第48話・ドレッドノート
あけましておめでとうございます。
蒼吾とフェイ。
戦場に行くという少年と、それについて行く事のできなかった少女は、戦場で再会を果たしたのだった。
久しぶりの対面に喜びを隠せない二人は、話すわけでもなくただ抱き合う。
しかし、それを見守り続ける訳にもいかない。
「いい加減離れろ、二人とも」
首根っこを掴んでひっぺがすガイ。
言葉も必要のない仲の良さは大変よろしいのだが、それを見せつけるには不釣り合いな場に彼らはいる。
「後の楽しみにしておけ」
「う〜んごもっとも」
蒼吾とガイのやり取りすら久しぶりなフェイ。笑みを浮かべて見つめる彼女を、新しい友人ユクは嬉しそうに見つめる。
「よかったね、フェイ」
だが、幸せな時間は長く続かない。
彼らの周囲に敵が押し寄せる。
「動きの早い連中だ!」
「それなら────ユクちゃん!」
「はいはい!」
ジャガーノートに乗り込むユク。
膝を折る巨人は再び立ち上がり、その大きな足で威嚇するように、大地を踏み鳴らす。
潰されればひとたまりもないと分かる図体のモノが動き出すと、獣たちは来た道をすぐさま引き返した。
「これなら本陣まで一直線だな!」
山ほどの巨人が襲いかかってくる、その様に恐怖を覚えない者はいないだろう。
連合軍が目的とする、総大将撃破までの道は開けた。
しかし……。
「よーし、このまま……ん、あれっ?」
突然それは起こった。
ジャガーノートが停止したのだ。
何故か……ゼルドヴィンからこの平原へ来るまでに、ほとんどのエネルギーを使ってしまっていたから。
「そんなぁぁぁあッッ」
「そう簡単にはいかねーか……」
「さっきまではしゃいでた奴が何言ってる」
そんなやり取りをよそに、巨人が進軍しないと見た獣たちは再び集まる。
どう切り抜けるか、考えあぐねていたその時。彼女は、やってきた。
風を切って飛ぶ、何か。
地面に付いたそれは、なんと爆発を引き起こした!
獣を吹き飛ばしたそれを放ったのは……。
「ハァイ♪」
フォルティス。
蒼吾たちがよく知る者だった。
そして────。
「ギャウッ!?」
フェイの背後から襲いかかる獣に、すぐさま弾をぶち当てる。
その実力もまた、よく知るものだ。
「無粋なワンコロね」
「死んでるのか?」
「いんや。気絶弾っつーもんで眠らせたの」
三日三晩は眠れる優れもの、らしい。それを撃ち込まれて無事で済むかは怪しい。
だが蒼吾は、この血を流さない弾丸を見てある作戦を思いついた。
「フォルティス、その弾ってあとどれくらいだ?」
「予備はまぁまぁあるよ。どうしたの?」
「これ以上誰も死なせたくない。協力してくれ」
「いつになくマジね。ま、いいわ。やってやろうじゃない!」
「ガイ!フォルティスから銃を借りてくれ。フェイとユクはジャガーノートの中に!」
言われるがまま動くそれぞれの仲間。
蒼吾が編み出した策、それは。
「ガイ、フォルティス!俺に撃て!」
「正気!?」
「考えが読めんぞ!」
「いいからやるんだよ!任せとけ!」
ガイとフォルティスは銃を構え、そして撃つ。
蒼吾はそれを────弾き飛ばした。
「なんだと!?」
弾かれた銃弾はそのまま獣の方へ。とにかく、とにかく蒼吾は刀を振り回した。
「奇想天外ってやつね!」
「二人ともまだまだ足りないぞ!」
その言葉に釣られてフォルティスは持つ銃を増やし、ガイにも一丁を投げ渡す。
二丁拳銃の乱れ撃ちを捌く、二刀流の舞い。
誰がやっても上手くいくわけではない。
信頼……それこそが、この作戦を可能としている。
全ての弾丸を撃ち尽くし、全てを敵にぶつけた三人。
周囲を取り囲む獣の群れは、いずこかへと消えていた。
「意外ね、大成功」
「正直、気が気じゃなかったがな……」
「まーまー上手くいったんだしいいじゃん」
蒼吾へのお仕置きは両頬を押されるだけで済んだ。
今度こそ、道は開けた……はずである。
「しかし、アタシらだけで突撃ってのはね」
「本陣の目の前でさっきのやるわけにもいかないよなぁ」
どう考えても、手が足りない。
しかしそこへ、機を伺っていたとでも言わんばかりに、味方の大軍が押し寄せた。
「なんだ!?」
「俺だ」
「なんだあんたか……」
現れたのは、ガングレイヴ率いる本隊。
その傍らで、アリシバンの援軍──リーフ達が手を振っていた。
「あいつらも来てくれてたのか」
「でなければ、無謀な作戦を通すはずがないだろう」
「なんだよ嫌味か?」
「独り言だが」
顔を真っ赤にした蒼吾が掴みかかるが、難なくかわすガングレイヴ。
「俺やっぱコイツ嫌い!!」
「落ち着いてください蒼吾……」
「そうだ、落ち着け。もうすぐこの戦いも終わるのだからな」
どういう意味だ、そう聞く前に。
ガングレイヴは左手に持つ刀で、進むべき方向を指し示す。
「お前たちのおかげで、本陣までの風通しが良くなった。いよいよ最後だ」
最後。
この戦争が、ようやく終わる。
「なんか、あっという間だったな」
「蒼吾……まだ終わってないんだぞ」
「ですが、私たちが揃えば」
そう。
蒼吾、ガイ、フェイ。
はじまりの三人が揃った今、倒せない敵などいないはず。
そして────。
「こっちも忘れるなよ!」
「これ以上手柄はやらねえぜ、坊主!」
「オイラたちにも活躍させろ!」
竜騎、ジーク、リーフ。出会った全ての仲間たちとなら。
「絶対勝てるッ!!」
士気、最高潮。
ガングレイヴは高らかに号令する。
「これで終わりにする!全軍、進め!!」
「オオオォォォ!!!」
♦ ♦ ♦
「カムイ様!」
「なんだ、騒々しい」
「連合軍が……!」
「なに?まさか!」
カムイが目を見開くとそこには。
部下たちを蹴散らして進む、忌むべき人間の姿があった。
「馬鹿な……あり得ん!!」
人間たちが何千集まろうと勝てると、カムイは確信していた。実際、その自信を抱かせるほどの精鋭を揃えたつもりだった。
だが今はどうだ?
「ふざけるな……貴様ら人間に押されているなど……!」
敵の力を見誤り、本陣に噛みつかれている。なぜか?
「奴らは恐れを知らぬのか……!?」
銃で射抜く者もいれば、拳を掲げて突き進む者もいる。
弓、槍、太刀、大剣、浮遊する奇妙な兵器。そして紋章に反応する者。
それらを操る十人の戦士も当然、自軍にとっては脅威だ。だが要因は恐らく、違う。
「(紋章の反応が大きい奴が一人。そいつが────!)」
その十人の先に飛び出す、一人の少年。
二刀を眼前に向けられ、カムイは少年を睨みつけた。
「貴様が支柱か、蒼紋ッ!!」
「あんたをやれば全部終わる……!勝たせてもらうぜカムイッ!!」




