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魔導灯に照らされた東館の廊下を進むユーフェリアとフランツの姉弟は、絵に描いたような不機嫌面だった。
不意に、ユーフェリアが呟く。憐憫と共感をたっぷりと込めて。
「……“やっぱり”姉さんも苦労してたのね」
クリスティーナはウン十歳も離れた皇族の後妻へ“差し出され”た。
それからどんな人生を送ってきたか、エルフリーデやカスパーがどんな環境で育ってきたか……カスパーの告白がなくとも、誰もが心のどこかで想像していたことだ。
しかし、実際に聞かされると、それも糾弾というカタチで聞かされると、心が酷く痛む。悲鳴を上げるほどに。
「私もロクデナシに嫁いで苦労したから、姉さんの気持ちは想像できるし、カスパーの言い分も理解できるわ」
「姉貴は出戻りの時にきっちりやり返したじゃねーか。遺産を根こそぎ分捕るとかやりすぎだろ」
「奪い足りないくらいよ」
2人が王太后の居室前に到着すると、王太后の若い頃から付き従っている老侍女や老侍従達が部屋の前で困り果てていた。
「これは、両殿下」
侍女や侍従達が恭しく、だが、警戒心を隠さずに一礼する。
彼らにしてみれば、主は王太后その人のみであり、ユーフェリアとフランツは王太后の御宸襟を騒がせるドラ娘ドラ息子に他ならない。
フランツが疎ましげな面持ちで告げた。
「お袋の様子を見に来た。入らせてもらうぞ」
「王太后陛下は人払いを命じられました。日を改めて――」
「心配するな。今の母に罵詈雑言を浴びせるほど親不孝になったつもりはない」
ユーフェリアは侍女長へ蹴り飛ばすように応じ、眼力だけで侍従達を退ける。
そして、2人は部屋に入り――
衝撃を受けた。
嘘だろ、と目を丸くしたフランツが呻く。ユーフェリアも目にした光景に慄然とした。
月光の差し込む青暗い王太后居室の中で、王太后はユーフェリア達が子供の頃に描かれた家族肖像画の前にひざまずき、泣き喚いていた。ごめんなさいごめんなさい、と錯乱したように繰り返している。
そこに居るのは怨讐を向けるべき母ではなく、絶望に打ちのめされ、失意に打ちひしがれた憐れな老婆だった。辛酸に満ちた現実から逃れようと足掻く哀しい老女だった。
気づけば、ユーフェリアもフランツも血相を変えて母マリア・ローザに駆け寄っていた。
フランツは『ごめんなさいごめんなさい』と錯乱して繰り返す母親を抱き上げ、ベッドに連れて行く。母を抱きかかえたままベッドに上がり、ヘッドレストに背中を預け、泣き続ける母を抱きしめ続けた。
ユーフェリアもベッドに上がり、傍らに座って母の手を握り強く締め、ハンカチでその涙を拭い続けた。
2人は何も言わず、母マリア・ローザが泣き疲れて眠ってしまっても、その場から離れなかった。フランツは母を抱きかかえ続け、ユーフェリアはその手を握り続けた。
2人は知らなかった。
フランツは知らなかった。母親がいつの間にかこんなに小さく、細く、老いていたことを。
ユーフェリアは知らなかった。母親がこれほどに深く傷つき、弱り切っていたことを。
それでも、2人の心には和解も寛恕も赦しも生じない。
2人の心にある傷と絆の断裂はそれほどに深い。一朝一夕に解消されるものでは、決してない。
それでも、2人は母の姿に『ざまあみろ』などと微塵も思わない。否、思うことなど出来なかった。
今この時、親子には家族肖像画に描かれているような愛が、絆が、確かにあった。
〇
月光と淡い魔導灯に照らされた中庭で、エルフリーデはカスパーの頬を平手打ちした。中庭に打擲の音色が響くほど激しく。
「よくも、あんな真似をっ!!」
泣き腫らした顔のエルフリーデは、同じく泣き腫らした弟の顔を睨み据え、罵倒を浴びせる。
「大恩あるカール様に恥を掻かせた挙句、御母様の名誉を損なう軽挙妄動っ! 徒らにベルネシア王家の方々を傷つける仕打ちっ!! お前だけが母と我ら姉弟の憤りと悲しみを担っているつもりですかっ!! お前だけが全ての悲劇を負っているつもりですかっ!! 思い上がりも甚だしいっ!」
「姉様こそ、そんなにベルネシアの歓迎が嬉しかったかっ!? これまでの屈辱と忍従を忘れるほどにっ!」
言い放ってからカスパーは後悔する。自身の鼻っ柱の強さと堪え性の無さを。
案の定、エルフリーデは酷く傷ついた顔を浮かべていた。血が滲むほど唇を噛み締め、両手を指が白くなるほど握りしめて俯く。
姉弟が歩んできた短い人生は、およそ人間の誇りや尊厳の持つ耐久性を試すものだった。母やカール大公を始めとする極少数の心ある者達の助けがなければ、2人は家畜や奴隷の如き精神の在り様になっていただろう。
その辛酸の極みたる日々を忘れるはずがない。忘れられるはずがない。それだけにカスパーの非難は、その言葉以上にエルフリーデの心を傷つけた。
もしかしたら、この夜が姉弟の訣別を招いたかもしれない。
が、運命の女神は姉弟に微笑む。
それは善意ではなく、慈悲でもなく、姉弟のもがき足掻く様が面白いからだ。
「姉弟水入らずの場に邪魔するようで申し訳ないが」
幽霊のように突然現れたレーヴレヒトに、姉弟は思わず吃驚を上げる。
警戒心を露にするカスパーと憂慮顔のエルフリーデを余所に、レーヴレヒトは夜の中庭を眺める。
「美しい庭園だ。極めて人工的ではあるけれど、夏花の彩りが月明りに良く映えている」
場違いな台詞にカスパーとエルフリーデが眼を瞬かせるが、レーヴレヒトは気に留めず続けた。
「正直に言って、俺には貴方達の気持ちは分からない。実家は家族仲が良かったし、特別な事情は……まあ、有るには有ったがどうにかなった。軍隊暮らしで反抗期らしいものを経験する余裕もなかった」
「俺のやったことを、ガキの鬱憤晴らしだと思ってるのか」
カスパーが憎々しげにレーヴレヒトを睨む。
「さっきの話を聞いたくらいで何もかも分かったつもりか……っ!」
「カスパーッ! 弁えなさいっ!」
エルフリーデはようやく立ち直り、悪態を吐く弟を叱り、慌てて頭を垂れる。
「レーヴレヒト様。重ね重ねの非礼をお許しください」
「大公夫人様。俺に謝る必要もないし、そのような礼義も不要です。ヴィーナの婿、という点を除けば、俺は木っ端貴族の次男坊で下っ端将校に過ぎません」
レーヴレヒトは中庭を眺めたまま、姉弟へ目もくれない。
「晩餐会のアレは驚きでしたが……元より、なにかしらやらかすと思っていました」
「―――それは、どういう」
エルフリーデもカスパーも涼しげな面持ちを崩さないレーヴレヒトを凝視する。何かやらかすと思っていた、とはどういう意味? 最初から私達に注意を払っていた……?
「貴方達姉弟は俺が見飽きた人間達の目をしている」
レーヴレヒトは最初からエルフリーデとカスパーを注意していた。
なにせ、ベルネシア王家レンデルバッハの血を感じさせる正統派の美女と美少年は、2人とも戦場でよく見かける目つきをしていた。
家族や友人を殺された、妻や姉妹や娘を辱められた、故郷を奪われた、戦友を喪った、そういう目つき。
怨讐に心を囚われた人間の目。
「貴方達の目は復讐者のそれだ」
レーヴレヒトはようやく2人へ目線を向け、口端をかすかに緩める。
「しかし、あの一手は見事だった。これでベルネシア王家は動かざるを得ない」
「どういう、意味ですか」
エルフリーデが不安げに問う。カスパーも憂慮を湛えて訝しんでいる。
2人の反応にレーヴレヒトも小首を傾げる。
「どういう意味も何も、先ほどの告発で貴方達は見事に復讐を果たしただろう。母親と君達の実情を知らなかった王家に精神的な大打撃を与えた。これによって、実の母親を虐げてきたクズ共も叩き潰せる。一石二鳥の良い手だ」
まったく予期せぬ回答に、息を呑むカスパーとエルフリーデ。
「ん? ひょっとして無自覚か? 参ったな」
レーヴレヒトはベンチに腰を下ろし、
「先王陛下の婚姻政策は王家に深い傷跡を残している。カスパー様の告発は貴方達が想像している以上に、甚大な“一撃”だったんだよ」
完全に他人事の態度でどうでもよさそうに語る。
「そして、カスパー様は我が国と王家の御稜威が決定的に損なわれていることを告発した。当然、我々は国と王家の御稜威を回復させるため、必ず報復を行う。それが殺害か、社会的に抹殺するのか、経済的に破滅させるか、精神的に破壊するのか、あるいはその全てを行うのか、それは分からないが、必ず報復を行う。外交ルートで抗議とか、そんな甘っちょろいことでは済まさない。決して」
つまり、だ。レーヴレヒトは慄然としている2人へ告げた。
「今夜、貴方達は見事に復讐を果たした。おめでとう」
全く想定していなかった事態の巨大な変化を理解し、
「だ、“ダメ”だっ!!」
カスパーは悲鳴を上げるように叫ぶ。眉目を吊り上げ、泡食ったように吠えた。
「そんなのは“ダメ”だっ! 奴らは俺の手で倒さなければ意味がないっ!」
それは幼き日に誓ったカスパーの人生の目的だった。“父”の公爵と異母兄達を自らの手で抹殺する。必ず復讐すると誓ったのだ。そう誓ったのだ。それを、ベルネシアに果たされてしまったら――いじめられっ子が教師に告げ口したようなものではないか。
そんな卑賎な復讐では、怨恨も憎悪も晴らせない。
「これは国の問題だ。貴方一個人の都合を斟酌する必要は全くない」
しかし、レーヴレヒトは子猫を踏みつけるような冷淡さでさらりと応じる。
「ベルネシアは、帝国と事を構えるというのですか」
エルフリーデが身を震わせながらレーヴレヒトに問う。も、
レーヴレヒトは控えめな嘆息を吐いて、
「失礼だが、貴方達はよほど冷遇されて育ったようだ。政略というものをまるで分かっていない。貴方達をこの国へ送り込んだ人間は、“こうなること”を予測済みだ。でなければ、貴方達を我が国へ寄こさない。言ってしまえば……」
告げた。
「貴方達は、我々にソルニオル公爵家を排除させるための駒です」
唖然呆然となった姉弟から目線を外し、レーヴレヒトは通路の奥へ顔を向けた。
「少し厳しいことを言い過ぎましたか? 王妃陛下」
通路の奥、その柱の陰から王妃エリザベスが不思議そうに目を瞬かせながら現れる。
「クライフ卿。なぜ私と分かったの?」
「そのように鍛えられましたので」
しれっと答えたレーヴレヒトに呆れつつ、エリザベスは悄然とした姉弟へ優しく声をかける。
「ついてきなさい。温かいお茶でも飲みながら少し話をしましょう」
〇
帝国宰相執務室を訪れた皇太子レオポルドと部屋の主である宰相サージェスドルフに、若い女性秘書官が丁寧に珈琲と茶請けを届け、礼儀正しく退室していった。
不思議だな。レオポルドは思う。
あの美しい乙女が執務机でふんぞり返る肥満体オヤジの姪という事実。世界は不可思議に満ちている。
そんなことを考えながら珈琲を口に運ぶ。眉根が寄るほど苦かった。
サージェスドルフはしかめ面のレオポルドに細巻を勧めながら、問う。
「して、今日は如何なる御用ですかな?」
レオポルドは手ぶりで細巻を断りつつ、答えた。
「外務筋からベルネシア王太子がイストリアから帰国したと聞いたのでな。カール達の“仕込み”はどうなったか気になったのだ」
「手の者の報告がありました。多少想定違いではありますが、無事に仕込みは伝わったと」
燐棒を擦って細巻に火を点け、サージェスドルフは紫煙を吐く。細巻には燐棒の火で、というのがこのオヤジのこだわりだ。
「今頃、ベルネシア王家は頭に血を昇らせているでしょうな。既に報復の算段をしているかもしれません。商人のケが強いだけにベルネシア人は動き出すと早い」
「卿の“想定”ではベルネシアから接触があるはずだが……」とレオポルド。
「接触は国際会議になるでしょう。それまでベルネシアは動きませんよ」
「前の説明でもそう断言していたが、本当に言い切れるか?」
サージェスドルフはレオポルドへ悪党面で笑いで応じ、ふ、と真顔になる。
「現ベルネシア王カレル3世は理と情の人です。どれほど怒り狂っても不必要に犠牲を払うような真似はしません。懐刀の宰相ペターゼンも深謀遠慮の人間だ。拙速に動くことはありません。注意すべきは賢姫ヴィルミーナでしょう」
「ベルネシア王家の黒い羊とか言われている娘か。商売道楽らしいな」
「道楽どころか、その筋の魔女ですよ。商戦、いえ、経済戦の怪物だ」
サージェスドルフはいまいちヴィルミーナの脅威性を理解していない皇太子に、紫煙を燻らせながらにやりと笑う。
「まあ、ボンボンの殿下には分かり難いかもしれませんな」
「ボンボン育ちは卿も同じだろうが」
気分を害したレオポルドは膨れっ面で茶請けのクッキーを口へ運び、珈琲で流し込む。ふ、と息を吐いてサージェスドルフに尋ねる。
「しかし、未だに分からん。ベルネシア人達は本当にこの20余年、ソルニオルの掌で踊っていたのか? あえて踊っている振りをしてきたのではないか?」
「まあ、我々の視点で考えれば、そう疑うのも当然ですな」
サージェスドルフは短くなった細巻を最後に一吸いし、灰皿に押し付けた。紫煙を吐きながら続ける。
「先代ベルネシア王と当時のベルネシア外務筋がボンクラだったことが全ての始まりです。
連中はクリスティーナ様が辱められ、虐げられたことを“知った”時、不問にする代わりに政治利用した。利益機会主義の浅慮。その見本ですな。
悪事慣れしたソルニオルにとって、こういう賢しらなアホこそ格好のカモ。
事実、今やベルネシア外務省帝国筋は、クリスティーナ王女絡みのスキャンダルを隠蔽せざるを得なくなっている。事が露見すれば、粛清どころの騒ぎではありませんからな。奴らは保身のためにソルニオルの従属犯に成り果てたのです」
悪罵混じりの長広舌を終え、サージェスドルフは苦い珈琲でのどを潤す。
サージェスドルフが語った内容は、在帝国・ベルネシア総領事館が情報収集組織として機能不全に陥っている最大の理由でもある。最初にクリスティーナの件を政治利用すべく隠蔽してしまったがゆえに、その隠蔽自体が弱みになってしまったのだ。
暢気なことに、ベルネシア王国府はこの問題に気付いていなかった。
これは外務省帝国筋OB達が事の露見を防ぐべく暗躍していたこともあるし、王家にとってもクリスティーナ王女絡みが非常にデリケートな問題だったことも大きい。いずれにせよ、マヌケな話ではある。
「それは我が国の情報網がベルネシア王国府に根を張っている、とも言えなくはないか? 切り捨てるのは国益に適わぬ気がするが……」
「殿下。その情報網を帝国内務省や外務省、国家保安庁が握っているならともかく、元締めがソルニオルという時点で論外です。情報の取捨選択権を握られていては確度に信用が置けない」
サージェスドルフは真摯な目つきで次代の主君を見据え、告げた。
「清濁を併せ飲むことは政治の本質ですが、ソルニオルは濁り水に非ず。帝国に溜まった汚水です。流し捨てる時が来た。そういうことですよ」
それは、帝国宰相サージェスドルフが本気でソルニオル公爵家を排除するという決意表明に他ならない。
苦い珈琲を飲み干し、レオポルドはどこか心配そうに言った。
「卿のことだ。手抜かりの類はないと思うが、まかり間違って内乱騒ぎは起こさぬようにな」
サージェスドルフは目を瞬かせた後、がはははとセイウチのように笑った。
「殿下。憂うべきはベルネシアの動きです」
「? どういう意味だ。奴らはソルニオル当主とそのバカ息子共の首を獲る、“それだけ”だろう?」
怪訝そうに眉根を寄せる皇太子レオポルドに、
「伝え聞く賢姫ヴィルミーナが私の分析通りの人間なら、奴らの首だけでは満足しません。20余年に渡り、クリスティーナ王女とその子女、そして、ベルネシアを貶め、嘲り笑ってきた帝国そのものに対して“必ず”意趣返しを図ります」
宰相サージェスドルフは楽しげに喉の肉を振るわせる。
「まあ、御手前拝見といきましょう」
〇
時計の針を若干戻そう。
カスパーの告発によって激震が走った夜。
国王達との議論をひとまず終えたヴィルミーナは、エンテルハースト宮殿の客室に泊っていくことになり、ハイヒールを脱ぎ捨て、ドレス姿のままベッドに飛び込む。
疲れた……疲れたぁあ……ああああああ、癒し、癒しが必要やっ!!
ヴィルミーナがベッドの上でうつ伏せになって呻いていると、同じく神経が疲れた顔のレーヴレヒトが入室してきた。
「愁嘆場は苦手だ」
聞けば、王妃エリザベスのサロンでエルフリーデとカスパーの慰撫に追われていたらしい。
レーヴレヒトは軍礼装の上衣を脱いでクローゼットのハンガーに掛けた。次いで、ブーツを脱いでベッドの縁に腰を下ろす。
「そっちはどうだった?」
「楽しくもない悪企みをしたわ」
ヴィルミーナは身を動かし、アクセサリを外していく。イヤリング。ネックレス。ブレスレット。リング。それから髪留め。一つ一つが目を剥くような値段の代物だが、無造作にサイドボードへ置いた。
次いで、姿勢を変えて絹製のストッキングに包まれた長い脚をレーヴレヒトへ差し出す。
控えめに苦笑いし、レーヴレヒトはヴィルミーナの太腿のガーターベルトを外し、優美な脚線を描く脚からストッキングを脱がす。乳白色の柔肌が露になった。
「動くのはいつになる?」
「すぐには動けない。最低でも国際会議で帝国と折衝を持つ必要がある」
ヴィルミーナは苦虫を嚙み潰したような面持ちで毒づく。
現状は全て帝国の絵図通りに進んでいると言えよう。
聖冠連合帝国はソルニオル公爵家をベルネシアに消させる気で、ベルネシアはその狙いに乗らざるを得ない。この時点で、帝国はこちらの行動と思考を数手先まで読むことができる。このまま帝国の掌で踊ることは危険すぎる。どんな罠が潜んでいるか分からない。
よって、国際会議で帝国と折衝し、その意図を多少なりとも図らなくてはならない。これもまた、帝国の目論見通りだろう。実に腹立たしい。
帝国の宰相はかなりの”手練れ”だ。
このやり手の宰相をして、今までソルニオル公爵家の粛清を出来ずにいたという事実も無視できない。
ヴィルミーナが背中を向けてきたので、レーヴレヒトは後ろ襟のホックを外し、するするとドレスを脱がしていく。一掴みの下着を残し、艶めかしい肢体が露になった。
「なんにしても、今日はもう何も考えたくない」
半裸姿になったヴィルミーナは、ベッドの上に身を投げ出して大の字に手足を広げ、
「宮殿のベッドの具合、試してみましょ」
蠱惑的にレーヴレヒトへ微笑みかける。神経と精神の疲労を肉体的快楽で癒したい。
このお誘いに対し、
「俺も今日はもう疲れたよ。普通に寝たい」
倦怠期中の亭主みたいな台詞で断るレーヴレヒト。
ヴィルミーナは愛しの婚約者へ枕を投げつけた。




