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転生令嬢ヴィルミーナの場合  作者: 白煙モクスケ
第2部:乙女時代

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147/336

13:3

大陸共通暦1769年:夏

――――――――――――――――――

 メーヴラント西部にクアトロ・ボーダーの小国が存在する。


 ベルネシア王国・アルグシア連邦・聖冠連合帝国・大クレテア王国と互いに不仲な四国に囲まれたこの小国を、サンローラン共和国と言う。


 土地面積を日本風に言えば、福井県よりやや小さい。共和制だが、民主主義という訳ではない。6人の貴族からなる共和統治体制というだけだ。


 この小国が存在を許されている理由は、ここを獲るメリットよりデメリットが大きいから。三竦みならぬ四竦みにより、この国は生かされていた。

 逆に言えば、四竦み体制が崩れれば、揉み潰される運命が待つ国だ。それでもまあ、四国の交差点という立地を生かした貿易中継拠点という役割で食っていけていた。

 これまでは。


 ベルネシアがクレテアとヴィルド・ロナ条約で通商を結び、アルグシアと限定的な公認貿易を開始したこと。さらに、クレテアと聖冠連合帝国が婚姻同盟を結んだこと。

 この二点により、サンローラン共和国の貿易中継量は減少していた。同様の事態はフルツレーテン公国でも起きており、二か国の経済は悪化している。

 幸い、サンローラン共和国はまだアルグシア・聖冠連合の裏口貿易、アルグシア・クレテアの中間貿易、ベルネシア・聖冠連合の貿易中継でまだ持ち堪えられている。

 え? フルツレーテン公国? 公王が『もうダメかもわからんなー』って遠くを見ながら呟いてたよ。


 そんな周辺国の情勢に振り回されっぱなしのサンローラン共和国では、夏を迎えた頃から周辺四国の商人が熱心に往来していた。


 この商人達は揃って共和国で最も立派な高級ホテルに投宿し、『商談』を繰り返している。

 カロルレン王国やイストリア連合王国も、大陸西方コルヴォラントやディビアラントの諸国もこうした四国の動きを察知し、現地へ『商人』を送り込んでいた。

 まあ、この商人達の言葉遣い、物腰、態度、所作、身に着けている衣服や装飾品等々は明らかに、その……


 ともかく、サンローラン共和国で活発な『商談』が交わされる中、聖冠連合商人がベルネシア商人へ提案する。


『近頃は御大尽方の旅行が流行りでねェ。北洋の華オーステルガムを見たいって方も居てな。どうだろう。ちっと世話してくれねェか?』

『そりゃまた大変なお話で。件の御大尽はどんな方なんで?』


『オーステルガムの出らしいやな』

『ほう。それじゃあ里帰りになるのかい?』


『いや、オーステルガムに行くのは、その御大尽の御子さんだってよ。親の郷里を見に行くってわけだ。どうだい? 世話しちゃくれねえか?』

『――すぐに、大店(おおだな)にお伺いを立てまさぁ』

『おう。頼むよ。秋前にゃあ行きたいって話だからな』


        〇


 晩夏が近づきつつある昼下がり。

 雨音の姦しい王都オーステルガム上空に雅な意匠の飛空船が進入していく。

 鮮やかな浅黄色の楕円形気嚢には鷲頭獅子(グリフォン)双角大飛竜(グレータードラゴン)の紋章――聖冠連合帝国の国旗が描かれていた。

 入国以来、グリルディⅣ型とレブルディⅢ型のハンター・キラーペアが威圧感を与えない距離を保ち、警護に張り付いている。


「ここがお母様の故郷なのね」

 大公妃エルフリーデはどこか複雑な面持ちを湛え、船窓から雨に晒されるオーステルガムを見下ろす。

 聖冠連合帝国皇帝の親書を届ける公使として、元ベルネシア王女クリスティーナの子供“達”に白羽の矢が立った。

 現国王カレル3世が情に厚い人間であることは、大陸西方の政治関係者なら誰でも知っている(まあ、“一部”は知らないが)。そのカレル3世の心理に付け入るための人選だった。利用できるものは何でも利用する。政略の世界は醜い。


「大きな街だな。ヴィルド・ロナとは趣が違うけど、立派な街だ」

 エルフリーデの弟カスパーがどこか醒めた目でオーステルガムを見つめる。齢16歳。公子カスパーは母譲りの美少年だったが、その瞳はどこか冷たく暗い。


 姉弟にとってベルネシアは母方の故郷であり、自らのルーツの半分だ。しかし、2人は知っている。自分の母親がどういう事情で帝国へ嫁いだか。自分達の母親が祖国に対してどんな感情を抱いているか。2人は“よく知って”いる。


 今回のベルネシア行きに際しても、母クリスティーナは何も言わなかった。実母の王太后や兄の国王や弟妹の大公達、かつての友人達、そうした人々へ手紙はおろか伝言すら寄こさなかった。

 部屋がノックされ、姉弟の“引率者”であるカール大公が姿を見せた。


 美しい将官礼服を着こんだカール大公は、青年軍人の見本そのものだった。

「そろそろ到着だ。2人とも用意してくれ」


 カール大公の姿に姉弟の表情がかすかに緩む。

 姉弟にとってカール大公は庇護者であり、心から信頼できる無二の味方だった。少なくとも彼の耳に届く範囲で姉弟とクリスティーナを侮辱する者は居ない。そういう輩に対し、カール大公は容赦がなく、自身の戦闘力や権力を駆使してぶちのめしてきたからだ。


 ちなみに、カール大公自身はベルネシアが嫌いだ。彼の家族観と価値観から、自分の娘を帝国へ差し出した先代ベルネシア王のことを心から侮蔑している。また、その策を良しとしたベルネシア王国という国家を軽蔑していた。


 それでも、不条理と理不尽の極致たる軍隊で将官を勤めるだけあって、カール大公はそうした内心を面には出さない。愛する妻と義弟の耳に届くところで血統的母国を悪く言ったりしない。


 帝国の飛空船は誘導係の翼竜騎兵編隊に従い、飛空船離発着場へ着陸する。離発着場では美しい儀仗兵が整列し、雨天のため屋根付きの花道が用意されていた。


 元王女クリスティーナの子供が訪問すると聞き、王太后と国王カレル3世は全力投入を決定していた。その本気振りは、一行の出迎えに王妹大公令嬢ヴィルミーナが駆り出された辺りからも窺えよう。婿としてレーヴレヒトも動員されていた(例によって、レーヴレヒトは凄まじい場違い感を抱いていたが)。


 儀仗兵達が剣と小銃を捧げる中、飛空船から降り立った一行が屋根付きの花道に入り切ったところで、

「遠路はるばるようこそお越しくださいました。カール大公閣下、大公妃エルフリーデ様、公子カスパー様。皆様の出迎えを賜った王妹大公ユーフェリアの娘ヴィルミーナと申します」

 ヴィルミーナは一行の先頭に立つカール大公とその妻エルフリーデへ、見事なカーテシーを行う。レーヴレヒトも完璧な所作で一礼する。


 出迎えを任されたヴィルミーナは軍礼服のレーヴレヒトに合わせて、黒いスレンダードレス。片掛けショートマントや飾り紐、勲章に似た飾りなど軍礼服的な意匠を施してある。薄茶色の長髪を紅い飾り布で後頭部の真ん中でまとめ、真っ直ぐに垂らしていた。


「急の訪問に対し、斯様な出迎えに感謝いたします」

 カール大公もエルフリーデも、カスパーもその心内はともかく、完璧な礼節で応えた。

 もっとも、双方の完璧さが却ってどこか余所余所しさを際立たせている。互いの距離感を探り合うような雰囲気を隠し切れない。


「王都宮殿にて国王陛下が首を長くしてお待ちです。早速ご案内致しますが構いませんか?」

 ヴィルミーナは営業用スマイルを湛え、三人に問う。何か事前準備があるなら言ってくれ。

「問題ない。万事お任せいたします」

 カール大公は堂々と答えた。


 王家の獅子紋が入った儀礼馬車に分乗し、一行は雨の王都内を進んでいく。

 もちろん、警備状況は最高レベルだ。特にカール大公夫妻と公子カスパーを乗せた馬車の周りには、近衛軍団の装甲騎兵が展開し、雨空には翼竜騎兵が飛んでいる。


 宮殿までの道路はベルネシアと聖冠連合帝国の旗で飾られ、雨にも関わらず多くの観衆が沿道に立っていた。娯楽の限られたこの時代、他国の賓客訪問も立派な娯楽だ。


「雨でなければ、オープントップの馬車を御用意したのですけれど」

 ヴィルミーナが悪戯っぽく微笑んだ。

「今回の御訪問はあくまで公務と伺っておりますが……日程に関しては能う限り配慮可能ですから、どうぞご遠慮なく申し出ください」


 カール大公はヴィルミーナの“含み”がいまいち把握できず、素直に尋ねる。

「つまり?」

「せっかく御家族で来られたのです。限られた時間だけでも純粋に海外旅行を楽しまれては如何です?」

 予期せぬ申し出に目を瞬かせるカール大公とエルフリーデとカスパー。


 そして、カール大公が楽しそうに喉を鳴らす。

「御厚意有り難いが、流石にそれは難しかろう。予定は詰まっているし、空き時間も方々の茶会や夜会に顔を出して“つなぎ”を作らねばなるまい」


 あー、そういう返しは逆効果だな。とレーヴレヒトは心の中で苦笑する。

 案の定、ヴィルミーナはにんまりと笑う。

「御心配なく。そのために私が皆様のホスト役を担っているのですから」

 まるで甘言を弄して魂を奪おうと企む女悪魔みたいな笑みに、カール大公は顔を引きつらせた。

 カール大公の珍しい表情に、エルフリーデとカスパーはようやく屈託なく微笑んだ。


      〇


 カール大公達は帝国公使として王都宮殿に参じた後、エンテルハースト宮殿で歓待を受けた。

 彼らを出迎えた王太后マリア・ローザは、初めて目にする長女の孫であるエルフリーデとカスパーの手を取り、人目もはばからずに涙を流した。


 彼女にとって聖冠連合帝国に嫁いだクリスティーナは、心に深く刺さった棘だった。嫁いで以来、便りを一切寄こさぬ長女が自分と祖国を強く憎み恨み、孫である姉弟がその負の感情を引き継いでいても、無理はないとさえ思っていた。


 エルフリーデの『母は御婆様を憎んでも恨んでもおりません』という言葉、それが傷ついた祖母を慮っての虚言に過ぎないと分かっていても、王太后マリア・ローザは涙を流さずにはいられなかった。


 もちろん、王太后が想像していたように、エルフリーデもカスパーも母クリスティーナの家族と祖国への怨恨をしっかりと受け継いでいる。それでも、カール大公という伴侶に恵まれたエルフリーデは寛容と慈悲を持っていた。

 だから、母クリスティーナは決して望まないことだろうが、エルフリーデは憐れな祖母を突き放すことが出来なかった。深く傷ついている祖母を優しく抱きしめ、優しい嘘をついた。


 一方、難しいお年頃のカスパーはそこまで大人になれなかった。

 彼もまたカール大公という騎士の中の騎士みたいな義兄を持つ身だから、漢として憐れな祖母を赦したい気持ちもあった。反面『そもそもの問題はあんた達が母を帝国へ差し出したからではないか』という憤りも拭い切れない。

 ゆえに、カスパーは姉ほどに祖母へ優しく接せられず、どこか他人行儀さを隠せなかった。


 そんな妻と義弟に、カール大公は何も言わなかった。騎士であり紳士である彼は、余計な差し出口は叩かない。ただ妻を抱きしめ、義弟の肩に手を置くだけだ。それだけで十分だった。イケメンめ……


 この王太后と姉弟の交流を見ていたヴィルミーナは、密やかに、だが強く恥じた。

 私はずっと傍に居ったのに、御婆様がこれほど深く傷ついていることに気づけんかった……なんと情けない……

 

 何とかしたい、とは思うが……母ユーフェリアと祖母の確執と断絶は根深い。ヴィルミーナですら触れえぬ禁忌だった。今生の母も祖母も愛すべき人達だ。幸せになって欲しいし、幸せにしたい……でも、どうすれば……


 そんなヴィルミーナの苦悩を察したのか、レーヴレヒトがそっとヴィルミーナの手を握る。

 ヴィルミーナはレーヴレヒトの手を握り返した。温もりを逃がさないように。 




 さて、国王カレル3世は母マリア・ローザほど甥姪との邂逅を素直に喜べない。

 なんせ聖冠連合帝国公使として皇帝親書を持ってきたのだ。そして、その親書の内容は非常に悩ましい物だった。


「首脳会談ですか」

 大会議室に集められた宰相ペターゼン侯以下の重臣達は、カレル3世が打ち明けた親書の内容に渋面を浮かべる。


 首脳会談自体は珍しいことでも何でもない。頻繁にあることではないが、それなりに行われることでもある。

 だが、その首脳会談の内容が謀略に満ちたものとなると、話は別だ。

 本来なら秘密外交でこそこそやることを、大っぴらにやろうとする辺り、聖冠連合帝国の本気加減が窺えてくる。


「カロルレン分割によるメーヴラント再編か。とんでもないことを言い出してきたな」

「これの実態はアルグシアと聖冠連合が領土を拡大するだけだ。我々には何の旨味もない。むしろ、安全保障上で言えば、敵国(アルグシア)が増強する。デメリットしかない」


「分割に反対して、カロルレンを軍事支援するか?」

「それはどうかな……先の大災禍支援で分かっただろう。あそこはダメだ。現場はともかく上層部の価値観が我々と違い過ぎる。あれでは手を組めない」


「聖冠連合帝国が動く以上、カロルレンに手を貸すのはマズい。帝国が我々を敵と見做せば、クレテアを動かすかもしれない。クレテア人は喜んで先の戦の復讐戦を始めるだろう」

「勝手に攻め込んできて負けたくせに、復讐戦か」


「今、クレテアを敵に回すと、投資した我が国の資本を差し押さえられます。我々も報復で奴らの経済を冥界の底へ沈められますが、利得は一切ありません。不況の悪化は避けられないでしょう」

「となると、カロルレン分割に乗るしかないな。局外中立を宣言しても良いが、戦争が不測の事態に発展した場合、悪手になる。大樹に寄り添うが吉だろう」


「しかし、参戦したらしたで、カロルレン救援に参加した連中が大騒ぎするぞ。血を流して助けた者達を殺すのか、とな。政治はともかく、情としては彼らが正しい」

「それに、領土も増やせない戦争に参加してもなあ……完全に他人の戦争だ」


 この時代らしい価値観でぼやく重臣。他の面々も同意するように頷き、溜息をこぼす。黙って皆の発言を聞いていたカレル3世も眉間に深い皴を刻んで唸る。


「陛下。発言をお許し願いたく」

 カール大公達のホストを勤めている関係から、オブザーバーとして参加していたヴィルミーナが口を開く。


「またぞろ何か企んでるな? 言ってみろ」

 国王カレル3世がからかうように告げると、ヴィルミーナは微苦笑した。

「我が国は参戦の代価として、カロルレンの北洋港湾部の使用権、資源地域の開発権及び採取資源配当権など、経済的な利権を要求されては如何でしょう?」


 ヴィルミーナは平和主義者でも何でもない。自国や自身の利権が巻き込まれない戦争なら、商機到来と考える人間だった。

 戦争は銃弾からケツ拭き紙まであらゆる物資を消耗する。何でも売りつけられる。前線で使わない物でも良い。銃後の司令部や野戦病院などで使う事務用品だって大量に売れる。戦争万歳(ただし他人の戦争に限る)。


 そして、現代地球の新植民地主義に領土は必要ないし、直接統治もしない。経済的に搾取し続けるシステムを構築すれば良い。一度経済支配してしまえば、自国資本保護を名目にいくらでも介入出来る。加えて、現地にしがみつく人間を極力減らせるから、撤退も易い。


 重臣の一人が不満げに言った。

「それらは何かあれば、接収されてしまう程度の権利ではないかね?」

「接収される時は全て破壊しましょう」


「――は?」

 呆気に取られるお歴々へ、ヴィルミーナはにっこり微笑んだ。

「道路も橋も港も資料も全て1つ残らず破壊して撤退します。ベルネシア資本を無理に奪おうとすれば、どうなるかを示すのです。忠良なる我が軍を犠牲にして守るより、はるかに効果的です。これは各外洋領土の独立派への教訓にもなります」


 地球史において、フランスは決別的独立を決定した植民地のギニアへ、独立を認める代わりに全インフラを完全に破壊し、重要な行政資料や貴重品を根こそぎ持ち去った。

 この所業を見た各植民地は強硬な独立案を引っ込め、フランス主導の穏健な独立案を呑んでいる。独立しても祖国を石器時代に戻されては意味がないからだ。


「お前は本当に性格が悪いな」

 カレル3世が呆れる。ペターゼン侯を始めとする重臣達も引いていた。


「その言い草は酷いです、“伯父様”。忠心からご提案させていただいたのに」

 ヴィルミーナは唇を尖らせつつ、話を続ける。

「参戦の代価に利権を得ると同時に、アルグシアに対しては先の戦役の協力に対する返礼として物資を提供しつつ、東部の領有問題にケリを付けたいところですね。可能でしょうか?」


 水を向けられた外務筋が難しい面持ちを浮かべた。

「その辺りは外務(われわれ)にお任せあれ、と言いたいですが、少々厳しい。カロルレン分割で増強したアルグシアが次に狙うのは我々でしょう。戦争の大義名分を手放しますまい。狂犬を大人しくさせる“餌”が要りますね」


 大蔵筋が意見を呈する。

「西部諸邦に借款を申し出てみるか? 連中から金を借りて、アルグシアが我が国に攻め込んで来たら返済は免除、とすれば西部諸邦が死に物狂いで戦争回避に動くだろ」


「流石にそれは魂胆があからさま過ぎる。向こうも引っ掛からない」

 外務が首を横に振った。


 ヴィルミーナが再び提案する。

「借款ではなく、レーヌス大河を持ち出しては? 長年、棚上げになっていたでしょう? クレテアも巻き込んで本気だと窺わせてはどうですか? これなら我が国とアルグシアが戦争になった場合、クレテアはレーヌス大河利権を守るために仲裁を申し出てくれるでしょう。もちろん、いろいろと情勢が煩雑になりますが」


 レーヌス大河。

 ベルネシア・アルグシア・サンローラン・クレテアに跨って流れる西メーヴラント随一の大河川で、古代から河川貿易が盛んだった。中世頃からはレーヌス大河に沿って各種産業が勃興隆盛し、大陸西方における『ブルーバナナ』となっている。


 ただまあ、メーヴラントの歴史が戦争ばかりの関係上、レーヌス大河の国家間貿易は低調だった。安定期を迎える度に河川貿易の国際化が持ち上がるが、その都度、戦争が起きて中止や棚上げになっている。

 扱い難いライン川といったところだろう。


「我々が本気だと示せば、先方も無視はできない。出先商館の例もあるから、協議している間はバカな真似もできない。アリだな」

 宰相ペターゼン侯の同意を受け、

「よし、参戦条件はその筋で組もう……一息入れるか」

 カレル3世は侍従に命じ、皆へ茶と菓子を用意するよう告げた。


 夏はまだ終わりを見せない。

 謀略の季節は始まったばかりだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 策謀を企てている時のヴィルミーナ様は輝いてますね。 エルフリーデ様達とヴィルミーナ様がどの様な交流を持つのかも 気になりつつ、政略の続きも気になるのがもどかしいです。 フルツレーテン公国…
[一言] 先王の情を無視した戦略が完璧に傷痕となって消えてない むしろその場しのぎにしかならなかった先王の戦略がなかった方がマシまでありそう いや、普通は数世代は多少は血縁の国だって考慮してもらえるは…
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