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転生令嬢ヴィルミーナの場合  作者: 白煙モクスケ
第2部:乙女時代

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11:10+

補記です。

 時計の針を一斉捜索の当日に戻そう。

 廃船の中でギイと変態男が駄法螺問答を打ち切り、一戦交え始めた頃だ。



 木製の分厚い正面玄関扉が砕け倒れた。

 武装憲兵隊に扮した特殊猟兵達は屋内戦に備え、大口径の回転式拳銃や散弾銃を構え、砕かれた正面玄関から4階建て建物の屋内に踏み込む。同時に、別チームが隣家の屋上からも目標建物の屋上へ侵入開始。


 廊下の奥や上階などから女子供の悲鳴と男達の怒声が聞こえてきた。どたどたと走り回る足音も絶えない。


 目標AとDが潜むこの建物は、目標の家族と護衛や下女がいるという話だった。

 レーヴレヒト達は足音も衣擦れ音も出さず、キネのように『憲兵だ』と叫ぶこともしない。ただ黙々と各部屋を捜索制圧していく。捕らえた女子供をリビングへ引っ立てる。武器を持って抵抗するなら、躊躇なく鉛玉を浴びせた。いつものように老若男女の区別なく。


 手早く1階を制圧し、2階へ上がる。

 2階の奥から焦げる臭いがした。

「不味い、資料を処分してるぞっ! 急げっ!」


 二階奥のドアを蹴破り、レーヴレヒトが突入する。

 達磨ストーブに書類をくべていた中年男が慌てて拳銃をぶっ放す。散弾の群れがレーヴレヒトの脇を駆け抜けた。


 レーヴレヒトは病的冷静さを保ったまま、中年男の頭と体幹の中心を素早く撃った。傍らにいた10代半ば頃の少年が絹を裂くような悲鳴を上げ、男の亡骸から拳銃を取ろうと手を伸ばす。


 レーヴレヒトは逡巡なく少年の頭を撃つ。まき散らされる脳漿。べろりとめくれる頭皮。着弾衝撃で眼窩から飛び出す右眼球。無残に即死した少年がそのまま男の亡骸に折り重なった。部屋の隅に居た女達が悲痛な絶叫を上げる。


 さらに、男と少年へ1発ずつ殺害確認の弾を撃ち込む。レーヴレヒトの顔は筒形マフラーで覆い隠されて表情を窺えない。ただ、その鋭い双眸には如何なる人間的情動も見られなかった。


 続いて部屋に入ってきた仲間達が取り乱した女達を拘束。達磨ストーブを蹴り倒し、魔導触媒を使って大気中水分を収斂し、乱暴に消火。書類を回収する。


「資料の完全回収ならず、だな」

 仲間はぼやきながら未処分の書類や焼け焦げた資料を回収し、懐から小さな似顔絵カードを取り出した。少年の亡骸を蹴り退け、中年男の死体と照合確認する。

「当たり。目標Dだ」


 と、上階から報告が届く。

「制圧完了っ! 三階に資料庫があるっ! 人手を寄こしてくれっ!」


 レーヴレヒトは小さく鼻息をつき、拳銃の弾倉を交換しながら仲間達へ命じた。

「3・2、女達を一階のリビングへ連行。3・3、3・4は三階の手伝いへ。残りは俺とここの資料回収、階の捜索だ。掛かれ」


 レーヴレヒトと仲間達は雑嚢から麻袋を取り出し、資料らしき物を片っ端から詰めていく。水浸しになった達磨ストーブから焼け残った紙片を全て回収する。


 紙片を集めていたレーヴレヒトは、焼け焦げた紙片に『白獅子』や『王妹大公令嬢』、『ヴィルミーナ』といった単語があることに気付く。


 カロルレンの奴らがどうしてヴィーナに関心を持つんだ? 白獅子はカロルレンと取引がないし、この国自体がカロルレンと関係が薄い。ヴィーナは目立つ人間だが、カロルレンがどういう目的で?

 口腔内で小さく舌打ちした。

 しくじったな。生け捕りすべきだった。他の目標が生きてると良いんだが。


        〇


 長々と記してきたが、悪魔崇拝連続殺人事件において、最も重要なのは事件そのものではなく、その過程で実施されたローラー作戦である。


 特殊猟兵が捕縛したカロルレン工作員や回収した資料を筆頭に、スラムに隠れていた犯罪者など脛に傷を持つ数々の人間が逮捕されたこと、犯罪組織の帳簿やら資料やら物資やらが押収されたこと、などなど。


 ヴィルミーナにしても、悪魔崇拝連続殺人事件を振り返ることはなかった。彼女にとって王国歴251年の冬で最大の出来事は、ルダーティン商会と金象社の婚姻合併だったのだ。



 スラムで一斉捜索が行われてから数日後、ヴィルミーナは国内大資本の婚姻合併の件で、隷下情報組織の幹部と接見していた。

「情報は掴んでいたのに、私に報告しなかったと?」


「不確定な状態だったため、確認精査中でした。申し訳ありません」

“ゲタルス”が答えた。

「言い訳になりますが、連中の欺瞞レベルは我々の大規模仕手戦並みでした。核心部分に手が届きません」


「――両社の合併を仲介した者に関しては?」

「特定はまだですが、候補は絞りました。ハイラム商会、コーヴレント侯爵家、それと、青鷲ことローガンスタイン財閥」


 ゲタルスの挙げた名前を聞いた直後、ヴィルミーナに悪寒が走る。


 ハイラム商会は“会合”で反ヴィルミーナ派の大物。

 コーヴレント侯爵家は王国府の反ペターゼン侯派閥のドン。

 青鷲ローガンスタイン財閥は白獅子と、海運と造船のシェアを巡って対立している。

 そこにルダーティンと金象の婚姻合併で生じる組織が加わる。


 これは幾年前の“会合”による牽制とは違う。これは本気の“攻勢”だ。

 ルダーティンと金象社の婚姻合併は、おそらくコーヴレントの主導だろう。そのうえでハイラムと青鷲が業務提携ないし合資事業を起こすとみて間違いない。


 情報の隠蔽に気を使っとるなら、水漏れ防止に他の取り込みはまだやっとらんやろ。ウチと友好的なトコの切り崩しはこれからか。


 狙いは伸長の大きな白獅子の頭を押さえ、私の力を削ぎ落とすこと。そのうえで、おそらくペターゼン侯を宰相の椅子から蹴落とし、コーヴレントが宰相の椅子に座るまで青写真を描いているはず。私ならそこまで図る。


 やってくれる。

 商業実業の面だけでなく、政治的な面でも本気で潰しにかかってきたか。

 随分と嫌われたもんや。


 イストリアに提示したアレがトドメになったんやろな。ハイラムもローガンスタインも荒事に通じとるし(この時代の金持ちは大なり小なり反社会的組織の顔を持つ)、特にコーヴレントは不味い。政府高官の権限を使って国有化やら規制やらの狙い撃ちをされるかもしれへん。

 困ってまうなあ、これは。


「消しますか?」

 ゲタルスが怖い目つきで言った。元々が裏社会(ブラックカラー)の人間だけあって、”根本的解決”に躊躇がない。

 ヴィルミーナは目を瞬かせた後、くすくすと鈴のように喉を鳴らして笑った。ひとしきり楽しんだ後、小さく首を横に振る。


「向こうが短慮に走らない限りはこちらも荒事は使わない。情報の収集と防御は全力で。攻撃は実害が出るまで控えて」

「よろしいので? 先制攻撃すれば被害が出ませんが」


「多少被害に遭った方がキツいお返しをする大義名分になるでしょう。それとも、敵に先制を許したら負けるほど、私や私の組織はか弱いかしら?」

「失礼しました」ゲタルスは微笑み「しかし、明確な線引きはしておいた方がよろしいかと」

 言い換えるなら”交戦規程”を寄こせ。


「基本的にはこれまでのルールとマナーで良い。ただし、向こうがそのルールやマナーを破るなら、制限は無し。貴方達の“戦い”に関しては向こうの身内を標的としない限り、一任するわ。存分にやりなさい」


 ヴィルミーナは今更荒事を忌避しない。

 先の大規模仕手戦においても、少なくない数の人間が命を落としている。公的記録に計上されない”戦死者”達。

 大金が絡めば、命のやり取りが生じる。これは現代地球でも変わらない。大規模公共事業絡みでは度々『自殺』『病死』『事故死』が生じたりする。

 人の命は地球より重いかもしれない。しかし、命の値段は案外大したことがないらしい。悲しいね。


 ゲタルスは満足げに頷く。

「必ずや御期待にお応えします」


 ふ、と息を吐き、ヴィルミーナはもう一つの懸念を口にした。

「それと、カロルレンのことだけれど、何か分かった?」


 カロルレン工作員の資料にヴィルミーナと財閥の名前が挙がったことは、大きな困惑をもたらしていた。


 これまでカロルレンが接触してきたことは一度もないし、こちらから接触を試みたこともない。財閥にしてもカロルレンには販路も窓口もない。今後もその予定はない。

 既に北洋と外洋貿易を扱っていて、イストリアとアルグシアに出先商館を持ち、クレテアにも手を伸ばしている。このうえカロルレンに手を出す余裕などなかった。


 どういうつもりかさっぱり分からんけど、真っ当に商売する気なら普通に接触してきたはず。潜入工作員なんぞに探らせたあたり、不愉快なこと考えてるんやろな、多分。


「そちらに関してですが、我々としても困惑しています。カロルレンがヴィルミーナ様や白獅子を探っていた兆候は一切なかったのですから」

 ゲタルスは眉を大きく下げて言った。

「調査は今少しご猶予いただきたく」


「確定情報でなくとも構わない。とりあえず急ぎで中間報告を出して。それと可能ならで構わない。カロルレンの情報を探ってちょうだい。先方を知らないと対応のしようがない」

「かしこまりました」

 ゲタルスが恭しく首肯した。


 ヴィルミーナはどこか倦んだ面持ちで背もたれに体を預ける。

「これまでも方々から敵意や反感を集めていたし、恨みも随分と買っていたけれど……これからは本格的な暗闘をすることになりそうね」

「我々が万難を排して御身と組織をお守りいたします」

 ゲタルスは居住まいを正して真顔で告げた。


「よろしく頼むわ」

 ヴィルミーナも姿勢を正し、礼節に則って応えた。

「貴方達はこれまで私の期待を裏切ったことは一度もない。今後もないと確信しています」

「ありがたきお言葉」とゲタルスは大きく頭を下げた。


 実際問題、彼らの忠義に恃むところは大きい。

 ヴィルミーナは前世同様に今生でも、暴れに暴れている。これまでの事業買収や組織再編、事業展開と利権確保/拡大で大企業の利権を奪い、中小企業を潰し、少なくない数の人間を路頭に迷わせている。中には首を括ったり、一家無理心中したりした例もあるだろう。


 当然、個人的な恨みを相当買っている。それも今や国内だけでない。

 大規模仕手戦で大損害を被ったクレテアでは、結構な数の会社や商会が倒産し、少なくない数の貴族や富裕層が没落したらしい。もちろん、彼らの恨みは白獅子だけでなくヴィルミーナ個人にも向いている。


 事実として、これまでヴィルミーナに復讐を試みた者達が居なかったわけではない。

 ただ、その手合いは白獅子の持つカウンターパートが秘密裏に撃退/駆除しており、ヴィルミーナが凶刃に晒されたことは一度もなかった。


 が、これからも防ぎきれるかどうか分からない。

 復讐心に駆られた素人の暴挙と、権力者が送り込むプロの殺し屋ではリスクのレベルが桁違いになる。

 加えて他国の諜報機関に目をつけられているとか……もう笑うしかない。


 ヴィルミーナは密やかに嘆息をつく。

 はてさて。これからどうなることやら。


      〇


 ベルネシア戦役終結から一年経ったこの頃、その影響がじわじわと諸方へ浸透していた。列強とはいえ、中堅国のベルネシアが大国クレテアに勝利したのだ。影響を与えないわけがない。


 この事実は、他国――特に他の中堅国や小国に一抹の光をもたらした。

 彼らは『兵力に劣っていても、やり方次第で勝てる』という光を見たのだ。


 言っておくと、この手の考えに飛びつく奴は大概、経済力とか工業力とか国家体制とかそういう重大要素を一切考慮しない。『兵力が少なくても勝つ方法がある』という事実だけを見て、ベルネシアが勝つためにどれだけの国家資本を蕩尽したとか、クレテアが戦争遂行に不利な諸問題を抱えていたとか、そういうことへ注意を払わない。


 また、クレテアの敗北は、クレテアの圧力を受けていた者達の反抗心を強く刺激した。

『今、上手くやればあいつらの譲歩を引き出せるんじゃね?』『今ならあいつらも強く出られないんじゃね?』『チャンスじゃね?』


 短慮過ぎる、そんな馬鹿な奴いないって? 貴方、世界中の誰もが熟慮の末に英断を下すと思っているのですか? 人間という生き物を信用しすぎですぞ。


 ともかくとして。

 ベルネシア戦役で生じた火の粉は方々に広がり、ゆっくりと静かに燃え始めていた。

 あるいは……火柱を噴き上げようとしていた。


 ベルネシアが内政と南小大陸に意識を向け、クレテアが国家再建に奔走し、イストリアが南小大陸に頭を悩ませている、この間隙を突くべく蠢動する者達が居たのである。






 もっとも、彼らは自分達の都合で世界を捉えすぎていた。

 この魔導技術文明世界において、万物の霊長たる存在は人に非ず。


 この世界には、万の軍勢を投じても人の領域にならぬ土地がいくつもあるのだ。

 モンスターと呼ばれるそれら地域の主達は、人間の都合など考慮も斟酌もしない。彼らは彼らの都合と事情で生きたいように生きる。

 それが人界に深刻な事態を招くことになっても、やはり気に掛けることは、ない。


PV数を見るに不評だったサスペンス編は終わりです。


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― 新着の感想 ―
このページだけで良かったじゃん 何が言いたいのか分かんないし結局必要なのは最後のフラグだけだし アリシアは自己中で迷惑しか掛けてなかった割に結局復讐も出来てないし ギイはなぜそこにいるのかさっぱりわか…
[一言] シティキャンペーンは情報の出し方に苦労する。 当然マスターは全て知っているが、キャラが核心に至るにはどの情報が無いと無理か、いや可能かが、全て知っているがゆえにピンと来ない。 キャラが動くた…
[一言] 初コメ!サスペンス編おもろかったけどなー 最新話まで読むぞー
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