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大陸共通暦1769年:晩秋。
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小国サンローラン共和国の晩秋は美しい。
木々の枝葉は紅色や黄色に染まり、閑散とした農耕地域に秋草の絨毯が広がっている。木と煉瓦の古風な家屋が連なる朴訥とした街並みや、中世時代と変わらぬ不揃いな石畳の道路などが、大陸西方人の郷愁感を刺激する。
さて、この小国サンローラン共和国は、今、大いなる緊張に包まれていた。
聖冠連合帝国、大クレテア王国、アルグシア連邦、ベルネシア王国の四ヵ国のトップが揃って入国してくるのだから、そりゃ緊張するなという方が難しい。
「あああ、なんで俺が議長の時にこんな大ごとが……」
現サンローラン共和国の国家元首である評議会議長ジョルジュ・フランチェス・ド・ルクレールは頭を抱えて嘆く。御年32歳。3児の父であり、ルクレール家の当主である。
貴族6家による共和制を執るサンローラン共和国では、国家元首の座を持ち回りで担当していた。議会での決定を承認する以外権限を持っていない名誉職だから、それで良かった。
この国際会議が開催されることになるまでは。
ルクレールは聖冠連合帝国の強烈かつ強力な”要望”で国際会議の開催国にされた挙句、開催国として国際会議議長をやらされることになった。
言うまでもなく凄まじい責任の重圧に晒される。
他の5家当主達は安堵顔を浮かべながら『あはは。まあ、がんばってねぇ』『大丈夫っ! ジョルジュなら出来るよっ!』『あー、私の時じゃなくて良かったぁ』『プークスクスッ!』『ねえどんな気持ち? ねえどんな気持ち?』。
ルクレール議長、一言いただけますか?
『皆まとめて地獄に落ちやがれ』
〇
サンローラン共和国へ一番乗りしたのは、今回の会議提唱国である聖冠連合帝国の代表団だった。
皇太子夫妻と宰相サージェスドルフを筆頭に帝国要人が揃っている。彼らは帝国の最精鋭有翼重装騎兵100騎と近衛兵一個中隊を伴う瀟洒な馬車列を組んで入国。
饗応役の家は『ひぃい、お馬様多過ぎぃ!』と糧秣の手当てに嘆いた。フサリアの大型軍馬は普通のお馬さんよりもたくさん、とてもたくさん食べる模様。
続いてやってきたのは、大クレテア王国の代表団だ。こちらもやはり近衛兵部隊を伴っての大車列で入国してきた。もっとも、軍より侍従と侍女の数が多かったが。
若き国王アンリ16世と王妃マリー・ヨハンナ、赤ちゃんのテレーズ王女と愛人のタイレル男爵夫人も一緒だ。なお、宰相のハゲ(マリュー)はお留守番。
海外旅行気分らしいクレテア国王夫妻は連日、あっちこっち観光して回るため、饗応役の家は警備や接待に疲れ、赤ちゃん王女の健康管理に神経を尖らせる羽目に。
三番手はベルネシア王国の代表団だった。
こちらは飛空船で御登場。美麗な王家御用達の青い飛空船を中心に、グリルディⅣ型戦闘飛空艇が三隻も護衛についている。飛空船から降り立ったのは、国王カレル3世と王妃エリザベス。その背後に続く”国王勅任特別補佐官”ヴィルミーナ。
饗応役の家は飛空船の駐機場をこさえるためにそれなりの農耕地を潰す羽目になり、涙目だった。
なお、ベルネシア代表団には、本国へ帰国予定のカール大公一行も同道している。
最後にアルグシア連邦の代表団がやってきた。連邦代表はアウグスト2世連邦議会議長だった。
アルグシア連邦は言うなれば、いくつかの王国を幹として小国が枝葉のように寄り集まっている。そうした諸国の代表者からなる連邦議会が国家運営機構であり、代表者選挙の下、連邦議長が選出される。そういう意味では、ポーランド王国選挙王制に近いかもしれない。あるいは、大陸型合藩体制とも。
ちなみに、代表団にはかつてヴィルミーナと誼を通じたシュタードラー子爵やリュッヒ伯爵も居た。
アルグシアの饗応役は非常に困惑した。なんせ、どいつもこいつもやたら機嫌が悪い。クレテア国王夫妻のように遊び歩かれても困るが、不機嫌な集団の機嫌取りも疲れる。
会議の主要参加国以外は相応の慎ましさでやってきた。
イストリア代表団とヴァンデリック侯国は数台の馬車で来訪し、各国の代表団へ積極的に挨拶回りをしている。彼らは国際会議の行方も気になっていたが、この機会に外交チャンネルの開設に熱心だった。ある意味で、彼らもまた大いに饗応役を振り回した。
ルクレール議長。苦労されている五家の皆様に一言いただけますか?
『ざまぁああああああみろぉおおおおおっ!!』
〇
さて、国際会議は一月に渡って実施される。
長期に渡って行われるのは事前調整期間が短かったことと、本国との連絡調整に時間が掛かるからだ。それに、議題の中心はカロルレン王国分割征服による東メーヴラントの再編だったが、他にも領土問題や通商条約の改定など各国間の議題も多いためだった。
まあ、諸議題が一気呵成に解決することなどありえない。大事なのは、この会議によって各国がある程度の意思疎通を図ることにある。
会議開催前の晩餐会はサンローラン共和国が泣きを入れるほどに豪奢だった。
共和国大議場の多目的ホールを使った会場に各国のお歴々が勢揃いし……皇太子レオポルドと国王アンリ16世と国王カレル3世と連邦議長アウグスト2世が顔を並べる。
互いの顔を見合わせた瞬間、『どいつもこいつも底意地悪そうな面をしてやがる』という感想を抱くが、もちろん表には出さない。
各代表の御細君方も顔を合わせ、互いに『いけ好かない女ね』という感想を覚えるが、もちろん表には出さない。
営業用の微笑、あるいは非礼にならない程度の無表情を維持する各国代表達。
早くも嵐の到来を予感させる中、イストリア特使が暢気に言った。
「実は我が国で開発した新型の写影器がありましてね。こいつは撮影時間を数十秒まで短縮した優れモノなんです。良ければ、皆さんで記念写真を撮りませんか? 記念すべき国際会議の記録です。皆さんの姿が後世の歴史書に載りますよ」
この場にいる連中は誰もが歴史に名が残ることが確定している面々だったが、後世の歴史書に載ると言われて断る奴はいなかった。
が、奥方達が猛烈に反発した。
『今日は準備が出来てない』『歴史書に残るならもっと奇麗なドレスを着たい』『お気に入りの宝石を付けてない』『今日は髪型が気に入らないから嫌』
というわけで、撮影会は3日後に延期された。
そんなお偉いさん達を余所に、ヴィルミーナはアルグシアの代表団と接していた。
「これはシュタードラー子爵にリュッヒ伯爵。お久しぶりです。御二方とも御健勝で何より」
「貴女はますます美しくなられたようですね」
「御婚約されたと伺っております。数周遅れですが、おめでとうございます」
俳優サム・ワーシントンに似た美中年シュタードラー子爵とふくよかなリュッヒ伯爵が如才ない挨拶を返す。
いくつか近況報告のような他愛会話を重ねた後、
「此度の国際会議に向けて、事前に御挨拶すべきかと思っていたのですけれど、なかなか」
ヴィルミーナが微笑みを湛えて告げた。
意訳:事前協議の話を一切持ってこなかったけど、何考えてんの?
「こちらこそ。この国際会議は寝耳に水でしてね。いや、てんやわんやでして」
シュタードラー子爵がにこやかに答えた。
意訳:事前協議どころじゃなかったんだよ、察しろ。
「我々としては今回の会議で貴国との関係改善が大きく進むことを期待しております。レーヌス大河の件も含めて実りある話し合いがしたいですな」
リュッヒ伯爵も和やかな面持ちを浮かべた。
意訳:そっちとは上手くやりたいからよろしくね。
似たような会話があちこちで繰り広げられていた。和やかな雰囲気の中に権謀術数の臭いがはっきりと香る。笑顔の裏、瞳の奥に隠された悪意と敵意と欲望が漂っていた。
どいつもこいつも狐か狸か貉というわけだ。まったく楽しそうな宴会である。
そして――
ヴィルミーナは完璧なカーテシーと共に挨拶する。
「初めまして、帝国宰相閣下。ベルネシア王妹大公ユーフェリア嫡女ヴィルミーナと申します。此度は国王陛下の勅任特別補佐官として会議に参加させていただいております。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「ご丁寧な挨拶いたみいります。聖冠連合帝国にて宰相職に任じられているサージェスドルフです」
セイウチみたいな肥満体オヤジに挨拶したヴィルミーナは、直感的に理解する。
このデブ、相当に手強い。
「噂に聞くベルネシアの賢姫とお近づきになれて光栄ですな」
ぐふふとセイウチのように笑うサージェスドルフ。その双眸ははっきりとヴィルミーナを評価査定していた。
「こちらこそ。閣下にはじっくりお話を伺いたいと思っていましたから」
ヴィルミーナは“メッセージ”を送る。
「これは嬉しいお言葉を。麗しい美女にそう言われては浮かれてしまいますな」
サージェスドルフはぐふふとセイウチのように笑い、大きく頷いた。
「会議開催期間は長い。そういう機会もあるでしょう。楽しみにしていますよ」
“回答”を受け取り、ヴィルミーナは再び大きく一礼した。
まずは会議で主題を話し合ってから、か。余裕かましよってからに。吠え面かかしたるから楽しみにしとけ。
そこへ、
「あら。サージェスドルフ閣下。よもや浮気ですか?」
うぉっ!? クレテア王妃様やっ! うっわぁ近くで見ると一層可愛ぇえっ!!
美女美少女に見慣れたヴィルミーナが思わず狼狽えるほどの美貌。クレテア王妃マリー・ヨハンナのエントリーだ。
「その冗談は大変私好みですが、ベルネシア王妹大公令嬢ヴィルミーナ様には非礼に当たりますぞ」
ぐふふと笑いつつも、最上級の敬意をもって応じるサージェスドルフ。
その在り様にヴィルミーナは一瞬、驚く。この全てを嘲り笑うような不遜さを湛えるデブに、帝国と帝室への信仰に似た忠誠と敬愛がはっきりと見えたからだ。
「たしかに。閣下の浮気相手とされては非礼ですね。大変失礼しました、ヴィルミーナ様」
宰相に毒舌を返しつつ、マリー・ヨハンナはヴィルミーナに微笑みかける。
ヴィルミーナは最大級の礼節を込めてカーテシーを行う。
「ベルネシア王妹大公ユーフェリア嫡女ヴィルミーナと申します。マリー・ヨハンナ王妃陛下の御心配り、まことにありがたく」
「あらあら。とても礼儀正しい方なのね。我がクレテア経済の背骨をへし折り、クレテアの金穀を貪り食らう魔女と聞いていたから、どんな業突く張りの無礼者かと楽しみにしていたのだけれど」
さらりとヴィルミーナへきつい毒舌を返すマリー・ヨハンナ。
周りの者達が顔を引きつらせ、サージェスドルフも一瞬、笑みを固まらせた。
美少女から良いパンチを貰った当のヴィルミーナはにっこりと微笑む。
「王妃陛下からそのようなお言葉を賜わり、あの戦にて贖った我が国の血と金穀が報われました」
このような場で敵国の王妃から負け犬の遠吠えを聞けたのだ。これほど愉快なことは無い。
諧謔を込めた嫌味を返され、マリー・ヨハンナは目を瞬かせた後、とても楽しそうに表情を綻ばせた。
「気に入ったわ、ヴィルミーナ様。私達は仲良くできそうね」
「光栄の極みです、王妃陛下」
麗しい乙女二人が何事もなかったように笑みを交わす様に、周囲が密やかに安堵の息をこぼす。
もっとも――
マリー・ヨハンナはヴィルミーナを『気に入らない女』と断じ、『ヘコませたらどんな顔するかしら』と思っていた。
ヴィルミーナはマリー・ヨハンナを『生意気な猫ちゃん』と評し、『どうやって手懐けてやろうかしら』と考えていた。
サージェスドルフは太い腕を組んでしみじみと呟く。
「御婦人の心理はまこと複雑怪奇」
アンリ16世は視界の端で幼妻を捉えつつ、卓に着いている他国の代表――王と次期皇帝を見回して、
「せっかくこうして顔を合わせたのだ。お歴々に聞こう」
サンローラン産のワインを口に運んでから言った。
「貴国らはこれからどうする?」
言葉短い問いだったが、その意味は計り知れないほどに重い。卓の面々はもちろん、周囲の侍従や警護が息を呑む。
「むしろ聞かせてもらいたいものだ。我が国は堅実に成長していた経済と国内発展を先代クレテア王に邪魔されたのでね」
カレル3世は露骨な嫌味を返す。
も、アンリ16世は気にも留めない。
「我が国はもはやメーヴラント内で領土を広げるつもりはない。地中海方面の安定のため、コルヴォラント北部は確保したいが、それも絶対に必要ではない。今後の根幹方針は外洋領土の開発と拡大だ」
皇太子レオポルドが目を瞬かせる。
「本気か? メーヴラントの領土問題を無視しても良いと?」
「世界は広いのだ、義兄殿。何もメーヴラントにこだわる必要はない。弱体な辺境蛮族を蹴散らして広大な土地や資源を奪う方が安上がりで実入りも良い。そうだろう?」
水を向けられたカレル3世は不機嫌面を返す。
アンリ16世の言葉を悪く取れば、中堅国家如きのベルネシアが列強足りえるのは、“弱い”辺境蛮族を蹴散らして外洋領土を獲得したから、と言われているに等しい。
そして、それは一抹の真実でもある。
「より露骨に言えば」アンリ16世は飄々と「寸土のために国費と将兵を費やすなどバカバカしい」
「それは貴国が大国で、既に外洋領土を持つ列強だから言えることだ」
アウグスト2世は忌々しそうに言った。
神聖レムス帝国崩壊と9年戦争というダブルパンチでマイナスからスタートしたアルグシア連邦は、ベルネシアやクレテアのように外洋進出など出来なかった。国内を必死に立て直している間に、北洋をイストリアとベルネシアに塞がれてしまった。
「バカバカしいと言われても、寸土であっても、手を引くことはできない」
アウグスト2世は皇太子レオポルドへぎろりと目を向けた。
帝国の次期皇帝はアウグスト2世の射るような眼差しを正面から受け止め、切り返す。
「ザモツィアの件を言っているなら、あそこは元々我がシューレスヴェルヒ家の領地だ」
「だが、後に神聖レムス帝国直轄領に替えられた。そして、我が国は帝国の後継国だ。領有権はこちらにある」
「勝手に後継国を名乗るな。直轄領に変更したのは、神聖レムス皇帝に我が父祖が即位したからだ。どこかの恥知らず共に帝位を簒奪されていなければ、我がシューレスヴェルヒが神聖レムスを保たせていただろうさ」
「何をっ!」
「何だっ!」
アウグスト2世とレオポルドが思わず腰を浮かせて睨み合うと、周りの警護と侍従も俄かに殺気立つ。
睨み合いを始めた両国の者達を余所に、アンリ16世は含羞に満ちた微苦笑を浮かべる。
「やれやれ。メーヴラントの平和は遠そうだな。そんな時期があったかどうか怪しいが」
カレル3世は自分の長男坊より若い敵国の王をまじまじと見つめる。
「何を企んでいる?」
「企む? そちらの始めたことだろう」
「何?」
困惑するカレル3世へ、アンリ16世はまるで笑い話でもする気軽さで語った。
「協働商業経済圏だ。クレテア、イストリア、ベルネシア。この三国が本気で手を組んだなら、言葉通り世界最大の経済圏が誕生する。
この巨大な経済圏の中で、我々は必然的に三つの役割に分かれる。すなわち、資源。流通。加工製造だ。
我が国は食料供給と資源確保を選ぶ。
さて、そうなった時、流通と加工製造で競合し合うイストリアとベルネシアは、いつまで仲良くできるかな?」
カレル3世はようやっとアンリ16世を明確な脅威として認識する。この小デブな少年王は話に聞く色好みの遊蕩児ではない。怜悧かつ洗練された知性を持つ狡猾な敵国の指導者だ。
「……その見解を明かす“善意”に何を求める」
「今はまだ何も」
アンリ16世は不敵に微笑み、次いで、思い出したように言った。
「そうだ。貴国にあるという美容サロンとやら。それを我が国にも出店して欲しい。今回の会議で交渉して来いと姉上達や方々の婦人方から強く強く頼まれてな」
「……前向きに検討しよう」
カレル3世がどこか嫌々顔で頷く。
と、アウグスト2世とレオポルドがついに取っ組み合いを始めていた。
「やれやれ。この調子で本当にカロルレンを分割征服できるのか?」
アンリ16世は皮肉っぽく笑う。
カレル3世はとても笑える気分ではなかった。
〇
分かり切っていたことではあるが、準備期間が短く、事前協議も根回しも裏工作も満足に出来ていなかった関係上、国際会議は荒れた。
大いに荒れた。
そもそも分割征服案からしてこじれた。分割領を一平方メートルでも多く。あるいは、戦略的軍事的要衝を巡り、帝国とアルグシアの怒声と罵声が飛び交う。
加えて、分割案に付随する利権分配に関しても、大いに揉めた。
まずアルグシアが不満をぶちまけた。自分達の征服領内利権を他国へ分配しないと言い出す。我々が血を流して獲得する利権はあくまで我々のものだ。
これに対し、北東部の資源――モンスター素材や天然素材と港湾利用利権を提示されていたベルネシアが『ウチの利権を認めないなら物資も戦費も一切提供しない』と言う。
クレテアはクレテアで『まずティロレ地方から撤兵して我々の権益を確保させろ。話はそれからだ』と順序の逆転を要求。
あーだこーだと自分達の言い分をぶちまけ合うだけで話は全く進まない。
そりゃそうだ。各国の思惑と欲望と野心と政略が糸くずのように絡まっている。
そして、何よりこの会議が各国首脳によって行われていることも大きい。王として交渉の敗北などという不面目自体は絶対に許容できないのだ。
というわけで、会議は踊るどころか暴風が吹き荒れていた。
開催国として会議の議長を務めるルクレールなどは『お腹痛い。お仕事に行きたくない』と妻と子供達に泣き言をこぼしたほどだった。
しかし、不思議なことにどれだけ荒れても、会議が打ち切られることは無かった。
というのも――
昼間、王達が怒鳴り合い、罵り合った後。
夜中、各国の外交官達がそれぞれの交渉や密談を行う。
日が明け、前夜の交渉を基に王達が舌戦を繰り広げ、
日が落ち、外交官や官僚達が再び交渉と議論を交わす。
非効率この上ない二重会議。これがサンローラン国際会議の実態だった。
ヴィルミーナも国王勅任特別補佐官として、蜜を集める働き蜂のように各国の実務担当達と交渉や会議を行った。脅して賺して宥めて説いて。時には各国の妻女達と交流してその筋から仕掛けていく。
伝統的貴族婦人の在り方は子を産み、御家を守り繋ぐことが本懐、とされていた時代である。その中にあって、外交官や官僚達に混じって表舞台で活躍、いな、暴れるヴィルミーナの姿は各国の貴婦人方にちょっとした衝撃をもたらしていた。
そうして会議開始から一週間も過ぎた頃。各国の本当のプレイヤーが出揃う。
聖冠連合帝国宰相サージェスドルフ。
ベルネシア国王勅任特別補佐官ヴィルミーナ。
クレテア大蔵大臣カルボーン。
アルグシア連邦議長首席補佐官ピッツハウゼン。
要するに、この一週間こそが本当の意味で国際会議の準備期間だったのだ。
会議室に吹き荒れた暴風は過ぎ去り、国益をチップにした本当の舌戦が始まる。




