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ドレッドノート  作者: 岩裂根裂
第1章・蒼の紋章
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第6話・祝福の裏、躍る影

 「……さん……ごさん……」


 声が聞こえる。誰の声だろう?

 なんだが、聞いてると癒されるような声だ。

 多分俺は眠ってたんだろう。でもこの声を聞いてると、さらに熟睡しちゃいそうで……。

 とりあえず目を覚ますことにした。目を覚ますとそこには、フェイの微笑む顔が見えた。


 「おはようございます」


 「ああ、おはよ……って、え?」


 俺はフェイを見上げる形になっている。寝っ転がって、顔だけが見える姿勢。それってつまり────。


 「……太もも枕!」


 「膝枕だ」


 ガイがすかさずツッコミを入れてくる。よかった、ガイが無事で。

 このままフェイの膝枕に甘えていたら、一生起きられない気がしてきた。身体を起こして、伸びをする。

 辺りを見回すと、魔物が姿を消していることに気がついた。


 「あれ!? あのデカい魔物は!? もしかして、まだ生きてたのか!?」


 「いえ……蒼吾さんが倒れてからすぐに、泡のように溶けて消えていきました」


 「魔物も動物と同じで、死体は残るはずなんだがな」


 不思議なこともあるもんだ。この時の俺は、呑気に考えていた。

 そんな俺に、フェイが頭を下げてくる。


 「蒼吾さん、ガイさん。助けてくれて、本当にありがとうございます」


 「別にいいって、お礼なんて! それに、どっちかっていうと助けられたのは俺達だし……」


 「言えてるな。フェイがいなければ、三人ともやられていただろう。あの魔物を放置すれば、ソムラも危なかった……こちらこそ、ありがとうな」


 三人でお礼を言い合って、笑い合って。

 初対面の女の子と一緒なのに、前からお互いを知ってるみたいな感覚で、俺達は話せていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「なあ、フェイはなんでこんな所にいたんだ?」


 なんでフェイみたいな女の子が、何もない草原で一人眠っていたのか。

 気になった俺は、フェイに問いかける。

 フェイは一瞬だけ驚いた表情を作ったあと、目を閉じる。すぐに目を開けると、何かを決意したような顔つきになっていた。


 「……そうですね。話さないと、いけませんね」


 「あ、や! 話したくないなら、別に……」


 「いえ。私は、あなたの契約者。話す義務があると思います」


 俺の目を見据えるフェイ。女の子の、それもこんなに可愛い子に見つめられるなんて。

 俺はゴクッと生唾を飲み、何を話されるのかと緊張していた。

 でも、フェイの口から何かが話されることはなかった。何かあったのかと思っているとガイが、フェイの肩に手を置いていた。


 「色々と事情があるのは分かった。だが、話すのなら落ち着ける場所に行った方がいいだろう。またさっきのような魔物に襲われてはかなわん」


 「あ……そだな。野っ原で話すより、村の中で話した方がいいよな」


 「さてフェイ。どうする?」


 ガイはしゃがみ込み、フェイと目線を合わせて訪ねる。

 フェイは考えるように目を閉じ、目を開けると、おずおずと俺達を見てくる。


 「で、では……その落ち着ける場所に、連れて行ってください」


 それを聞いた俺とガイは親指を立て、立ち上がる。


 「よし! なら、一緒にソムラに行こう!」


 「ソムラ……?」


 「俺達の暮らしている村の名前だ。のどかで、いい所だぞ」


 のどかな村、のイメージが湧かないのか、フェイが少し惚けたような表情になる。

 そんなフェイに、俺は右手を差し出す。


 「行こうぜ、フェイ。ソムラには、フェイの知らないものがいっぱいある! きっと楽しいぞ! それに、俺達が知らないフェイの事も教えてもらいたいしさ!」


 「村の人間は、こいつのようなお人好しばかりだ。怖がることはないぞ」


 「うるさいなぁ、人に優しいことはいいことじゃんかよ」


 そんな俺達のやり取りを見て、フェイが笑う。

 なんだか俺達までおかしくなって、三人一緒に笑ってしまう。

 そしてフェイが俺の右手を取り、立ち上がる。


 「ありがとうございます、二人とも……。案内、よろしくお願いしますね」


 「おう、任せとけ! それじゃあ、出発だー!」


 ソムラに向けて、三人で歩き出す。

 フェイがいる、いつもと違う帰り道。

 戦いの疲れも忘れて、俺の心は晴れやかだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とある城の、とある一室。

 一人の男が、この部屋に座っていた。

 男は水晶に触れ、何かに気づいたように肩を一瞬震わせる。


 「そうか、目覚めたか……蒼紋」


 男の声に呼応するように、室内を仄かな光が満たしていく。

 青、赤、緑、黄、紫、白、黒色の小さな球体が、男の周りを漂う。


 「これでついに、七紋が出揃いましたか」


 「さァて、今回はどれだけ強え奴がいんのかねェ」


 「ていうか〜揃うの遅すぎ〜」


 「魔女を嫌悪する愚者共に、蒼の魔女が襲われてしまいましたからね」


 「彼らはまた、無駄な戦いに身を投じる事になるのか」


 「キヒヒ……マヌケ……」


 「『紋章』の価値も、生まれた意味も知らん連中……哀れだな」


 意志を持つ七つの光。それぞれが『七の紋章』と同じ色をしている。

 そんな光を見て、男はフッと笑う。


 「だがこれで、我々の計画を進められる。地脈を七つに分断され、動くことが出来なかった時間ももう終わりだ。全ては『大いなる永き理』のために……始めるとしよう」


 「「「「「「「『大いなる永き理』のために」」」」」」」



 「ではクルギフ……蒼紋は、お前に任せる」


 「ハッ!」


 クルギフと呼ばれた青い光が、この空間から消えていく。

 そして、クルギフの光が、人間の形になっていく。

 黒いローブを身に纏う青髪の青年に変化したクルギフは、どこかへと転移する。


 草原に降り立つクルギフ。

 彼の目の前には、一つの村があった。

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