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橘愛と異世界の仲間たち  作者: 坂本ヒツジ
プロローグ 異世界の仲間たち
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黒い影

 

 愛は、朝の日課で体のメンテナンスをしている。

 幼い頃から母親に言われ続け、身に染みていたからだ。


「体のメンテナンスを毎日しなさい。体は日々衰えていきます」


 柔軟に始まって、かなり高度な体術をやり終えた時、誰かがドアをノックした。

 返事をすると、朝食を持った姉妹が部屋に入って来た。


「愛、おはよう」

「愛、おはようございます」

「ジュリアとマリサ、おはようございます」


 今日は、朝からコーヒーの焙煎の作業があるので、ジュリアとマリサは動きやすい服装にエプロンを着けていた。

 愛は、朝早くジュリアからの約束の服が届いていて、その中で料理しやすい服をすでに着ていた。


「三人で朝ごはんを食べようと思って持って来たのよ」


 ジュリアが、とっても嬉しそうに話しだした。


「最初に、愛に礼を言わないとね。

 昨日は本当にありがとうございました。

 国王とアンドリューの病気の原因がはっきりしたので、薬師のコーリーに相談したの。彼の話ではその毒に対してよく効く薬を知っていて、たぶん一週間で元気になるって。そして、1ヶ月経つ頃には完全回復すると断言していたわ。

 全ては愛のお陰です。

 それで、愛の話になって、コーリー爺さん・・・。

 おっといけないわ。

 みんなこう呼んでいるんだけれど、本人に言うと、まだ若いと言い張って良い顔をしないのよね。

 ま、それで色々と今回の件を話したら、愛に興味があるから会いたいと言っていたわ。

 機会があれば、会ってあげて」

「今回の件で、皆さんのお役に立てて、とっても嬉しいです。

 それで薬師なのですが、昨日のディナーの時に思った事があるんです。こちらの世界では、私が使っていた香辛料が使われていなかったので、おそらく料理には使われないんだろうと。これらの香辛料は元々は薬として使われていたので、薬師の人に会って薬の中で香辛料に使えるのがあるのかを確かめてみたいと思っていました」

「面白そうな話ね。食べながら話しましょうよ。

 私、お腹が空いていて」


 ジュリアの言葉に、愛も急にお腹が空いてきた。

 既に、朝から十分運動をしたからだった。


「私も、お腹が空いているみたいです」


 ジュリアと愛がマリサの方を見ると、マリサも同じことを言った。

 三人はクスクス笑いながら窓際のテーブルに移動し、食事を始めた。

 スクランブルエッグみたいなのと、ソーセージ、ケイルの種類の野菜の炒め物、そして紅茶だった。

 ピンク色のソーセージを食べると、予想外の味がした。


「このソーセージはサーモンですね」

「ええ、美味しいでしょう。

 近くに大きな川があり、毎年秋になるとサーモンが川を上ってくるんだけれども、河口で取れるサーモンは脂が乗っていて、一番美味しいのよね」

「サーモンはよく食べるのですが、この様な食べ方は初めてです」


 愛は、この世界が好きになって来た。

 親切な人達に囲まれ、異世界での変わった飲み物や食べ物を堪能できる。しかも、当面の仕事もあるし。

 更に、この世界にコーヒーを伝えるのは、やり甲斐がありそうだと思った。


 朝食の話や香辛料の話をした後、ジュリアが例の犯人の話をしてくれた。


「リサが厨房に行って料理長に例の焼き菓子を作ったのは誰かと尋ねたら、古参の一人で十三年ぐらい働いている人だと分かったんだって。

 その犯人が厨房でまだ働いていたのでリサが問い詰めたら、いきなり包丁を持ってリサに襲いかかって来たみたい。でもリサは、ブリザードの魔法を使って反撃をして、首から下を氷漬けにして捕らえたんだって。

 何もしないでおくと、体温が下がって最後には死に至る事を犯人に伝えたら、あまりの寒さに我慢出来なくなって、最後には何もかもが白状したと言っていたわ。

 彼の話によると、見知らぬ男が大金をチラつかせて、蜂蜜を王族の人達の好きな焼き菓子に混ぜるようにと依頼したみたい」


「蜂蜜ですか?」

「そうなのよ。ハ・チ・ミ・ツ!!

 誰もが蜂蜜の中に毒が有ると思わないから、検査を通ってしまったみたいなのよね。しかも微量に含まれていたから。

 私の魔力でもダメだった。ある程度自身はあったのに。

 しかもこの蜂蜜はトリカブトの蜂蜜で、その存在を知っていたのはごく限られた人達。養蜂師と薬師しか知らなかったみたい。

 上層部の判断だと、この見知らぬ男は例の魔物を操っている闇の大魔導士の幹部の一人ではと推測している。人相と、ちょっとした癖が一致していると言っていたわ」


 愛は、ジュリアの言葉に不安になった。

 魔法の世界だから、魔物も闇の魔法使いも居るのかと。


「ジュリア、あのう・・・」

「え、どうしたの愛?」

「魔物が居るのですか、この世界に?」

「愛の世界には居ないの?」

「はい。居ません。

 話の中だけに出てくる生物ですが・・・。

 この世界には居るんですね?」

「ええ、それはもう沢山」


 マリサが姉の言い回しに、少し笑った。

 ジュリアは話を続けた。


「これは驚いたわ。

 魔物が居ない世界だなんて想像もつかない。

 魔物は人類の歴史に深く関わっていて、時には魔物の力が強大になり人類滅亡まで追い込まれた事もあったのよ。

 その時現れたのが勇者とその仲間達だった。

 今は、当時と同じくらいに魔物の力が強大になってきていて、何も対策を立てなければ同じ様に人類の滅亡になりかねないと、大多数の上層部の考え。

 そこで、数年前から準備を初めて、この伝説の勇者を召喚しようという事になった。

 そして、召喚されたのが、愛、貴女だったの」

「そうだったんですね。

 でも、明らかに間違った人物の私を召喚した」


 愛は少し落ち込んで、頭を少しだけ垂れた。

 ジュリアが更に話を続けた。


「そもそも都合が良すぎるのよね。

 私達が努力もしないで、伝説の勇者に解決してもらおうなんて。

 愛には凄く迷惑だったと思うわ。同意も無しにこの世界に連れて来られて。

 でも、私は嬉しい。愛に会えて」

「ありがとうございます。

 そう言ってもらえると、とても嬉しいです」


 今まで二人の会話を聞いていたマリサが、姉と同じ意見を述べ始めた。


「私も愛に会えて、とても嬉しいです。

 愛が来るまでは、伝説の勇者の接待係を考えると、眠れない夜もありました。

 昨日の異世界の食べ物の話には魅了されました。

 ジュリアお姉さんではないけれど、話にあった食べ物を全部食べたいと思ったんです。

 最後の焼き菓子事件では、愛の料理師のレベルが凄く高い事を私の目の前で実証されたので、凄く感動しました」


 愛は少し照れながら話した。


「私は、料理学校の生徒だったので、そこまで能力があるとは自分では思えないんです。

 昨日は、偶然見つける事が出来ましたけれども」

「偶然見つけられるレベルでない事は、王宮中皆んな知っている。

 コーリー爺さんの話によると、蜂蜜の毒を舌だけで分かったのは奇跡だと言ってたわ」

「そうなんですか?」

「ええ、だから尚更、貴女に会いたいとコーリー爺さんが言ったのだと思うのよね」

「分かりました。コーリー爺さんに会うのが今から楽しみです」

「愛、本人にコーリー爺さんと言ってはダメよ!」


 愛は思わず口を押さえた。

 それを見た姉妹は、クスクスと笑っていた。

読んで下さってありがとうございます。


文章の中で出てくるサーモンのソーセージですが、自家製で作って食べたら美味しかったので、書き込みました。

レシピは、サーモンの身と皮を別にして、皮はオーブンで焼いて細かく切ります。身の方はフードプロセッサーで細かくします。身と皮、塩、溶かしバター、白胡椒、ニンニクを全て混ぜ合わせれば、後はソーセージを作る装置で羊の腸の中に詰めます。

フライパンで表面をパリッと焼けば出来上がりです。

冷凍も可能なので、1ヶ月は楽しめます。


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