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すっかり忘れていましたが、サスペンスなので残酷描写があります。
大陸共通暦1768年:ベルネシア王国暦251年:冬。
大陸西方メーヴラント:ベルネシア王国:王都オーステルガム。
―――――――――――
将校課程が終わって少尉任官し、レーヴレヒトは予定されていた通りに機動打撃部隊の強行偵察部隊へ配属された。が、そこから先は宙ぶらりん状態だった。
というのも、強行偵察部隊の編成を巡り、機動打撃部隊の上層部と軍の経理部がやり合っているらしい。
軍は戦後不況の煽りと本国軍再建のダブルパンチで金がない。そこへ機動打撃部隊が強行偵察部隊を特殊猟兵戦隊に準じた部隊にしようと予算申請し、経理部がブチギレた。
説明しておくと、現代地球でも特殊部隊は金が掛かる。装備と運用はもちろん、日々の練度維持訓練費用も一般兵部隊よりずっと高額だった。経理部は当然『金がねェって言ってんだろ、そんなもん認められるか』と大反発。
で、強行偵察部隊の編成が宙ぶらりん状態になり、配属されたものの無任所状態のレーヴレヒトは自身の練度維持以外にやることがなかった。軍隊は末端に至るまでセクショナリズムが浸透しているから他人の仕事へ勝手に口出ししたり、関わったりするわけにもいかない。
平たく言えば、レーヴレヒトは暇を持て余していた。
見ようによっては、遊んでいても給料が貰える立場だったが、レーヴレヒトは左遷されたような気分だった。
そんな時である。
「ゼーロウ、じゃなかった。クライフ。ちょっと良いか?」
特殊猟兵からの転属組である大尉がレーヴレヒトを呼んだ。
「なんでしょう?」
「ある筋から分析レポートの要請が来てる。ちょっと担当してくれ」
「分かりました。分析対象は何ですか?」
鹵獲したクレテア軍の兵器を調査でもするのかな、と思ったレーヴレヒトに、大尉が渡したのは王立憲兵隊のマークと部外秘の印が入った書類封筒だった。
「……ひょっとして、例の殺人事件絡みだったりします?」
「相変わらず勘が良いな」
「やれと言われればやりますが、犯罪の分析なんてしたことありません」
困惑顔のレーヴレヒトに、大尉は声を潜めて言った。
「その仕事は”持ち帰っても良い”そうだ。もちろん、絶対に他所へ流出させるな」
レーヴレヒトは小さく鼻息をついた。
なるほど。ある筋とやらは俺を通じてヴィーナにこのネタを届けたいわけだ。先日、王太子妃殿下と密会した関係かな? まぁいい。どうせ暇だ。踊らされてやるか。
「分かりました。持ち帰って仕事します」
〇
「ヴィーナ様。これは……」
執務室に呼び出されたマリサは、ヴィルミーナから書類封筒を渡されて困惑を露にする。
ヴィルミーナは仏頂面を浮かべた。
「妖精が枕元に届けたのよ。ただし、間違ってもブンヤやその辺に渡さないように。大陸南方か東南方へ出張してもらうわよ」
「もちろんです」
マリサは顔を引き締めて頷いた。
「中身に目は通しました?」
「一応ね」ヴィルミーナは鼻息をつき「プロの解説付きで読んだわ」
※ ※ ※
被害者は2人とも口腔内と消化器から神経刺激剤と弛緩剤の残渣反応が確認されている。犯人は被害者を有意識状態に保ったまま体に紋様を刻み、それから複数回の頸部圧迫を行い、眼球の摘出と下腹部切開を行った。下腹部の切開は子宮と膣を完全に切り裂いている。直接の死因は急性出血性ショック死。
レーヴレヒトに体を預けて資料を眺めていたヴィルミーナは、心底嫌そうに整った顔を歪める。
「気分が悪くなってきた」
「残渣反応の記述によれば、弛緩剤を与えて身動きが取れない状態で体を刻んだようだ。その後、神経刺激剤を加えたとみて良い」
「何のために?」
怖いもの見たさの気分でレーヴレヒトに尋ねるも、
「どれだけ痛めつけても失神しないようにだ。この頸部の圧迫痕は何度も首を絞めて拷問した痕跡だよ」
ヴィルミーナはすぐに後悔し、小さく頭を振った。
「……なんでそんなこと知ってるかは聞かないことにする」
「膣と子宮内に細かい傷があったと書いてある。何か異物を挿入したようだ。そして、強姦後に下腹部を切開してその異物を取り出したと推測されてるな」
「最悪……いったいどんな惨めな人生を歩めばそんなことするのよ……」
嘆くヴィルミーナを余所に、レーヴレヒトは顎先を掻きながら、記述内容について考える。
紋様の傷跡に歪みや乱れはなく、瞼や眼窩にも余計な傷がない。四肢に拘束痕がないのは何らかの魔導術で押さえ込んだからだろう(たとえば、強力なトリモチのような粘性物で拘束すれば、縄や手錠のような傷が残らない)。死体を奇麗に洗浄したのはそういう痕跡を残さないためだ。イカレてはいるが、頭の巡りは良いらしい。
この事件の犯人が単独か複数犯かはまだ特定できない。ただ、確実に言える。
この犯人は手強い。
レーヴレヒトはふ、と息を吐いて言った。
「死体を目立つように捨てたことは、そう簡単に追跡されない自信があるからだろう。死体遺棄現場にある情報から追うことは難しいな」
「この遺留品の魔導術式と遺体に刻まれた紋様もまだ詳細が分からないみたいだし……憲兵隊の調査で分からないなら、素人が調べても期待薄か。別の方向からアプローチした方が良いかも」
ヴィルミーナは横髪の毛先を弄りながら、
「なら被害者を拉致した場所か、拷問と殺害した場所の特定だな。後者の条件が覚醒状態で残虐な拷問をしても被害者の悲鳴を誰にも聞かれない、通報されない場所。被害者の尼僧が消息を絶って24時間以内に殺害されて死体で発見されたことを考えると、王都内と考えて良い」
レーヴレヒトの意見を聞いてから少し考え、言った。
「……船とかどうかしら。攫った後に海上で犯行をすれば、誰にも通報されることはない。揺れる船上で歪みなく紋様を刻めるかは分からないけどね。あとはスラムかな。あそこは法の目が届かないから、条件に当てはまる場所があっても捜索が難しい」
スラムでの捜査を女性にやらせたくはないな。レーヴレヒトは方向性を変えることにした。
「では、被害者を拉致した場所の調査に絞った方が良いな」
「そっちも憲兵隊の捜査では何も出てないようだけど」
「死体の処理と遺棄現場を見るに、犯人はイカレていても仕事をきっちりこなすタイプだ。狩りをするにしても、思い付きで襲い掛かるとは考え難い。事前に目星をつけていたと思う」
レーヴレヒトは言った。
「調べるなら――」
※ ※ ※
「犯人探しをするなら、被害者の足取りを調べて。拉致されるまでの間に犯人が被害者を観察していたはず。被害者の傍に犯人の痕跡もある」
ヴィルミーナはレーヴレヒトの提案をそのまま言い、
「なるほど。狩人の足跡を探すわけですか」
不敵に笑うマリサになんとも不安なものを覚え、つらつらと小言を重ねる。
「分かってるとは思うけれど、危ない真似はしないように。必要なら警備から兵隊を連れて行きなさい。被害者達には悪いけれど、イカレポンチのために貴女やアリスを犠牲にするとか、絶対に容認できないからね」
「御心配なく。首輪役ということは分かってますよ」
「ほんとに頼むわよ……護身用にこれを持って行きなさい」
ヴィルミーナは足元から革鞄を取り出して開いた。
中には、小ぶりな回転式拳銃二挺とホルスター。弾薬。紅涙石付の魔鉱合金製指輪。
「無茶はしちゃダメよ。無茶はダメだからね。良いわね? 無茶は絶対にダメ」
三度も念を押されたマリサは、はにかむように微笑んだ。
「御意のままに」
〇
宮廷魔導総局は王国府宮殿の西別館を丸ごと与えられている。
魔導術関連の資料や特殊物品など隔離管理する倉庫を兼ねているためだ。だから、宮廷魔導術士を嫌う連中は『倉庫番』などと陰口を叩く。
カールスネーゲ憲兵大佐の紹介状を持ったキネ憲兵大尉は、ハーベイ憲兵中尉を伴って宮廷魔導総局を訪ねた。
魔導総局の受付で、キネとハーベイは名前と身分を告げて紹介状を提示する。
玄関ホールの待合ベンチでしばし待たされた後、狐目の中年女性がやってきた。
落ち着いた色合いのセミフォーマルな装いをした狐目女性は、魔導術士というより女性官僚を思わせる。
「御二人がハトコ殿の紹介状を持ってきた憲兵さんですね?」
「キネ憲兵大尉です。こちらはハーベイ憲兵中尉」
「ハーベイ憲兵中尉です」
2人の挨拶を受け、狐目の中年女性も名乗る。
「勅任上級魔導術士のヨングブールトです。私のオフィスまでどうぞ」
廊下を歩きながら、キネはヨングブールトに言った。
「まさか御本人が直接出迎えにいらっしゃるとは思いませんでした」
勅任上級魔導術士は宮廷魔導総局内の上級職だ。部下か秘書がやってきてオフィスまで案内されるものと思っていた。
「ちょうど手透きだったのでね。休憩がてらに」
ヨングブールトは狐目をさらに細めて応じ、口紅を塗った口端を釣り上げる。
「それに、“あの”ハトコ殿がどんな方をよこしたのか、早く見てみたくて」
カールスネーゲが親戚とどんな付き合い方をしているのか、なんとなく想像がついた。キネは曖昧な微笑みを返す。
そんな微妙に応対しにくい話題を交わしつつ、ヨングブールトのオフィスに到着。室内へ通される。
昔は魔導術士の部屋と言えば、埃まみれの書籍が山と連なり、怪しげな器具が並び、不気味な標本やら剥製やらが陳列されていたものだが、ヨングブールトのオフィスは整然としていた。
8畳間ほどのオフィスは、檜製の立派な執務机を中心に応接セットが置かれ、左右の壁に分類陳列された書棚が並ぶ。書棚の一角にはちょっとした小物や額入りの賞状類が飾られていた。
魔導術士というより弁護士か何かのオフィスみたいだ。
部下らしき若い青年が珈琲と茶請けを持ってきて、そそくさと退室する。
ヨングブールトは珈琲を一口飲んでから、さっそく本題に入った。
「紹介状には、件の連続殺人事件解決に協力を求める、とありましたが」
長ったらしい前置きや腹の探り合いを省けるのは、キネとしても望むところ。
「此度の事件は悪魔崇拝的で、事件現場には我々の把握していない魔導術式や儀礼的紋様がありました。魔導学院にも問い合わせましたが、不明とのこと。そこで宮廷魔導術士の方々にお知恵を拝借できれば、と」
「魔導学院が分からない、と。それはそれは……」
ヨングブールトは何やら嘲るように口端を歪めた。
「分かりました。王国の治安秩序に貢献できるなら否やはあり得ませんよ。喜んで御協力しましょう」
「ありがとうございます。では、件の魔導術式と儀礼的紋様を拝見していただけますか? 一般には公開しておりませんので、他言無用を願いますが……」
「構いませんよ。でも、一つよろしいかしら?」
「なんでしょう?」
「此度の事件は事件現場が悪魔崇拝の儀式的装飾が施されていたとか。できれば、術式や紋様だけでなく、全体像を見せていただけるかしら。儀礼型魔導術は全体で一つをなすこともありますから」
「なるほど」
キネはハーベイに目配せし、捜査資料を出させた。
応接卓の上に並べられていく事件現場のスケッチ、被害者のスケッチ、遺体に残された魔導術式と儀礼的紋様のスケッチ、遺留品のスケッチとリスト。
「拝見します」
ヨングブールトは各スケッチを丹念に観察していく。
さっさと答えを得たい焦燥感と事件解決の取っ掛かりになる期待を抑えつつ、キネとハーベイは珈琲を飲み、茶請けのクッキーをポリポリとかじり、ヨングブールトの回答を待つ。
「ふむ……」
ヨングブールトは最後のスケッチを卓上に置き、腰を上げる。それから書棚に向かい、背表紙を確認しながら言った。
「魔導術式は今でこそ、上下左右シンメトリーな幾何学模様や紋様を旨としていますが、黎明期はそれこそめちゃくちゃな術式や術理が多かったのです」
「数学の手法が持ち込まれることで現在のような幾何学的な形態になっていった、とは聞いたことがあります」
「まさに。魔導術式に数学や物理学の親和性が発見されて以降、魔導学者は数学や物理学に通じてなくてはならない、なんて言われています」
キネの指摘に頷きつつ、ヨングブールトは書棚から大判書籍を引き抜き、両手で抱えながら応接卓へ戻る。ハーベイが捜査資料を片付けて卓上にスペースをこさえた。
「この事件現場に残された蝶羽型魔導術式は左右がシンメトリーでも、上下は違う。現代魔導学的常識で言えば、これでは発動しないし、仮に発動しても制御ができない」
「ええ。憲兵隊の魔導術士達もそう言っていました。実際、検証のために術式を模倣して試験しましたが、何も起きなかった。死体に残された紋様も魔導術式なのか、象徴的な紋様なのかも分からないと」
ヨングブールトはキネへ大きく頷く。
「そうでしょうね。スタロドープの変形魔導術式はそれ単品ではただの模様でしかない」
「スタロドープ?」
聞きなれない名詞にキネとハーベイが怪訝そうに眉根を寄せた。
期待通りの反応だったのか、ヨングブールトは狐目を細めながら卓上に大判書籍を置く。
「共通歴1400年代のディビアラントにいた魔導術研究者です」
「その時代はたしか……南方のクナーハ教徒が西方侵攻を始めた頃でしたか」
「ええ。スタロドープ自身は異教徒の侵略で命を落とし、彼の研究資料はその多くが失われました。今日に伝わっているのは、彼の弟子が残した伝聞と一部の資料だけです」
ヨングブールトは大判書籍のページをめくりながら続けた。
「先ほどの話に戻りますが、魔導術式はどれだけ複雑で煩雑で大型になろうとも、基本的に上下左右シンメトリーの構造をしています。これはその術式単独で魔導術の発動構成を完結させるためです。たとえば、複雑な立体複合魔導術式にしても、根っこは単独で自己完結した魔導術式を連結しているにすぎません。しかし、スタロドープの変形魔導術式は違う。あえて自己完結を否定している」
キネはヨングブールトの言わんとしていることをさっぱり分からなかったが、ハーベイは違ったらしい。ヨングブールトに問う。
「ひょっとして、融合型術理ですか?」
「その通り」
正答した生徒を褒めるように微笑むヨングブールト。
キネはますます渋面を強めた。
「さっぱり分からんどういうことだ?」
「実例を見せた方がよさそうね」
ヨングブールトはメモ用紙に手早く簡単な五角形型魔導術式を書いた。魔力を流すと、メモ用紙上にポコッと小さな氷が生じた。そこへ、新たにいくつかの魔導術式を書き加えて、再度魔力を流すと、小さな氷は薔薇の形に変化した。
「これが現在一般的な魔導術式です。氷を生じる魔導術式。形状を変化させる魔導術式。形状を薔薇に整える術式。それぞれ式単体で完結している」
続いて、ヨングブールトは二枚のメモ用紙に非シンメトリーな魔導術式を書く。それから、一枚だけに魔力を流す。何も起きない。しかし、二枚のメモ用紙を重ねて魔力を流すと、薔薇の形をした氷が生まれた。
「分かります? スタロドープの変形魔導術式は、それ単体では模様に過ぎませんが、別の術式と融合することで、薔薇の氷を作る、という一つの術理を形成するんです」
「方法論が違うわけですか。しかし、話を聞く限りでは特別変わったものではないような」
「例えば、一つ一つの部品の正確性を確認しながら組み込むことが出来る物と、全体が完成するまで動くかどうか分からない代物。どちらが扱い易いですか?」
「それは……前者でしょうな」
キネの回答に首肯を返し、ヨングブールトは説明を続けた。
「スタロドープの変形魔導術式は汎用性や実用性に乏しいんです。それに、こうした融合型術理はスタロドープの発見というわけではありません。同時代に複数の発表者がいます。そして、彼らの発表した融合型術理の方が使い勝手が良く発展性に富んでいました。結果、スタロドープの変形魔導術式はほとんど知られずに廃れました。知っているのは一部の専門家や学生、物好きくらいでしょうね」
ヨングブールトの説明に、キネは少し考えこんでから問う。
「このスタロドープとやらは魔導学院で触れられますか?」
「もちろん。そして、魔導学院が知らないということはあり得ません」
それは魔導学院が憲兵隊に対して嘘をついたか、協力を拒否したことの証明だった。
キネの険しい面持ちを眺めつつ、ヨングブールトはどこか冷笑気味に続ける。
「元卒業生として母校の名誉を守るために言うならば、学院は昔から独立性が高い場所です。学院内自治権を侵されたくなかったんでしょう。それに、スタロドープの術式は魔導学院以外でも触れられますからね。犯人が魔導学院関係者、と断定するには少し弱いかも」
「むぅ……突破口にはなりえない、と」
「いえいえ。そうとも言えませんよ」
渋面を浮かべたキネへ助け舟を出すように、ヨングブールトは言った。
「スタロドープの術式は融合型術理です。つまり、この死体に刻まれた紋様と融合して発動したんでしょう」
「どのような魔導術か分かりますか?」
「この術式と紋様の組み合わせだけでは、具体的な魔導術の内容は把握しかねますけれど、私個人の想像で言えば」
「想像で言えば、なんです?」
「この犯人は多分、下腹部の中に魔石を詰めたうえで、魔導術を発動させながら性交したでしょうね」
あまりにも酷い推測に、キネもハーベイも思わず息を呑む。
「――――っ! なぜ、そんな」
「古代期の魔導術には、現代の価値観では度し難いレベルの愚行と狂気的な方法が山ほどあります。その一つに受胎メカニズムを用いた魔晶の精錬がありました。女性の子宮に魔石を詰めて性交し、妊娠させる代わりに魔石を精錬させようとしたんです」
「そんなこと、不可能でしょう」
「ええ。不可能です。ですが、当時は男女の交わりによって、胎の中に生命エネルギーが生じて赤子を作り出すと信じられていたんですよ。そして、魔石を取り出す時はこの被害者達のように腹部を裂いたそうです。一種の生贄ですね」
「イカレてる」とハーベイが小声で吐き捨てた。キネも全く同意だった。
「この犯人が単独か複数犯かはわかりません。ただ魔導学院の関係者であるにしろ、そうでないにしろ、かなり魔導術に通暁しています。それに、この術式構成の複雑さを鑑みるに、魔導適正も高いですね」
ヨングブールトは狐目を細め、紅い唇の両端を釣り上げた。
「魔導学院を突く程度の情報は揃ったのではありませんか?」
「……最後に一つ伺いたい」
どこか翻弄されたような不快感を抱きつつ、キネはヨングブールトに問う。
「犯人の目的は何だと思います?」
「どうでしょうね」ヨングブールトは薄く冷笑し「やってみたかったからやった。犯人の動機がその程度でも、私は驚きませんよ」
まったく予期せぬ回答に、キネとハーベイは絶句した。
そんな二人の反応を楽しそうに眺めながら、ヨングブルートは語る。狐目を細めて。
「古の時代、魔導術士とは社会階級の最上位に君臨した超越的個でした。王侯貴顕の始まりはその土地や地域で最も力を持つ魔導術遣いか、その魔導術遣いを打ち倒した者達です。
それこそ古代期の魔導術士達にとって、一般平民は家畜と同じ。生かすも殺すも愛でるも嬲るも魔導術士の気分次第でした。
最悪の選民思想者。それが魔導士の原点です。犯人の動機が『やってみたかったから』でもおかしくありませんよ」
「ならば、逮捕してその蒙を啓いてやらなくてはなりませんな」
キネは拳を握り締めた。強く硬く。




