第8話・敵襲、震えるソムラ
「な、なんだあれは……!」
外に出た俺達が見たのは、慌ててるソムラのみんなと、青い髪の、黒いローブを着た男。
「あいつは一体……さっきの爆発音も、奴が?」
「なんでソムラが襲われるんだ!?」
「分からん。とにかく、奴は間違いなく……危険だ。武器を取ってくる。ここは任せたぞ、蒼吾!」
「ちょ……おい! ガイ、待てって!」
俺が止めるのも聞かずにガイは走り去ってしまう。全く行動がはえーんだから!
この場を任された以上、なんとかしてソムラのみんなは守らないと。ムラオサの家の前に突き刺してある《天蒼刀》を引っこ抜いて、黒いローブの男に向かって走っていく。
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「皆さま、お聞きください! 私の名はクルギフ! 私の要求はただ一つ! この村に匿われている銀の髪の少女を、今すぐに差し出すこと! 従わない場合、あなた達の身の安全は保障しません!」
黒いローブの男が、村の人々に言い放つ。
銀の髪の少女。そんなの、フェイしかいないじゃないか! こいつが、フェイの両親を殺した連中の一人なのか?
そんなことを考えていると、フェイが一歩前に出る。
「あなたは……?」
フェイは恐る恐る男に問いかける。フェイもこの男の事は、初めて見るみたいだ。
「お初お目にかかります、『蒼の魔女』。私は誇り高き『七眷龍』が一人、青龍・クルギフ! あなたを、お迎えに上がりました」
よく分からない単語がまたも飛ぶ。紋章や魔女の事だけでも頭がいっぱいなのに、七眷龍なんてのまで出てきた。
それに、お迎え? こいつはフェイを、連れて行こうとしてるのか?
「お迎え、とは……? 私はあなたとは、初めて会うはずですが」
「正確には、あなたがその身に宿す『蒼紋』の力を得るために参りました。我らの主が、その蒼紋を欲しがっていましてね……」
ニタニタと男……クルギフが笑う。
それを見た俺は今すぐ飛びかかりたい気持ちだったけど、隣にいるフェイを見て頭が急激に冷える。
この時のフェイは、怒り心頭って言葉がぴったり合うくらいの、怖い顔をしてたんだ。
「私が蒼紋の継承権を持っていることを知っている人は、少ししかいません。あなた達の主とは……7年前、私の両親を殺した人達を従えている人ですか?」
「クク……ええ、まあ。ですが、どうか気に病まないで下さい。両親が死んだおかげで、こうして優しい人間が暮らす場所へとたどり着けたでしょう?運命の巡り合わせに、感謝しなければ……」
クルギフは相変わらずのニヤケ顔で、そんな事を言う。こいつ、性根が腐ってる。
フェイを見ると、俯きながら震えていた。当たり前だ。両親の死をあんな風に言われて、怒らない訳ない。
俺が声をかけようとしたら、目の前を黒い棒のようなものが横切った。
「ふざけないで!!」
黒い棒が、クルギフに突進する。
クルギフはなんなくこれを避け、弾き飛ばす。
黒い棒がこっちに来る。そして、フェイの周囲を囲むように宙に浮かぶ。
「はぁ……! はぁ……!」
物凄い剣幕のフェイは、クルギフを睨みつけたまま、膝をつく。
「フェイ!?」
「怒りに任せて魔法を使うから……もっともその程度の魔法、平常心で操っていようが、私には通用しませんがね」
フェイが顔を上げ、さらに怒りに満ちた表情を作る。けど俺は、フェイが行動を起こす前に止める。
「蒼吾、さん……?」
「ちょっと落ち着けってフェイ! 怒ったまんまじゃ、勝てるもんも勝てないぞ? 一人じゃダメだ、俺も一緒に戦う! そのための蒼紋だろ!」
フェイが少しずつ、荒い息を収めていく。
フェイも落ち着いたところて、大剣を手にしたガイが戻ってくる。
「遅いぞガイ!」
「悪いな。他にも色々とすることがあってな……」
することってなんだ、危ない奴が襲って来てるってのに!
ちょっと納得いかないけど、武器を構える。
フェイをこんなに悲しませたこいつは、許しておけない。
「ガイ、俺ちょっとムカついてるんだ。全開でやるぜ」
「……いいだろう。村を襲ったこいつは、俺も許せん。やるか」
「援護します、二人とも! 『ガンビット』!」
先ほどの黒い棒が、俺達の周りを取り囲む。ガンビット、っていうのか……。
とにかくこれで戦える。クルギフをぶっ倒してやるんだ!
「弱い者はいくら集まっても、弱い!」
「黙れクソ野郎!!」
一気に走り出す。俺は天蒼刀を構え、ガイは大剣を振りかざし、フェイのガンビットが光を放つ。一斉攻撃だ!
「フン……!」
クルギフが後ろへ飛び、何かを唱える。
次の瞬間、水の球が俺とガイ目がけて飛んでくる。
「やべっ!」
多分あれは、魔法だ。食らったら何が起きるか分からない。
俺達は盾なんか持ってない。防ぐ手段がないんだ。かなりヤバイ!
けど水の球は、フェイの魔法によって打ち消される。
「させません! 『シェルビット』!」
俺達の周りを飛んでいたガンビットが形を変え盾になり、水の球から俺達を守ってくれた。やっぱフェイの魔法はすげえ!
「なに!?」
これにはクルギフも焦りを隠せないみたいだ。フェイのシェルビットがガンビットに変形し、すかさず攻撃を加える。体勢が崩れた今ならやれる!
「今だ! ガイ、一気にいくぞ!」
「おう!」
「チッ……!」
クルギフはさらに多くの水球を作り出す。でもそれはさっき見たんだ!
「もうビビるもんか!!」
水球を斬りながら前へ進む。進む。進む。左の刀が弾き飛ばされてしまうが、もう止まらない。クルギフに必殺の一撃をぶつけてやるんだ!
「クッ……! 真正面から突っ込むしか能のない子供などに!」
「その子供に負けるんだ、あんたは! フェイに言った事……絶対許さない!!」
ほとんどゼロ距離。必殺の一撃、叩き込んでやる!
「うおおぉぉぉーーー!!」
俺の意志に応えて、天蒼刀の刀身が輝きを増す。クルギフをぶっ飛ばせるくらいの、最大の力を込めて刀を振る!
「決まりだぁぁぁ!!」
「くっ!! おおぉぉぉぉ!?」
確かな手ごたえ。クルギフの身体に刀がぶつかる感覚が伝わってくる。物凄い速さで村の壁まで吹き飛ぶクルギフ。
この勝負、俺の勝ちだ!
「ぐっ……ここまで、蒼紋が適合しているとは……怒りによる、意志の力か……?」
何かをぶつぶつと言っているクルギフ。そんなクルギフを、村人たちが取り囲む。
「よくもソムラを襲ってくれたなぁ、ん!?」
「不良みたいな髪の色しよってからに!」
「とっとと出て行け!!」
「フン……こんな田舎の村など、言われなくともすぐに出て行きますよ」
勢いよくクルギフが立ち上がる。戦いで傷ついたローブを脱ぎ捨て、俺の方に向き直り……。
「蒼紋の力、見せてもらいました。またいずれ会うことになるでしょう。その時には蒼の魔女……今度こそあなたを、主の元に連れて行きますよ」
「ぜっっったい渡さねえよ」
「絶対について行きません」
「フッ、嫌われたものですね……さらば!」
クルギフの背中から翼が生える。いきなり宙に浮き始めて驚いたけど、そういえば自分のこと青龍とかなんとか言ってたな、と思い出す。
青空へと飛び去っていくクルギフ。
天蒼刀の強い光も薄れていき、戦いが終わったんだと実感する。
すると、魔物を倒した時と同じような疲労感に包まれた。
「また寝ちゃう……かな……」
俺の意志とは関係なしに、身体が倒れていく。
それを見たフェイとガイ、村のみんなが駆け寄ってくる。
また、膝枕してもらえるかな。なんてことを考えていると。
俺の目の前は、真っ暗になった。