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いんたーねっつから掻き集めた情報で恐縮だが、少しばかり歴史の話をさせていただく。
燃料や爆発物を積載した船を敵船舶や港湾に突入させる火船戦術や、衝角を用いた体当たり戦術は紀元前古代からあったらしい。
この火船戦術の極致が、八〇年戦争における特殊火船作戦である。
日本人が火縄銃と槍でわーわーやっていた1585年頃。アントワープを包囲して干殺し作戦を始めたスペイン軍に対し、オランダ軍は火船戦術によって包囲の要衝である船橋拠点の破壊を試みた。
この時、オランダ軍はまず船大工達に舟艇爆弾を建造させた。この舟艇爆弾は70トン級の小型船に煉瓦とモルタルで薬室を作り、その中に3トンもの火薬を詰め込んだ物だった。殺傷効果を強めるため、薬室の屋根に鉄板と墓石を敷き詰めてあったという。
さらには、時計職人にフリントロック式時限起爆装置を作らせた。これが機械式遅延信管の開祖様である。
こうして実行された作戦は、いくつかの齟齬をきたしつつも、舟艇爆弾を狙い通りに船橋拠点へ突入させた。船橋拠点の一画が見事に吹き飛び、約800名の守備兵が即死。その後、破砕した墓石や鉄板の破片が雨霰と降り注いだ。この破片によりスペイン軍の司令官や幕僚が負傷している。
この作戦は世界初の大量破壊兵器運用として戦史に残り、後のアルマダ海戦にも影響を与えたという。
さて、ここで視点を魔導技術文明世界に移そう。
世界が違おうとも魔導術が有ろうとも、人間が考えることに大差はない。この世界でも火船や衝角といった戦術が存在する。地球史よりはるかに早く空へ進出したから、飛空船でも試みられた。
で、失敗した。
ぶっちゃけた話、空で衝角戦術をやろうものなら、相手共々落下してお陀仏。火船戦術を試みたところ、気流は水流や潮流以上に読むことが難しく、飛空船を気流に任せて目標へ突入させることは困難の極致だった。
それでも、しばしば飛空船による火船戦術の挑戦が行われた。
なんせ飛空船なら山上や原野の真ん中にあろうと関係なく攻撃できる。難攻不落の要塞へ爆薬満載の飛空船を突っ込ませて大爆発の一発必殺。フー! 気持ちイーっ! という爽快な妄想に釣られ、飛空船の火船戦術は度々試みられた。
が、ダメ。全然ダメ。
気流を計算した無人誘導や自殺的な有人誘導も行われたが、大半が失敗に終わった。
これは飛空船の持つ脆弱性が問題だった。対空砲や航空戦力の邀撃で気嚢が破壊されたら即墜落だし、船体にキツいのを貰った時点で誘爆必須だからだ。
成功例はあれども、成功率やコスト面から見たら、愚行の一語に尽きた。
というわけで、魔導技術文明世界18世紀半ばを迎えた頃には、『飛空船による火船戦術』はナンセンスな物となった。高価な飛空船と大量の爆薬と物資を濫費するくらいなら、より確実な方法を採る。それがこの時代の軍人達の”常識”だった。
であるから、スノワブージュ爆撃においても爆弾不足ながら、飛空船による火船戦術が採られなかった。あの作戦は兵站策源地への戦略爆撃であり、対空砲火の嵐の中を突っ切りながら爆撃することを想定していた。飛空船の火船戦術などお呼びではなかったのだ。
ただし、ヴィルミーナの側近衆エステルは違った。
軍事的常識に乏しい彼女は、飛空船の火船戦術を否定する理由を知らない。
だから、エステルは提案した。
「ソルニオル公爵の本領屋敷に飛空船を突っ込ませてはどうでしょう? 示威行為として痛打を与えられませんか?」
この提案を聞いた練達の軍人レヴェンヌは、素人の戯言として聞き流そうとした。が、特殊作戦のプロであるレヴェンヌは、この提案を吟味する価値があることに気付く。
戦時における軍事作戦としてなら論外だ。しかし、平時に行えばどうだろう。対空砲火も翼竜騎兵の邀撃もない状態なら撃墜される恐れはまず無い。となれば、破壊工作の手段として極めて有効なのではないか?
一方、神風特攻隊や児玉誉志夫セスナ特攻事件、9・11の航空機テロを知っているヴィルミーナは、エステルの提案に内心で戦慄を覚えた。
エステル、エステルゥッ! そんな方向に才気を発揮したらあかーんっ! この手のことは前例が出来てまうと方々に拡散してまうんやっ! それは不味いてっ! 王都の上空に飛空船が飛び回っとるベルネシアなんか大変なことになるわっ!
ヴィルミーナは慌てて提案を否定しようとしたが、既に手遅れだと悟る。
なんせ、レヴェンヌは悪意的愉悦に満ちた顔をしていたから。
あああああああああ。
ヴィルミーナは冷静に振舞いつつ、内心で慨嘆をこぼした。
〇
モリア=フェデーラ公国から盗み出した小型飛空船は装飾艤装を全て剥ぎ取られ、安物の塗料で真っ黒に塗られていた。船倉内には燃焼剤の樽がぎっちり詰められている。本来は爆薬を詰め込んでおくはずだったのだが、別口で使うことになり、代用に燃焼剤を用いることになっていた。
その燃焼剤は魔晶油が半分。残り半分は獣油や植物油とお寒い。せめて活性剤を混ぜてナパームゼリー化させようという案もあったが、燃料調達で作戦予算を使い切っていた。
まあ、そんなことは問題ではない。
問題はこの小型飛空船が内海用どころか、沿岸遊覧飛行用だったことだ。つまり、チェレストラ海の横断など無謀も良いところ。その挙句に腹の中は可燃物満載とか、もはや無謀を通り越して迂遠な自殺と大差ない。
離陸して以来、小型飛空船はガタガタミシミシと鳴き続けており、やたら華美な割に性能がパッとしない浮揚機関が、先ほどから老婆の悲鳴染みた駆動音を挙げている。
挙句、この真っ黒な小型飛空船は飛空短艇を曳航していた。これはこの小型飛空船を突入させる際に脱出するためだ。おかげで、ただでさえ不安定な飛行がさらに厳しくなっている。
TF135:パサージュ108に配属されていたベルネシア海軍飛空艇乗り達は、まともに真っ直ぐ飛ぶことも出来ない小型飛空船と悪戦苦闘しつつ、この滅茶苦茶な任務に引きずり出した特殊猟兵達に罵倒を飛ばす。
「こんなクソ船引っ張ってきやがってっ! 何考えてんだ、このボンクラ共っ!」
「うるせーっ! 俺達に船の良し悪しなんて分かるわけねーだろっ! 文句言わずに飛ばせっ! 海軍野郎っ!」
強行偵察隊選抜兵――特殊猟兵達が怒号を返す。
ソルニオル公爵家本領屋敷へ飛空船による火船戦術を試みる、とかいう頭のおかしい作戦が本国から届いた時、特殊猟兵達は『レヴェンヌの親父さんはマジでイカレてる』と思った。
そんな作戦に助っ人として引っ張り出された海軍飛空艇乗り達は『特殊猟兵の奴らはビョーキだ』と思っていた。
ともかく作戦に従事している特殊猟兵と海軍飛空艇乗り達は、延々と罵詈雑言を浴びせ合いながら奮戦敢闘。数時間かけて夜のチェレストラ海を横断。街の灯りがぽつぽつと煌めくディビアラント沿岸に到達する。
レーヴレヒトが沿岸の灯りと、星の位置から現在地を確認。間違いなく聖冠連合帝国ソルニオル領の沖合だった。
「奇跡だな。本当にソルニオル領に着いたぞ」
「奇跡なんかじゃねえっ! 俺達のおかげだ、感謝しろボケッ!」
舵を取っていた海軍将校が罵声を飛ばす。
レーヴレヒトは微苦笑しつつ、双眼鏡を手にして様子を窺う。
近頃の抗争が関係してか、街は明かりが多い。おそらく夜間哨戒体制が敷かれているのだろう。港湾部の傍には夜間哨戒艇が泳いでいた。
「事前情報の範疇だ。港湾部を迂回すれば問題ない」
気軽に言いやがって、と海軍将校は内心で毒づいた。
そして――彼らは遂にソルニオル公爵領本領屋敷を捉える。
「デケェ屋敷だ。いや、ありゃ城だな」
船首に立って監視していた特殊猟兵が唸った。
小高い丘の上に建つソルニオル公爵領本領屋敷は、確かに城を思わせる造りをしていた。複数棟の城館が連なり、背の高い防壁が広大な敷地を囲んでいる。
「間もなく突入開始距離ですっ!!」「短艇へ移乗しろっ!! 急げっ!」「気嚢の圧を段階的に抜けっ! 爆薬の信管と浮揚機関の時限装置を起動させろっ!!」
特殊猟兵と海軍飛空艇乗り達が順次、曳航していた飛空短艇へ移乗し、可燃物を満載した小型飛空船から脱出する。
人の手を離れた小型飛空艇はゆっくり高度を下げながら、気流に流されるまま、ソルニオル公爵領本領屋敷へ向かって降下していく。
「上手くいくかな」
短艇の舳先に立ったレーヴレヒトが海軍将校に問う。
「分からん。この辺りの気流を全く知らないんだ。上手くいけば儲けもの程度に考えておいた方が良い」
海軍将校は投げやりに答えた。
飛空短艇がソルニオル公爵領の山岳地帯へ逃れていく中、
「間もなく突入っ!」
双眼鏡を除いていた海軍飛空艇乗りが叫ぶ。
直後、小型飛空艇がソルニオル公爵領本領屋敷に突入。巨大な火球が生じて刹那の間、夜闇を吹き飛ばす、次いで、爆発衝撃波が駆け抜け、轟音が夜の静寂を破る。
豪快な爆発に特殊猟兵と海軍飛空艇乗り達が歓声を上げる中、双眼鏡を覗いていたレーヴレヒトと海軍将校は渋面を浮かべた。
「屋敷を直撃してない。気流を読み違えたか、突入角度がズレたな」
失敗も予想していた海軍将校だったが、苦労しいしいの末が画竜点睛を欠く結果に終わり、不満を禁じ得ない。
「あの炎熱だ。敷地内に落ちただけで十分さ。屋敷も無事ってことは無いだろう」
レーヴレヒトは慰めるように言い、双眼鏡を下げていった。
「花火の鑑賞会はここまでだ。すぐに撤収、脱出する。気を引き締め直せ。ここは敵地の真っ只中だ。捕まったら生きたまま豚の餌にされるぞ」
〇
そんなわけで起きた『ソルニオル公爵屋敷・飛空船突入事件』。
この事件は極めてド派手だったが、その被害は実のところ大きくなかった。確かに飛空船は公爵屋敷に突入して大爆発を起こした。
もっとも、その被害は城館のひと棟を焼損させるに留まり、家人や警備員の幾人かを死傷させただけだった。
しかし、この事件の衝撃効果はとても高かった。
帝国はもちろん、地中海一帯中の新聞に取り上げられた。いや、西方圏に及んだ。そりゃそうだ。娯楽の乏しいこの時代、大身貴族の居城に火船をブチ当てるなんて面白い――失敬、常識外れな事件を人々が放っておくわけがない。
ソルニオル一統の者達は思う。
ソルニオル公爵の自宅に飛空船を突っ込ませるような奴らが、自分達を狙ってきたら? 先の一件みたいに女房子供まで首を切り落とされるのではないか? いや、もっと残忍な目に遭わされるかも。
突入した飛空船に積載されていた燃料の量は、本領屋敷を丸焼きにしてお釣りが出るほどだったという。つまり、ルートヴィヒはおろか屋敷内に居た嫡男一家、家人達などを問答無用に焼き殺そうとしていたことになる。
その認識は些か誤解だった。
飛行船による火船戦術は航空爆弾と同様に命中精度が低い。破壊効果の範囲を強めることで補っているだけだ。が、軍事的に素人のルートヴィヒはただただ殺意の強さに慄くしかなかった。
加えて、焼き殺すという行為がよろしくない。火炙りは死後の復活を許さぬという聖王教伝統派の伝統的教義において、最大の罰だった。
総括して、ソルニオル側はこの飛空船突入をこう判断した。
『お前ら一族一統を皆殺しにする。殺した後も苦しめてやる』というメッセージだ、と。
ソルニオルの倅達に嫁いだ細君達は肝が潰れそうなほど怯え慄き、実家へ助けを求める。
細君達は例外なく政略結婚であり、当主ルートヴィヒ同様に多々人格的問題を抱えた夫に愛情など欠片も無い。それでも、腹を痛めた我が子達を守りたかった。どれほど愚かでも、子は子だから。このままではソルニオルの血縁者という理由だけで殺されかねない。
助けを求められた細君達の実家としても、ソルニオルからの利益供与よりソルニオルとの関係による損失が上回るならば、縁切りは妥当な判断だった。ソルニオルなんぞと共倒れしたくない。娘と孫達も救えるなら、救いたい。
家人達も御家大事ではあるが、それ以上に我が身大事であった。
ただ、家人達の中には、ソルニオル一統として後ろ暗い部分にかなり関わっている者達も少なくない。当然、恨みを買っている。逃げたとしても長生きは出来まい。ならば――
こうして家人達は逃げる者、開き直って最後までお家に付き合うと決めた者、独自の伝手で当局や“海賊海岸”などに接触――裏切る者が出始めた。
沈むと分かった船に残る者はいない。
ルートヴィヒもこうした家中の動揺を把握していた。が、押さえられなかった。ルートヴィヒとしても、この一件の衝撃は大きかった。
70年に及ぶ人生の中で危機は幾度もあった。命を狙われて死にかけたこともあった。だが、ここまで暴力的な攻撃を受けたことは一度もない。
敗北。
そんな単語が初めてルートヴィヒの脳裏をよぎった。
〇
ベルネシア国内における粛清はつつがなく進んでおり、断罪裁判も始まっていた。
カレル3世は法治体制への敬意から司法の独立権を尊んでいたが、その点を差し引いても、事の責任に近しい連中に対し、容赦なく王権を持ち出しての制裁を計画していた。怒りの矛先が向いている王家親族を含めた大身貴族達には、処刑すら視野にあった。
一方で、宰相ペターゼンは主君の復讐心を必死に宥めている。貴族達を救うためではない。あくまで法治に則った裁きを重視していたし、王権を振りかざしての処分は王家に恨みが向くと危惧してもいた。
荒れ狂う地中海圏に負けず劣らず、落ち着きを取り戻さない国内事情。
世界は混迷している。が、王妹大公家は平和を享受していた。
小春日和の下、艶やかな黒い毛並みの愛犬ガブが王妹大公家の広い庭を駆けていく。野兎かイタチでも見つけたのだろう。
ヴィルミーナはレーヴレヒトから届いた手紙の封筒を丁寧に開封し、匂いを嗅ぐ。インクの臭いしかしなかった。味気ない……
手紙の中身も無味無臭な差し障りの無いものだった。まあ、検閲されるからやむを得ないことではあるが……『愛を込めて』と末尾の慣用句に目を通し、ヴィルミーナは鼻息をつく。
後世に残ったら苦笑いを誘うようなラブラブの文面を寄こせっちゅうねん。
無粋な感想を覚えつつも、ヴィルミーナは丁寧に手紙を封筒に収めた。
と、御付き侍女メリーナがおやつを持ってくる。
今日は菓子類ではなく、小腹に溜まる茹でブルストとピクルス。マスタードペーストは御好みでどうぞ。
ヴィルミーナはマッキーの油性ペンみたいなサイズのブルストへ手づかみで齧りつく。
「はしたないですよ、御嬢様」
メリーナの苦言を浴びたが、ヴィルミーナは気にせず、ブルストを堪能する。
「美味しい」
ぷりっとした歯ごたえと溢れる肉汁。みっちり詰まった挽肉の旨味。ピリッと辛いマスタードペーストを塗って食べれば、大変ご機嫌の味わいに。ピクルスのさわやかな酸味とポリッとした小気味よい触感が口腔内の余韻をすっきりさせてくれる。
匂いを嗅ぎつけたガブが疾風の如く駆け戻ってきて、『ちょうだいちょうだいっ!』と尻尾を振り振り。
犬にとってブルストは少々塩分過多だが、既に一メートル越えクラスの図体になっているガブに一般愛玩犬の基準で計っても仕方あるまい。
「一本だけよ」ヴィルミーナはそう告げてブルストをガブに放る。
ガブは宙を舞うブルストを容易く空中でキャッチ。嬉々として平らげていく。
美味そうにブルストを食べる愛犬の様子に和むヴィルミーナへ、今度は母屋から家人が駆けこんできた。
「た、たった今、連絡が入りました」
家人が息を切らしながら言った。全力疾走してきたらしい。
「ヴィルミーナ様の兄君が命を落とされたと」
凶報を聞かされたヴィルミーナは、純粋な困惑顔を浮かべた。
「兄? はて。私に兄なんていたかしら」
メリーナは嘆息気味に言った。
「御嬢様の亡き御尊父様は御愛妾様方の間に異母兄姉を御作りになられました」
「……ああ。“そんなの”も居たわね」
いつぞやに聞いたな。たしかあれは、クレテア戦時国債を狙った仕手戦の時だったか。クライフ翁に教えて貰うたっけ(8:1参照)。
ヴィルミーナにとっては異母に当たる父親の愛人11人と異母兄姉8人のうち、生き残りは異母4名(うち2名は獄中)、兄姉が3人(うち1名は終身修道院幽閉)。
で、命を落としたのは、コルヴォラント某国で雇われ船長をやっていた兄だとか。顔どころか名前すら知らん。血のつながりはあれど、悲しみなんて一滴も湧いてこない。
「地中海の混乱に巻き込まれたのかしら?」
「は。確認した限りでは、どうも兄君は密輸船の船長を務められていたようで、此度の事変により海賊海岸の襲撃を受けたと」
家人の報告に、なんとまあ、とヴィルミーナは髪の毛先を摘まんでぼやく。
「真っ当な商売をしていなかったわけね」
「ちなみに」メリーナが言った「在野の姉君の方は反ソルニオル系コルヴォラント貴族の愛人をされていらっしゃいます。異母様と揃って」
母娘丼ゆう奴か。よぉやるわ。
「御母様はなんと?」
「関知せぬ、とのことです」家人は困り顔で告げた。
冷淡なようだが、ユーフェリアにしてみれば、愛人の子供なんて赤の他人である。ましてや、好意の欠片も抱いていなかった存在であるから、死んだと聞いても感慨なんてない。完全に他人事だった。
しかし、ヴィルミーナは片親だけながらも血縁がある。顔も名前も知らない兄なんて知らん、と放置するのも体裁が悪い。かといって、あまり深く関わると、他の異母兄姉とベルモンテ公王家が鬱陶しい反応をするかもしれない。
いや待て。本当に密輸絡みで消されたのか?
猜疑心が疼き、ヴィルミーナは家人に告げる。
「その御兄様が亡くなった状況と背後を調べられるだけ調べて。私との血縁を理由に殺されたのと、偶然殺されたのでは、話が全く違ってくる」
「かしこまりました」
家人が速やかに去っていく。メリーナが問うた。
「調査の末、どう対応されるおつもりです?」
「私との血縁が理由なら、敵はベルネシアと私の関与を知っていることになる。これは看過しえぬ大問題だ。無関係に命を落としたなら、“些事”だ。放置する」
ブルストのお代わりをおねだりするガブを撫でながら、ヴィルミーナはメリーナへ言った。
「地中海情勢は複雑怪奇ね」
「グダグダなだけでは?」
メリーナの指摘は真理を突いていた。
御意見募集に御協力いただきありがとうございました。
活動報告にて、大雑把な集計結果を記載しております。お時間があったらご確認ください。
御協力、ありがとうございました。




