」
表記不能な絶叫を上げた。
レーヴレヒトは左腰のパウチから中空針を取り出し、ルートヴィヒの首に刺した。強烈な鎮静剤を打たれたルートヴィヒが白目を剥いて昏倒する。
「どういうこった?」と仲間の一人がレーヴレヒトに問う。
レーヴレヒトは空っぽの金庫を一瞥し、
「狩りはまだ終わらないってことさ」
昏倒したルートヴィヒを拘束しながら仲間へ告げた。
「この出涸らし野郎と資料を急いで搬出する。人と道具を集めろ」
〇
さて、『ソルニオル公爵家本領屋敷襲撃』についてとその後を語っておこう。
ソルニオル公爵家本領屋敷は戦闘痕跡と血と骸に凌辱されていた。
中庭の一画には、虐殺された私兵達の骸が無造作に積み上げられ、処刑された一部の家人達が中庭外壁傍に並べられていた。背後の壁には血で『駆除完了』と記されている。
死体だらけの本領屋敷だったが、当主ルートヴィヒの骸は確認されなかった。執務室には鮮血と足の指らしい肉片があったが、それだけだ。
あとは空っぽになった隠し部屋が見つかっただけ。
屋敷を撤収した襲撃者達の足取りは不明。幽霊のように、ふっと消えてしまった。
かくして、ソルニオル公爵が行方不明になったが、行方不明になったのは、三人の倅達も同様だった。
三人の倅達は家族を連れてソルニオル領を抜けだしたらしい。海路でまずコルヴォラントへ向かったことが確認されている。
帝国からの連絡を受けたコルヴォラントの某国で三家族が乗っている船を発見、臨検したところ、長男と三男の妻子だけ確認された。なお、これら妻子は私物以外の金品を持っていなかった。曰く『お金は夫が管理している』とのこと。
三人と次男の妻子は行方不明。
状況を見るに、長男と三男の妻子を囮にして逃げたわけだ。
親父どころか女房子供まで見捨てて逃げた。いやはや。荒木村重の如き逃げっぷりである。
〇
聖冠連合帝国帝都ヴィルド・ロナ郊外の帝都飛空船離発着場。
後世、ヴィルド・ロナ国際空港と呼ばれる施設は、この時代だとまだまだ規模が小さい。陸運が馬車主体の帝国では空運関係がまだまだ後れている。
戦争鯨達に護られたベルネシア王家御用飛空船が着陸し、タラップが降ろされる。
帝国近衛儀仗隊が礼節正しく姿勢を正した。王族の全権特使を出迎えるわけだから、礼を失するわけにはいかない。
乗降口に姿を見せたヴィルミーナは、いつぞやの軍礼装染みたドレスに身を包み、腰には儀礼短剣まで下げていた。外交官というより女性将官染みた威厳を漂わせるヴィルミーナは、紺碧色の瞳で儀仗隊を睥睨した。
その冷たい眼差しに、儀仗兵達が一瞬、息を呑む。
なお、エスコートとして同道するマルクも気後れしていた模様。小声で思わず嘆く。
「君の隣に立てるレーヴレヒト殿に改めて畏敬の念を覚えたよ」
「でしょう? 私の旦那様よ」
誤解して受け止めたヴィルミーナは機嫌よくタラップを降りていく。
出迎えに現れたのは、従姉弟であるエルフリーデとカスパーだ。エルフリーデとは確執に近いものがあったが、衆目もある関係か、やや硬い笑顔を湛えていた。
しかし、ヴィルミーナはお構いなしにエルフリーデを抱擁する。傍目には従姉の出迎えを喜んでいるようにしか見えない。
そんなこんなでベルネシア一行は帝国の用意した馬車群に乗り込み、帝都ヴィルド・ロナへ向かう。
儀仗馬車の車内。姉弟と三人だけになったヴィルミーナは、ふっと息を吐いて砕けた態度を取る。
「大問題よ、これは」
第一声は苦情だった。
「私達は貴方達が告発したこと、つまりは伯母様が虐げられ、大変に苦しく辛い立場にあるという前提を信じて動いたのよ? それが蓋を開けてみれば、あの宰相すら把握できなかった秘密結社を結成してソルニオルの首狩りをしているとかね、貴方達に騙られたのかと思ったわ」
いとこの苦情に姉弟は揃ってバツが悪そうに目を泳がせる。
「……俺達も全く知らなかったんだ」
カスパーが釈明する。
「まるで人が変わったみたいで、俺達も困惑してる」
「……もう何が何だか分からない」とエルフリーデが額を押さえて呻く。「一つだけ、こちらも確認させてちょうだい」
「ルートヴィヒと資料なら我々の手にある。三人のボンクラ息子に関しては、その行方を追跡中よ。まあ、すぐに分かるでしょう。あの連中が隠遁生活なんて出来るわけがないからね」
ヴィルミーナは先回りして回答し、さらに念を押すように、
「それと、ルートヴィヒと確保した資料を渡す気はない。少なくとも、伯母様の恩赦を確約されるまでは」
ふう、と大袈裟に息を吐いて姉弟へ告げた。
「こちらも聞いておきたいのだけれど、伯母様は我が国に何を求めているの?」
姉弟は顔を見合わせ、揃って深い嘆息を吐いて首を横に振る。
「御母様の考えてることが分からない」「母様がどういうつもりなのか、分からない」
嘆くように答えた姉弟に、ヴィルミーナは薄茶色の前髪を掻き上げ、呻く。
「参ったな」
〇
帝都ヴィルド・ロナにはベルネシア総領事館があるが、先の粛清で多くの人材が入れ替わっていた。古参職員はまずいない。これまで築かれたコネクションや情報網が失われ、新たに再構築が進められている。
平たく言えば、人事面でぼろぼろの状態。
ヴィルミーナは総領事館に到着すると、総領事を含めた主要職員を集めて訓辞をした。
「諸君も知っての通り、私は本来、外交官ではない。それどころか王国府にて職を奉じてすらいない。その私がこうして全権大使として派遣されている事実は決して軽くない。貴卿らが陛下の信用と信頼を取り戻す道は、茨の中を素足で歩むより過酷と知れ」
職員達が俯く中、ヴィルミーナは訓辞を続ける。
「陛下は諸君らに対して強い憤りと不信を抱いてらっしゃるが、一方で貴官らが忠勤し、信頼と信用を回復することを強く期待しておいでだ。ゆめゆめ忘れるな。諸君らは既に一度機会を与えられている。二度目はない。心して務めに励むべし」
職員達が深々と頭を下げた。
仰々しいやり取りの後、ヴィルミーナは総領事執務室へ移った。総領事のほか、駐在武官と文化広報官――在帝国の諜報工作統括管理官も同席した。
「帝国側の要求は?」
「ルートヴィヒはこちらで始末しても構わないと。ただし、機密情報は確実に回収を求めたいとのことです」
総領事は孫と大差ないヴィルミーナに恭しく報告した。
ヴィルミーナは首肯し、
「複製を取ったら全て提供して良い。向こうも承知だろう。こちらが既に目を通したことを先方も知っている以上、複製を取る意味もないが」
「しかし、あればあったで困りません。また、未発見の“閻魔帳”ですが、倅共に持ち出されたと見做して間違いないでしょう」
文化広報官の意見にも頷き、言った。
「子ネズミ共と閻魔帳は早急に見つけ出して、必ず確保しろ。それで、親ネズミは? まだ生きてるんだろうな?」
「ええ。食事を拒否してあれこれと反抗するので、口に漏斗を突っ込んで麦粥を流し込んでますよ。お会いになりますか?」
「必要ない」
ヴィルミーナは言下に断った。
ハリウッド映画なら主人公たるヴィルミーナは悪の首魁ルートヴィヒと顔を突き合わせて罵倒染みた問答か議論でもするところだが、ヴィルミーナ自身にその気は一切なかった。
はっきり言って、ヴィルミーナはルートヴィヒに何の関心もない。それどころか、何の価値もない。身の程を弁えなかったアホと顔を突き合わせる行為に意味を見出さない。
むしろ、この出涸らしジジイのおかげで、半年近くの時間を食われた。全く以って迷惑。そう、ヴィルミーナにとって、ルートヴィヒの存在は『迷惑』の一語に尽きる。
「まだ生かしておけ。何かしら使い道があるかもしれない」
冷厳に言い放ち、ヴィルミーナは総領事へ問う。
「クリスティーナ様と接触は?」
「拒否されました。ヴィルミーナ様と直接お会いするまでは何も話すことはないと。ルートヴィヒを捕獲したことも伝えましたが、引き渡しなど要求されませんでした」
それは……不味いな。恨み骨髄の仇も後回して。手ぐすね引いて待っとるやん。うわぁあああ……。
ヴィルミーナは内心で慨嘆した。密やかに深呼吸しつつ、
「ぶっつけ本番という訳ね。了解した。我が国としてはあくまで初期前提に則り、公子カスパーの家督と所領の相続、クリスティーナ様の名誉回復を求める。ただ、不測の事態への備えは解かないで。ドブネズミの残党やこの機に乗じようとするハゲワシの類も油断できない」
駐在武官へ問う。
「任務部隊はまだ動かせる?」
「保安庁の監視は厳しいですので、一層の慎重さを要しますが、可能です。ただ予算の方が少々……」
「それはなんとかする」
お願いします、と武官が一礼する中、ヴィルミーナは一同に問う。
「ドブネズミの残党狩りとハゲワシ共の牽制、後は?」
「帝都宮殿参内と皇帝謁見。それから、各閣僚と懇親会などが控えております。分刻みで予定が組まれておりますので、ご留意ください」
回答した総領事は、ヴィルミーナの顔が仰々しく歪む様を見て、満面の笑みを湛えた。




