14:0:笑えぬ喜劇を演じる22歳の年。
お待たせしました。
大陸共通暦1769年:年末
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『粛清』とは何か。
実存的意味を語るなら、体制または権力による抵抗勢力の物理的排除、障害的存在の駆逐といったところだろう。独裁国家やアカ共が好む政治的暴力と思われがちだが、しばしば民主主義国家や民間企業内でも発生する。
近代に限って言えば、やはりフランス革命の虐殺的粛清が有名だろう。侮辱的表現を用いるなら、頭の弱いアホ共が権力を持つとろくなことにならない好例だ。
我が国で言えば、秀次事件が挙がるだろうか。老耄に狂った独裁者がどれほど無分別で恐ろしいかを示す一例である。安政の大獄も体制保持を目的とした弾圧として典型的だ。
民主主義国家でも粛清は行われる。
50年代に西側諸国で吹き荒れた赤狩りはまさに思想弾圧だった。憲法で言論や思想の自由が保障されているはずなのに。まあ『アカは別』と言いたい気持ちは分かるが。
民間企業内でも、しばしば派閥抗争の決着として粛清人事が行われる。それで、前世ヴィルミーナは地獄の海外行脚に放り込まれた。
しかしながら、こうした粛清は常に決定的な禍根を生みだす。
秀次事件で身内を失った連中は豊臣潰しの大きな力となった。安政の大獄で指揮を執った井伊直弼は暗殺され、またこの弾圧を機に国内情勢の不安定化が進み、田舎軍閥による倒幕活動の遠因となった。
赤狩りにしても、その反動は大きい。アメリカではリベラルが反政府姿勢を強めていき、ベトナム戦争でピークを迎えた。この時、リベラルの報復的な反戦活動は明らかに節度を失ったものであり、戦死者遺族や戦傷者への過剰な侮辱行為はアメリカに深い傷を残している。
さて、ここで話を魔導技術文明世界のベルネシア王国へ移す。
クリスティーナ王女の婚姻を起点とする王国外務省の帝国皇族ソルニオル公爵に対する従属犯的背信行為は、国王カレル3世の激甚な怒りを生んだ。
粛清はもはや避けられない。
その粛清の青写真を描く宰相ペターゼンだが、彼はその手のバカ共とは違う。夜明け間際に対象者の家に踏み込んで拉致し、目玉が飛び出すほど拷問するような真似をしない。
防諜的手法――秘密裏の内偵。20年余に遡っての資料や記録の精査。隠密での事情聴取。こうした地味で物語にし難い手段で着実に粛清対象者を絞り込んでいく。
帝国から提供された『リスト』を基に裏取り捜査をしつつ、蟻一匹逃さぬ実施計画を練り、誰にも知られぬまま首狩り人達の手配まで完遂した。
その圧倒的な組織統率と冷酷なまでの業務遂行能力は、金髪の野獣ハイドリヒもかくやというほどだった(人格その他は別として、ハイドリヒはずば抜けて優秀な官僚である)。
もちろん、これほど大掛かりな政治行動を秘密裏に進めるためには相応の人員が必要で、それらの人員が機密を保持することに成功したことも大きい(一人でも口が軽い奴やマヌケが居れば、機密作戦は実施できない)。
末端に至るまでの人材の豊かさこそ、ベルネシアという国の本当の強みかもしれない。
そして、その有能さと優秀さは同胞に牙を剥く時でも変わらない。
〇
視点を狩る者から狩られる者達へ移そう。
実のところ、粛清対象者達はとっくに自分達の”状況”を理解していた。
帝国からクリスティーナ王女の子供達が訪問するという情報を得た時点で、王国外務省とソルニオルの関係性と事情が暴露されることを察していたからだ
だからといって具体的にどうこう出来るわけでもない。
間違ってもカール大公達一行の口封じなど出来ようはずもないし、かといって、職務を放りだして逃げ出そうものなら、非があることを認めるに等しい。
だいたいどこへ逃げるというのか。クレテアか? アルグシアか? どちらも嬉々として逃亡した連中を捕らえ、情報を搾り取った後、ベルネシアに恩を売る形で引き渡すだろう。王族を裏切るような奴が王制社会で見逃されるわけがない。
外洋領土のド辺境に逃げるのは、流刑に遭うのと変わらない。
では、どうする。
荒事も逃亡も出来ない彼らは――これまで通りの日常を過ごしている。
巨大な不安と猛烈なストレスを抱えながら、ギャンブル中毒者が大当たりを祈りながら次の勝負へ挑むように、『もしかしたら自分は見逃されるかも』という期待と希望に縋り、日々をただ生き続ける。
ありえない。と思う方も居るかもしれない。
しかし、残忍な白ンボ共に居留地へ押し込まれたアメリカ先住民も、ナチが弾圧を始めた時のユダヤ人も、クメール・ルージュがプノンペンに到達した時のカンボジア人も、銃口に晒される瞬間までは漠然と信じていたのだ。
『これ以上悪くなることはない』と。
もっと世俗な例を挙げるなら、イジメられると分かっていても、登校するしかない学生みたいな境地だろうか。退職できない社畜のような心境にも近いかもしれない。
ともかく、粛清対象者達は不安と共に日常を過ごしている。
ある者は諦念達観を抱きながら残された時間を大事に過ごしていた。ある者は自暴自棄気味に酒や女へ逃避している。
ある者は自己弁護のための用意を始め、ある者はいざという時の逃走の準備に余念がない。
ある者は自分だけはきっと大丈夫と無責任に開き直り、ある者は自身の関与を隠蔽、揉み消しを図っている。
そして、少なくとも粛清が実施されるまで、自殺に走る者は居なかった。国際会議が終わり、代表団が帰国する段になっても、不安に押し潰されて命を絶つ奴はいなかった。
些か障りのあるたとえを出そう。
我が国の敗戦時、阿南や大西など一部の軍指導層が自決した。暢気な連中は見事な責任の取り方と褒めたが、連合国にしてみれば、“敗戦処理”で責任を取る勇気も意気地もない腰抜けが地獄へ逃げたにすぎない(小沢中将がその点を指摘し、自死を禁じている)。
ベルネシアも『当事者が自殺したならその罪を大目に見よう』などという“甘さ”はない。かつて、アリシアが王宮で“やらかし”、その元凶と見做された給仕係は墓にすら入れなかった。あの世へ逃げても、これまでの名誉を徹底的に剥奪し、遺族に割を食わせるだけだ。
逆に言えば、そこまでやるからこそ、誰もが王と国を畏れる。
だから、追い詰められていても自殺者はまだ出ない。冥界へ逃げる者はいない。
狩られる者達は刻一刻と近づいている最後の日を待つことしかできない。
皮肉にも、それは死刑囚と同じような精神的処罰に等しかった。
〇
年末の昼下がり。
王妹大公屋敷の表では冬景色が描かれており、鈍色の空から綿毛みたいな雪がぽつぽつと降り注いでいる。
ヴィルミーナは自室で帝国から渡された資料に目を通しつつ、前世で覚えていた曲を鼻歌にしていた。
地獄の海外行脚・中南米編はろくでもなかったが、いくつか好ましいものもあった。
たとえば、歌手パキタ・デ・ラ・バリオの『Rata de dos patas』は大いに気に入ったものだ。帝国が寄こした資料を読んでいたら思い出し、先ほどから口ずさんでいる。
傍でヴィルミーナの鼻歌を聞きながら、ガブのブラッシングをしていたレーヴレヒトが好奇心から尋ねる。
「聞いたことが無い曲調だな。なんて曲?」
「二本足のドブネズミよ」
「……んん?」
「二本足のドブネズミよ」
目を点にしたレーヴレヒトへ、ヴィルミーナは念を押すように繰り返す。
『Rata de dos patas』とは日本語で『二本足のドブネズミ』を意味する。マリアッチ的な穏やかで麗しいメロディに反し、歌詞は女性がダメ男を強烈に罵倒し続ける曲だ(メキシコではDVが社会問題となっている。この歌はそうした背景から生まれたらしい)。
ちなみに、ヴィルミーナは前世でこの曲を知った時、携帯電話に登録した某関係者達の着信曲に設定した(部下達はヴィルミーナからの着信を『帝国のマーチ』に設定していた模様)。
「これを読んでたら、つい歌いたくなっちゃった」
ヴィルミーナは不快そうに眉根を寄せ、手にした資料を突く。
「ソルニオルの資料?」
「そ。久々に心から嫌な気分にさせてくれたわ」
レーヴレヒトの指摘に首肯し、ヴィルミーナは資料をテーブルに置いた。
※ ※ ※
いよいよソルニオル公爵家について話そうと思う。
まずは、件のソルニオル公爵領から触れていこう。
大陸西方と南方の狭間にある大型内海の地中海。その地中海の内海に当たる海域がチェレストラ海だ。
大陸西方コルヴォラントの北部半島地域とディビアラントの沿岸地域に囲まれたチェレストラ海は、地中海性気候も手伝って温暖で穏やかな海だった。ダルマチア式海岸に似た地勢を成すディビアラント側沿岸地域には、風光明媚な自然と歴史的沿岸都市が並ぶ。
聖冠連合帝国ソルニオル領はそうした美しい土地にある。
前面に広がる麗しい海と後背に連なる勇壮な山岳。オレンジ色の煉瓦屋根で統一された沿岸城塞都市は、歴史を古代まで遡ることができる。
その美麗な風景と違い、ソルニオル領は悪徳と欲望に満ちている。
真っ当な正業も盛んだったが、裏事業はそれ以上だった。人身売買を含めた密貿易、規制品や盗品を含めた表裏の市場、反倫理的風俗産業、お決まりの非合法賭博に地中海一体を縄張りとする海賊事業。
各種犯罪的事業が展開されているにもかかわらず、街も領内も治安は良好だった。
ソルニオル公爵家の支配統治がきっちり行き届いている証拠だ。
その絶対君主たるソルニオル公爵家現当主ルートヴィヒ・フォン・シューレスヴェルヒ=ソルニオルは、齢70に届く老紳士だ。都会的で洗練されており、一見して『帝国最悪のドブネズミ』と唾棄される男には見えない。
どちらかと言えば、帝国宰相サージェスドルフの方がよほど悪役に見える。
しかし、彼の下を訪ねる者達や彼に接する家人達の目に潜む怯えや恐れは、さながら大飛竜を眼前にしたようだった。家族や親族でさえもルートヴィヒを畏れている。
いや、この怪物は帝国中で、あるいは、地中海一帯で畏怖と軽蔑の対象だった。帝国の頂点たる皇帝その人ですら、この男を軽視できない。
実際問題として、この老紳士は怪物だった。
そのキャリアをざっと御紹介しよう。
ソルニオル家は代々ロクデナシが多かったが、ルートヴィヒはまさに段違いの桁違い。
そもそもルートヴィヒは先代公爵の三男坊で嫡男ではなかった。が、当主の座を狙い、長兄を廃嫡に追い込み、次兄を事故死させ、自身を粛正しようとした先々代当主の祖父を“病死”させ、ついには父親まで引退させた。もちろん長兄と父親も権力から排除された後、早々に不審死を遂げている。
血がつながる親兄弟まで容赦なく叩き潰すところは、南米の凶悪な麻薬商共より酷い。なんだかんだで中南米の麻薬商達は家族を大事にする(家族しか信用できないのもあるが)。
一方で、ルートヴィヒは事業家として実に有能であった。
一族郎党を完全に掌握し、これまで以上にソルニオル公爵家を組織として発展させ、その縄張りを大きく拡大し、領に繁栄をもたらした。
政略謀略の類でもその才気を煥発させ、領内外の政敵や商売敵を取り込んだり排除したり、表裏の利権を完全に管理統括していた。頭のてっぺんまで汚濁に浸かりながらも、帝国皇族として要路や中央、果ては帝室にまで強い影響力を持った。
が、そのあまりに法を軽んじた姿勢によって帝国司直の憎悪を買い、その冷酷非情さと悪逆非道さが多くの敵を作ってしまった。サージェスドルフという帝国権力のトップまで敵に回してしまっている。また、彼本人の醜聞と悪評による悪影響も大きい。
もちろん、法と権力と悪党共を向こうに回し、何年も暗闘を繰り広げながら、こうして今も自由に生きているという時点で、この男がどれほど優秀で有能か分かろう。
ただ、卓越した才能と頭脳を持ち、どれだけ権勢を誇ろうとも、サージェスドルフのように国家要職に就いて、合法的な大権力者になりえなかった点は無視できない。
つまるところは、どんな人間にも限界と弱点は存在する、ということだ。
そして、老いは人間の限界と弱点をより強めてしまう。
魔導技術文明世界のこの時代、現代地球のようなアンチエイジング技術も長寿健康法もなく、長寿に重要な内科医療技術が未成熟。老いがもたらす影響は大きい。
あるいは……だからこそ、悪漢ルートヴィヒをして帝国宰相サージェスドルフの奸計を許してしまったといえよう。
オーバー=シューレスヴェルヒ家のカール大公と後妻の娘エルフリーデの結婚を認めざるを得ず、後妻クリティーナと末息子カスパーを手元から奪われてしまった。
挙句はエルフリーデとカスパーのベルネシア行きを止められなかった。つまり、ルートヴィヒもその息子達もサージェスドルフの謀略を防げなかった。
これらの事実は重い。致命的な失敗と言えよう。
※ ※ ※
それでも、ヴィルミーナはこのルートヴィヒ・フォン・シューレスヴェルヒ=ソルニオルという男を全く軽視しなかった。
あの帝国のデブと長年に渡って暗闘を繰り広げ、猶も権勢を保ち、生き延びている。この事実は瞠目に値する。油断など出来ない。仮に老耄を迎えているなら、一層危険だ。晩年の豊臣秀吉や雷帝イワンなど祟り神の如しだった。
「おそらくは我々の報復も予期してる。切羽詰まったドブネズミは何をするか分からないわ」
ヴィルミーナは真顔で告げた。
懸念は他にもある。この手の人間はトチ狂うと何をしでかすか分からない。
パブロ・エスコバルは一麻薬商“如き”でありながら、旅客機を爆破するわ、最高裁判所を焼くわ、警察や軍を襲撃するわ、連続爆弾テロを実施させるわ、とやりたい放題に暴れた。
人民寺院のガイアナ・ジョーンズもオウム真理教の麻原彰晃も、追い詰められるまでは信者の金で豪遊し、女性信者のハーレムをこさえる小悪党だったが、司直に追い詰められた途端、凶悪犯罪と無差別テロに走った。
小悪党共でもここまでやるのだ。権力者がなりふり構わなくなったら、何が起きるか分からない。
まして、このルートヴィヒの人間性は最悪の一語に尽きた。それこそ『二本足のドブネズミ』と罵倒したくなるほどに。
このドブネズミの凶悪さが最も浮き彫りになるところ、それは女だった。
ヴィルミーナは資料を読んでいて、理解した。
――こいつ、女性憎悪主義者や。
ルートヴィヒは若い頃から女性関係でトラブルを起こしていた。
露骨に言えば、変態的な嗜好で女性を乱暴に犯し、凌辱することを好む。幾人もの侍女を手籠めにし、領内の平民の娘を強姦している。中には精神を病んだ者や自殺した者までいて、その身内が復讐を試みたことが幾度か起きていた(その全てを返り討ちにしたようだ)。
こうした女性面のトラブルによって、一時は父によって男子修道院へ押し込められたこともある(その処置から復活して当主になったという事実が、この男の怪物振りを証明している)。
この危険な性癖は政敵を通じて帝国中に知れ渡っており、皇族でありながら嫁が中々見つからなかったという逸話がある。
このためか、ルートヴィヒが正式に妻を娶ったのは、30前後の頃で、この時代では異例の晩婚だった。
最初の妻はコルヴォラントの名家御令嬢。
彼女はルートヴィヒに凌辱されながらも、三人の子を産んだが(産まされた、というべきか)、三人目を出産後、産褥熱で死亡した。
それから二十年ほどした後、ベルネシア王家から王女を後妻に迎えた。
クリスティーナである。
ルートヴィヒは相手が王女でも躊躇なく、その変態趣味をぶちまけた。
が、カスパーの語った内容と事実は多少違いがあるようだった。クリスティーナがルートヴィヒの直接的な凌辱ではなく、その息子達に嬲られたのは、“厭きた”からではなかった。
真実は、ルートヴィヒがかつて手籠めにした女の身内に毒を盛られ、以降、性的不能者になったためだ。
この事実にヴィルミーナはちょっとした納得を覚えた。
なるほど。インポの事実を隠すために“厭きた”ことにしたんか。まあ、カスパー達の立ち位置からしたら知る由も無いか。
男性原理の強い時代だ。不能になったという点は結構なスキャンダルだろう。だからか、とヴィルミーナはカスパーの話に別ベクトルの合点がいく。
自身が性的不能になったことで、息子達に“代替”させたわけだ。
誤解されがちだが、性的不能になっても男性的性欲が失われるわけではない。減衰することがあるだけだ。人によっては、肉体的に満たせなくなったことでより性衝動が強くなる。
ヴィルミーナは『この欲求不満も“隙”になった』と推察する。
欲求不満はバカに出来ない。まして性欲は人間の根幹を刺激する三大欲求の1つだから、満たせない時の問題は大きい。暴力犯罪の少なくない犯行動機に性欲が絡むし、近年のテロやスプリーキラーの根本的な動機には自己承認欲求の不満が目立つ。
先の戦争でヴィルミーナが生き延びられたのも、クレテア兵達が性欲に負けて判断を誤ったからだ。
年齢による衰え。欲求不満から生じる失調。それが、このドブネズミの弱点だ。
同時に、危険性でもある。
自制心を失くした権力者はモンスターそのものだから。
「このドブネズミを狩るのは一苦労だな」
ヴィルミーナが顎先を撫でながら呟くと、
「だから俺も派遣されるんだろう?」
レーヴレヒトはガブを優しくブラッシングしつつ、言った。
ソルニオル公爵家に対する首狩り人達は既に用意が完結していた。機動打撃戦闘団の強行偵察隊、その中でも最も腕が立つ元特殊猟兵達からなる選抜小隊が先行して送り込まれる予定。
レーヴレヒトも例外ではない。ユーフェリアが婿を派遣されることに難色を示していたが、今度ばかりは仕方ない。
ヴィルミーナは大きく眉を下げてぼやく。
「また式を挙げる日が先に延びるわね」
「この派遣が終わったら、式を挙げよう」
レーヴレヒトはブラッシングを終えると、ガブが腰を上げてお礼をするようにレーヴレヒトへ頭を擦りつけた。
「死亡フラグっぽいこと言うのやめて」とヴィルミーナが嫌そうに渋面を作る。
「? なんのこと?」
ガブの頭を撫でつつ、レーヴレヒトが不可解な慣用表現に小首を傾げていると、ドアがノックされた。
ヴィルミーナが『どうぞ』と返すと、ドアが開き、御付き侍女メリーナが顔を見せた。
「緊急連絡がありました」
メリーナは淡白に告げる。
「カロルレンがヴァンデリック侯国へ侵攻しました」
始まったか。
ヴィルミーナは小さく鼻息をついた。
レーヴレヒトはさしたる関心も見せずにガブと戯れ、ガブは無邪気にレーヴレヒトにじゃれついている。
〇
歴史家達はこの戦争を『近代を前期と後期に分ける楔』と評する。
東メーヴラント戦争の始まりによって近代前期が終わり、その終結を以って近代後期の始まりと見做している。
つまり、この戦争は”そういう面”がとても強いということだ。
そして、この時代の現状、この事実に気付いている者は誰もいない。
活動報告にて、ちょっとした意見募集をしております。
お時間があれば、ご一読ください。




